銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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大変お待たせしました。銀英伝、次の話の予定は同盟、帝国の後日談的なのを入れる予定です。

お楽しみに。


撤退戦

宇宙暦796年 旗艦アトラス ユーリ・クーロ

 

 

「艦隊を陣形と編制を再編します。」

私の言葉に司令部要員全員が聞く態勢になっている。

「左翼にボロディン提督、右翼にクブルスリー提督、チュン参謀長はボロディン提督の下に行って下さい。」

「閣下、それは!」

私の言葉にチュン参謀長が驚きの声をあげる。

「私の戦術は緻密にして繊細。大胆であり高速です。それを遅れなく熟すには私の戦術に精通した人間がボロディン提督の艦隊には必要です。適任は貴方を置いて他にはいない。」

「この艦の参謀長はどうなさるのですか?」

「ラップ大佐に務めてもらいます。いずれは務めてもらうつもりで鍛えていたのです。問題ありません。ワイドボーン准将は本隊から1500隻を抽出し、分艦隊司令官に。」

「ハッ!」

「承知しました。」

両名とも驚きつつも私の命令に敬礼し、それに応える。

皆が私の命令を元に動き出した。1時間程で艦隊の編成が終わったと各艦隊から連絡があった。

「私の予想では6時間近くは敵の姿をみることはないでしょう。なので各員2時間ずつ休憩をとることにしよう。飲酒もグラス一杯は許可する。」

「よろしいのですか?」

今回、参謀長に臨時で任命したラップが尋ねてきた。

「構わん。これからローエングラム伯率いる大軍と後退戦をすることになる。どれだけ被害が出るかは分からんが、多くの人が死ぬことになるだろう。つまり最期の刻になる。僅か2時間だがせめて自由な時間をな…………。」

私の言葉に艦橋がシーーーンと静まり返った。

「………ではその様に指示を出してきます。」

ラップが気不味そうな空気の中、命令を出しに行った。

私も食事を取り、自室に戻って酒を一杯飲み、席に戻ってこよう。皆が交互に休んでいる4時間を自席でうたた寝でもするか。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦アトラス ジャン・ロベール・ラップ

 

 

4時間が経ち、各々最後の休憩を取り終わった。閣下がモニターでここ迄の航路の確認、これからの航路の確認を副司令官、分艦隊司令官と行っている。クブルスリー提督、ボロディン提督はキビキビと熟しているが臨時で分艦隊司令官に任命されたワイドボーンは若干緊張しているのが画面越しにも伝わってくる。

「ワイドボーン提督。私は君を長く見てきた。君は若手の将官では飛び抜けて優秀だ。ヤン、ラップと並んで三傑として私の後任を任せたいと思う程にな。」

「こ、これは恐縮です。」

閣下の褒め言葉に更に緊張でガチガチになってしまった。

「3人を比べてみると統合作戦本部長は君しかいない。ヤンでは好戦派の抑えや皆の勤労意欲が削がれるだろう。ラップは人当たりが良いから適任かと見られるだろうが押さえつける事に不安がある。飴と鞭を使い分けれる人物が就くべき職だ。」

閣下の言葉にクブルスリー提督、ボロディン提督が考え込んでいる。

「我々は軍人だ。力を扱う職業である以上は鞭の部分が多くなる。これは致し方ないがヤンでは統制が取れず、ラップでは甘くなる。それを考えると君が軍部のトップに立つのが至極当然だと私は考えている。」

「しかしヤン提督の方が上官で先任になります。」

ワイドボーンの言葉に閣下は頷く。

「確かに先任だが適材適所というものがある。ヤンには司令長官で全軍を指揮し、ラップを副司令長官がいいかな?これならヤンも書類仕事はラップに押し付けることが出来ると渋々引き受けるだろうな。」

