銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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長いですがスミマセン。

後で細々と手を加えたり修正したりすると思います。

それではどうぞ(*・ω・)つ


次のステップ

宇宙暦796年 首都星ハイネセン 宇宙港

 

アスターテで負傷兵の救助、損傷艦の修理等を済まし、残存部隊を纏め、ハイネセンに帰還の途についた。一月程掛けてハイネセンに到着した。

帝国軍は掃討戦を行わず、敵艦隊の撃破を優先した形であった為、4万隻の内3万隻近くが撃沈したが兵員の多くは助かった形となった。

第4艦隊、第6艦隊で合わせて2万隻を越える数の艦が第2艦隊が半数を失った。兵員にして150万人を越えて200万人近くの兵士を喪うことになった。

 

この敗戦を誤魔化す為に英雄を必要とした。敗軍の将からはヤン・ウェンリー。敵に一矢報いたユーリ・クーロの2人が対象になった。これは民衆の視線を大局から眼を反らすためであり、今回の大敗北を負けてはいないと虚飾するかの如くであった。その為に同盟軍最新鋭艦であるアトラスは宇宙港に着艦することに相成った。私の希望でコバルトブルーに塗装された艦が大気圏を抜け、着艦シークエンスに入った。

初めてアトラスが地上に降りる為、多くの見物人がいるようだ。最初に大気圏を航行出来ると聞いた時は1艦だけ出来てどうすると思ったがこういった使い方もあるのかと感心した。皮肉ではあるが。

宇宙港の定められた地点に着陸すると参謀長のチュン少将が声を掛けてきた。

「閣下、着艦いたしました。参りましょう。」

「分かった。見世物になりに行くとしようか。」

小さく溜め息を吐くと後ろに居た副官のラップ中佐、作戦参謀ワイドボーン大佐が苦笑している。

タラップで地上に降りようとしたら大きな歓声が上がった。タラップの所に国防委員長がいた。

タラップを降りると気安く話しかけながら肩を叩こうとしたので敬礼をしながら躱し、握手しようと差し出された手に気付かない振りをして待たしている車に向かって歩き去った。

トリューニヒト派閥は壊滅的なダメージを受け、ロボスの進退も瀬戸際らしい。そして此方との関係改善、鞍替えを画策でもしているのだろう。相変わらず調子の良い男だ。

統合作戦本部に出頭すると直ぐに本部長の元へ案内された。そこにはシトレ本部長、ロボス司令長官がいた。

私の姿を確認すると前のソファーを手で指し示し座るように促してきた。

それを確認してから座ると前置き無用と話し出した。

「クーロ副司令長官、遠旅御苦労だったな。」

「いえ、今回の遠征は残念でした。勝つチャンスは大いにあったものを…」

ロボス司令長官は私達の会話を口惜しそうに聞いている。

「ロボス司令長官と今後の同盟軍の作戦行動について今回の戦いの反省を踏まえ話し合ったのだが、前線はクーロ副司令長官に任せようとなった。ロボス司令長官は後方で総合的な戦略の選定、参加する艦隊や補給関連、編成に尽力される形となる。」

「それでは次からの会戦は毎回私が、私の艦隊が参加すると云う形になるのでしょうか?」

ロボス司令長官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。察するに余りある顔だ。恐らく本部長が頭を押さえた形になったのだろう。

「そういうことになる。艦隊自体の参加は必須ではなく君だけの参加でも良いが君の出兵は決定だ。ああ、それと君の艦隊の乗員は昇進だ。君も元帥になる。」

「私がですか?」

「そうだ。生者では最年少元帥になる。」

「はぁ、微力を尽くします。」

伝えることが終わったのかロボス司令長官は足早に退室した。

「君も嫌われているな。」

シトレ本部長がからかい口調で言ってきたので真面目な口調で言い返してやった。

「閣下には負けますよ。」

2人で暫く顔を見合わせてから笑ってしまった。

「ローエングラム伯、君は危険だと言っていたがやっと宇宙艦隊司令部も認識したよ。遅きに失したと言いたそうだな。」

「はい。これ程の被害を我々は受け、敵は元帥に昇格しました。最前線に出てくる事はそうないでしょう。つまり彼を討つのはより困難になったと云うことです。」

「此れからどうなると君は考えている?」

「ローエングラム伯が遠征を指揮するでしょう。規模としては3個艦隊から5個艦隊位になると思いますがあしらいつつ国力増強、艦隊戦力の整備に勤しむべきかと。」

「ふむ、やはりそうなるか。分かった、参考にさせてもらう。今日の所は帰ってもらっていい。明日の9時に昇進となる。3日後に戦没者慰霊祭となっている。少しはゆっくり休んでくれ。」

