宇宙暦795年 ハイネセン 自宅
「乾杯!」
「「「「「「乾杯!!」」」」」」
ジェシカが議員として当選証書を貰い、議会に出席したことを祝おうと知り合いを集めてパーティーをすることにした。艦隊司令部の面々にアレックス家族、シェーンコップ、ヤンとユリアン、アッテンボローが来てくれた。
「おめでとう、ジェシカ。」
「おめでとうございます、ジェシカさん。」
皆が祝いの言葉をかける。嬉しそうにありがとうと言いながら乾杯をする。和やかな雰囲気で会が始まった。
「さぁ、皆さん。今日は私の祝いに主人が料理を全て作ってくださったの。どれも絶品だから食べてくださいね。」
「「「「「おお~~~~~」」」」」
という声と共にテーブルに饗された食事を見ている。
トマトソースとデミグラスソースのジャガイモとニンジン入りの煮込みハンバーグ、イサキのアクアパッツァ、マルゲリータピザ、海藻サラダ、カリカリベーコンとクルトンのシーザーサラダ、クラッカーの上にチーズやトマト、生ハム等を盛り付けたオードブルが並んでいる。
皆が思い思いに好きなものを皿に盛って食べている。
男連中は煮込みハンバーグとワインを楽しんでいる。女性陣は、といってもマダムキャゼルヌと娘しかいないのだがジェシカと話ながら子供が食べるのを楽しそうに見ている。
「それにしてもクーロさんがここまで料理上手なんて知らなかったわ。」
オルタンスさんの言葉に笑いながらジェシカが答えている。
「彼、何でも出来るみたいよ。料理、洗濯、掃除、意外にマメにする性格みたい。」
「旨い。流石ですな。」
「ああ、見事なものだ。」
口々に褒めてくるので気恥ずかしくなった。
「褒めるのはいいから沢山喰え。どれも代わりはあるからな。」
照れ隠しがバレたようだ。笑っている。不届きな輩が多いことだ。
「ジェシカ、改めてになるがおめでとう。」
私からの祝福に嬉しそうに笑ってくれる。
「ありがとう、あなた。平和を求めていきたいの、あまりに多くの人が多くのものを失っているから。これについてはずっと訴え続けていきたいの。」
「そうか、応援しているよ。」
そう声をかけてその場を離れた。テラスのテーブルに料理をよそった皿とワインボトルとグラスを置いて、椅子に座った。
その動きを目敏く見ていたのだろう。アレックスとシェーンコップがやって来た。後ろにチュン参謀長もいる。
4人で椅子に座った。
「何の用だ?何かあるから来たのだろう?」
アレックスとシェーンコップに問い掛けると2人は顔を見合わせて笑い合っている。
「流石の慧眼。恐れ入りました。」
「ユーリ閣下は帝国と和平、或いは講和等が出来ると本当にお思いで?」
アレックスの鋭い質問についつい苦笑した。
「ほぼ100%の確率で無理だ。どう考えても無理筋な話だよ。」
「それはどういった理由ででしょうか?」
「様々な理由があるが先ずは帝国が対等な立場での和平、講和が成立することはないでしょう。」
3人を見渡すとピンときていないようだ。
「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる銀河帝国皇帝。つまりは帝国と同盟は対等な国家ではないということです。帝国軍も叛乱軍と我々を呼んでいますしね。」
最後の言葉は肩を竦ませながら言うと苦笑はしてくれた。
「先ずは帝国に自由惑星同盟と云う国家を認めさせなければならない訳です。しかし神聖不可侵と称している皇帝がそれを認めるのか、甚だ疑問ですね。自分の皇帝位、命も危うくなる選択になるでしょう。」
3人が難しい顔をしている。
「同盟軍が帝国軍に甚大な被害を与えたとしても恐らくは帝国軍が守勢を取る休戦状態に持ち込もうとするはずです。同盟はここぞとばかりに攻めるから休戦状態にはならないでしょうけど。」
アレックスが疑問を呈してきた。
「ではどうやっても和平、講和は無理ということですか?」
冷笑を浮かべてしまった自覚を持ちながら話す事になった。
「そもそもが和平、講和交渉をどうやって行うのです?そういった組織や人が互いの国に居ないのにどうやって進展させるのです?」
私の問いにハッと気づいた後に考え込んでいる。チュン参謀長が問い掛けてきた。
「フェザーンを仲介にするのはどうでしょうか?数は少ないですが捕虜交換を仲介して貰った実績もありますし。」
チュン参謀長の答えに首を横に振ることで答えた。
「それは止めた方がいいでしょう。国の安全保障に関わる問題です。只の仲介、立ち会うだけなら未だしもこの問題に関してはフェザーンを関わらせるべきではないと私は考えています。」
私の発言に3人全員が驚いた顔を見せた。
「それは何故です?貴方の事だ。中々に深遠な意味を持っているのでしょう?」
シェーンコップが挑発的か面白がっているのかよく分からん顔で問い掛けてきた。
「フェザーンが間に入るチャンスは今まで沢山あったのに捕虜交換以外になにもしなかった。それどころか戦争を助長する動きもあったでしょう。そんなフェザーンを国家として信頼できない。」
「帝国から自治を認められた自治領のフェザーンが平等公平中立の立場でいられるのか。そもそもがフェザーンの自治領主が帝国と我々を戦わせる様に導いているのではと疑いも持たざるを得ない。」
「フェザーンは何を考えているのでしょうか?」
「さぁな、状況が煮詰まってきたら見えてくるものがあるのかもしれないが、そうなった時に我々が生きているか、状況を好転させれる立場にいるか、そもそもそんな力が同盟に残っているのか分からんからな。どうなることやら。」
