宇宙暦796年 辺境 目標宙域 アトラス
ジャン・ロベール・ラップ大佐
担当する宙域に到着し、先ず第一陣の陸戦隊が降下した。一応は補給担当者もいるから住民から接触があれば此方に連絡をする手筈も整えている。
次々に降下艇が惑星に降りていく様子を見ながら朝食を取っている。第一艦隊司令部の面々はサンドイッチとコーヒーのメニューを取りながら作戦の進行を見ている。
降下して1時間が経ったが問題があったと連絡はない。
第二陣が降下し、第一陣が建設した陣地に大型のテントや物資集積所を建設中と連絡を受けた。もう正午を過ぎ、此方も昼食にするかと話していると、下の補給部隊の佐官と陸戦隊の隊長が一緒に連絡をしてきた。
どうやらこの地の貴族が使者を出し、諸々の話し合いをしたいという事らしい。それに先がけて帝国軍が我々の領地から食糧を徴発していった為に食糧の供与をお願いしたいということらしい。
閣下は通信を繋いで詳細を聞きたいと命じ、食糧配布の準備を行うように指示を出した。本当にするかどうかは下の責任者から話を聞いてから決めるそうだ。
『クラインゲルト子爵の執事を勤めるモンタークなる御仁が子爵からの親書を預かっており、中を閣下にご披見してほしい旨を伝えて参りました。』
補給部隊の佐官が使者からの言葉を閣下に伝えている。
「話し合いに関しては夕刻に御伺する旨を伝えて下さい。降下して1時間は貴方方から状況の確認をする。それからそちらに伺うので18時頃になると。」
『承知いたしました。それで補給に関してはどういたしましょうか?』
補給部隊の責任者として気になるところだろう。不安そうな雰囲気が隠せていない。仕方ないか…クラインゲルト子爵の領民は一千万人に近いらしく、この近隣の辺境の領地では中々に規模が大きいらしい。
「今日、明日は食糧を供与します。しかし、此方も此方が飢えてまで食糧を供与する訳にもいかない。その旨を伝えて領地の海や川、山などから食料を手に入れる算段の許可を頼む事になると伝えてください。」
『かしこまりました。他にお伝えする事はございますか?』
補給部隊の責任者として気になる事は全て聞いておきたいのだろう。準備が必要になることもあるかもしれないから。
「現在駐屯している場所を使用する許可と周りに畑を作り、大規模農場を作る予定である事も伝えてください。」
その為の設備を持ってきている。撤退する時はそれを置いて帰るつもりの様だ。クラインゲルト子爵に管理してもらい、領地の発展に使ってくれということのようだ。
『かしこまりました。では閣下の降下時間まで準備を進めさせていただきます。』
そう言って敬礼をし、通信を終えた。陸戦隊の隊長は何も言葉を発さなかったが立ち合いのつもりなのだろう。互いに連係を深め齟齬が生まれないようにする。大事な事だ。
「とりあえず順調に進んでいると言えます。我々はクラインゲルト子爵との会談に備えて準備をしてください。よろしいですね?」
閣下がそう言って周りを見渡した。皆が頷き、準備に取り掛かった。
宇宙暦796年 クラインゲルト子爵領 クラインゲルト子爵邸
クラインゲルト子爵
モンタークが降下した自由惑星同盟軍の陣地から帰ってきた。
「モンターク、どうであった?」
「旦那様、この地に来られたのは叛乱軍の名将ユーリ・クーロ元帥だとか。」
「なっ、当代無双の名将と謂われるクーロ元帥か!?」
驚愕の声を上げ、モンタークに問いただすと暗い表情で頷いた。
「この領地も終わりかな。」
「いえ、それが……、降下した部隊の者によれば我々にそのまま領地を治めてもらいたいと言っております。」
モンタークが困惑顔で告げた内容に驚いた。
「私は処刑される覚悟をしていたのだが……」
わたしがした覚悟が宙に浮いた。
「クーロ元帥が申すにはクラインゲルト子爵の領地は圧政をする事もなく、良く領地を治めておられるので、このまま治めてもらいたいとの由に。詳しい事は元帥が来訪した時にと申しておられました。」
肩透かしをくらった形になったが此方にとってもいい内容で安堵した。
「私は自身の処刑も覚悟していた。私の命と引き換えにフィーアやカール、領民の安全をと。それが……」
「夕刻に此方を訪ねるとのことにございます。準備に取り掛かりましょう。」
モンタークがそう言ったのでそれに頷き、準備に取り掛かることにした。
夕刻になり、自由惑星同盟軍の代表者達が屋敷を訪れてきた。外が茜色に染まっている。
モンタークが案内をしに行った。もう間もなく、この部屋に連れてこられるだろう。
コンコンと音がして、扉が空いた。モンタークが扉を開け、中へと誘導する。二人の青年がスッと中に入り、部屋を見渡した。安全確認の為とは云え、あまり気持ちの良いものではないな。
後ろを向き、一つ頷くと一人の壮年の男性が後ろに4人を率いて入室してきた。
私の目の前に来ると、サッと敬礼をし、自己紹介をし始めた。
「自由惑星同盟軍宇宙艦隊副司令長官ユーリ・クーロ元帥であります。今回の帝国領遠征軍の前線総司令官も兼任しています。」
