銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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ここらへんはアニメ通りです。



アスターテ会戦 ヤンside

宇宙暦796年 アスターテ宙域 旗艦パトロクロス

 

部屋で休んでいると通信が入った。通信元は艦橋のようだ。提督が呼んでいるらしい。

艦橋に入るとパエッタ総司令官が座りながら端末を視ている。敬礼をしながら挨拶をする。

「ヤン・ウェンリー、命令により参りました。」

「君の提出した作戦案を見た。中々興味深い案だった。しかし慎重に過ぎて、些か消極的ではないかな?」

「そうでしょうか?」

「確かに負けがたい作戦案ではある。しかし負けないだけでは意味がない。勝たなくてはな。」

パエッタ提督の言う事は分かるが……

「我が軍は敵を三方から包囲している。しかも敵の2倍の兵力でだ。更に後方には副司令長官の艦隊が後詰めとして控えている。これだけの要件を備えて、何故今更負けない算段をせねばならんのだ?」

「ですが、まだ包囲網が完成したわけではありません。」

私の慎重さ、消極的案に呆れているみたいだ。

「兎に角、この作戦案を却下する。言っておくが君や副司令長官に含むところがあるわけではないぞ。」

そう言いながら私が提出した作戦案が入った端末を返してきた。これ以上はこの場で言っても仕方ないだろう。

「承知しました。」

提督の御前から下がり、自室に戻ろう。エレベーターのボタンを押すと後ろから声が掛かった。

「准将閣下。」

後ろを振り向くと1人の男が階段を降りて来ている。

「え~っと…きみは?」

「幕僚のラオです。エル・ファシルの英雄と同じチームになれて光栄です。」

恐らく変な顔をしているだろう。未だに英雄扱いに慣れずにいる。

「止めてくれ、英雄なんて。ところで私に何か?」

こういう時は話を進めるに限る。

「そのお顔から推察するにパエッタ中将はヤン准将の策を受け入れなかったようですが。」

「当たりだ。私はそんなに不景気な顔をしていたかね。」

私の質問にラオ少佐は肩を竦めた。

エレベーターが丁度来たので共に乗ることにした。

「閣下は今の状況をどうお考えなのかお聞かせ願えませんか?」

壁にもたれ掛かりながらラオ少佐の質問を聞いている。

「我々は如何にも有利だが。私が敵ならこの機を必ずしも危機とは見ない。」

着いたので下りたら後ろからラオ少佐が声を掛けてきた。まだ話すことがあるらしい。

「准将。」

「ん?」

振り向きながら返事をすると少し嬉しそうにしている。

「私は悪運が強いんです。艦隊が全滅しながら生還した3人の1人だったこともあります。」

あまりの悪運に肩を竦めてしまった。

「そいつはあやかりたいものだな。」

「そんな私からすると、今回の任務も楽観してるんです。どうかお気を落とさずに。」

「あ、あぁ。」

敬礼をしながら言われた内容を考えた。

全滅しながら生還した3人って、それ私は戦死してるんじゃないのか?

 

 

『哨戒挺371より旗艦パトロクロスへ。帝国軍艦挺想定宙域に発見出来ず。繰り返す…』

旗艦パトロクロスに想定宙域へ派遣した哨戒挺から通信が入った。やっぱりか。これは不味いかもしれない。

「帝国軍艦艇、想定宙域に発見出来ず。」

「何だと!そんな非常識な。有り得んことだ。第4艦隊の指揮官に緊急通信!」

「応答なし。電波干渉、敵通信妨害の模様。」

前方でパエッタ中将が慌てている。

隣のラオ少佐がその様子を見ながら話しかけてきた。

「仰る通りになりましたね。」

「嬉しくはないがね。」

生きるために最善を尽くすとしよう。

此方の包囲網が完成されていない以上、各個撃破は極めて妥当な戦法だ。ダゴン殲滅戦の轍は踏まないと謂うことか。とりあえず想定し、考えておいた戦術プランを登録し終わった。一先ずは生きていれば命綱になる可能性になる。

「ヤン准将。」

「はい。」

さっき迄、慌てていたパエッタ中将が私を呼んだ。今更何の用だろう?

