銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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帝国領侵攻 未知なる航海

宇宙暦796年 イゼルローン回廊 アトラス

 

イゼルローン要塞から全艦隊が発進した。これから未知の航海へと行く。帝国領のデータはイゼルローン要塞内のデータベースに有ったので各艦隊の占領地を決めて回廊を出たら各々任地へ赴く。9個艦隊を3陣に分けて行動している。

第一陣はウランフ、ルフェーブル、ヤンの3個艦隊。第二陣は私、アル・サレム、ホーウッド。第三陣はビュコック、ボロディン、アップルトンで進んでいる。

最悪の事態を想定して私の艦隊は幾つも部隊を分けながら回廊を移動している。

それを見ながらのんびりと昼食のホットドッグとコーヒーを取っていると通信が入った。

「閣下、第5艦隊司令官ビュコック中将より通信です。」

通信士が此方に報告してきたのに返事を返す。

「モニターに繋いでください。」

「はっ。」

返事をして繋ぎにかかる。数秒で正面のモニターに同盟の老提督が映った。

「これは副司令長官、食事の最中だったとは。もう少し後に再度通信し直しましょうか?」

口元を拭い、ビュコック提督に返す。

「気にしないでください。少し仕事が押して昼食が遅くなっただけですので。それに敵地にいるのです提督との話し合いが最優先ですよ。それで用件は何でしょうか?」

ビュコック提督に気にしないでくれと言い、問い掛けるとビュコック提督が質問をしてきた。

「先程から幾つも艦隊を分けておりますが何をしておられるのですか?」

「ここは同盟軍が帝国領から撤退する時の最後の関門です。しかしここは回廊でほぼ中心地は真っ直ぐで戦闘もなかったから回廊自体も綺麗な物です。これがどういう意味か分かりますね。」

「撤退戦追撃戦になった時に同盟軍に利するものが無いということですね。」

険しい表情にしながら答えられた。そのとおりだ。イゼルローン回廊帝国側の中心部は帝国が整備したのか艦隊の移動をスムーズに行えるように綺麗な状態になっている。しかしながら同盟側は幾度と繰り返された要塞攻略戦で被害を受けた同盟軍帝国軍の艦船、主に同盟軍の艦船の破片や残骸が多数散乱している。

帝国軍がある程度回廊の哨戒任務等で掃除をしているが中々に汚い。分かりやすく言うなら汚い部屋のゴミを四方八方に寄せただけの状態だ。

その点、帝国側は戦闘が無かったので比較的綺麗なもので、漂流物や小惑星、岩塊等は綺麗に払われている。此等を撤退戦に上手く使えないか艦隊を分けて偵察に行かしたのだ。

「ふ〜む、閣下がそこまでなされているとは。小官にも何かお手伝いできる事はありますかな?」

「何かされるのでしたら御自身の担当域で万全を期して頂きたい。ビュコック提督に退場されると私も帰還後に困りますので。」

「まだまだ楽をさせてくれんとは。小官としては閣下のような若くて有能な者に後事を託して楽隠居をと考えておったのですが。」

ビュコック提督の言葉に苦笑してしまった。

「もう暫くビュコック提督の老練なる用兵を使わせて頂きたい。後継はヤン提督や我が艦隊のクブルスリー副司令官、チュン参謀長、ワイドボーン参謀、ラップ大佐等少しずつ育ってきておりますので一人前になる迄よろしくお願いしたい。」

「閣下がそこまで考えておられるならもう暫くは頑張ってみましょうかな。」

「よろしくお願いします。それより提督を後方に配置した理由、察していただけていますかな?」

少し厳しい視線を送るとビュコック提督の顔が引き締まった。戦闘モードに入ったのだろう。

「儂に退き口を確保せいと云うことじゃろう。」

ビュコック提督の返答に嬉しくなった。当然の答えだがしっかりと理解してくれている事に安堵して頷いた。。

「そこに関してはしっかりと手を打つ。いざというときは安心して飛び込んでこられい。」

ビュコック提督の答えに笑みが溢れた。

「よろしくお願いします。」

そう言って他にも幾つか話してから通信を切った。

 

 

