銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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第5次イゼルローン要塞攻略戦

宇宙暦792 イゼルローン回廊

 

遂にイゼルローン要塞攻略戦が始まる。中央後方にシトレ司令長官5000隻、中央にグリーンヒル中将14000隻、右翼にビュコック中将14000隻、左翼に私の艦隊15000隻が配置して会戦の時を待つ。

帝国側は中央がヴァルテンベルク提督15000隻、左翼がシュトックハウゼン提督15000隻、右翼がメルカッツ提督13000隻のようだ。

フェザーンから帝国の増援部隊がシュトックハウゼン提督とメルカッツ提督と云う報せが入っている。ヴァルテンベルク提督とシュトックハウゼン提督の旗艦は分かっているので不明の艦隊がメルカッツ提督指揮の艦隊なのだろう。

私の相手がメルカッツ提督ということでシトレ司令長官が目論む混戦に持ち込んでからの要塞攻略が私の方は無理か厳しい状況だと思った。

「総旗艦より命令。作戦を開始せよ、です!」

チュン参謀長が此方を見ている。それに頷いて命令を出す。

「全艦、前進。」

参謀長が復唱し、オペレーターが艦隊に命令を伝えていく。直ぐに艦が前進を始めた。艦橋にいる全員が顔を緊張で強張らせている。

トゥールハンマーの射程圏内に入るか入らないかで私の艦隊に停止命令を出した。長距離砲撃戦を開始した。

隣のグリーンヒル中将、反対側のビュコック中将の艦隊は要塞主砲の射程圏内に出たり入ったりしている。血の戦訓から産まれたD線上のワルツ・ダンスだ。

1時間ほど経過した時に一気にグリーンヒル中将とビュコック中将の艦隊が前方にいる艦隊との距離を詰め、混戦に持ち込んだ。ミサイル攻撃と爆発物を積んだ無人艦を突入させて爆破する作戦を敢行している。

その破壊力は強力でイゼルローン要塞の強固な外部装甲を破損させているようだ。

「これは落とせるかもしれないぞ!」

艦橋にいる誰かが言った言葉に全体が活気ずく。帝国は混戦を解こうとしたいが退いたら要塞に近付くことになり、進めば一気に同盟が要塞に近付くことになるために前進も後退も出来ずにいる。

「閣下!トゥールハンマーが発射体勢に入っています!」

イゼルローン要塞からトゥールハンマーの発射準備をしている報告が入った。

「現状を維持。この艦隊は射程圏内に入っていない。艦列を乱さないように伝えてくれ。」

そう命令を出し、副司令官、分艦隊司令官から了解の返事が入った。

その瞬間に中央に目映い閃光が走った。トゥールハンマーが射たれたようだ。通った場所にポッカリと空白地帯が出来ている。これで作戦は中止だなと思い、副司令官を呼ぶことにした。

「ここからが私の艦隊の本番だ。落ち着いて対応するように通信を送れ。クブルスリー副司令官を呼び出してくれ。」

オペレーターに伝えると艦橋全体が動き出した。

本当にこれからが本番だ。焦らず的確に対処していかないといけない。

 

 

 

 

シトレ司令長官視点

 

帝国がトゥールハンマーで味方諸共撃った。グリーンヒル中将の艦隊の右翼部分が消滅している。3000隻は消えただろう。

まさかという気持ちとやっぱりかという気持ちがある。クーロ中将に警告されたが可能性は低くないと思い、実施したが案の定の結果だ。帝国軍艦艇と同盟軍艦艇とを区別なく破壊した予期せぬ攻撃によって同盟軍は恐慌状態に陥っている。これ以上の戦闘は無理だろう。

「ヤン少佐、全軍に退却命令をだしてくれ。私はどうやら、不名誉な記録の樹立に貢献してしまったようだ……。」

ヤン少佐も暗い表情だ。命令を伝達している。

「司令長官、クーロ中将から通信が入っています。」

命令を出し終えたヤン少佐と顔を見合わせた。

「繋いでくれ。」

そう言うと直ぐに正面のスクリーンに繋がった。敬礼をしているので答礼をすると彼が話し始めた。

「小官の艦隊のクブルスリー副司令に中央の後退の援護をさせます。右翼のビュコック提督の艦隊は司令長官の艦隊にお願いしても宜しいでしょうか?」

「私に前に出ろと言うのかね?」

「この状況下で贅沢を言ってもいられないでしょう。幸いビュコック提督の艦隊はトゥールハンマーに撃たれてないので援護も撤退も容易かと?」

「分かった。責任を取れということだな。」

「はい、総司令官である以上仕方ないかと。」

重々しく頷く彼が頼もしいと同時に憎たらしく感じた。

「その後の殿は私がしましょう。それで宜しいでしょうか?」

彼の了承を得ようとする言葉に一言だけで返した。

「頼む。」

それ以上は何も言えなかった。

 

