銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

45 / 82
第6次イゼルローン要塞攻略戦の考察

宇宙暦794年 エル・ファシル 補給基地 司令官室

 

12月1日にイゼルローン要塞攻略戦が開始された。

結果から言うと同盟が敗走した形で終わった。今は司令部の面々で映像と戦闘詳報での照らし合わせを行う所だ。ラップ少佐が司会進行役で進めていく。

「先ず、同盟が左翼から第7、第8、第9艦隊に布陣。帝国は対面にゼークト提督、メルカッツ提督、ミュッケンベルガー元帥の艦隊のようです。」

ラップが私達にここまでは問題ないかと視線を向けてきたので頷く。

「ミュッケンベルガー元帥の部隊は先の戦いで損害が大きかったので臨時編成とフェザーンより報告がありました。例のミューゼル少将もここに編入されているそうです。」

「やはり昇進していたか。3000隻とは力量を期待されているようだな。」

「先ず最初は互いに要塞主砲の射程外での艦隊戦になりました。左翼、中央は一進一退の戦況です。互いに同数の損害を出しながら進行します。」

「問題は右翼です。1万隻の帝国に対して同盟は1万4000隻の第9艦隊アル・サレム中将が相対したのですが…」

結果を知っているとは言葉にするのは別の力が要るようだ。

「例のミューゼル少将が見事な艦隊運用で損害を与えてきます。それとは別に気になる艦隊があります。この300隻程の艦隊が2つ有るのですが1つは高速機動艦隊でもう1つが普通の編成の艦隊になります。高速艦隊が戦列を乱し、もう1つが崩す。もしくは、普通の艦隊が壁になり、高速艦隊が横槍を猛スピードで入れる。この形で何度も崩されています。」

フゥーーと溜め息を吐いた。チュン参謀長もワイドボーン参謀も溜め息を吐いている。

「この少数艦隊も見事な艦隊運用だな。ミューゼル少将にあの2つの司令官が部下に欲しいな。楽をさせてくれそうだ。」

そういって肩を竦めると苦笑してくれた。多少は空気が柔らかくなったのでホッとした。これからの話は重いので入る前に少しは和らげないと心理的に宜しくない。

「あまりにも被害が大きくなったのでロボス大将は仕切り直しをするべく艦隊を後退させて再編し、3個艦隊を1列にし大きな1個艦隊にしました。」

「それに対して帝国も対抗する形で隙間を埋めてイゼルローン要塞の主砲範囲内に布陣しました。これからが本番といった所なのでしょう。」

「同盟は『D線上のワルツ・ダンス』を行い敵を挑発します。帝国軍を挑発して射程外に誘き出す、もしくは混戦に持ち込む意図を見せながら緊張を強いる目的だったようです。本隊が囮になっている隙にロボス大将直下のミサイル艇3000隻が要塞本体への奇襲攻撃を実行しました。」

「ここまでは見事な流れだったな。成功するのではと思わせる部分があったのは確かだ。」

チュン参謀長が資料と映像を見ながら発言した。

「はい、ここまでは見事な作戦でした。しかしそのミサイル艇を側面から攻撃する部隊があったのです。ミューゼル少将です。理由は分かりませんが後方で待機していたようです。ミサイル艇をほぼ殲滅したミューゼル少将は交戦中の本隊を側面から襲いかかりました。それによって順番に崩れました。帝国軍本隊の追撃も受けて、今回の戦闘では1万隻程の損害を受けました。」

「大損害だな。予備部隊をミサイル艇にしたから手持ちの手が空いてる部隊が居なくて、ミューゼル少将の艦隊に対応出来なかったということか。」

チュン参謀長の発言に賛意を示す。

「参謀長の言う通りだな。予備がなかったのが敗因だろう。基本的な着眼点は間違いとは言えない。どうしても本隊の戦闘に人は注目し、周りが見えなくなる。そこを遠回りに別動隊で攻撃は狙いとしては良いが。」

ワイドボーンも頷きながら話に入ってきた。

「ミサイル艇が攻撃された時に本隊が後退したら被害はミサイル艇だけだったのですが。」

「あの部隊を見捨てるというのか?」

味方を見捨てる発言をしたワイドボーンにラップが噛みついた。雰囲気が悪くなるのはごめんだ。

「ラップ少佐、気持ちは分かるが助ける手立てがあの状況下では無いのだ。ワイドボーン大佐の後退からの撤退は最善策といえる。ミサイル部隊は捨て殺しだ。」

ラップ少佐も分かっているのだろう。黙って一礼した。

「それからシェーンコップ大佐が亡命した先々代の連隊長であったリューネブルク少将を挑発する無線通信を流す事を繰り返し、誘き出すことに成功し、一騎討ちを行って勝利したそうです。」

「そうか…吉報といっていいのだろうな。それでシトレ本部長はどうこの戦いを処理するつもりなのかな?」

3人が顔を見合わせた。

「ご存知ないのですか?国防委員長はシトレ本部長が行なった第5次よりも要塞に被害を与えたのでロボス大将を昇進させる意向だそうです。ミサイル部隊を指揮したムーア少将も中将に返り咲き正規艦隊司令官に戻るようです。それから…」

「まだ有るのか?頭が痛いのだが。」

手をこめかみにやった。頭がいたくなってきた。

「はい、今回の作戦を立案したホーランド少将が中将に昇進します。それと前哨戦で同盟に被害を与えていたミューゼル少将の艦隊に被害を与え、様々な作戦を立案し、いくつかの作戦立案が功績として評価され、ヤンが准将に昇進します。」

「そうか…目出度いな。」

今回の戦い同盟と帝国はほぼ同数であったが帝国は5000隻を越える損害、同盟は1万5000隻を越える損害を受けた。

無駄に被害を受けて要塞に傷をつけただけで昇進する事に苛立ちと歯痒さと怒りが渦巻いている。

戦果を挙げたことにしたい政府と主戦派軍部に形容し難い感情がある。この気持ちを持ち続けることへの言い知れぬ気持ち悪さが同盟の上層部への不信感なのか同盟自体への不信感なのか分からなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。