「そもそも私は艦隊の編成を計画していたんだ。」

イゼルローン回廊の出入り口まで後1日の時に私がボソリと呟くと司令部の面々は顔を見合わせた。

「それは新規艦隊をと云うことで?」

チュン参謀長が質問してきたので頷きながら答えた。

「欠員が出た正規艦隊がありますから。クブルスリー大将を司令官にして、分艦隊司令官の誰かを副司令官とする予定でした。分艦隊司令官はクブルスリー大将の部下から適任を選ぶ予定でした。」

司令部の面々が顔を見合わせている。

「それとチュン参謀長も正規艦隊司令官に転出してもらい、この艦隊の分艦隊司令官に副司令官をしてもらう予定でした。」

続けて話した内容に皆が驚きの顔をした。

「閣下、それではこの艦隊がスカスカになりますがよろしいのですか?」

チュン参謀長が代表して質問してきた。当然私の中に案があるからこの計画を立てたのだが。

「残った分艦隊司令官に副司令官をしてもらい、ワイドボーン准将、カールセン准将に分艦隊司令官をしてもらう予定でした。空いた参謀長にはラップ大佐を当てる予定だったのです。副官はスーン・スールズカリッター少佐に任せる。ラップ大佐の部下の中では優秀だと聞いているからな。」

私の消えた腹案に皆が顔を見合わせた。まあ、絵に描いた餅だ。

「それよりも分離した艦隊から連絡はあったか?」

とある作戦の担当者である参謀のワイドボーンが手元に集積されているデータを見ながら報告をしてくれた。

「大凡データと一致している為、作戦の実施に問題はないと判断してよろしいかと。最終的な裁可を閣下に頂きたいのですが。」

そう言って端末を私に差し出してきた。それを受け取り、内容を丁寧に確認してから許可を出す。

「ならそのまま進めてくれ。」

「はっ、計画を進めさせていただきます。」

そう言って端末に指を走らせ、命令を伝達させていった。

「閣下、ウランフ提督より通信が入っております。」

「直ぐに繋いで下さい。」

通信兵からの報告に返事をし、直ぐに画面にウランフ提督が映った。同盟軍の最前線を行軍している方からの通信だ。今の時刻なら恐らくは回廊を出て、周囲の索敵を済ました連絡だろう。

「副司令長官閣下、帝国側回廊出入り口付近に敵影は有りません。方々に偵察機並びに偵察部隊を出したのですが……」

「此処までは情報通りという訳ですね。」

沈鬱そうな顔をしている。私の推測並びに情報通りならここから更に悪くなるのだから仕方ないと云えば仕方ないが。

「予定通り、我々は侵攻してよろしいでしょうか?」

「お願いします。くれぐれも先の宙域の警戒を怠る事のないように。」

私の忠告に顔を少し緩ませながら頷いた。

「委細承知しております、では。」

そう言って敬礼をしたので答礼をして通信が切った。

 

 

我々が担当する宙域まで後1日の距離になり、降下の手順について話し合う事になった。まあ、散々っぱら計画してきたので最終的な確認となるが。

「先ずは陸戦部隊を第一陣で降下させ、第二陣に補給部隊、第三陣に我々並びに運営部隊となります。」

進行役のチュン参謀長が手元にある端末に記載されている項目を順に読み上げていく。

「陸戦部隊は千人から降下させ、第二陣以降の降下部隊の降下地点の安全確保を第一目標として任にあたります。」

チラリと我々に目線をやり、問題があるか確認する。無いと判断して次に進める。

「陸戦部隊が外縁を防衛拠点化を進めながら内部で補給部隊が焦土作戦を行い、食料が無いと思われる帝国市民に食料の配給を行う準備をする予定です。第一陣の降下時間は0900時、第二陣は1100時の予定です。第三陣の降下時間は1300時を予定しております。その後、閣下が惑星を治める帝国貴族との会談並びに打ち合わせを行う予定にしております。」

チュン参謀長が全員の顔を見回す。最後に私の顔を見て来たので頷く事で問題無し、次に進むように促す。

「現在、クブルスリー副司令官が担当宙域に到達。そのまま進行を続け、哨戒網並びに監視網を形成する予定となっております。」

クブルスリー副司令官は4500隻を指揮しているが我々の担当宙域の帝国側に行っている為に不在、分艦隊司令官たちも回廊からここまでの進路に仕掛けを施している為に不在、直轄部隊6000隻も4500隻が此方側から回廊に向かって仕掛けを施している為に不在。