「お気遣いありがとうございます。失礼致します。」

敬礼をし、外に出ると溜め息が出た。疲れた、早く帰ろう。

 

 

 

宇宙暦796年 ハイネセン シルバーブリッジ

 

ヤン・ウェンリー

 

「ヤン准将。ヤン准将!ヤン准将、遅れますよ!」

「うぅん、何に遅れるんだ?」

寝惚け眼のまま傍に立つユリアンに問い掛けた。

「ヤン准将!!」

少し口調が強くなったな。とりあえず身体を起こすか…

「ふぁ~ぁ。」

「朝食の準備も出来てますから早くリビングに来てくださいね。」

頭が覚醒しないまま、急かされたのでリビングにノソノソと移動する。

席に着くと朝食が用意されていた。

「朝からこんな調子で、他ならぬ貴方が慰霊祭に遅刻だなんて有り得ませんよ。」

「そうか…そうだな。」

キッチンにユリアンが自分の分を取りに行った時に小さく溜め息を吐いていた。相変わらず私は不甲斐ない保護者だな。

朝食も済み、軍服に着替えながらユリアンとの朝の会話をする。まぁ、一種のコミュニケーションなのだろう。

「ユリアン。私の、ほら、荷解きしていなかった箱の本…」

「もうとっくに片付けました。」

「じゃぁ、隣の箱の万暦赤絵は…」

「然るべき場所に飾っておきました。」

玄関に向かいながら会話しているとユリアンが見送りに来た。律儀なことだ。

「お気を付けて。」

「あぁ、ユリアン。」

「はい?」

「何だか色々すまない。帰ってきたらもっと保護者らしくするよ。それじゃ。」

そう言って外に出る。と同時に散水機の水が後頭部に直撃した。

「ああ、ヤン准将!」

最初から最後まで締まらない保護者だな、こりゃ。軍服がビショビショだ。

 

 

エレカに乗り、自由惑星同盟軍統合作戦本部に着いた。

正面玄関口に一際確りとした作りの特別製エレカが止まっていた。

「ラップ、ワイドボーン。」

エレカから元帥に昇進された教官が降りてこられた。

「教官!あ、いえ、クーロ元帥閣下。」

傍により敬礼をした。

閣下は苦笑しながら答礼なされた。

「これはアスターテの英雄殿。」

「勘弁してくださいよ。私は敗軍の将です。」

「私は3個艦隊が敗れた後に行った英雄だ。先の3個艦隊の中にも英雄が必要なのさ。負けた事を覆う、偽る英雄がな。」

「それは理解していますが…」

「そんな事より何だ?お前のその格好は?服を着ながらシャワーでも浴びたのか?」

「あはは……」

教官は自室に向かうようで専用エレベーターに乗って向かわれた。

 

欠伸をしながら会場に向かっていると前方で統合作戦本部長次席副官を務めるキャゼルヌ少将が待っていた。

「フワァ~~~~。」

「まだ完全に目が覚めていないようだな。アスターテの英雄は。」

「誰が英雄です?」

「俺の前に立っている人物さ。ジャーナリズムはこぞってそう書き立てているぞ。」

「はぁ、敗軍の将ですよ、私は。」

「そう、同盟軍は敗れた。よって英雄を是非とも必要とするんだ。大勝利なら敢えてそれを必要とせんがね。」

私の肩を抱きながら会場に向かって歩き出した。

「敗れた時は民衆の視線を大局から反らさなくてはいかんからな。エル・ファシルの時もそうだったろうが。」

少し進んでから私の肩に回した腕を放した。どうやらびしょ濡れの服が気になったようだ。

「ところでお前何でこんなに濡れてるんだ?」

「いや、まぁ、あはは……今日2度目です。教官にも言われましたよ。」

 

