次はどうしようか悩み中です。同盟か帝国か。
次は来月になると思うのでご容赦下さい。
宇宙暦796年 ハイネセン 統合作戦本部
中央に統合作戦本部長シトレ元帥が座り、左右に実戦部隊と総司令部要員が分かれて座っている。司令長官ロボス元帥が総司令部側、私副司令長官クーロ元帥が実戦部隊側の最前列に座っている。
「それでは遠征軍の部隊編成に関して、後方主任参謀キャゼルヌ少将より確認してもらおう。」
「はっ、先ず遠征軍総司令官は宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥が務められます。総参謀長はドワイト・グリーンヒル大将。作戦参謀はコーネフ中将以下3名。情報参謀はビロライネン少将以下2名。後方参謀は小官以下1名であります。」
「次に実戦部隊として9個が宇宙艦隊が投入されます。前線司令官を兼任するユーリ・クーロ元帥麾下第一艦隊。ルフェーブル中将麾下第三艦隊。ビュコック中将麾下第五艦隊。ホーウッド中将麾下第七艦隊。アップルトン中将麾下第八艦隊。アル・サレム中将麾下第九艦隊。ウランフ中将麾下第十艦隊。ボロディン中将麾下第十二艦隊。そしてヤン中将麾下の第十三艦隊。その他、各種独立部隊等を合わせ、総動員数三千百二十三万七千四百名。」
あちらこちらから感嘆の声、溜息が聞こえる。
実戦部隊で二千万を越え、補給部隊や後方支援で一千万近くになる。妥当な数字ではある。
但し、三千万と云えば全軍の6割に及ぶ。こんな数を揃えてどんな戦果を挙げれば帳尻が合うのやら。
「諸君、今回の帝国領への遠征は最高評議会による決定事項である。が具体的な行動計画はまだ樹立に到っていない。本会議はそれを決定する為のものである。諸君の活発な討論を期待する。」
「本部長閣下。」
一人末席に座った男が手を上げ、指名もされていないのに立ち上がり喋り始めた。
「作戦参謀フォーク准将であります。今回の遠征は我が同盟開闢以来の壮挙であると信じます。」
勝手に信じていてくれ。
「それに幕僚として、参加させて頂けるとは武人の名誉。これに過ぎたるはありません。」
シトレ本部長が座れと手で合図をした。作戦案の発表じゃないのかよ。
「総司令官閣下にお訊ねします。我々は軍人である以上、命令とあらばどこへでも行く。ましてやゴールデンバウム王朝の本拠地を突くということとあれば喜んで出征しましょう。が、これ程の大規模侵攻であるからには、先ずこの遠征の戦略上の目的をお聞かせ頂きたい。」
ウランフ中将が最初の質問をした。そもそもこの遠征の目的はと聞いたがなんと答えるのか。
「作戦参謀、説明を。」
ロボス元帥が作戦参謀に答えるように命じた。
「はっ、大軍を保って帝国領土の奥深く侵攻する。それだけで帝国軍人共の心胆を寒からしめることができましょう。」
中々にウィットに富んだ回答だ。
「では、戦わずして退くというわけか?」
「それは高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかと思います。」
真剣に答えているのかはぐらかしているのか分からんな。顔を見るに真剣に答えているように見えるが…
「それではあまりに抽象的過ぎる。」
ウランフ中将が苦言を呈する。
「要するに行き当たりばったりということではないのかな。」
ビュコック中将の皮肉交じりの冷やかしが入った。フォーク准将はムッとしたようだ。
「本作戦は同盟史上空前の規模である。壮挙それ自体が帝国人民に希望を与え、専制政治に対する打撃となることは明らかだ。」
ロボス元帥が手助けを出した。
「ありがとうございます、総司令官閣下」
「侵攻の時点を現時点に定めた理由をお聞きしたい。」
ヤンが質問をする。この質問もフォーク准将が答えるみたいだ。
「戦いには機というものがあります。」
「つまり現在こそが帝国に対して攻勢に出る機会だと貴官は言いたいのか?」
「大攻勢です、ヤン中将。」
フォーク准将が自信満々でヤンの説明に答える。
「イゼルローン失陥によって帝国軍が狼狽している正にこの時期、同盟軍の大艦隊が長蛇の列をなし、自由と正義の旗を掲げて進むところ、勝利以外の何物がありましょうか。」
「しかし、この布陣では敵襲に深入りしすぎる。隊列は余りに長くなり、補給にも支障をきたすだろう。しかも敵は我が軍の側面を突くことで容易に此方を分断できる。」
ヤンの物言いに不満を抱いたのだろう。フォーク准将が語気を強めて反論する。
「何故、分断の危険のみを強調するのか理解に苦しみます。我が軍の中央部に割り込んだ敵は前後から挟撃され、惨敗すること疑いありません。」