「貴官はこの事態をどう見る?意見を言ってみたまえ。」

意見と言われても先に伝えた通りなのだが。左手で頭の上に乗せた帽子を取り、右手で頭を掻いた。

「敵が各個撃破に出てきたというでしょう。先ず、最も少数の第4艦隊を標的にするのは当然の策です。彼らは分散した同盟軍の中から当面の敵を選択する権利を行使したわけです。」

「第4艦隊は持ちこたえることが出来るだろうか?」

「数に於いて相手を上回り、しかも機先を制した側が有利になります。」

「兎に角戦場に急行し、第4艦隊を救援せねばならん。上手く行けば帝国軍の側背を突くことも可能だろう。そうすれば一挙に戦局は有利になる。」

希望的観測があまりに過ぎる。

「恐らく無理でしょう。」

「どういう意味だ。」

私の言葉が気に触ったのだろう。険しい顔をしている。

「我々が到着した時、戦闘は既に終わっています。敵は戦場を離脱し、第2、第6の両艦隊、どちらかの側背をに回って攻撃をかけてくるでしょう。我々は先手とられ、しかも現在のところ取られっぱなしです。これ以上敵の思惑に乗る必要はないと考えますが。」

「ではどうしろと言うのだ。」

モニターを操作しながら説明する事にしよう。その方が分かりやすい。

「手順を変えるのです。第4艦隊の救援に向かうのではなく、後方から向かっておられる教官、いえ副司令長官に合流し、第1、第2、第6の3個艦隊で正面から押すのです。此れが最も安全な手段です。または一刻も早く第6艦隊と合流し、その宙域に新しい戦場を設定します。両艦隊を合すれば2万8千隻になり、それ以後は五分以上の勝負がを挑むことが出来るでしょう。」

「すると君は第4艦隊を見殺しにしろと言うのか?」

「今から行ってもどうせ間に合いません。」

「そうとは限らん!第4艦隊とてむざむざ破れはすまい。彼らが持ちこたえていれば。」

「無理だと先刻も申し上げましたが。」

どうやら私の案は不同意らしい。

「ヤン准将。現実は貴官の言うような計算だけでは成立せんのだ。今回の遠征軍を率いているのはローエングラム伯だ。若く、経験も少ない。」

「司令官閣下、経験が少ないと仰いますが彼の戦略構想は…」

「もういい、准将!パストーレ中将は百戦錬磨だ。むざむざやられはせん。」

そう言い捨てて指揮官席に戻っていかれた。

計算だけでは成立せんが希望だけで成立するわけではなかろうに。溜め息が出た。

 

私に通信が入ったとラオ少佐が教えてくれた。

「ラップ。通信封鎖命令が出ているのによく分かったな。」

『副司令長官の艦隊は全速力で後を追っている。いざという時は場所を報せろよ。』

ラオ少佐が知り合いの第6艦隊の参謀に連絡を取っているが先刻、通信妨害で切られた。これは…本格的に不味い状況だ。

 

「閣下、状況はお分かりのはずです。敵の次の目標は間違いなく我々第2艦隊です。」

「ヤン准将、消極的ではない提言はないのかね。」

「私は常に積極的な事しか言っていないつもりです。」

「電波妨害の模様。索敵システムに一部障害。」

「光学探知。接近する艦影有り。画像解析、敵艦の可能性大!」

「全艦に第一種戦闘配備命令。急げっ!」

思ったより早いな。間に合うか。

 

戦闘が始まってすぐに敵の一撃が艦橋に当たった。吹き飛ばされた影響で少し意識が飛んでいたようだ。

「うっ、うぅ…」

パエッタ司令官が側で倒れている。腹に血がある。負傷されたようだ。とりあえず軍医を呼ばなければ。

「パエッタ司令官が負傷された。至急医療室の準備を。誰か!士官で無事なものは!」

周りを見回しながら声を発した。

「私は大丈夫です。」

「ラオ少佐。」

「言ったでしょう。私は悪運が強いって。」

爆発で出た煙を吸ったのか噎せているが元気そうだ。確かに悪運が強いな。

「ヤン准将。君が艦隊の指揮を執れ。」

「私がですか?」

「健在な士官の中でどうやら君が最高位だ。用兵家としての君の手腕を…」

そう告げられてから意識を失われた。一時だけ意識を取り戻されたのだろう。

「内心、高く評価してたんですね。」

「そうかな。」

とりあえずこの苦境を脱しなければ。

 