 

ユーリ・クーロ

 

「お集まりの市民諸君、兵士諸君。今日、我々がこの場に馳せ参じた目的は何か。アスターテ星域会戦に於いて散華した200万の英霊を慰める為である。」

身振り手振り。鬱陶しいことこの上ないな。

「彼らは尊い命を祖国の自由と平和を護らんが為に捧げたのだ。彼らが散華したのは個人の命より更に貴重なものが存在すると云うことを後に残された我々に教える為なのだ。」

「それは何か?すなわち、祖国と自由である。200万の将兵は何故死んだのか。」

トリューニヒトの演説も熱を帯びてきた。

「司令長官、軍司令部、艦隊司令官が馬鹿揃いだからだ。」

私の呟きにシトレ本部長、ロボス司令長官、グリーンヒル総参謀長、艦隊司令官、キャゼルヌ少将等多くの上層部が此方を様々な目で見ている。アレックス、笑いすぎだ。

 

ヤン・ウェンリー

 

「首脳部の作戦指揮が不味かったからさ。」

隣に座っている将官、佐官が非難の目で私を見てきた。

「彼らは自由と祖国を護るために命を擲ったのだ。」

どうやら私の周囲は主戦派が多いようだ。

「私は一段と声を大にして言いたい!祖国と自由こそ命を代償として護るに値するものだと。帝国との講和主張する一部の自称平和主義者達よ、迷妄から覚めよ!平和を口で唱える程優しいものはない。」

(いや、安全な場所に隠れて主戦論を唱えることも優しい。)

「銀河帝国の専制的全体主義を打倒すべきこの聖戦に反対するものは全て国を損なうものである。我々は歴史を知っている。この偉大な歴史を持つ我々の祖国、自由なる我が祖国、護るに値する唯一の物を護る為に我々は立って戦おうではないか。戦わん、いざ、祖国のために!同盟万歳!共和国万歳!帝国を倒せ!」

「「「同盟万歳!共和国万歳!帝国を倒せ!」」」

仕込みか自発的かは知らないが何人かが立ち上がって声を上げた。周りの軍人は立って拍手をしている。まぁ私はする必要もないか。いや、教官。壇上で鼻ほじってるし!鼻づまりの方が気になるのね。

「貴官、何故起立せぬ!」

警備担当者か何かが座っている私を咎めてきた。

「この国は自由の国です。起立したくない時に起立しなくてよい自由がある筈だ。私はその自由を行使しているだけです。」

「では何故起立したくないのだ!」

「答えない自由を行使します。」

「貴官はどういうつもりで…!」

壇上から眼前で怒っている軍人を呼ぶ声がした。

「クリスチアン君。」

もうよいと云う意味か手を少し上げた。私を一睨みしてから元の場所に戻って行った。これで終いかな?

場も何処と無く白けた雰囲気になったのだろう。このまま慰霊祭も終わってくれないかな?

「諸君、我々の強大な武器は全国民の統一された意思である。自由の国であり、民主的共和政体である以上どれ程崇高な目的であっても強制する事は出来ない。」

まだ続くのか。教官が退席するようだ。まだ鼻を弄っておられる。何かあるのか?

教官を見ていたのに気付かれた。顎をクイッと上げられた。これは外に出ろと云うことだろう。詰まらない慰霊祭に参加しなくていいのか。喜び勇んで外へ向かった。

 

 

 

宇宙暦796年 統合作戦本部 本部長室

 

深夜にシトレ本部長に呼び出しを受けた。何の用だ?わざわざこんな深夜にとは。

命令で呼び出すとは、嫌な予感しかしないな。

「ヤン・ウェンリー、入ります。」

「ヤン准将、そこに座りたまえ。」

「はぁ、失礼します。」

「1局付き合いたまえ。」

三次元チェスを始めた。

「相変わらずチェスの腕は上がらんな。」

「で、こんな時間に私を呼び出したのはチェスの相手をさせるためですか?それなら教官でも呼べばよかったのに。ハイネセン一の腕前ですよ。」

「ふふ、負け戦をわざわざせんさ。君に知らせておくことがあって来てもらった。正式な辞令交付は明日の事になるが君は今度少将に昇進することになった。内定ではなく決定だ。昇進の理由は分かるかね。」

