宇宙歴783年 テルヌーゼン
校長室の前に来た。ノックをして返事を待つ。入りたまえと声が聞こえたのでドアを開けて部屋に入った。
「失礼いたします。ユーリ・クーロ准将です。」
敬礼をして入室の挨拶をすると直ぐに答えてくれた。
「来たか、クーロ准将。そこのソファーに座りたまえ。コーヒーを出そう。インスタントで悪いがね。」
そう言ってマグカップに2つコーヒーを入れて持ってきてくれた。
「さて、昨日の話の続きなのだが。イゼルローン要塞攻略に反対の理由を教えてくれ。」
しっかり此方を見据えて問いかけてきた。それに対して真摯に答えるべきと考えて発言した。
「閣下もイゼルローン要塞をご覧になったことがあると思いますがあれは大部分を流体金属が周囲を覆っています。防御力は高いでしょう。更に浮遊砲台が多数あり此方を攻撃する術があります。何よりトールハンマーの威力が凄まじいの一言です。あれでは此方が攻略に移る前に一撃を喰らいます。そして駐留艦隊の15000隻が横槍を入れる形や逆に浮遊砲台、トールハンマーが横槍を入れるといった具合に様々な要因が絡み合って、あの要塞を難攻不落足らしめています。」
シトレ校長が眉間に皺を作りながら質問をしてきた。
「私としては要塞主砲を撃たせない状況を作りそのままの状態で要塞を攻略する事を考えている。具体的にはトールハンマーの射程圏内ギリギリを出入りするD線上のワルツ・ダンスを行い、帝国軍を挑発し、期を見て混戦に持ち込む。」
ここまでは良いかと視線に力を入れて此方を見た。それに対して頷き返すことにした。
「敵は混戦を解こうと急速後退を図るだろう。その流れで要塞に取り付き攻略をする事を考えている。」
この作戦案はどうかと尋ねてきた。
暫くの沈思黙考を行い、説明された作戦の是々非々を考えて答えを出した。
「閣下、残念ながらその作戦案はお止めになった方がよろしいかと思います。」
私の答えに一瞬だが不愉快な気持ちが表に出た。手を組み顎を乗せて尋ねてきた。
「何故かね、准将?」
大きく息を吐き出してから答えた。
「まず間違いなくその状況になれば敵は味方諸ともトールハンマーで敵を吹き飛ばします。」
まさかの答えを言われたからかシトレ校長が目を見開いた。
「味方殺しをするというのかね?一隻、二隻ではなく数千隻は纏めて撃つことになるが?」
シトレ校長の疑問を大きく頷く事で肯定の意を示した。
「帝国は帝政を敷いています。そして要塞を落とされたら間違いなく要塞司令官と駐留艦隊司令官は死を賜るでしょう。銃殺か斬殺か自殺かは知りませんが生きていることはないかと。同盟では降格、軍籍の剥奪位ですむかも知れませんが。」
シトレ校長は目を閉じて俯いた。
「一度目の味方殺しを受けて、同盟軍は混戦状態を維持できると思いますか?恐慌に陥らないと思いますか?私は雪崩を打って後退し、混戦状態が解消されることによる作戦の失敗まで見えます。」
シトレ校長はまだ俯いたままだ。
「以上の点から作戦案の修正、もしくは抜本的な見直しを為されるべきかと愚考いたします。」
まだ黙ったままだ。空気が重いが言っておかないと何時巻き込まれるか分からないから明け透けに言ったが誤りだったのかなと思った。
1分か5分か分からないが経ってから顔を上げられた。
「クーロ准将、君ならイゼルローン要塞はどう攻略するかね?」
代わりに作戦案を出せってことなのか変な質問をしてきた。それに対して正直な考えを答えた。
「小官はイゼルローン要塞の攻略はしません。攻めても落とせるか分からない要塞を四苦八苦するよりも軍事力の強化に努め、同盟領内に進行してきた敵の遠征軍を撃滅する事に専念します。その方が同盟にとって人的資源も物的資源も損失が小さく、敵に与える影響が大きいと思うからです。」
シトレ校長は私の答えを聞き、腕を組み直して唸るような声を上げて考え込んでいる。それから1分位してから腕を解いた。
「君の考えは分かった。一考の価値がある意見と思おう。今日は帰っていいぞ。長い時間すまなかったな。気をつけて帰ってくれ。」
そう言って立ち上がり自分の執務机に向かった。私も立ち上がり敬礼をし、退室する旨を伝えた。
「失礼いたしました。」
踵を返して、部屋を出た。時計を見ると2時間近く経っていた。 20時に近い時間で早く帰ろうと教官室から鞄を取り、校舎から出た。
校門の前に一人の影がある。見るとジェシカが門にもたれ掛かっている。
「何をしているんだ。日も落ちて暗いから早く帰りなさい。」
そう注意をして帰りを促した。それが不満だったのか頬を膨らませてから文句を言ってきた。
「貴方を待っていたのよ。折角だから少し話そうと思ってね。それを早く帰れだなんて。」
「そうなのか?わざわざ待たなくても良かったのに。君も女性なんだからここまで遅くなったら帰った方がいい。次は無いようにしてくれ。いいね?」
私の言葉に頷いてくれた。そして腕に下げているバッグから通信端末を取り出した。
「連絡先を教えてちょうだい。それならお互いに待つことも待たせることもないでしょう?」
そう言って端末を私の方に差し出した。それに思わず笑ってしまった。
「分かった。交換しようか。代わりに今回のような遅くまで待つのは無しだ。いいね?」
そういって連絡先を交換するとジェシカは嬉しそうに笑いながら私にありがとうと言った。それに対して私はどう答えていいか分からず、 あぁとしか返せなかった。
今日の最後の任務は彼女を家まで送ることのようだ。