宇宙暦792年 アスターテ宙域 旗艦
10日の宇宙での戦域確認訓練を終えて、エル・ファシルに帰っている。この後はエル・ファシルで艦隊運用の訓練を行う予定だ。
ワイドボーンが質問をしてきた。
「ここまで色々と確認するとは思いませんでした。戦場の端まで確認するとは。」
チュン参謀長と顔を見合わせて笑った。
「何か可笑しな事を言いましたか?」
「いや、ラップにも聞かれたのでね。答えよう。」
「お願いします。」
隣の参謀用の席を指差して座るように指示した。
「同盟の想定戦場はイゼルローン要塞から同盟側に絞られている。そこを詳しく知る事で帝国軍より有利に戦う事が出来るからだ。帝国は詳しく知らないだろうからな。」
「本部にデータがあるのでは?」
「データはある。私が更新したやつがな。」
ワイドボーンが驚いている。
「閣下が更新していたのですか?」
「知らなかったのか?私の艦隊は訓練はいつもエル・ファシルよりイゼルローン寄りで行っている。調査も兼ねているんだ。」
チュン参謀長が後を引き継いでワイドボーンに話してくれた。
「閣下は3つの要素を重視しておられるのです。」
「3つの要素ですか?」
ワイドボーンが首を傾げながら聞いている。
「はい。まずは艦隊の戦力についてです。敵味方の数、艦隊運用の練度、司令官や副司令官、分艦隊司令官の能力です。」
「2つ目は戦場の把握です。何もないのか、小惑星帯があるのか、ブラックホールがあるのか、惑星があるのか、その惑星の環境や太陽風や隕石等、様々な要因があります。それを敵は知らず、此方が知っていれば有利に働く。そういうことです。」
「最後に外的要因です。私達が敵と相対している時に横から味方が敵が攻撃してきたら大きな損害を受けます。それをどちらが用意するか、出来るかということです。」
「孟子?の天の時、地の利、人の和のことですか?」
「そういうことだな。」
チュン参謀長の説明が終わったのでワイドボーンに質問をしてみた。
「その観点から私が好む戦場は何処か分かるか?」
「閣下の考えから推察するにダゴン、ヴァンフリート辺りが好みかと思われます。惑星レグニツァも使い方次第では良きようになるかと。」
正解だと頷き、続きを促した。
「閣下の考えですとアスターテ、パランティア、ティアマト、アルレスハイムは艦隊戦に不向きと見ました。敵味方問わず動きやすすぎると。」
「正解だ。私は正々堂々と云うことは嫌いでね。必要となるならするが。」
「閣下はシミュレーターでの成績はピカ一と聞いていますが?」
「それは相手より私の方が適切に戦術的行動を取れたからだ。相手が私より優れた用兵家がいるかもしれないから出来るならしたくないのが本音だ。」
「分かりました。ご教示ありがとうございました。」
ワイドボーンとの意識の擦り合わせは出来たと思う。これから艦隊の訓練をしていき、深めていければと思った。
宇宙暦794年 エル・ファシル 自宅
赴任して一年半が経ち、新年早々に本部長のシトレ元帥より連絡が入った。帝国軍が約4万隻で同盟領に侵攻するようだと。2月頃にオーディンを発つ予定らしい。
陣容は後日手に入り次第連絡するといっていた。
此方はロボス司令長官が総大将、第5艦隊のビュコック提督、第6艦隊ムーア提督、第12艦隊ボロディン提督、私の第1艦隊の4個艦隊5万隻の予定だそうだ。
私の艦隊は副司令官のクブルスリー提督がエル・ファシル周辺の警戒に残る事になっている。1万隻を率いて参戦するよう命令が下った。
久しぶりの戦場に高揚している兵士を見ると溜め息を吐きたくなるが指揮官が戦いを厭うと思われないように我慢するのが辛い。
牛肉のシチューとサラダ、サーモンのマリネ、ピクルスの晩御飯を作り、テーブルに並べる。ジェシカも帰ると連絡が入ったからちょうど良い時間だろう。
5分もしない内に帰ってきた。玄関に迎えに行く。
「おかえり、ジェシカ。夕食がちょうど出来た所だ。」
頬にキスをして食卓に連れていく。
「あら、シチューじゃない。嬉しいわ。貴方のシチューは絶品だから。」
「そうか。では早速食べよう。赤ワインもある。」
そう言ってボトルとグラスを掲げた。
食事も終わりが見えた頃に出兵について話すことにした。
「出兵する事になった。来月には本隊はハイネセンを発つだろう。私も3月にここを発つ。」
「また、戦争なのね。」
「ああ、そうなった。クブルスリー提督をエル・ファシル及び周辺の警備に残すので問題が起こることはないだろう。」
「無事のお帰りをお待ちしているので気をつけてくださいね。」
「分かった。無理をする事はしないと約束する。」
帝国の出兵に対する同盟の出兵が少しずつ進んでいく事になる。