宇宙暦794年 ヴァンフリート星域付近 連絡挺
目的地まで後1日の距離だ。ここで各艦隊司令官の最後の作戦会議を開く事になったためにロボス司令長官の旗艦アイアースに向かっている。チュン参謀長とワイドボーン少佐を連れていっている。
艦に着くとビュコック提督が降りているところだったので駆け寄り声を掛けた。
「ビュコック提督、ご無沙汰しております。」
「これは、副司令長官殿。そちらからわざわざの挨拶、痛み入ります。」
「からかうのはやめていただきたい。副司令長官としての初出兵で些か緊張しているので。」
「左様か。儂にはいつも通りにしか見えんがね。」
「ビュコック提督は今回のヴァンフリート星域が戦場になるのをどう捉えておいでですか?」
「君が色々と揃えたデータは見てきた。此れを巧く活用できたら大勝も夢ではないな。まあ、始まっておらんのに景気の良い話をしてもの。絵に描いた餅は旨そうだが実際は喰えんからな。地に足着けて戦うのが良かろう。」
冷静に今回の戦争を見ているビュコック提督に頼もしさを感じて安堵した。
「浮わついておられないようで安堵しました。」
「ボロディン提督も浮かれておらんよ。問題はムーア提督とロボス司令長官じゃな。戦場の戦い難さを何処まで理解しておられるのかが不安じゃな。」
「同感です。無茶をしなければいいのだが。」
「無理じゃよ。今回で元帥を狙うそうじゃ。お前さんが大将、ロボス司令長官も大将。面白くあるまいて。のう?」
からかうような口振りに失笑してしまった。
「では私は後方待機ですかな?」
「だろうな。お前さんを積極的に使おうとはせんだろう。」
こんな私利私欲を優先する男が同盟の総司令官とはお先が真っ暗に思えた。
宇宙暦794年 ヴァンフリート星域 アイアース
会議室に私、ビュコック提督、ボロディン提督、ムーア提督の4名が椅子に座って、今回の戦争の総司令官ロボス司令長官を待っている。チュン参謀長、ワイドボーン少佐は外で待機になった。定刻通りに入ってきたロボス司令長官とグリーンヒル総参謀長が席に向かう。起立をして敬礼を行い、席の前に行くのを待つ。ロボス司令長官が席の前に着いて、答礼を行い腕を下ろしたので着席した。ロボス司令長官が話をはじめる。
「帝国と同盟はヴァンフリート星域での戦闘になるだろう。この際だから布陣も伝えよう。中央にビュコック提督、ボロディン提督。左翼にクーロ副司令長官、右翼にムーア提督だ。私は更に後方から戦場を俯瞰しながら采配を取ることにする。その都度、戦況を見て命令を出すので勝手な行動は慎むように。」
最後の言葉は私を見ながら告げる。
作戦会議が終わり、グリーンヒル総参謀長とビュコック提督、ボロディン提督が近くに来てくれた。
「どう思う?クーロ副司令長官。」
「私が予備かと思ったのですが違ったのに驚きです。予備を置かないのは一抹の不安がありますが艦数、艦隊数は此方が上です。なので無難な戦法かと。戦況の急激な変化が無ければですが。」
3人が頷いている。
こんなに不安を下に与える総司令官で同盟はいいのかと思った。出来るなら憂いなく戦える環境をと節に思う。
宇宙暦794年 ヴァンフリート星域 旗艦
帝国が眼前にいる。フェザーンからの情報通りに4万隻を少し越えているように見える。。中央にミュッケンベルガー元帥の1万5000隻 、右翼にグライフス中将の1万5000隻、左翼にグリンメルスハウゼン中将の1万2000隻らしい。
私の相手はグライフス中将のようだ。ミュッケンベルガー元帥の参謀長を勤めた人物で思慮深く、冷静沈着が持ち味だそうだ。慎重な艦隊運用をしてくると推測出来る。
ここで問題はグリンメルスハウゼン中将だ。今まで名前すら聞いたことのない人物だ。情報部、フェザーンの両方に確認を取ると意外な経歴が分かった。
この人物、実は軍功を特段挙げることなく昇進したらしい。
元は子爵家の三男で士官学校での成績も凡庸であったが、兄2人が相次いで亡くなったため偶然に家を継ぐことになったそうだ。
青年時代はフリードリヒ4世の侍従武官兼放蕩仲間で、帝位に就くまで何かと尽力したため信頼も厚く、今も皇帝と仲が良いらしい。
軍部、宮廷、貴族、部下と多くの者から軽んじられている老提督で、外見は老耄としており、居眠りが多いことから「居眠り子爵」「ひなたぼっこ提督」などとも呼ばれていると報告書にはある。
この情報から何で今、このタイミングで出兵してきたのかサッパリ分からない。死ぬ前の最期の奉公かと思わなくもない。よく分からないので出来るなら関わらないでいたいと思っていたがロボス司令長官が反対側に布陣させてくれたので一安心した。
ヴァンフリート星域の会戦の幕開けが刻一刻と近づいている。