「待ち給え。ヤン中将の指摘は正しい。兵力集中の機を逸し、各個撃破の憂き目にあったアスターテの愚を繰り返すのか?」
ビュコック中将のヤンの意見への賛同も何処吹く風のようだ。
「戦術家で名だたるビュコック中将のならではのお考えです。」
「どういう意味か?」
「戦術的にはともかく、戦略的には先の戦いは敗北等ではありません。我が軍は最終的に帝国軍を駆逐し、アスターテ星系の侵入を阻んだではありませんか。」
「何だと?」
「そもそも今回は戦いそのものの意義が異なります。本作戦に於いて、我々は帝国の圧政に苦しむ民衆を救いだす解放軍なのです。」
フォーク准将の独演会が始まりそうな時にアレックスが間の手を入れた。
「よろしいですか?」
「キャゼルヌ少将。」
シトレ本部長の指名を受けて、話しだした。
「後方を預かる小官としては、その場合の補給について危惧を憶えます。長い補給線に加え、解放軍として占領地への対処も行うとなれば、たちまち物資不足に陥ります。」
アレックスの当然の危惧を質問した。
「多少の補給が滞った所で占領地の民衆に物資を供出させることも可能ではないか?」
ロボス元帥の希望的観測に頭が痛くなった。
「それを計算に入れて補給計画を立てるわけには。」
「何とかするのが君の仕事だ。」
「ですが帝国軍の指揮官はあのローエングラム伯です。彼の軍事的才能を考慮すれば、作戦計画の策定には慎重過ぎるということは無いと思いますが。」
これまでのローエングラム伯に被った被害を思えばヤンの指摘は至極当然だ。
「中将、君がローエングラム伯高く評価している事は分かる。だが彼はまだ若い。失敗を冒すこともあるだろう。」
「それはそうです。しかし勝敗とは結局相対的なもので、彼が侵した以上の失敗を我々が犯せば、結果は自ずと明らかではないでしょうか。」
「それは予測でしかありません、ヤン中将。敵を過大評価し、必要以上に怖れるのは武人として最も恥ずべきところ。ましてや、それが味方の士気を削ぎ、その決断と行動を鈍らせるとあっては結果として敵を利する事になりましょう。」
バンと机を叩く音が聞こえた。ビュコック中将が叩いたようだ。
「フォーク准将、貴官の今の発言は礼を失しておる。」
「何処がでしょうか?」
「貴官の意見に賛同せず、慎重論を唱えたからと言って利敵行為呼ばわりとは何事か!」
「小官は一般論を申し上げたまで。一個人に対する誹謗と取られては甚だ迷惑です。そもそもこの遠征は専制政治の暴圧に苦しむ銀河帝国250億の民衆を解放し、救済する崇高な大義を実現するためのものです。我々が解放軍として大義に基づいて行動すれば、帝国の民衆は歓呼して我々を迎え、進んで協力するでしょう。」
フォーク准将の独演会がそろそろうっとおしく思ったので手を上げて質問しようとした。
「そろそろ具体的な作戦計画を話し合いませんか?中身の無い話を続けられるとこのままでは寝てしまいそうだ。」
私の言葉に艦隊司令官連中は失笑している。
「私が先に出した3つの帝国軍の行動に対しての具体的な内容をお聞かせ願いたい。」
フォーク准将が答えるみたいだ。
「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになります。」
「それは具体的な内容とは言わない。答えられないなら引っ込んでいてくれ。作戦主任参謀コーネフ中将、答えてくれ。」
コーネフ中将に視線を向けると緊張を露わにした。
「その、閣下の出した作戦案と言いますと……」
「シトレ本部長に提出した帝国軍が取る可能性のある3つの作戦案の事だ。シトレ本部長よりイゼルローン要塞陥落の次の日には総司令部に提出され、周知されていると聞いている。」
「それはその………」
口籠るコーネフ中将に更に質問を重ねる。
「先ず、第一案のイゼルローン回廊出入り口付近を封鎖し半包囲で我々同盟軍の侵攻を阻止するという作戦案に対し、我々はどういう作戦を取ればいい?此方が突破出来ない時は何処迄の被害を被れば良いのかね?消耗戦になる。」
私の問い掛けに皆が口を噤んだ。
「同盟でも帝国でもその人ありと謳われるクーロ元帥がそのような弱気を口にされるとは思いませんでした。」
またしゃしゃり出てきやがったと思った。
「敵はイゼルローン要塞を落とされて混乱しています。イゼルローン回廊付近で迎撃する等という積極的防衛戦を行えないと思われます。」
フォーク准将の言にロボス元帥が頷いている。
「ロボス元帥も同意見ですかな?頷いておられたが。」
私の指摘に慌てている。頼りない総司令官だ。昔は優れた戦術指揮能力で前線指揮官として輝かしい功績を挙げてきたが今は只の石ころだな。
