銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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勝利の代償

宇宙歴785年 ハイネセン

 

帝国軍との戦闘が終わり、朝の9時に帰ってきた。昼から戦勝パレードとセレモニーを行う予定だ。

控え室で正装に着替えている。シトレ大将にビュコック中将、グリーンヒル中将もいる。残念なことに今回の主役は私らしい。憂鬱だ。

暫くすると会場の席に案内され、セレモニーが始まった。ダラダラとスピーチがされる。3人が終わって30分が過ぎた。長いスピーチに辟易してきた。

皆もやっと戦場から帰ってきて、この仕打ちにうんざりしているようにみえる。

トリューニヒトの演説が始まった。打倒帝国から始まり、今回の勝利の美辞麗句を並べて調子良く喋っている。

隣に座っているグリーンヒル中将にトイレに行く旨を伝えて席を立つ。トイレで用を済ませて、そのまま外に出る。5分程歩いて近くにある公園に向かった。入り口に自販機があったのでコーヒーを買って中に入っていく。

池の傍にあるベンチに座ってボーッとしている。

しばらくボーッとしていると前に人が立った。見上げるとジェシカがいた。

「やぁ、ジェシカ。どうしたんだい?こんなところで?」

厳しい視線を私に向けてきた。

「どうしたはこっちのセリフよ。主役がいないって会場は大慌てよ。哀れな位政治家連中とスタッフがオロオロしているわ。」

「そうか。其れは悪いことをしたな。」

どうも今日は調子がでないなと思った。

 

 

ジェシカ視点

 

目の前でベンチに座っているユーリの暗い表情に困惑した。武勲をあげた高揚感も喜びも誇らしさも感じない。虚無感に近いものを見せている。

「どうしたの?」

そう訊ねると一瞬だけ私に視線を向けて俯いた。もう一度声を掛けようか悩んだけど彼から話してくれるのを待とうと思った。少ししてからポツリポツリと話し出した。

「ジェシカ。君は今回の戦闘の結果についてどれくらい知っている?」

彼からの質問に戸惑いながら答えた。

「ほぼ同数で戦って此方は3000隻、帝国は12000隻位の被害があったと放送でしていたわ。貴方の活躍でグリーンヒル中将の艦隊が1万隻近くを落としたって言っていたわ。」

「ああ、此方は3000隻位の被害だろうな。私の直卒艦隊は500隻が撃破された。200隻程は大破しただろうな。乗組員で6万人は死んだだろう。」

「帝国人を 100万殺して、部下を6万も犠牲にした。それなのに帰ってくれば私に同盟のヒーローになれと云う。その事がどうしようもなく虚しいんだ!」

吐き捨てるように言葉を発する彼に驚いた。ここまで感情を吐露する姿を見たことがなかった。驚きと共に嬉しさも少しあった。彼が弱さを私にだけ見せているということがただ嬉しかった。

彼の頭を胸に抱き締めた。何て言ってあげたらいいのか分からないけど辛い時に、苦しい時に傍にいてこうやってぎゅっとしてあげようと思った。どんな言葉を掛けてもこの人は自分を決して赦さないだろうから。ただ傍で抱き締めてあげようと思った。

「私が傍にいるから。ずっと、ずっとこうしてあげるから。」

そう伝えて抱き締めてあげた。身体を少し震わせながら微かにありがとうと聞こえた。聞こえない振りをして更にぎゅっと抱き締めた。

 

 

チュン視点

 

クーロ少将が居なくなったので探せと命じられて周辺の捜索をする。公園のベンチに座っているのを見つけた。目の前に女性が立っている。逢い引きかと思い、声を掛けようとすると彼の慟哭と言ってもいい心の叫びが聞こえた。思わず木の陰に隠れた。

いつも一喜一憂することなく、冷静沈着に指揮をとる姿に安心と頼もしさを感じたが本人はそんな苦悩を抱えていたのかと思った。

自分が殺した帝国人、自分が死なせた同盟人にそんなことを思っていたなんて思いもしないことだった。彼が功績をあげて昇進する度に苦悩するだろう。有能である分その苦悩は大きく重くなっていくだろう。彼女と違って何が出来るか分からないが参謀長として部下として軍人として出来る限りの補佐をしようと心に決めた。

自分の仕事が明確に定まった瞬間だと思った。

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