銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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まさかと不本意

宇宙暦794年 エル・ファシル 補給基地

 

後1ヶ月で今年も終わる。来年に帝国は皇帝フリードリヒ4世の在位30周年記念に花を添えるためというだけの理由での出征が予定されているらしい。

フェザーンの自治領主からの報せだそうだ。フェザーンに有る自由惑星同盟の弁務官事務所はどうなっているんだ?情報が一切上がってこないじゃないか。

イライラが募る。我慢だ。落ち着け、深呼吸だ。

私の様子に不安か何かを感じたのかチュン参謀長が話し掛けてきた。

「如何なさいましたか?帝国の出征の諸々の情報が届いたと推察できますが?」

「ああ、皇帝の在位30年を祝う出征らしい。私は春頃と思っていたが外れたな。」

「在位を祝う出征ですか?」

肩を竦めながら答えた。

「帝国では、そういったこともあるらしいな。同盟も選挙間近や支持率が下がったら戦争をするから五十歩百歩だろう。」

私の言葉に何とも言えない顔をしている。

「まあ、それはそうですが。」

「それよりも私は来年早々の出征式典に出なければならない。来週にはここを出る。」

「出征の準備は此方でしておきます。ワイドボーン中佐は手伝いに残してもらいますが。」

「私は旗艦と他数隻を率いてハイネセンに向かうよ。」

「代わりの艦隊は誰か連絡は?」

「いや、まだ無い。出征の頃には分かるだろう。とりあえず準備は頼むよ。」

「承知しました。」

敬礼、答礼をして話し合いは終った。

 

 

自宅で夕食を取り終え、ジェシカとコーヒーを飲みながら話をする。何時もの習慣だ。

「来年早々に出征が決まった。私が総司令官らしい。帝国の皇帝在位30年記念の出征に対して迎撃する。」

「そんなことで出征があるの?」

ジェシカが驚きの声を出し、驚きの表情をする。

「同盟も選挙間近や支持率が下がったら戦争するから五十歩百歩だろう?」

朝にチュン参謀長に話した事を話す。話ながら笑ってしまった。当たり前の疑問を流さない周りに落ち着いている自分がいる。

「それはそうだけど、嫌な習慣ね。」

「ああ、互いにな。」

「気を付けてね。」

「ああ、分かっている。怪我は思いの外に痛いのが分かった。何度もなるのはゴメンだ。」

苦笑しながら言うと安心したのか微かに笑ってくれた。

「あのね、少し考えていることがあって…ユーリに相談があって……」

「何だい?ジェシカがいい淀むなんて珍しい。」

チラリと私の顔を見ては視線を落とし、カップのコーヒーを見るを繰り返している。余程の悩みなのだろう。心当たりがなくて嫌な予感がした。

意を決したのか強い視線を私に向けてきた。

「周りからエル・ファシルで議員にならないかと薦められているの。」

余りの答えにコーヒーが気管に入り、噎せてしまった。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。すまない、予想外の内容でコーヒーが気管に入った。」

「いえ、私も急に変な事を言い出してごめんなさい。」

「いや、変じゃないだろう。色々と考えて口に出したのだろう?」

「ええ、元々エル・ファシルは反戦、非戦が強い土地なの。最前線に一番近いし、何なら最近1度戦場にもなったから。」

「ヤンのエル・ファシルの奇跡だな。」

「ええ、あそこで民間人は無血で脱出出来たから主戦論は盛り上がらなかった。ロボス司令長官が奪還作戦を直ぐに行ったことも影響してるわね。」

「なるほど。」

「それにエル・ファシルは中央に不満を持っているの。」

「それは穏やかではない話だな。」

「中央に不満を持つのは辺境、地方の常でしょう?」

ジェシカの言い分に苦笑していた。確かにそうだな。

「それでジェシカ、お前が候補に選ばれた、推薦された理由は?お前が反戦、非戦、講和など戦争をしないといった意見を持っているのは知っていた。戦争の拡大に反対なのは。」

「色々と理由があるのよ。私が女性で若くて容姿端麗で有ること、夫の貴方が戦争に積極的でないこと、軍のNo.3の副司令長官で有ること、エル・ファシルの住民の救援に一早く駆けつけてくれた艦隊司令官であったこと、私とエル・ファシルの英雄であるヤンが友人関係で仲が良いこと、貴方とヤンが教官と教え子の関係でヤンが貴方を慕っていること、貴方の艦隊乗組員150万人がエル・ファシル住民としてカウントされることを考えてね。」

余りの理由の多さに苦笑していた。確かに現役の軍人である私やヤンが立候補する事は出来ない、軍事面を考えて退役するのは危険だろう。

それならばエル・ファシルに住んでいる私の配偶者であり、ヤンの友人のジェシカに白羽の矢が立つのは当然であり、自然か。

「中央にも地方の一議員よりも様々な影響力があると思われているみたい。それが有るのか無いのかは分からないけど普通の人よりは良いだろうって。」

議員になった時の自身の影響力は疑問視しているのか。意外に客観的に自身を見れているようだ。

「そこまで考えているなら構わないよ。そもそも君の人生だ。好きにしたらいい。勝算も十分に有るみたいだしね。」

最後の方は笑ってしまった。自身の影響力も計算に組み込まれている事に対してだ。

「そう、分かったわ。来年春の選挙に立候補させて貰うから応援宜しくね。」

苦笑しながら頷いた。私が好きになった女性は強かな女傑であったようだ。

 

 

宇宙暦795年 ハイネセン 統合作戦本部

 

年が改まってハイネセンに戻ってきた。本部長に正式な編成を聞く為に本部長室に向かっている。

前方に一人の男が立っている。その人物が分かり、少し横を向いて小さく溜め息を吐いた。

目の前に私が立っても横に退く気配がない。

「ホーランド中将、通行の邪魔だ。何か用があるのならさっさと済ませてくれないか?」

私の言葉に怒ったのか肩を震わせて顔を強張らせている。

「失礼しました。今回の副司令長官の出征に同行させて頂く事になりましたのでご挨拶をと。」

「何?私の一存という話だった筈だが?」

ホーランド中将が含み笑いをしている。

「国防委員会、司令長官、統合作戦本部長の話し合いで決まったそうですよ。閣下を総司令官に私とウランフ中将が付き従う事に。後詰めでビュコック中将とムーア中将がエル・ファシルで待機するそうです。」

マスコミが持ち上げている言葉を使って激励する事にしよう。

「そうか。ではブルース・アッシュビーの再来に期待しよう。死に様を真似するようなことが無いように頼むよ。」

そう言って肩を叩いて通り過ぎた。後ろで怒りで撃ち震えているのが容易に想像が付く。

私の総司令官としての初の出征は前途多難になりそうだ。溜め息しか出てこない。




ジェシカの議員は後々の布石もあるので少し考えて政治家にさせることにしました。
色々とツッコミたい事も有ると思いますが寛容に見てもらえたらありがたいです。

意外と二次創作が作ってみると難しくて四苦八苦しながら頑張ってます。
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