宇宙歴783年 テルヌーゼン 士官学校
始業式が行われて1時間程が経つ。シトレ校長の挨拶、国防委員長の挨拶等が終わり、在校生の歓迎の言葉が始まる。
ゴリゴリの肉体派の男が壇上に上がった。あれがウィレム・ホーランドか。手元の資料によれば敢闘精神に溢れ、決断力も行動力も有る為に指揮官に向いていると評価されているみたいだ。大いに独善的で視野が狭くなる傾向があり、身の丈に合わない大いな自信を持っており、高圧的なため同級生からの信望が薄く、下級生からの尊敬も少ないと書いてある。
良いところの方が少ない首席ってなんだよ!長所よりも短所が多い奴が1番ってどうなんだよ。前途多難な教官生活になりそうでゲンナリしてきた。
調子の良いことばかり言っているホーランドを見て、つい溜め息を吐いてしまった。
それを隣にいる同僚の教官が見て話しかけてきた。
「溜め息を吐いて如何しましたか?」
自分と同じ新任で事務次長に就任してきた新任のアレックス・キャゼルヌ大尉だ。
後方勤務の練達者でエリート官僚そのものだと能力では評価されている。エリート官僚の負のイメージそのものとは無縁な人柄で中々な毒舌家で上司、上官でも平気で噛みつくので上層部からは煙たがられているが能力が際立っており捨てるに捨てられないと評判の人物らしい。
「いや、中々に熱の入った挨拶をするものだから。呆れているだけです。」
私の回答が壺に入ったのか手で口を押さえながら笑っている。
「クーロ准将の挨拶は3分に満たず今でも始業式の話の種にされているそうですよ。」
「貴方もご存知なのですか?」
「ええ、貴方の後輩なので此処で聞いていましたよ。余りの簡潔さと中身の薄さに驚きました。」
笑いながら言うキャゼルヌに自分も苦笑を返すしかなかった。
「自己紹介がまだでしたね。事務次長に就任したアレックス・キャゼルヌ大尉です。よろしくお願いいたします。ユーリ・クーロ准将。」
「士官学校に戦術、戦略及び艦隊運用の教官として就任しましたユーリ・クーロ准将です。こちらこそよろしくお願いいたします。」
互いの自己紹介が終わると同じタイミングでホーランド候補生の挨拶と訓示が終わったようだ。
教官の紹介に移るようで先任の教官が名前を呼ばれて一礼している。自分の名前が呼ばれた時にざわめきが少し起きたが一礼をして無視した。
式が終わりキャゼルヌ大尉と話ながら教官室に向かう。
「私の事はキャゼルヌと読んでください。クーロ閣下と呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか?」
訊ねてきたので構わないと返し、教官室の前で別れた。事務局は隣なのでそちらに向かっていった。
部屋に入り自分の席に着くとシトレ校長が入ってきて直ぐに明日からの講義の話をして解散となった。
新入生は家族と入寮前の最後の食事に向かっているようだ。多少のざわめきが聞こえる。12時にもう少しでなるから待ち合わせ場所に向かおうと準備をしているとシトレ校長から声を掛けられた。
「クーロ准将、少し話があるのだが時間を貰えるかな?」
そう言われたので正直に話した。
「1230時に先約があるので手短にしていただけるなら。」
まさかの返しに目を白黒させている。そして大声で笑いだした。
「分かった。5分程貰えるかな?」
それくらいの時間ならと頷きながら返した。
「承知しました。場所は何処でしょうか?」
私の回答に1つ頷いた。
「校長室で頼む。着いてきたまえ。」
ハッと敬礼をし、先に歩きだしたシトレ校長に着いていく。
校長室に入ると椅子に座ることを薦められ大人しく着席し話を待った。
「君に来てもらったのは今後の君の予定を話しておかないといけないからでね。2年此処で教鞭を取ってもらうことになる。」
これは教官を命じられた時に言われたので知っていたので1つ頷いた。
「その後、君は正規艦隊司令官になるグリーンヒル中将の副司令官に少将として配属される予定だ。」
まさかの内容に驚いた。本当なのか顔を見ていると頷いたので事実だと確信が持てた。
「ここ数年で正規艦隊司令官の顔を変えるつもりだ。これは今のところ内定しているのは私の第一艦隊とパエッタの第二艦隊、ルフェーブルの第三艦隊、グリーンヒルの第四艦隊、ビュコックの第五艦隊、ムーアの第六艦隊、ホーウッドの第七艦隊、アップルトンの第八艦隊、アル・サレムの第九艦隊、ウランフの第十艦隊、ロボスの第十一艦隊、ボロディンの第十二艦隊へと艦隊司令官の刷新が行われる予定だ。その後に私かロボスが宇宙艦隊司令長官に就いた後にイゼルローン要塞攻略戦が行われる予定だ。」
最後の内容につい眉をしかめた。
それを見たのかシトレ校長は聞いてきた。
「何か問題でもあるのかね?」
「いえ、何か策でもあるなら別ですが特段無いならイゼルローン要塞を攻めるのは止めた方が無難かと思ったまでです。」
シトレ校長が目を細めて肘をつき手を顔の前で組んだ。
「理由はなんだね?何かあるから口にしたのだろう?」
話せと言ってくれているがチラリと時計に目をやると12時を回り10分になる。
「明日にしましょう。申し訳ないですが先約に遅れてしまいます。」
私が時計に目をやったのを見ていたのだろう。苦笑して頷いた。
「分かった。明日の講義終了後にここに来てくれ。いいね。」
有無を言わせぬ貫禄で頷いてから立ち上がった。
「申し訳有りませんがここで失礼させていただきます。」
部屋を出ると足早に教官室に鞄を取りに向かった。このままではギリギリ間に合わん!