宇宙暦794年 ハイネセン 公園
ジェシカと2人で早朝の公園を歩いている。池の周りの道をゆっくりと。
ハイネセンにいた頃は准将に昇進し、将官専用の住宅街に引っ越してから、この公園が近くにあるのでトレーニングで走っていたがエル・ファシルに赴任となり、ご無沙汰だったが変わりない景色に妙な安心感があった。
「無事に帰ってきたって感じがするわ。ハイネセンで貴方と2人でゆっくりと過ごしていると。」
ジェシカがそんなことを言ってから、チラリと右腕のギブスを見た。
「心配をかけたな。勝てる戦争だった。戦果、昇進に目が眩んだ奴がいなければ。」
そんなことを言った後に自分らしくないと思い、苦笑いをした。
「らしくない事を言ったな。これが戦争なのに。」
「辞めたかったら辞めていいのよ。生活なら貯金もあるし、私が本格的に働いていいし。」
笑顔でからかい口調なのだが目は本気で言っているのが分かった。
立ち止まって空を見上げた。綺麗な青空に少し雲がある。朝の澄んだ空気、公園の草木の香り、池の水の音が自分の身体を、心を満たしてくれる。
「今回の戦いで30万人近くが私の艦隊から死んだ。ますます辞められなくなったよ。」
ジェシカの顔を見て、告げる。彼女の顔が崩れてきた。
涙が浮かんでいる。泣くのを我慢しているようだ。
右手を私の頬に当ててきた。頬に当たっている手を左手で覆った。
「心配ばかりかけるな。申し訳ない。辛かったら何時でも言ってくれ。別れる事も…」
途中で頬を引っ張ってきた。怒り顔のジェシカが目の前にいる。
「ゴメン。変な事を口走った。」
グイッと手を引っ張って歩き始めた。腕を引かれながら歩く。
こんな日常がずっと続けばと思いながら歩いていく。
宇宙暦794年 ハイネセン キャゼルヌ邸
インターホンを押すとアレックスがドアを開けて出迎えてくれた。
「いらっしゃい、待ってましたよ。ヤン達は先に来ていますよ。」
「お邪魔します。これ、お土産です。」
そういって40年物のウィスキーを渡した。
「おま、これ40年物じゃないか。それもか?」
そういってジェシカの持った箱に目をやった。
「はい、モン・サン・ミッシェルのチーズケーキです。奥様にです。」
「取り敢えず上がってください。こっちです。」
リビングに先にたって案内をしてくれた。ヤンとユリアン君が椅子に座っていた。
「どうも、教官。昨日ぶりです。」
「ユーリさん、昨日は御馳走様でした。」
ヤンは座ったままで、ユリアン君は立って一礼してきた。
「気にしないでくれ。ハイネセンには1週間もいないんだからな。」
「そうよ、ユリアン君。気にしないで。楽しかったし。」
「ありがとうございます。」
「さぁ、夕食にしましょう。」
そういう声が聞こえた。オルタンスさん、キャゼルヌ夫人が鍋を持ってきた。
鍋を敷物の上に置いてから、私に向き直った。
「通信では顔を合わせましたけど面と向かって会うのは初めてですね。オルタンスです。夫共々、よろしくお願いいたします。」
「ユーリ・クーロです。よろしくお願いします。アレックスは誠実で有能で後方勤務では出世頭です。私の艦隊も彼には大変お世話になっています。急に忙しくなったりする事もあると思いますがどうか彼をよろしくお願いしたい。」
「はい、分かりました。よろしくお願いいたします。」
互いに挨拶をすまし、ジェシカに目をやる。
「ジェシカ・E・クーロです。よろしくお願いします。」
「こちら、お酒とケーキです。お世話になるお礼です。」
そういってボトルと箱を見せた。
「お酒は今開けます?ケーキは食後に頂きましょうか。
モン・サン・ミッシェルのチーズケーキなんて滅多にたべられないし。さあ貴方、ユーリさんを接待。」
そういってオルタンスさんはジェシカを席に案内してくれた。
「こちらにどうぞ。」
席を引いてくれた。ありがたく座らしてもらう。
夕食が始まった。
他愛ない話をしながら食事の時が進む。美味しい料理が話を盛り上げる。楽しい一時が過ぎていった。
食事が終わった後、ケーキを食べている時にアレックスが思い出した事を話始めた。
「そういえばロボスがミサイル艇を掻き集めていますよ。私の方にも連絡がきました。だいたいで3000隻を越えるかと。」
「イゼルローン要塞攻略戦を考えているようです。」
アレックスの言葉を引き継いで話したのはヤンだった。
皆がヤンに視線をやる。
「作戦案なんかは知らないんですが、そういった話があるのは確かです。」
「また要塞攻略戦をするのか。被害を受けて益がない戦いをよくもまぁ飽きずに何回もやるなんて。」
アレックスとヤンと顔を見合わせて小さく溜め息を吐いた。
「今回は私は参加しないからいいが、ヤンは参加する予定だろう?気を付けろよ。英雄だろうが凡将だろうが生きる死ぬは変わらない。生き残る、死なない努力は怠るなよ。」
「気を付けます。教官の所に行きたいですよ。ラップがいるし、教官も煩くないし、居心地良いだろうな。」
「だったら次回の戦いの後に申請するんだな。シトレ本部長が手放してくれたら此方にくれるだろうな。手放してくれたらな。」
ヤンに目線をやると大きな溜め息を吐いた。アレックスとその様を見て笑った。ジェシカもオルタンスさんもユリアン君も笑った。
第6次イゼルローン要塞攻防戦が直ぐに迫っているようだ。