仕事と疲れと夏バテで休みは寝るしか出来なかったです。
これからは月一か二のペースで投稿したいかな~。
頑張りますのでよろしくお願いします!
宇宙暦796年 エル・ファシル 補給基地 司令官室
マルコム・ワイドボーン
副司令長官であるクーロ提督が元帥になり、2ヶ月にもうすぐなる。職務内容は変わらないが前線の一切を任される事になったので部下が大幅に増えた。補給関連、特に食料、武器弾薬、エネルギー関連を管理する人間が増えた。
私も艦隊の次席参謀としてチュン参謀長を補佐する事になった。他に参謀が3人赴任し、5人体制になった。ラップも高級副官として部下を3人付けられた。
今日も午前中は補給関連、艦隊乗組員からの報告書の処理をする。そんな平穏な日常を壊す事態が起こった。
バンッと大きな音を起ててドアが開いた。
「閣下!!ヤンが!!ヤンがイゼルローン要塞を落としたと連絡が!!」
ラップが急いで部屋に入りながら報告してきた。
「なっ!?」
「まさか!?本当か!?」
チュン参謀長も事実かの確認をしている。
内容が内容だけに驚きのあまり椅子から立ち上がっていた。
「本当の事です!先程、連絡がありました。誤報でも冗談でもないみたいです。」
ラップが自信満々に報告してきた。どうやら事実のようだ。これからどうするか閣下の判断を聞こう。
「閣下っ………」
閣下に声を掛けようとするも閣下が無表情で考え事をしていらっしゃった。この時は全員が口を噤み、静寂の一時となる。閣下の思考の邪魔にならないように気を使っていると云えるが本音は口を挟むのが恐いのだ。
どのくらいの時間が経ったのか。5分か10分か?チラリと時計を見ると3分も経っていなかった。
閣下が深く溜め息を吐き、下を向いた。
首を横に幾度か振った後、参謀長に顔を向けられた。厳しい顔をなさっておられる。何かあるのだろうか?
「参謀長、明日の1000時に出征します。準備をしてください。」
「出征ですか?どちらに?」
チュン参謀長は戸惑いながら答えられた。
「イゼルローン要塞です。十三艦隊は半個艦隊、6000隻程です。帝国が奪還作戦を行う可能性は0に近いですが無いとは限りません。その場合、十三艦隊の兵力では一抹の不安があります。」
参謀長は困惑しておられる。
「奪還作戦ですか?こんな直ぐに行うでしょうか?」
「十中八九ありません。しかしそれは無いとは違います。貴族が勝手に兵を出すと云うこともあるでしょう。」
「分かりました。万が一を警戒するのが閣下の信条です。私達もそれに備えるとしましょう。」
チュン参謀長の言葉に苦笑を浮かべている。
「それにヤン提督はハイネセンに帰還命令が出る筈です。交代要員の意味合いもあります。」
「確かに難攻不落の要塞を落とした英雄には凱旋してもらわなければ。」
ラップが含み笑いを浮かべている。ヤンが嫌がるのを分かっているのに悪い奴だ。
「私の最後の仕事です。恙無く行いましょう。」
…………えっ、今何と言われた?最後の仕事?どういうことだ?
「今回の要塞攻略戦。私は一切関知していません。前線の一切を与る立場の人間として面目丸潰れですね。これ以上本部長と関り合いになりたくありません。だから辞めます。」
「そ、それは……」
チュン参謀長も何も言えずに言葉を窮している。
「恐らく、司令長官も知らされていないでしょう。そして司令長官が知らされていないのに副司令長官が知っているのは後々のしこりになると判断したのでしょう。」
参謀長、ラップに顔を向けると一理あると頷いている。確かにそうだ。司令長官が知らず、副司令長官が知っているのはよくないだろう。
「防衛体制が、防衛方針が変わる事態が起こるのです。内密に話を通すこともしない、されない、信頼の無い副司令長官など無用の長物です。辞めさせてもらいます。」
部屋にいる皆が緊張している。顔が強張っている。副司令長官の苛立ちを感じたのだ。日頃見せない生の感情を露になされた。
「それにヤン提督のお陰で帝国への門戸が開きました。私の予測が当たれば早ければ今年、遅ければ来年に帝国領侵攻作戦が行われるでしょう。数個艦隊か大規模かは同盟市民と最高評議会、軍上層部の判断によるでしょうが。」
思わぬ内容に顔を見合わせた。帝国領侵攻作戦!?本当か!?