「この惑星を管理しております、クラインゲルト子爵です。クーロ元帥、先刻にモンタークを使者として送った折に領民の生活の安全、我々の生命の保障をしていただいたと聞きましたが事実で相違ないのでしょうか?」
若干表情を緩め、頷かれた。
「それに関してはお約束します。子爵が責任者として我々と交渉に当たり、領地を治めていただきたい。詳しい内容は時間が掛かるので座ってお話できればと思いますが?」
「これは失礼した。此方のテーブルで話し合いをする事に致しましょう。」
そう言ってテーブルの方に案内をする。此方は私とモンタークがあちらはクーロ元帥、チュン参謀長、補給部隊の責任者のジェイク大佐が担当者として我々の交渉相手になるようだ。
「今現在、降下した部隊が降下地点を中心に基地、拠点化を進めております。事後承諾になりますがあの場所を駐留拠点とさせて頂きたい。」
そう了承を得ようとしていたので頷いて返事をした。
「分かりました、許可致します。」
「ありがとうございます。傍の大きな池も生活用水として使わせていただきたいのですが、そちらもよろしいでしょうか?」
「はい、お使いなっていただいて結構にございます。」
そうして次々に互いに確かめ合う項目を一つ一つ丁寧にクリアしていき、互いに妥協点を見つけていった。
農作物や既製品の食料は帝国軍に徴発された為、鳥獣、魚介類を狩猟し、食料に充てる事になった。
3食の内、2食は同盟軍が用意をする。
基地の外の広大な土地を大規模農場にし、クラインゲルト子爵領の農民にも管理を手伝ってもらう事が決定した。
想像していたよりも緩い内容で困惑している。それを察したのか説明してきた。
「帝国軍。いや、ローエングラム伯は辺境で焦土作戦を行い、同盟軍に補給の負担を強いる事を狙っているのです。我々の補給部隊の第二陣が一月以内に来るのでそれが問題なく来れば作戦の継続、ローエングラム伯に断たれればこれ以上の作戦の継続は困難とみて、撤退の算段になっているのです。」
「つまり元々撤退する予定だから我々を処分する必要性がないと、そういうことなのですかな?」
「その通りになります。我々が撤退した後を任せる人物が必要なので。」
話し合いが終わり、クーロ元帥が帰られる事になり、席を立たれた時に扉が開いた。
孫のカールが入ってきた。
「御爺様!お仕事は終わりましたか!」
後ろから慌ててフィーアもやって来た。
「カール、待ちなさい。」
フィーアが部屋の入り口に立った時にはカールはクーロ元帥の前に立っていた。
「おじさんは誰?」
そう質問をしていた。すると両脇に手を差し入れ、カールを高く掲げた。
「ユーリ・クーロと言う。よろしく、カール君。」
そう言って挨拶をしていた。
胸元で抱え直し、私の方を向いた。
「お孫さんですか?」
「え、ええ、孫のカールと言います。」
「それではあちらが母親の?」
「はい、戦死した息子の嫁のフィーアと言います。」
フィーアがクーロ元帥に一礼をした。
「どうかな、カール君?明日、私の艦に乗ってみるかい?」
クーロ元帥がカールを誘っていた。
「いいのっ!乗りたい!」
「なら御爺様とお母さんにお願いをしてみなさい。」
「御爺様、お母様、おじさんの艦に乗ってもいいですか?」
カールは好奇心を抑えきれないのかワクワクしながらお願いをしてきた。
「よろしいのですかな?」
私の疑問にクーロ元帥は笑顔で答えられた。
「構いませんよ。1週間は暇でしょうし、此方の住民との交流も仕事の一つと取っていただけたら。」
「でしたら孫をよろしくお願いします。」
「かしこまりました。大切なお孫さんを一時預かります。心配ならお母様もご一緒にどうです?危険のない所しか案内できませんが、まぁ一種の娯楽と取っていただければ。」
フィーアが心配そうに此方を見ている。私が頷くと決心がついたのか頷いてクーロ元帥に返事をした。
「ではカールと一緒にお邪魔させていただきます。」
「では明日のお昼過ぎ13時にお迎えに参ります。その後、夕刻から海で捕れた海産物を炉端焼きにして領民達と懇親会のようなものを開きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「そちらから歩み寄って来ていただけるなら、此方に拒む理由はありません。良しなに願います。」
「では決まりですね。カール君、明日のお昼過ぎに艦の見学をして、夕方から外でバーベキューをしようか。」
孫が無邪気に喜ぶ姿を見ると長きに渡って叛乱軍として戦ってきた相手だということを忘れてしまいそうだ。息子を殺したのも叛乱軍なのに。
孫と約束をし、カールを下ろした。どうやら帰られるようだ。カールが泊まっていってほしいと我儘を言っているが、また明日来るからとあやしている。
誠実に此方に対応しようとしている同盟軍と圧倒的に勝つ為に守るべき領民の食料を徴発する帝国軍、どちらが征服者でどちらが守護者か分からなくなってしまいそうだ。
ローエングラム伯ラインハルト元帥。名将ではあるのだろうが辺境で焦土作戦をとり、多くの民衆を苦しめている。とてもではないが信用出来ない。若いからか勝つ事に血眼になっているのかな。
そんなことをつらつらと考えていると夜も更けてきた。