銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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第4次ティアマト会戦

宇宙暦795年 エル・ファシル 補給基地

 

チェン参謀長

 

クーロ司令官の部屋の電気が付いている。まだ仕事をしているのだろうか?部屋に入ると机で端末を弄っていた。チラリと私に視線を向けて、直ぐに作業に戻られた。

「まだ帰られないのですか?」

私が問いかけると笑いながら答えてくれた。

「妻が議会で遅くなるそうで仕事をしていたんです。戦術パターンの作成をね。参謀長は何故ここに?まだ帰っていなかったのですね?」

「私は副司令官、分艦隊司令官と艦隊行動の打ち合わせをしていました。閣下の戦術に迅速に対応できるように。」

閣下が苦笑していらっしゃる。御自分の戦術が残業を強いていることに申し訳なさを感じているのだろう。

「気にしないでください。我々は閣下の下で働けて嬉しいのです。同盟屈指の名将を支えていると。」

これは皆の本心だ。閣下の役にたつことに喜びを感じている。

「閣下、ロボス元帥が長年の悲願であるイゼルローン要塞攻略を目指す同盟軍は要塞に7度目の攻勢をかけるべく出兵計画を立案しているようです。」

宇宙艦隊司令部、統合作戦本部のクーロ副司令長官シンパの将官からの情報を伝える。私の報告に苦笑している。恐らくは呆れているのだろう。

「相も変わらず懲りない人だ。幾度失敗してもめげない精神はここまでいくと尊敬する。それに付き合わされる兵には同情を禁じ得ないが。」

「第2、第10、第12を動員するそうです。」

「ボロディン提督、ウランフ提督の両名を連れていくか。心底勝ちたいようだ。」

閣下が冷笑を浮かべている。今まで勝つための努力をしていなかった事への不平、不満があるのだろう。

「そろそろ私も帰るとしますか。参謀長も帰るところだったのでしょう?」

「そうしましょう。明日もあります。」

我々は我々の仕事を果たすことが大事と云うことか。

 

 

「第2艦隊が先行してイゼルローン回廊同盟側出口の一つであるティアマト星系を進軍していた所に、木星型惑星レグニツァの大気圏内を航行中、帝国軍と遭遇戦となったそうです。」

今朝、統合作戦本部から送られてきた戦闘詳報だ。ここには第2艦隊と閣下が最大限に警戒しているミューゼル提督との記録がある。

閣下もデータを見ながら私の報告を聞いている。

「惑星レグニツァの大気圏はレーダーがほとんど効かず、両軍共に目視で探査、航行しており、双方全く予期しない嵐の中の遭遇戦という形で砲撃戦が開始されたそうです。」

「当初はパエッタ中将率いる第2艦隊が優勢に進めておりましたがミューゼル提督が惑星レグニツァの大気に核融合ミサイルを撃ち込み、水素とヘリウムからなる大気を爆発させ、巨大なガスの奔流を第2艦隊に向けて叩きつけるという奇策を用い、戦局を一瞬で逆転させたと。」

「此方が使うべき戦術を彼方が使うか。頼りになる味方だな。頼もしい限りだ。」

笑いながら1人愚痴る閣下に得もしれぬ感情を抱いた。

「形勢不利を悟ったパエッタ提督は自軍を撤退させ、帝国も逆襲を被る危険を避けるため撤退したようです。帝国も逆襲を被る危険を避けるため撤退した為に、両軍にとって消化不良な一戦であり、両軍の被害は互いに自然環境が不利に働かなければ自軍が勝っていたと主張しうる程度のものであったようです。」

「そうか。互いに痛み分けで終わったか。まぁ、本番はもう少し先だ。此方に幸運の女神が微笑むことを祈るとしよう。」

閣下の感情が一切籠っていない言葉に言い知れぬ不安を感じた。

 

「こ、これは………!?」

なんだこれは。敵の左翼部隊が同盟軍と帝国軍の間を横断している。常識外の大胆な運動で敵味方の不意をついたのか、同盟の3個艦隊は攻撃をせずに通過を見ているだけだ。

「閣下!!これは。」

頬杖を付きながら険しい表情で戦闘モニターを見ている。

「恐らくは思考の硬直、停止だろう。私の時にしてくれたならば完勝出来たのに運がないな。それともミューゼル提督に天運があるのか、どちらかな?」

ミューゼル艦隊は同盟の左翼側面を窺う位置に着いた。一方、我に返った両軍の主力は衝突せんばかりの距離に接近しており、そのまま芸のない正面からの乱戦にもつれこんでいる。

ミューゼル艦隊の側面攻撃に対応しながらになった為に同盟軍の劣勢になるも同盟も迂回攻撃を画策し、帝国軍本体は狼狽し、優勢に転じるもその別動隊がミューゼル艦隊からの別動隊に壊滅させられた。

ウランフ提督が帝国軍本体に撃って出るもミューゼル艦隊が後方から追撃し、帝国軍本隊を救援し、巧みな指揮で同盟軍は翻弄され大損害を被った。

相次ぐ大損害を受けた同盟軍はついに撤退したが、帝国軍本隊もまた同盟軍に勝るとも劣らぬ損害を被り、同盟領への進撃を断念して撤退した。結局この戦いもまたなんらの戦略的意義もなく、ミューゼル提督の名声を上げるに終わった。

同盟軍も帝国軍も2万隻に近い損害を出し、何の益もない消耗戦と相成った。

その内、ミューゼル艦隊の損害は3000隻にも満たなかったそうだ。

 

この戦功により、ミューゼル提督は上級大将に昇進し、さらに断絶していたローエングラム伯爵家の名跡を継いで、名ばかりの貧乏貴族から本当の貴族へと立身出世した。

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