 

シトレ司令長官から許可も得た事だ。仕事にかかろう。

「クブルスリー副司令、中央の撤退の援護に回ってくれ。私は正面の艦隊に睨みを効かせる。」

「ハッ、承知しました。」

「撤退が完了するまでこの場に留まる。各員、奮闘せよ。」

1時間の撤退戦が終わった。

敵味方諸共の攻撃は同盟を恐慌状態に陥ったが帝国も恐慌状態になっていたようだ。混乱していたのかバラバラに追撃してきたのでクブルスリー副司令官とシトレ司令長官の横撃を喰らい、早々に追撃を切り上げたみたいだ。第五次イゼルローン要塞攻略戦は失敗となった。

 

 

 

宇宙暦792 ハイネセン 統合作戦本部

 

第五次イゼルローン要塞攻略戦から帰ってきて3日、私は司令長官室に呼ばれた。ノックをして部屋に入った。

「よく来てくれた。論功行賞が終わったので伝達する。」

結果的に失敗したとはいえ、イゼルローン要塞に対して有効な作戦で実行した事を受け、同盟軍内で高い評価がされているようだ。

「今回の戦闘でイゼルローン要塞を物理的に色々と破壊したことが評価されて私は元帥に昇進、統合作戦本部長に任命される。」

「負けたのにですか?」

「もう少しのところまで敵を追い詰めた事が評価されたようだ。初めて要塞に大きな傷痕を残したということだな。グリーンヒル中将も一番被害を受けたが直接要塞に被害を与えたということで大将に昇進し、総参謀長になることが決定している。」

「左様ですか。それで小官を呼んだ理由は?」

「うん、君には私の後任になってもらう。」

驚きで目が大きく見開いているのが分かる。

「しかし残念ながら国防委員会、ロボス派の司令官達の反対で実現しなかった。」

「では後任は誰がするのです?」

眉を顰めて大きな溜め息を吐いてから言った。

「ロボスだ。そして君を副司令長官にで話が纏まった。前に言っていた前線に近いところに補給設備を整えた。君にはそこの司令官も兼務してもらう。大将に昇進した上でな。」

「大した功績もなくロボス大将は司令長官に就任なされるのですね?」

私の厳しい物言いに苦笑いを浮かべている。

「今回のロボスの処遇は君の司令長官就任を望んだ私の動きが発端になっているのだよ。」

シトレ大将が気になる言い方をする。

「それはどういう事です?」

「君を司令長官にすると同盟で最年少での就任となる。それを国防委員会、ロボス派の奴らは問題視した。同盟に人無し等という事になるのではとね。」

あまりの馬鹿馬鹿しい理由に溜め息を吐いてしまった。

「ロボスの司令長官、君の副司令長官は覆すことが出来なかった。代わりに2つの条件を呑ませる事にした。君のエル・ファシル駐留艦隊司令の就任、それと戦争への参戦の自由化だ。」

「自由化?どういう意味ですか?」

「予算編成等で君の出兵は保証されるということだ。ロボスの出兵に不安なら付いていくことも後を追って予備としての役割を持つことも自由ということだ。便宜上国防委員会、統合作戦本部の承認を得るという行程がいるが余程の事がない限り通る事になっている。」

なるほど、内容は理解した。

「エル・ファシル駐留艦隊も我々の艦は大気圏離脱、突入能力がないからな。近くの小惑星型補給基地を空けるのでそこを拠点にしてもらう。君はロボス大将の下に付くのが嫌だと思うがどうか同盟兵士の為に尽力して貰いたい。」

大層嫌だがこれも多くの同盟将兵の為だと思い、了解の返事をした。

「分かりました。微力を尽くします。」

この時の私は最年少での副司令長官就任となった。此れが同盟に、帝国に何をもたらすのかまだ知るよしもなかった。

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