「では閣下は和平、講和は無理だと?」
アレックスが問い掛けてきた。
「現実的には帝国に大きな損害を与えて、此方からも攻めない自然休戦状態が良いところだろう。3年から5年の間を繰り返すかな。」
「それでは永遠に戦いが終わりませんな。」
「だからこそ其処に一石を投じてくれるかもしれないジェシカに期待をしているんだ。何か起こしてくれるのではないかとね。」
「ベタ惚れですな。」
そう言って爆笑するシェーンコップに一睨み入れてから私も笑ってしまった。
他の2人も笑っている。楽しい一時として過ごせることが出来たと思うことにしよう。
宇宙暦795年 バーラト宙域 戦艦アトラス
今日、多くの試験項目をクリアした最新鋭旗艦級戦艦アトラスを受領する運びとなった。
艦長と受領の手続きを艦橋でする事になっている。
私を先頭に第1艦隊司令部の面々が艦橋に入ると一斉に敬礼をしてきた。司令官席の傍で待っているのが艦長だろう。答礼をしながら近付き、傍で解くと艦長も手を下ろした。
手に持った通信端末を開きながら説明を始めた。
「この度、アトラスの艦長を拝命致しました。ラルフ・カールセン大佐です。」
「宇宙艦隊副司令長官兼第1艦隊司令官ユーリ・クーロ大将です。カールセン艦長、よろしく。」
「ハッ、同盟随一の名将と誉れ高いクーロ司令官の座乗艦の艦長を勤めるとなると高揚するものがあります。」
「そうか。では艦長、早速だが報告を受けよう。よろしく頼む。」
「ハッ。此方の端末をご覧ください。順に説明をさせていただきます。」
項目が沢山並んでいるが一番上の項目から開いて確認していく。各項目の重要な部分は口頭でも説明するのが規則なので順々に説明をしてくれるみたいだ。
「先ずはエンジン出力ですが30%上昇しています。同盟軍では最速の艦となっております。」
「次に装甲、防御機能ですが20%上昇しております。
側面の回頭用エンジンは隠蔽式になっており、側面の防御力も幾ばくか向上しております。」
「武装は3連主砲を中央に三門、左右両翼に二門ずつ、単装砲レールガンが側面に一門ずつの計2門、後部ミサイルが
24門、鉄鋼砲が2門となっております。」
「それと此方の艦は大気圏突入、離脱、航行も出来ます。帝国の鹵獲した旗艦級からのフィードバックも受けておりますので。」
「そうか。ついでの機能として覚えておく。」
単艦で大気圏に入ってどうする!良い的になるだけじゃないか!どう評価したらいいのか分からん。
次々と項目の説明を終えていく。
「当艦は既存の旗艦級戦艦と比べまして性能面で劣るところは無いと言えます。」
「性能面で…か、他で何か問題があるのかな?」
大体の答えが分かるが聞かないわけにもいくまい。
「建造費が既存の旗艦級戦艦に比べて倍はするそうです。」
やはりそうか。
「この艦に切り替えるか既存の旗艦を使い続けるかはアトラスの働きを見て決めるそうです。」
「旗艦に働きをと言われてもな。旗艦が戦闘能力を十全に発揮する状況と云うのが問題だろう。」
私の言葉に確かにそうだと云う声が上がった。
「そもそもそれでは最新鋭旗艦級戦艦ではなく、最新鋭技術を搭載した実験艦ではないか。」
私の愚痴をカールセン大佐も苦笑しながら返してくれる。
「そう言われるのはごもっともですが閣下が結果を残してくれれば量産されるのは事実ですから。」
「分かった、分かった。性能面で優れているのが事実なら文句はない。有り難く使わせて貰おう。」
「それがよろしいかと。」
会話が一段落したので気になっていたことを聞いてみた。
「私が今まで使っていた艦はどうなる?誰が後任か知っているか?」
ハイネセンの事情をよく知っているのか疑問をスラスラと答えてくれる。
「同盟きっての武勲艦ですから該当者が出るまではハイネセンで保管することになる予定と聞いています。一世代前の旗艦級戦艦ですので正規艦隊司令官の乗艦には出来ませんし、誰も立候補しないでしょう。分艦隊司令官も撃沈されれば中々に事ですからな。乗りたがらないでしょう。」
「そうか。長い間相棒を務めてくれた愛着のある艦だ。撃沈される姿を見ないですむのは有難いし、知らされるのも辛いからな。」
ウンウンと頷いていたカールセン大佐が最後の報告をしてくれた。
「閣下のご要望の司令部が座る机と椅子の配置はご希望通りに変更しております。」
アトラスを受領するにあたって1つ要望を出した。司令官が座る席の後方に司令部要員の椅子と机が用意されていたが一々後方に椅子を回すのが面倒で前方にして司令官の対面に艦長の席を置いた。艦長や操舵や通信、火器管制が前方で参謀長、参謀が後方なんて効率が悪すぎるだろう。受取りの手続きを終えたので最初の命令を下す。
「では、これよりエル・ファシルへと帰還する。各員所定の位置につけ。参謀長、周りに待機中の艦隊にも伝えろ。」
私の命令を受けて、全員が各々の持ち場に移動する。
各セクションから準備完了の報告を受けたカールセン艦長が私に声をかける。チュン参謀長も周りの艦隊からの報告を伝えてくれる。
「閣下、発進準備整いました。」
「閣下、艦隊の発進準備整いました。」
周りに視線を向けると命令を待つ体制が整っていた。1つ頷いてから命令を出した。
「全艦隊発進!第二戦闘速度!」
「全艦発進、第二戦闘速度を維持せよ。」
アトラスの最初の船出がこうして始まった。これからどの旗艦よりも歴戦を重ねることになるとは、この時の乗組員は誰も、クーロ自身も思ってはいなかった。