『私はパエッタ総司令官の次席幕僚ヤン・ウェンリー准将だ。旗艦パトロクロスが被弾し、パエッタ総司令官は重傷を負われた。総司令官の命令により私が艦隊の指揮を引き継ぐ。』

『心配するな。私の命令に従えば助かる。生還したいものは落ち着いて私の指示に従ってほしい。我が部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ。負けはしない。教官…いや副司令長官もそう遠くなく此方に駆け付ける。其の時こそ反撃の時だ。』

本当はどれくらいで来てくれるのか分かないが少しは希望を持てる内容も入れないと。

『新たな指示を伝えるまで各艦は各個撃破に専念せよ。』

 

敵が中央に集まっている。紡錘陣形での中央突破を図るようだ。先の通信で味方を鼓舞しつつ敵への挑発を入れた甲斐があった。出来る男と教官が評した男だからな。しっかり勝ちたいならそうすると思った。

「敵は紡錘陣形に艦隊を再編しています。」

「中央突破を図る気なのだろうな。」

「どう対処なさるのですか?」

「対策は考えてある。」

「しかしどうやって命令を出すんです。敵電子攻撃で此方の通信網は混乱。データリンクも回復してません。一体どうやって?」

「心配ない。全周波帯に圧縮データ通信。各艦の戦術情報システムCodeC-4を開くように伝えてくれ。それだけなら例え通信を傍受したところで敵には判断出来ないだろう?」

私が何時その戦術を送ったか気付いたようだ。中々聡いな。

「無用になってくれれば良かったのだがね。」

 

 

各艦が後退しながら陣形を整え始めた。よし第一段階クリアのようだ。

「先ず上手くいきました。後は味方が思うように動いてくれるかどうかですね。」

「あぁ、一歩誤れば収拾がつかなくなる。」

「その時はどうなさるお積もりですか?」

「頭を掻いて誤魔化すさ。」

そう言って笑いながら頭を掻いた。

 

 

どうやら上手くいったようだ。わざと敵に中央突破をさせて此方は敵の後方にから噛みつく。消耗戦になるが仕方ないだろう。負けるよりは良い。輪のような戦況になっている。互いに敵の尻に噛みつこうとしている。

「こんな陣形、初めて見ます。」

「そうだろうね。私もさ。」

いや、これは初めてじゃない。有志以来どこかの戦場で幾度となく繰り返されてきたことだ。

「もうすぐ敵は引き始めるだろう。教官が来るからな。そのタイミングで引くはずだ。」

「では追撃するのですか?」

「止めとこう。敵の呼吸に合わせて此方も引くんだ。この状況ではここまでが精一杯だよ。」

 

 

「レーダーに反応!これは…第1艦隊です!副司令長官が来ました。助かった!」

艦橋に喜びの声が上がった。

「よし。タイミングを合わせて離脱する。」

離脱し、第1艦隊の横に付けた。通信が入ったようだ。

『ヤン、助けに来てやったぞ。感謝しろよ。』

「感謝します、教官。」

『どうだ?敵の司令官は。』

笑いながら聞いてくる教官に思わず苦笑いが漏れた。

「2個艦隊は破れ、この艦隊も半数近くを失いました。今のところは完敗でしょう。」

『だろうな。ところでどうやら敵はもう一戦したいようだな。若いってのはいいな。ヤル気に満ち溢れている。』

「教官も年寄りと謂う程の年齢ではありませんよ。」

『そうか?中年と言っていい年齢ではあると思うがな。敵から通信が入った。恐らく一戦になるだろう。準備を頼む。』

「ハッ。」

そう言って敬礼をしてから通信が切られた。

「一戦に及ぶと言っておられましたが?」

「教官の洞察は深い。恐らくそうなるだろう。そして私にそう言って来たということは一働きしろということだ。」

まだ戦いは終わらないようだ。

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