銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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一夜の逢瀬

宇宙暦796年 エル・ファシル 補給基地

 

 

ジャン・ロベール・ラップ

 

アスターテ会戦より帰ってきて乗組員に休暇を交代で与えることにし、順々に休暇を取っている。

上官であるクーロ大将が元帥に昇進し、前線の一切を任されることになった為、組織の再編に取りかかっている。第一艦隊は基本的に変更無しだが私の立場が高級副官に昇進となった。下に下士官、従卒を置くことになったのだ。

確かに大佐が彼方此方に使いっぱしりしていたら他の者も困るだろう。そういうことらしい。ただ、いい人材を見繕っている途中なので暫くはこのまま頼むと云うことらしい。

仕事も終わろうかという時間帯に来客があった。ブザーが鳴り、誰か確認するとクブルスリー副司令官だった。閣下が入室を許可したのでロックを外し、中に入れた。

「クーロ元帥閣下、受付に来客があるそうです。」

閣下が不思議そうな顔をしている。スケジュールには無いから不審がっている。誰何すると綺麗な女性の方でミリアムと名乗られたと副司令官が答えた。

閣下が笑って分かったと答えられた。

「このまま退勤しますが緊急の書類はありますか?明日は昼過ぎに此方に来ますのでそれまでに判が必要ならクブルスリー副司令官の権限でお願いします。それ以外は私の机に置いておいてください。」

そう言って荷物を片付け始めた。2、3分で終え、ではと言って去っていった。

一連の流れをワイドボーンが見て一言。

「どうする?奥方に伝えるか?」

「………いや、見なかった事にしよう。君子危うきに近寄らずと謂うしな。」

「フッ、賢明だな。俺も見なかった事にする。」

互いに顔を見合って一つ頷いた。

シレーッとクブルスリー副司令官は閣下と共に退室した。手際のいい人だ。

 

 

宇宙暦796年 エル・ファシル 月夜の白狼亭

 

ここはエル・ファシルで人気のレストランだ。エル・ファシル産の山菜や根菜をジビエと合わせて出してくれる。

注文を済ませ、対面にいる女性に目をやる。

「よく来てくれた。会いたかったよ。」

「あら、嬉しい事を言ってくれるのね。でも周りの人に気づかれているけどいいの?元帥の醜聞は宜しくないのではなくて?」

直裁的な物言いに苦笑してしまった。

「仕事の話を持ってきたのだろう?それで名分は立つさ。」

「そうね。とりあえずさっさと済ませましょうか。此方の書類を。」

そう言ってミリアムは封筒を渡してきた。

「順調に稼いでいるわ。それと平行して規模の拡大にも取り組んでいるわ。」

「そのようだな。数字からもそれが読み取れる。例の2人はどうなっている?」

「あの2人ならフェザーンで番頭をしてくれているわ。真面目に誠実に働いてくれて、その上頗る優秀だわ。いい人材を紹介してもらえた。」

「そうか…。あの人との約束だからな。」

「料理が来たわ。折角の料理が冷めるのはもったいないから後にしましょうか?」

一つ頷いて食事にした。

 

 

ホテルで熱を交わり合わせ、一時をすごす。ベッドで横になりながら頼んでいたローエングラム伯ラインハルト元帥が開いた元帥府を調べてもらっていたので、その報告を聞いている。

「ウォルフガング・ミッターマイヤー中将。清廉で公明正大な人物と評価されています。同僚からも部下からも絶大な支持を得ている。その公正さゆえに軍規に厳しく、特に軍隊による民間人への略奪や暴行には容赦ない処断を下すことで有名だそうです。」

「ほう。」

「彼の用兵は艦隊の機動力を十全に生かした高速移動を得意とし、用兵の速さから「疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)」の異名をとるそうです。」

「機動力を用いた高速戦闘か。対処が難しいな。」

「彼の用兵を親友であるロイエンタール中将が合理的で迅速な戦術、戦略を神速で行い、それが理に適うと評したそうです。」

「それが事実なら名将だな。」

私の言葉に一つ頷き、次の将官の説明に入った。

「オスカー・フォン・ロイエンタール中将。帝国騎士の称号を持つ下級貴族。左右の瞳の色が違う金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の特徴を持つ美男子ね。」

「なるほど美男子か。」

「漁色家として知られ、関係を持っては捨てる事を繰り返し、季節ごとに女を変えると言われてるわね。」

今の自分の状況を考えると彼を悪くは言えないな。

「軍人としては白兵戦は達者、艦隊戦では戦術、戦略共に傑出しており、宇宙艦隊司令長官のミュッケンベルガー元帥も出来ると評価しているそうです。他にはミッターマイヤー中将とは親友らしいです。」

親友が名将同士か。面倒この上ないな。

「カール・グスタフ・ケンプ中将。豪放にして公明正大、統率力も勇気も非凡と評される提督です。元はワルキューレのエースパイロットであったのですが艦隊司令官に移動してからも変わらず頭角を現し、昇進したそうです。ただ、いささか柔軟性に欠けるそうです。」

「フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将。黒色槍騎兵艦隊を率いる猛将で常識外れの猛々しさと破壊力を誇り、相手の狙い通りに動いたり、策に嵌ったりしたにもかかわらず、それをそのまま打ち破る能力があるそうです。一方で守勢に回ると脆く、勝利した場合でも大きな損害を被っていることが多く評価が難しい将官です。」

「エルネスト・メックリンガー中将。軍人と同時に優れた詩人・画家・音楽家でもあり、文化人としても一流だそうです。軍人としては戦場全体を広い視野で見わたし、状況に応じて必要な兵力を配置・投入することで、着実な勝利をものにするという、戦略家タイプの提督です。」

「アウグスト・ザムエル・ワーレン中将。温和な紳士で剛毅で部下からの人望も厚い用兵家です。勇気と用兵術の均衡のとれた良将で総合的には堅実な用兵巧者で戦術的能力のある名将。」

「コルネリアス・ルッツ中将。非凡な作戦指揮能力を有す正統派の用兵家です。普段は温和な性格ですが、興奮すると瞳の色が藤色の彩りを帯びるそうです。射撃の腕が卓越しているそうで士官学校の成績もずば抜けて良かったそうです。」

「ジークフリード・キルヒアイス少将。ローエングラム元帥の元帥府開設に伴い少将に任命されました。ローエングラム元帥の副官としてずっと仕えていたそうです。その献身ぶりを副官ではなく家臣と言う者も。人間性は温和で人当たりの良い性格で人間としても清廉で彼を悪く言う人はそうはいないそうです。」

「軍人としては射撃能力が卓越しており、幼年学校時代に大会で何度も金メダルを獲得する程の腕前です。白兵戦の技量も非常に高く、幼年学校では白兵戦も首席を取っています。」

「これがローエングラム元帥府の主要人物ね。書類の方に何人か此れはと云う人物も居ますので資料には載せてあります。シミュレーションのデータも入れてあります。確認を。」

「ありがとう、助かるよ。やはりフェザーンの駐在弁務官や情報部だけでは限界があるからね。帝国にも商売で足を運ぶ商人に頼んで正解だ。」

ミリアムが身体を起こして、少し真剣な表情をした。

「少し気になることがあるの。良いかしら?」

そう言って椅子に向かって歩きだした。彼女の気になること。フェザーンで本格的に商売をしている彼女に何が琴線に触れたのか興味がある。

「私は貴方から預かったお金で輸送会社を買収して輸送業に参入した。でもフェザーンでは新規で会社を立ち上げると自治領主府の任される仕事を基本的に受けないとダメなの。それが地球教の信者を地球に運ぶ仕事で燃料や食料品も自治領主府持ちなの。臭いと思わない?」

聞いていて話が進むごとに自分の感覚が鋭くなっているのを自覚した。

「自治領主府が直ぐに倒産しないように支えてると取ることも出来るが明らかに不自然な所が多々あるな。」

ミリアムも厳しい目をしている。

「どうする?調べる?」

「ああ。だが深いところはまだいい。地球教信者はフェザーンにも同盟にも帝国にもいる。つまり何処に信者と云う名のスパイ、工作員がいるか分からないからな。調べるのに慎重に慎重を期する必要がある。」

私の注意、警告にミリアムの顔が少し引き攣っている。自分の隣に危険人物がいるかもしれないのだ。そうなるだろう。

「じゃあ、どうするの?」

「先ずは地球教の地球巡礼を知りたい。同盟、帝国の信者がフェザーンを介して行っているのか、どれくらいの規模なのか。それと地球教信者の事についても知りたいな。それから信者のパーソナルデータも欲しいな。古来宗教と犯罪、麻薬は切っても切れない関係だ。テロリストや狂信者を作り出すのにうってつけの物だ。薬物中毒者がいないか調べてくれ。」

私の言葉に深く頷いている。険しい表情をしている事からも厄介な問題と認識したようだ。

「慎重かつ丁寧、そして内密に調べないと駄目な問題だ。すまないがよろしく頼む。」

「分かったわ。貴方の疑念、心配が事実なら面白くない、大変危険な問題に発展する可能性がある。」

「頼む。」

「自治領主のアドリアン・ルビンスキーはいいの?」

「奴は有能だ。無理はしなくていい。誰と会ったかだけを確認してくれたらいい。それ以上は危険だ。闇夜に消される可能性がある。」

「了解。帰り次第取り組むわね。」

コクりと頷き、渡された資料を自分の鞄に入れた。後で確認しなければ。

「じゃあ、もう一度よろしくね。久し振りの逢瀬なのだから。」

そう言って私の手を掴みながらベッドへ誘う彼女に抵抗せず流された。

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