「他の2案、敵が決戦を仕掛ける、焦土作戦を実施するはどうです?何かしらの対案はお有りで?」
「敵は閣下の言うような効果的な迎撃は出来ぬものと推測しております。閣下の心配は些か過ぎるというものです。」
フォーク准将の言につい笑ってしまった。
「何が可笑しいのです?」
「いや、ロボス元帥の近年の愚かな失敗を思うと理由が分かったのでつい笑ってしまった。君のような最悪の事態の想定もせず、自分の思い通りに事が進むことばかりを考えている参謀を重用しているからだとね。」
「小官を愚弄なされるので。」
「私は士官学校の教官を一年だけだが勤めた。教え子には30にして艦隊司令官を務めるヤン中将や、」
「教官、私はまだ29歳です。お間違いなきようお願いします。」
ヤンの自身の年齢を気にした発言で横槍が入った。
「細かいな。今年か来年で30だろう。誤差の範囲だ。」
「20代と30では天と地ほどの差があります。」
熱心に言い募るヤンに呆れつつ、謝罪しようと思った。
「分かった、分かった。ヤン中将は29歳だ。それでいいな。」
「はい、それでいいです。」
何話してたっけ?ヤンが入ってきて飛んでしまった。ああ、そうだった。
「艦隊司令官を務めるヤン中将や私の艦隊で参謀を務めるワイドボーン准将、副官を務めるラップ大佐がいる。他にも何人も各艦隊の分艦隊司令官や作戦参謀がいる。皆が私を恩師だと言ってくれているのが私の密かな自慢だ。」
腕を組み、顔を横に振りながら話す。
「アスターテでは第六艦隊の参謀を務めたエミル大佐は残念だった。三個艦隊の分散合撃を各個撃破の餌食だと進言していたと聞く。それを何処からかの馬鹿な命令で実施され、儚い命を散らす羽目になった。200万人もの儚い命をな。」
馬鹿な奴らと当て擦れられたロボス元帥に総司令部の面々は顔を紅潮させ、怒りを露わにしている。
総司令部要員の代表達に厳しい視線を向けると姿勢を正した。
「今回はそのような事が無いように念には念を入れ、入念に準備をするべきだと申しているのです。勝つのは難しいですが負けるのは簡単です。その負ける要因を少しでも減らし、味方の被害を少なく済ますのも我々上に立つものの努めではないでしょうか?」
私の言葉に艦隊司令官側は一様に頷いて賛意を示した。矢面に立つのは我々なのだ。色々と思うところもあるだろう。
だがロボス元帥がバンと机を叩いて立ち上がった。
「クーロ元帥の言は一理あるが全部向こうに行ってから分かるものだ。それを確認し、現場で対応するのが君達の仕事だ。この遠征は決定事項なのだ。行くことが決定している以上、どのような結果を齎すのであれ行かねばならんのだ。」
目茶苦茶だ。支離滅裂ではないか。これを作戦会議と言うなら笑いものだな。ローエングラム元帥も知れば呆れるか笑うかのどちらかだろう。
「イゼルローン要塞より先に行き、帝国軍の作戦が判明してから適宜対応するのが最善だろう。クーロ元帥の質問にも答えたし、以上で会議を終える事とする。各自、遠征開始迄の間に万全の準備をするように。解散。」
そう言って勝手に解散して、会議室を出ていった。艦隊司令官の面々は不満げな顔を浮かべている。が解散を宣言され、総司令官が居なくなったので各々、周りを見渡しながら様子を伺いながら少しずつ出ていった。会議室にはシトレ本部長と私とヤンが残った。
隣に座っているシトレ本部長が天を仰ぎながら溜息を吐かれた。
「私が甘かったよ。イゼルローンを取れば戦火は遠のくと思っていたのだからな。私には自業自得だが君にはいい迷惑だな。前線では君の思い通りに指揮を取り給え。今回の遠征の不始末は私とロボス、総司令部の面々に取ってもらう。」
私も重い息を吐いた。
「その前に生きて帰れるのですかね?それが心配でなりません。」
「そうか、そうだな。そこは君の才覚でどうにかしてもらうしかないな。ヤン、君にも厄介事を任せることになる。頼む。」
近寄ってきていたヤンに声を掛けた。
「本部長……」
「私はこれでもそれ相応の苦労を長きに渡ってしてきた。君にも階級、才能相応の苦労をしてもらわんとな。第一不公平というものだ。」
硬い空気を和ませる為だろう。それがヤンにも分かったのか苦笑している。
「不公平ですか。」
「さあ、君達は行きたまえ。私はもう少し此処にいる。」
ヤンと顔を見合わせた。1つ頷いてから敬礼をする。私達の敬礼に座りながら答礼を返してきたので手を下ろして踵を返し、出口に向かう。退出した瞬間に後ろから声が聞こえた。
「無事に帰ってきてくれ。武運を祈る。」
厳しい顔をした本部長の姿が一瞬だけ見えた。