現在1500隻の極めて少数で目標の有人惑星に向かっている。

「こんな少数の時に敵の艦隊と遭遇戦になれば一巻の終わりですな。」

チュン参謀長ののほほんとした言葉に私は失笑を零してしまった。

「彼は真面目だから任された警戒網、哨戒網の構築に一切の手抜かりは無いよ。百の出来の仕事を与えたら百の結果で返す男だ。何より今回は私が危険視している遠征だからな。百二十の仕事をしてくれるだろう。」

司令部の面々が私のクブルスリー評に頷く。彼の評価としては真っ当で軍内部の評価もその通りだろう。

「クブルスリー副司令官ははっきり言うと艦隊司令官としてはビュコック、ウランフ、ボロディンの3人、ヤンにも劣るだろうな。しかし私の戦術プランをしっかりと勉強し、理解しようと常日頃から努力している。先に上げた4人は正規艦隊司令官として必要な決断する能力がクブルスリーより長けているから評価が高かったんだ。」

私の急に始めた評価論に皆が顔を見合わせている。ラップが不思議そうに問い掛けてきた。

「今は違うと?」

「正規艦隊司令官は百万人を越す命を預かる役職だ。自分の決断や判断が多くの命を生かすも殺すもそれ次第になる。だが彼は自分の能力の足りなさを自覚し、私の考案した柔軟防御や遅滞防御、逆撃防御等の幾つもある防衛方法や敵の心理を突いた攻撃や此方の陣形変更における敵の逡巡を組み込んだ崩し方も理解していった。今の彼ならローエングラム元帥の相手は荷が重いかもしれないが彼の傘下の部下なら一方的に負けるなど無いし、十分に対応出来る。勝つチャンスもあるだろう。」

ワイドボーンが疑問を投げかけてきた。

「クブルスリー副司令官の評価が閣下の中で余りに高いので驚きました。そこまで評価なされていたとは。」

つい私は苦笑を漏らした。

「彼は私が分艦隊司令官として配属された時からの部下だ。チュン参謀長と同じ位の付き合いだ。彼自身、副司令官として五千隻近くを預かる自分に物足りなさ、実力不足に悩んでいた。正直に云うと私も彼の基本に忠実なだけの所に懸念を抱いていた。」

皆が神妙な面持ちで話を聞いている。誰もが多かれ少なかれ抱く思いだ。

「彼と二人で食事に行った時に正直に訊ねると自分でも理解していたがどうやって其処を埋めればいいのか藻掻き苦しんでいたよ。一朝一夕で埋めれるものではないし、艦隊司令官としての感性の部分も多分にある領域だからな。経験が活きる時もあれば経験が足を引っ張る時もある。思い切った果断さが必要な時や臆病な位の慎重さが必要な時もある。そういった事を悩むのは死んでからか生き残ってからにするしかない。それが出来ないなら後方に回れと言ったな。」

我ながら中々に辛辣な事を面と向かって言ったものだ。

「彼がどう思い、感じたのかしれないが幾分か迷いが晴れたようだな。」

チュン参謀長が成る程と頷いている。ラップやワイドボーンもだ。艦隊司令官に必要な大きな要素だ。多くの命を預かり、大きな決断を迫られる。その時に自身で答えを決める。果てしなく難しいがやらないといけない立場だ。

「勉強になります。」

「君達にも勉強になったのなら話したかいがあったというものだ。」

私の言葉に皆が少し頭を下げた。気にするなと手を振り、降下前の指示を改めて出すことにした。

「明日には降下する。準備を終えた者から休息を取るように伝達しろ。降下部隊には改めて住民との問題は断じて許さんと厳命する。問題があれば適宜此方に連絡を取るようにと伝えろ。」

次々と命令を伝達すると各々が命令を遂行する為に動き出した。ここにいる者達を一人でも多く帰してやりたいと切に思った。

しかし同盟軍崩壊の序曲が始まった。

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