宇宙暦792年 ハイネセン 統合作戦本部 自室
エル・ファシルへの赴任を一週間後に控えて、色々と準備をしているとヤンがやってきた。
「副司令長官へのご就任おめでとうございます。」
やって来て締まりの無い挨拶を目の前でされた。
「ありがとう。お前もエル・ファシルへの凱旋おめでとうと云うべきかな?」
頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。苦笑も収まり、敬礼をして申告をする。
「この度、クーロ副司令長官の艦隊の査閲を担当することになりました。ヤン・ウェンリー中佐です。」
「御苦労。エル・ファシルに着いたら色々と忙しいと思うが職務に邁進してくれ。」
真面目なやり取りを終えて、2人でソファーに座って話をしようと伝え、対面で座って先の要塞攻略戦を話すことにした。
「結局、要塞攻略戦は教官の言う通りの結末になりましたね。」
「要塞が自身を守る方法は2つしかない。味方の艦隊が守るか自分の力で守るかだ。自分の力で守ると言うことは要塞主砲、浮遊砲台を使うしかない。」
「はい、しかし味方ごと撃つなんて。」
「自分の任務を全うする為の苦慮した結果だろう。あのまま混戦状態が続けば落とされた可能性はある。それを考えれば妥当な方法だ。」
ヤンが溜め息を吐いて、首を横に振っている。
「イゼルローンの司令官が代わったと聞きましたが?」
「ああ、フェザーンからの報せでは要塞司令官にシュトックハウゼン大将、駐留艦隊司令官にゼークト大将らしいな。」
「前任の2人は更迭ですか?」
「いや、同盟の艦隊を撃退したからな。一時的に中央から離すかもしれないが直ぐに中央の別の任務に着けるだろうな。」
「味方殺しをしておきながらですか?」
「次の要塞戦で混戦状態にされた時に味方殺しを怖れて要塞を落とされるよりはましだろう。そういった面でも味方殺しは叛乱軍の狡猾な作戦が原因、対応としては誤りではなかったとしておかないといけないと思う。」
「イゼルローン要塞を守るためにですか?」
「ああ、シュトックハウゼン、ゼークトの両司令官が対応を間違えないためにな。」
「なら今後は並行追撃からの混戦は難しくなりますね。両名が警戒するでしょうし。」
「ああ、落とすなら前回で一気に落とすべきだったな。落とせるのならな。」
「落とせるのならと言いますと?」
ヤンにフェザーンからの情報を教える。
「オフレッサーが居たそうだ。子飼いの部下を連れてな。さぞかし歓待してくれただろうな。」
白兵戦において多大な武勲を立て上級大将、装甲擲弾兵総監まで上り詰めた歴戦の猛者だ。もし要塞内に攻め込んでいたら地獄絵図を作られただろう。
顔を青くしているヤンを見ると、思わず苦笑いが漏れた。
同盟は多くの血を流してきた。その量に対する見返りを求めているのではないか。それがイゼルローン要塞の奪取ならば底無し沼に嵌まっているのではないのかと思う。
「ヤン。お前はイゼルローンを攻略出来たら帝国と和平が結べると思うか?」
「可能性は有ると思います。帝国がイゼルローン要塞を奪還しようとしますが、それを撃退して大きな被害を受ければ和平か休戦状態になるのではないかと。」
「同盟が帝国に攻め入る可能性は考えないのか?」
「戦力差があるので、そんな無謀な事はしないと思いますが。」
「そうか。そうなったら良いな。」
ヤンを退室させ、1人椅子に座り様々な事に思考を巡らせた。。
多くの敵も味方も殺した過去に。多くの将兵の命を預けられている現在に。撃っては撃たれる、終わりが見えない未来に。
副司令長官になった私の人生の評価がどうなるのか後世の歴史家に聞いてみたいものだ。