閣下が頬杖を付き、人差し指でこめかみを叩きながら吐き捨てられた。
「そして市民は政治家は愚かな選択をするでしょう。帝国の圧政からの解放作戦と銘打って大規模侵攻作戦を行うでしょう。そうなれば辺境の開発に防衛をしなければならない。金が幾らあっても足りません。軍事的にも何時来るか規模も分からない敵から辺境星域を守ることになります。」
今度は内容に顔を強張らせた。確かに各星系を守るのに1個艦隊を配備しないといけないだろう。だが前回の敗戦で3個艦隊が無いのだ。動員可能な艦隊は半分くらいになるだろう。敵の庭で戦うのに広範囲に配置しては各個撃破されるだろう。そうなれば少ない兵力が更に少なくなる。本末転倒になりかねない。
「地獄ですよ。イゼルローン要塞を落としたが為に大規模侵攻作戦を誘発し、同盟の軍事に深刻なダメージを負うでしょう。」
「し、しかし閣下が指揮を取られるのです。まだ負けると決まった訳では……」
チュン参謀長の言葉に閣下は冷たい視線を向けている。段々尻すぼみになり、最後まで言葉を言えず口を閉じた。
「ふぅ、恐らく前線で指揮するのはローエングラム伯ラインハルト元帥です。彼の戦略眼はどの程度か分かりませんが戦術眼は我々も知っての通りです。私達が勝っても無傷は有り得ません。半数以上は損害を受けると計算するのが妥当でしょう。」
大きな溜め息を吐きながら御自身の見解を述べられた。可笑しな所はない。私も妥当な線だと思う。
「そして次に門閥貴族かオーディンを守るミュッケンベルガー元帥が来る筈です。ローエングラム伯を相手にした後に大軍を率いる敵の二連戦が待っています勝っても負けても地獄ですよ。」
皆が何も言えずに黙っている。
「とりあえず非常呼集を伝達してください。明日、イゼルローンに行きます。」
閣下の言葉に参謀長が命令伝達をするために自分の席の通信端末を操作し始めた。
「ラップ大佐、シトレ本部長と話したい。緊急の用件があると伝えて繋ぐように要請してくれ。」
ラップにそう伝えられてから、デスクに置いてあった木製の小箱を手に取った。
葉巻だ。シガーシザーを手に取られ、先をカットし、マッチで火を着けられた。大きく吸われて濃白煙を吐き出された。
顔を苦悩の表情に歪められている。煙越しにしか見えないが色々と想定外の出来事に苛立ちを隠せていないのだろう。
ラップが側に来た。閣下の葉巻を吸う姿に驚きながらも報告する。
「繋がりました。此方のモニターに繋ぎます。」
そう言って正面のモニターに繋げた。シトレ本部長が映ると連絡を終えた参謀長、俺、ラップが敬礼をする。
横目で閣下を見るとおざなりながらも敬礼をしている。そんな閣下の様子に本部長は目を見開き驚いておられる。閣下が葉巻を咥えながらの姿に驚いたのだろう。
「副司令長官、連絡は受けたかね?ヤン・ウェンリーがやったぞ。念願のイゼルローン要塞を攻略した!これで我々は一息つくことが出来る。」
白煙を吐きながら閣下が吐き捨てられた。
「それは目出度いですな。それで私が一切関知させてもらえなかったのは?」
本部長が言葉を詰まらせた。余りの面白くなさそうな表情、言葉に何も言えなくなってしまっている。
「私は退役します。退役届けは数日中に送りますので今月末で辞めさせていただきます。」
「それは!?私が君に何の相談もせずにイゼルローン要塞攻略を行ったから、それに対する不満からかね?」
「それが一切ないとは申しません。ですが最大の理由は今年中にあると推測される帝国領大規模侵攻作戦に参加したくないからです。私はまだ死にたくない。」
最後にポツリと呟いた言葉に言葉を窮してしまった。閣下の能力の高さは知っているし、死ぬような事はないと思っていたがそれは閣下御自身の努力によって死ななかったのだ。状況や環境、様々な事象を乗り越えたから今の閣下があるのだ。
「イゼルローン要塞を落とした今、我々は帝国からの防衛拠点を得た。先ずは戦力の拡充に力を注ぐべきであろう?なのに君は帝国領侵攻作戦があると?」
閣下が白煙を吐き出しながら溜め息を吐かれた。
「同盟市民はやられた分やり返せってなりますよ。これまでは殴られてからやり返すか殴りに行って殴られて帰るばかりでした。」
帝国軍の侵攻作戦への防衛戦に過去のイゼルローン要塞攻略戦か。確かにその通りだ。これ迄は相手が主導権を握っていた。しかし要塞が落ちたことで我々が主導権を握る事になる。
「ハイネセンでは主戦派、強硬派が大多数を占めます。それに大勢集まれば景気の良い話をしたくなる、聞きたくなります。これ迄の鬱憤晴らしもあるでしょう。民意は帝国領侵攻に傾きます。此れを止めるのは至難の技です。それに同盟政府、最高評議会は政権運営に不安を抱えています。それを解消するのに利用するかもしれませんね。このままでは良くない、ここは起死回生、一発逆転しようと。」
「では止める手段は無いと。」
本部長も閣下の考えに一理あると見たのか、その流れになると予想出来たのか苦悶の表情になっている。
「こうなりますと阻止も考える必要はありますが巧く遠征を畳む事を考える必要もあるでしょう。」
「畳むのは私の責任で行う。その後を君に頼みたい。」
「お断りします。貴方が信頼するヤン・ウェンリー提督に頼めばいいでしょう。」
「君の怒りは理解した。すまないと思っている。ヤン提督は生粋の戦術家だ。軍政も見ないといけない時に用いることは出来ない。私は君に頼まざるを得んのだよ。」
閣下が眉間に皺を浮かべて考えておられる。大きな溜め息を吐かれた。
「此れから言う条件を呑まれるのであれば遠征軍実戦部隊司令官職を受けましょう。」
「頼めるなら何でも呑もう。」
閣下が口にされた条件が余りに意外なもので多岐多種に渡るため多くの時間を要した。通信が終わり、閣下が暗く苦渋に満ちた表情でポツリと。
「此れで一兵でも多くが帰ってこれればいいが。余りにも不確定要素が多すぎる。我々も帝国で死ぬことになるかもしれないな。」
そこまで危険視しているのか。勝つための手を打つ事が出来ず、負けないため、被害を少しでも少なくするための手しか打てない事に暗く重い気持ちになっている。
此れが歴史の転換点になるということなのだろう。
私が迷う必要はない。閣下と共に生き、閣下を支え、閣下の盾となる。それが自身の軍人としての生き方だ。
次はイゼルローンでのヤンとの話を書く予定です。