銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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束の間の一時

宇宙暦795年 ハイネセン ローゼンリッター兵舎

 

先の戦いから帰還後に賞罰の会議を行った。主に私の言い分が認められた。早く幕引きをしたい希望が国防委員長、司令長官にあったのだろう。

エル・ファシルに帰還する前にトレーニング目的で訪れた。ストレス発散が本当の目的である。

「貴方、無理はしないでね。」

ジェシカが心配そうに声をかけてくる。

「あまり心配するな。ただの訓練だ。」

そんなこんな言っていると訓練場に着いた。

「ようこそ、副司令長官。」

シェーンコップ以下、ローゼンリッターが勢揃いで出迎えてくれた。

「シェーンコップ、世話になる。早速だが着替えて始めよう。」

「はっ。リンツ、ブルームハルト、案内してやってくれ。私はご婦人を案内しよう。」

着替えて格闘戦を行う。徒手格闘戦、ナイフ戦、剣戦と行う。

「くっ、ふっ、しっ。」

「はっはっはっ、やりますな。相も変わらず見事な腕前ですな。」

「貴様の腕も落ちてないようでっ!」

剣同士で打ち合う。焦ったのか熱くなったのか大振りになった一閃を躱して首筋に剣を当てる。

ギリギリ薄氷の勝利を得た。

「ハッハッハッハッ。フゥーー。」

息が荒くなっている。大きく呼吸をして息を整える。横目で見るとシェーンコップは息を乱していない。

「いや、負けました。これで負け越しですかな。」

「手加減してくれているからな。誇るに誇れんよ。」

ベンチに座っているジェシカの元に向かいながら話をする。

「どうぞ、タオルと飲み物よ。」

「ありがとう。助かるよ。」

貰ったタオルを頭に被り、ボトルの水を呷る。

「ふぅ、生き返るようだ。」

「貴方って強いのね。」

ジェシカの率直な感想に私は苦笑し、周りで見学していた、ローゼンリッターの隊員は爆笑した。

「閣下は士官学校在学中に同盟軍陸戦大会で優勝していますよ。我々現役専門家の大会でね。」

「あの時は騒ぎになったな。」

「ああ、学生に次々と優勝候補が負けるんだから。」

「貴方って何でも出来るのね。」

ジェシカの感想に肩を竦めて答えた。

「それなり以上に努力してるのだがな。何故か皆はそれを見ずに高く評価する。大変迷惑しているよ。」

私の困った顔と返答に薔薇の騎士連隊は笑いに包まれた。

 

 

宇宙暦795年 ハイネセン ヤン・ウェンリー宅

 

 

ヤン

 

同期であるラップ少佐、ワイドボーン大佐が家に来た。

ラップとは同期でも仲が良かったがワイドボーンは例のシミュレーターでの一件でギクシャクしていたがラップが間に入ってくれたことで普通の友人付き合いが出来るようになった。

しかし私の性格、ワイドボーンの性格はあまり相性が良くなく2人で食事に行く等は皆無だが…

「すまないな、ヤン。食事に酒まで用意して貰って。」

ラップのすまなそうな声に続いてワイドボーンも感謝の言葉を言ってきた。

「ああ、助かるよ。独り身で本拠地はエル・ファシルだ。食事をするのは基本的に外食になる。こうやって家庭料理を食べる機会がなくってな。ユリアン君、ありがとう。」

「い、いえ。こんなので良ければいつでもハイネセンに来た時に寄ってください。」

ワイドボーンの言葉にユリアンも恐縮しっぱなしだ。

「先のティアマト会戦はどうだったんだい?ホーランド提督がエネルギー切れを起こし、ミューゼル中将に手痛い一撃を喰らったと云うのは知っているが。」

私の言葉にラップとワイドボーンは顔を見合わせた。顔が少し強張ったように見える。

「ヤンの言う通りだ。ホーランド中将が突撃し、ミュッケンベルガー、グライフス艦隊を混乱させた。ここまでは良かったのだが、一定の戦果も挙げたのだから補給に戻れと伝えても戻らなかったんだ。」

ユリアン君も驚いた表情をしている。

「それって不味くないですか?戦いの最中にエネルギー切れを起したりしたら。」

「ああ、大変不味い事態になる。」

「その、ホーランド提督は気付かなかったのですか?」

「敵を2個艦隊掻き乱し、混乱していた。自分の作戦は上手く行っていると思ったのだろうな。エネルギーを多大に消費し、エンジンに必要以上の負担を掛ける。そんな艦隊運動だったよ。」

「ああ、戦争中だからかな。皆が予定以上にエンジンを吹かしていたのだろう。それによって消耗も早まったはずだ。」

ラップ、ワイドボーンの話しに溜め息を漏らしてしまった。

「恐らくは戦闘が正常な判断力を奪っていったんだ。勝っている、敵を乱している、自分の作戦通りに進んでいると。」

「ヤンの言う通りだ。冷静になれば分かる事だ。ホーランド提督も分かったはずだ。それが出来なかった。不幸な一戦だったよ。」

ラップ…ワイドボーンも何とも言えない表情をしている。

ラップが大きく息を吐いた。

「そして…閣下の凄味と恐ろしさを嫌と云う程に感じた戦いだったよ。」

ワイドボーンも頷いている。

「何があったんだい?」

私の問いにラップとワイドボーンは顔を見合わせた。そして1つ頷くとラップが話し始めた。

「閣下が抗命罪、軍法会議を持ち出してホーランド提督の後退を求めた。最後通告だな。」

「それをホーランド中将は拒否をした。そして閣下はホーランド艦隊と混戦状態になっているミュッケンベルガー、グライフス両艦隊にウランフ提督との一斉射を行なおうとなされた。味方をも巻き込んで。」

ラップもワイドボーンも険しい表情だ。私も似たような表情をしているだろう。

ユリアンの唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

「問題になるのでは?その味方殺しになりますよね?」

ユリアンの質問に3人で顔を見合わせた。保護者として私が答えるべきか。

「ユリアン、確かに味方だ。しかし総司令官である閣下が抗命罪、軍法会議を出してまで従わなかったんだ。軍の命令系統から逸脱したと判断しても問題はない。」

「でも、その、だからと言って……」

「ああ、問題は味方の艦隊を配下の艦隊が撃てるかどうかだ。他の副司令官、分艦隊司令官が命令に従って同盟艦隊を攻撃出来るかだ。」

「それに関してはクブルスリー副司令官以下全員が命令に従うと戦場では通信があった。恐らくは問題なく遂行されたと思う。」

「閣下に対して様々な感情を抱いたよ。恐さ、強さ、冷徹さ、怜悧さ、慎重さ、他にも色々な、ね。」

「ああ。」

ここにいる4人が暫くの沈黙に覆われた。ユーリ・クーロと云う傑物をどう言っていいのか分からなかった。

ただ味方であったことが幸いといえると云うことだけは確かであった。

 

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