宇宙歴785年 ハイネセン 統合作戦本部
式典をサボった次の日にシトレ大将に朝9時に出頭命令が出た。命令なのでしぶしぶ出頭する。
「ユーリ・クーロ少将、出頭いたしました。」
「入れ。」
声を聞いてから入る。頬杖をついて此方を見ている。
「座りたまえ。」
ソファーを指差したので大人しく座る。
「昨日はやってくれたな。何処に行っていたのかね。」
「まあ、そこら辺をウロウロしていました。」
苦笑しているシトレ大将に呼び出した理由を訊ねた。
「お叱りの言葉を言うために呼んだのでしょうか?」
「いや、違う。今回の勝利で君は昇進することになった。」
「昇進ですか?」
「そうだ。今回出兵した者の中で君だけが昇進し中将になる。」
「そうなると同一艦隊で中将が2人いることになりますが。」
「残念ながら君は第一艦隊に移動だ。」
「シトレ大将の艦隊で副司令官をと云うことですか?」
疑問をシトレ大将に聞くと苦笑いしている。
「君が第一艦隊の司令官になる。」
驚きの声をあげてしまった。
「本当ですか?」
「詳しく説明するのでよく聞いてほしい。」
「私は宇宙艦隊司令長官代理に任命される。そして指揮していた第一艦隊の直卒していた6000隻が私の艦隊になる。そして君が指揮していた4500隻が代わりに第一艦隊に配属される。その第一艦隊司令官に君が就任することになる。」
「グリーンヒル中将の艦隊にはパストーレ少将が君の代わりに配属される。理解出来たかね?」
「分かりました。」
「話は変わるのだが来年にロボス大将が2個艦隊を率いて合計3個艦隊で出陣する。その次は私が3個艦隊と私の直属の半個艦隊で出陣することが決まっている。」
「それに参加せよと?」
「いや、ロボスは自分の派閥から連れていくだろうな。私も前回出なかったウランフ、ボロディン、アップルトンの3人を連れていく。」
「シトレ大将は3人、自分は2人で怒りますね。ロボス大将は。」
笑いながらシトレ大将が話の続きをする。
「この2回の戦闘で私が司令長官になるかロボスがなるかが決まる。」
「代理になっている分、閣下が有利なのでは?」
「勿論だ。五分か六分四分の闘いで私の肩書きの代理が消えるよ。」
「ロボス大将は余程の勝ちがないと無理ということですね。」
功を焦って無茶しなければいいがとロボス大将に従う兵士達に同情した。
「その後は流動的に事態が推移することになるだろう。そう頭に入れておいてくれ。」
「ハッ、承知しました。」
「君の昇進と任命は年が明けて宇宙歴786年1月5日に公布される。頑張ってくれ。」
また1つ階段を登り、多くの部下を預かる身になったことに疲労感と憂鬱感が身体を支配した。
宇宙歴787年 ハイネセン 士官学校
今日はヤンとラップが士官学校を卒業する。第一艦隊司令官を拝命したが訓練で1年が終わった。訓練とミーティングの日々だ。特別なことはない平凡な日々だが死人が自分の艦隊から出ないというのは心の安寧に多大な影響を及ぼすらしい。鬱屈した気分になることもなく良い日を送ってこれた。
校門前で待っているとヤンとラップが肩を組みながら出てきた。周りにいる他の候補生からジロジロ見られているが気にせずに声をかけた。
「ヤン、ラップ、卒業おめでとう。」
「ありがとうございます、教官。」
そう2人が言うので訂正を入れる。
「もうお前達の教官ではない。中将と呼べ。」
ヤンが頭を掻いている。
「いや~、そうなんですがつい癖で言ってしまいますね。」
「まあ、追々直せばいい、私に対してはな。他の人なら殴られるかもしれないが。」
ラップが疑問を口にした。
「どうしてクーロ中将がここに?何か用事ですか?」
「ああ、ヤンは身寄りがないと知っているからな。夕食でも祝い代わりにご馳走してやろうかと思ってな。」
ヤンが驚きながら聞いてきた。
「よろしいんですか?」
「知らない仲ではないからな。特別だ。ヤンは約束があるのか?」
ヤンは癖の頭を掻く仕草をしている。
「ありがたくご馳走になります。折角来ていただいたので。」
頷いてからラップに声を掛けた。
「ラップはどうする?来るならお前もご馳走するよ。」
申し訳なさそうな表情をしながら答えた。
「両親が来ているので今回は申し訳ないです。」
そういって頭を下げた。
「気にするな。ラップとの食事などその気になれば幾らでも共に出来るからな。ラップ、分かっていると思うが初日に遅刻するなよ。」
軽く注意するとラップは敬礼をした。
「3日後に閣下の元にご挨拶に伺います。」
「副官として支えてもらうことになるがあまり気負うな。無理をするのもさせるのも好みじゃない。」
「ありがとうございます。」
うんと1つ頷いてからラップと別れた。
「ヤン、行こうか。店はもう予約してあるんだ。」
そういって歩きだした。ヤンが後ろをヒョコヒョコと付いてきている気配を感じながら。
宇宙歴788年 ハイネセン 三月兎亭
ヤンとラップが卒業して一年がたった。ヤンは統合作戦本部の資料室で読書の日々を送っているらしい。それが上層部にバレて面倒な所に飛ばす事にしたとシトレ大将から聞いた。折角なのでヤンから直接話を聞こうと食事に誘った。両名とも一年たったので万歳昇進で中尉になった。
「お疲れ様。ヤン中尉」
「お疲れ様です、教官。」
癖でまた教官と呼んだ。ヤンが気付いて苦笑いしている。その姿を見て私も笑ってしまった。
「任地は何処なんだ?ラップは私の副官をしているから知っているが?」
「エル・ファシルです。最前線に近い惑星の。」
「そうか。上官は誰なんだ?」
「リンチ少将です。たしかエル・ファシル警備艦隊司令官のはずです。」
「リンチ?アーサー・リンチか?」
「はい。そうですが、お知り合いなんですか?」
「私が大尉だった時の上官だよ。少佐だった。前線でも後方でも一定以上の実績を挙げ、評価も高い有能な軍人だ。そうか、そんな所にいたのか。分艦隊司令官に呼べばよかったな。」
「どういった人柄ですか?」
不安そうに尋ねてくるヤンに苦笑した。
「悪い人ではないよ。真面目で誠実な人だ。サボれないからな。」
ヤンは私の忠告に苦笑して頭を掻いている。
「ボチボチ頑張りますよ。」
「ああ、死なないように頑張れ。リンチ少将には私から連絡しておいてやる。」
「ありがとうございます。」
そう言って食事を済ませ。店の前で別れた。
次に会う時に色々とヤンが成し遂げるなんてこの時は夢にも思わなかった。