銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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候補生との差

宇宙歴783年 テルヌーゼン

 

シトレ校長に少し遅れる事を伝えに校長室に赴いた。ノックをすると入りたまえと声が聞こえたのでドアを開け入った。

「失礼します。クーロ准将です。」

「クーロ准将、どうしたのかね?」

用件を聞かれたので直ぐにウィレム・ホーランド候補生とのシミュレーターでの艦隊戦シミュレーションをする約束をした旨の話をして、30分程時間をずらしてほしいと伝えた。

机の上で手を組み、組んだ手の上に顎を乗せながら答えた。

「その話なら私の耳にも入っている。分かった。1830時に変更しよう。ついでに伝えておくがここから私も君達の対戦を見させてもらうから頑張りたまえ。生徒にあっさり負けるような事がないようにな。」

楽しそうに笑っている。性格が悪いオッサンだなと思った。

「おそらく勝てるでしょう。彼のデータは閲覧しているので得意戦法、不得意な戦法は分かっています。」

「ならいいが、もしも無様に負けるようなら2年後の辞令も考えなければならないからな。」

「ハッ、承知しました。失礼いたします。」

敬礼をして退室した。

 

 

放課後 シミュレータールーム

 

部屋に入るとシミュレーターを囲むように人集りが出来ている。中央の2台を中心に集まっているようだ。その前に筋骨隆々の男、ウィレム・ホーランドが腕を組み立っていた。その威圧的な格好に溜め息が漏れた。ヤル気満々なようで此方はウンザリした。

「お待ちしておりました、クーロ准将。既に設定は終わっております。15000隻同士の遭遇戦で開敵場所はアルレスハイムとしております。」

アルレスハイムは大規模な艦隊戦が可能な広大な場所で小惑星も無いし、隕石群も無いといった場所で純粋な戦術と艦隊行動が勝敗の重要性を占めるだろう。

「分かった。それで結構だ。準備はいいかな?」

ニヤリとホーランド候補生は笑う。あまりに期待の教官に勝ちたいという欲が出ているので気持ち悪い。

上の観覧席も多くの人が入っていて満員のようだ。

「どうやら皆が知っているようで見学をしたいというものですから入れたのですがダメでしたでしょうか?」

私に答えを聞きながら断るわけがないですよねといわんばかりだ。教官に勝ったという事実を広げるための証人なんだろうなと思った。

「構わないから早くしよう。予定が有ってね。あまり時間を掛けられないんだ。」

ホーランド候補生に背を向けて、シミュレーターに乗り込んだ。

シミュレーターの設定を確認する。艦数、編成をチェックし、戦場も確認する。艦隊の物資もチェックする。何も問題はないようだ。

「では、始めましょうか。」

ホーランド候補生から通信が入った。頷き答えた。

「ああ、始めてくれ。」

答えた瞬間にシステム画面が動き出した。相手の艦隊15000隻がイエローゾーンに入って来るところだ。

そして1000隻位の単位でバラバラに分かれている。

それを見て、艦隊に後退の指示を出した。ゆっくりと前進から後退に切り替わった。まだ敵はイエローゾーンの真ん中位だ。しつこく追ってきている。

無秩序なまでに機動的で奔放な用兵だ。確かに何処を攻撃すればいいのか分からず有効な戦術だろう。

だが、めちゃくちゃに動いているから動線が無秩序で無駄が多く、エネルギー切れを起こさんばかりの運動だ。

更に後退するかと考え、指示を出した。

あんな非常識な艦隊運動が何時までも続くはずがない。

時計では2時間が経ったことになっている。後2時間位かな?それまではユルユルと後退しようと決めた。

 

キャゼルヌ視点

 

それからも追うホーランド、逃げるクーロの状態が続いて実際の時間で20分、シミュレーションでは4時間が経とうという時にクーロ准将の艦隊が停止し、前進を始めた。皆がざわつき始めた。そしてイエローゾーンを突破する前にホーランドの艦隊が動きが遅くなった。

レッドゾーンに入ったクーロ准将の艦隊がホーランドの艦隊を押し包むように半包囲で殲滅戦になっている。ホーランドの艦隊は反撃がほとんど出来ていないようだ。

25分で決着が着いた。ホーランドの艦隊は全滅、クーロ准将の艦隊は1000隻も被害がなかった。

他の見学をしている候補生も言葉を失い、戦況を表示しているモニターを青白い顔で見ている。

俺には分かった。エネルギー切れをホーランドの奴は起こしたのだ。あんなに跳ね回っていたら消費量が上がり、クーロ准将の艦隊は後退していたから追いつこうと全速力で向かっていた。それが決定打だな。

クーロ准将がシミュレーターから降りてきた。そしてモニターの結果を見てから観客席の方に目をやった。俺を見つけたのか右手を軽く上げた。

ホーランドも降りてきたようだ。怒りか悔しさか身体をブルブルと震わせながらクーロ准将に近寄っていく。

 

クーロ視点

 

目の前にホーランド候補生がいる。何か身体を震わせている。悔しいのかな?もしかして勝てると思っていたのかな?それは私を低く見すぎだろうと思ったが過度な自信に満ちている状態なら仕方ないかと思った。

「負けました。完敗です。ですが教官があんなに逃げ回るとは思いませんでした。」

皮肉のつもりかそんなことを言ってきたので私も皮肉で返すことにした。

「あの艦隊運動は見事だった。芸術的なほどにね。だがあまりにも非生産的過ぎる。あれではエネルギー切れを起こしに行っているようなものだ。私はそれを突いて完勝したのだ。」

身体を震わせ、肩を震わせ、顔面を紅潮させている。

「あんな非常識な艦隊運動では行動限界点に達するのが早くなるだけだ。私が後退したのも全速力で追いつこうとするのを狙って戦闘速度での後退にしたのだ。」

「それを理解せずに追ってきた時点で君の敗けは決定していたのだよ。理論が何故有るのか其処から勉強した方がいいな。」

周りの生徒に目をやり、話しかけた。

「君達も見ての通りだ。無限の艦隊運動など無い。補給が無いと戦いにならないのだ。君達は士官になるが後方支援を軽んじる傾向があるようだな。」

「今回の戦闘でそこら辺を理解してくれれば幸いだ。ではこれで失礼するよ。用事があるのでね。」

そう告げて退室した。ドアが閉まる直前に雄叫びと機械を叩く音が聞こえた。が気のせいにしようと思った。

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