宇宙歴788年 エル・ファシル近辺
ヤンと合流してハイネセンに向かう。エル・ファシルに接近していた帝国艦隊はリンチ少将率いるエル・ファシル警備艦隊を追っているので特別危険はないが護衛に付くことにした。
ヤンが此方に移ってきたので少し話そうと思った。自室の方が良いと思い、チュン参謀長に艦橋を任せる事にした。部屋に入り、冷たい水を用意してヤンに渡し、対面に座って話し合うことにした。
「ありがとうございます、教官。」
「ご苦労だったな、ヤン。」
「いえ、赴任して直ぐにこんなことになるとは思いませんでしたが。」
「ヤンにもつらい仕事をさせてしまったな。申し訳ない。」
リンチ少将以下エル・ファシル警備艦隊を見捨てたような形になった事を謝罪した。
「昔に教官が言っていたことを思い出しました。」
「何て言ったかな?色々と話したからどれか分からんな。」
ヤンは苦笑しながら頭を掻いている。
「様々な思いを背負って生きていくって。」
「そんなことも言ったな。」
「今回で私はリンチ少将の覚悟を見ました。そして後を託されました。若い下士官を助けるために多くのベテランの人がリンチ少将に従って囮になりました。」
「それは私が命じた事だ。お前が責任に感じる必要はない。」
「教官はそう言ってくれますが何も感じずに生きていける人間ではありませんよ。」
思い悩んでいるヤンに事実を伝えた。
「今、ハイネセンではリンチ少将を住民を置いて逃げた。ヤンは置いていかれた住民を救った英雄とすることが決定したそうだ。」
俯いていたヤンが驚きで顔を上げた。リンチ少将達が逃げ出したとされることに怒りを感じているのだろう。
「分かっています。軍の失態を隠すための人身御供ですよね。リンチ少将達を悪者にして私を英雄にする。それが政治家のやり方なんですよね。」
「そうだ。」
「教官が上に行けば行くほど背負う物が多く、大きくなるって分かった気がします。」
苦笑してヤンに忠告した。
「偉くなるのも大変だぞ。味方には実力以上の結果を期待され、敵には狙われる。」
「それでも教官は軍を辞めないのですね。」
「背負ってしまったからな。そして今も多くの部下の期待と命を背負っている。」
「教官……強いですね。その強さを尊敬します。」
「ヤン。お前も引き返すなら今だぞ。お前の性格は理解している。このまま行けば辛くなるかもしれないぞ。」
私の忠告に悩みを一瞬みせたが私の目を正面から見てきた。
「リンチ少将の覚悟を見ました。あれを見て辞めるような人間ではないです。」
「そうか。」
そう言って会話が途切れてしまった。
宇宙歴788年 ゴールデンブリッジ 自宅
ハイネセンに着いて直ぐにエル・ファシル住民を無血で避難させたヤンを讃えるセレモニー等が行われた。私は早々に退散して自宅で飲むことにした。夕方から1人で飲むのは味気無いのでアレックスを誘ったのだが何故かシェーンコップが訪ねてきたので男3人で飲むことにしたのだが直ぐにジェシカとラップもやってきた。
セレモニーの最中に聞いた話をアレックスにしてみた。
「そういえばパーティーで聞いたのだがアレックス、上官の娘さんとお見合いをするそうだな。」
「何処からその話を!?まだ話が微かに出ただけですよ。実際のところ何も決まってませんよ。」
「そうなのか?私は決定しているみたいな感じで聞いたが?」
アレックスは目を押さえている。
「どうやらユーリさん達シトレ大将派閥の艦隊の補給を一手に引き受けているのが評価されたみたいです。それから狙われてますね。」
シェーンコップが笑いながら伝える。
「部長の娘さんですかな?それでしたら中々の美人と評判ですよ。」
「まさか手を出したりしてないよな?」
私の質問に肩を竦めている。
「中々にガードが堅い女性でね。私は撃墜済みですな。」
シェーンコップのおどけた仕草に笑いが溢れた。そこにジェシカが質問してきた。
「ユーリは士官学校時代とか任官してから女性関係はどうだったの?」
まさかの質問に口ごもってしまった。そしてシェーンコップは横を向き、口を手で押さえて笑いを我慢している。
「笑っていいぞ、シェーンコップ。我慢も辛いだろう。」
そう言えばシェーンコップは爆笑し始めた。アレックスとジェシカはシェーンコップを見て呆然としている。アレックスが気になったのだろう。質問してきた。
「何が可笑しいんだ?モテたかモテなかったかだろう?」
その質問にシェーンコップは笑いながら答えた。
「任官してから直ぐに不正を取り締まったので皆から恐れられていましたよ。道を歩けばみ~んな避けてましたよ。なんなら目線も合わせませんでしたからね。」
「上官、政治家、官僚、民間人関係なく逮捕してましたから恐れられていました。誰も近寄りませんでしたよ。我々以外はね。」
笑いを噛み締めながら言うシェーンコップに腹が立つ。
「なので女性関係云々どころか友人、知人もいませんでしたよ。同期の友人以外にね。」
アレックスとジェシカが本当なのかと視線を向けてくる。それに対して大きな溜め息を1つ吐いて肯定した。
「事実だ。私に関わる人はほとんどいなかったな。関わりがあるのはここにいる4人とヤン位だな。友人、知人付き合いをしているのは。」
そう言ってまた溜め息を吐いた。ヤンが美辞麗句の称賛の嵐に嫌気が差して私の家に逃げ込んでくるまで、そして来てからも他愛のない話が続いた。