「負けたからでしょう?」

「君は昔と少しも変わらんな。穏和な表情で辛辣な台詞を吐く。士官学校時代からそうだった。」

「ですがそれが事実なのではありませんか、校長?いえ、本部長閣下。」

「何故そう思うのかね?」

「やたらと恩賞を出すのは急迫している証拠だと古代の兵書にあります。敗北から眼を反らせる必要があるからだそうです。」

「ある意味では君の言う通りだ。近来ない大敗北を被って、軍隊も民間人も動揺している。此れを鎮めるには英雄の存在が必要なのだ。」

「教官ではダメなのですか?帝国にも同盟にも名の知られた彼なら。」

「無論彼も必要だ。しかし彼も何時までも現場に立つわけではないからな。次の備えが必要なのさ。それがつまりは君だ、ヤン少将。」

「ふぅん。」

溜め息しか出てこない。

「君にとっては不本意だろうな。創られた英雄となるのは。」

シトレ本部長が前に乗り出してきた。

「話は変わるが君が戦闘開始前にパエッタ中将に提出した作戦計画。あれが実行されていたら我が軍は勝てたと思うかね?」

一体、何の話しだ?嫌な予感しかしない。

「ええ、多分。」

「だが別の機会にあの作戦案を活かすことは可能ではないかね?その時にはローエングラム伯に復讐する事が出来るだろう。」

手元の三次元チェスに盤面を弄りながら説明して差し上げよう。

「彼が今回の成功に驕り、再び少数の兵で大軍を破ろうとの誘惑に抗し得なかった時には、あの作戦案が生き返ることはあるでしょう。しかし………」

「しかし……」

「しかし多分そんな事にはならないと思います。少数を以って多数を破るのは一見華麗ではありますが用兵の常道から外れており、戦術ではなく奇術の範疇に属するものです。それと知らないローエングラム伯とも思えません。次は圧倒的な大軍を率いて攻めてくるでしょう。」

「なるほど、そうだろうな。所でもう一つ。これは決定ではなく内定だが軍の編成に一部変更が加えられる。第4、第6両艦隊の残存部隊に新規の兵力を加えて、第十三艦隊が創設されるのだ。で、君がその初代司令官に任命される筈だ。」

「艦隊司令官は中将を以て、その任に充てるのではありませんか?」

「新艦隊の規模は通常のほぼ半分だ。そして第十三艦隊の最初の任務はイゼルローン要塞の攻略と云うことになる。」

「半個艦隊であのイゼルローンを攻略せよと仰るのですか?」

「そうだ。」

「今の私の話を聞いておられましたか?」

「無論だ。その上で話をしている。」

「可能だとお考えですか?」

「君に出来なければ他の誰にも不可能だろうと考えておるよ。自信がないかね?もし君が新艦隊を率いてイゼルローン要塞の攻略と云う偉業を成し遂げれば、君個人に対する向後の念はどうあれ、トリューニヒト国防委員長も君の才幹を認めざるを得んだろうな。」

「はぁ、この件を知っておられるのは?」

「今の所、君と私の2人だ。そして物資関連の手配をするキャゼルヌには説明した。必要な物は全て可能な限り揃えてくれる。イゼルローン要塞攻略をすると云うことは拡がるだろうが作戦案の詳細は私とキャゼルヌ、君の司令部要員だけになる。司令部要員には君から話してくれ。勿論箝口令をしいてな。」

「教官はどうなのです?」

「彼は何も知らない。もちろんロボス司令長官もだ。司令長官が知らないものを副司令長官が知っている等、後々の火種になるからな。」

「承知しました。微力を尽くします。」

とんでもない難題を押し付けられた気分だ。いや、実際難題を押し付けられたのか。




次は第十三艦隊の話しになります。
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