「自分は書類仕事要員ですか!?」

つい話に入ってしまった。

「おいおい、偉くなると現場より書類仕事が多くなるのは当然だ。私も多くの時間を掛けて行っているだろう?」

「それは……そうですが………。」

「それにヤンとラップを逆にしてみろ。ヤンの奴、全部司令長官の決裁印を貰えってお前に流すぞ?想像がつくだろう?」

閣下の言葉に皆が思い至ったのか失笑した。私もだ。ワイドボーンも幾らかリラックス出来たようだ。

「まあ、これは生きて帰り私が軍を掌握してから20年近く経った後になる話だ。60くらい迄は軍人をやるからな。その時はお前達は50だ。10年頼むぞ。」

そうだな。それくらいになったら閣下の戦略、戦術を理解する域には到達しているだろう。名将と呼ばれているかもな。

楽しい未来なのだろうが先ずは生きて帰らなければ。

「閣下!監視センサーに反応!帝国軍です!ここ距離ですと1時間程で此方から視認できる距離に来るものと思われます。」

距離はあるが敵が来た事で緊張感が出てきた。

「予定通りこのままの速度で後退します。13艦隊にも連絡を入れろ。」

皆が動き出した。もうすぐこの遠征最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦アトラス ユーリ・クーロ

 

 

帝国軍が視認出来る位置に来た。といっても最大望遠でスクリーンに映る距離だが。

「全周波通信を。」

「敵にも聞かれてしまいますが?」

「構わない。敵にも聞いてもらおう。その方が面白くなりそうだ。」

私の言葉に驚き、続いた言葉に困惑顔をしているが動き出した。暫くすると戻ってきた。

「準備出来ました。」

「ありがとう。」

感謝の言葉を口にし、席から立ち上がった。

「諸君、私は自由惑星同盟軍宇宙艦隊副司令長官ユーリ・クーロ元帥だ。デブの馬鹿と夢を見るだけしか脳のない阿呆の作戦により我々は多くの兵を失った。今回の遠征に参加した半数以上を失った。」

私の言葉に重い空気と沈黙が流れた。

「そして這々の体で帰る我々に、功に逸るローエングラム伯率いる艦隊が眼前に迫っている。その様は餌を欲しがる豚が如しだ。」

私の例えに艦橋にいる皆が失笑した。

「閣下、中々に酷い例えです。」

参謀長に任じたラップが注意をしてきた。

「ふむ、そうだな。勇猛果敢なローエングラム伯配下の将だからな豚は失礼か………なら猪だ。うん、猪。猪が如く向かってきている。」

偉丈夫なカールセン艦長も実直なラップも苦笑を禁じ得ないみたいだ。

「さて冗談はこれくらいにしておく。現在ローエングラム伯率いる9個艦隊が我々を殲滅すべく此方に向かっている。それに対して我々は2個艦隊が殿の役目を担っている。だが安心するといい。率いるは数々の奇跡を起こしたミラクルヤンと当代無双と評される私クーロ元帥だ。しかもイゼルローンの防衛圏に入る2日程でいいという。」

敵の規模に恐れ慄き、私とヤンの黎明に歓喜する。一兵とは何と軽い感情で動くものか………。

「私もヤンも諸君を一人でも多く生きて返す為に最善を尽くす。だから君達も死にたくなければ己が部署でベストを尽くしてくれ。」

ザッと敬礼をすると皆が一斉に返礼をした。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦トリスタン オスカー・フォン・ロイエンタール

 

 

「見事だな。」

眼前で行われている戦闘を端的に評する言葉を漏らした。それに対してミッターマイヤーが険しい顔をして頷いた。

第一陣のケンプ、ワーレンが戦闘を始めて1時間が経ったが形勢は圧倒的に叛乱軍に傾いている。クーロ元帥、ヤン中将の芸術的な艦隊運用に2人共に翻弄され、被害が大きく出ている。

何方も素早く陣形を次々と変え、敵を自由自在に翻弄している。ケンプもワーレンも半数近く撃ち減らされている。もうすぐ諦めて交代を願い出るだろう。

「緻密にして大胆、繊細にして奔放、俊敏にして巧緻。ケンプ、ワーレン程の用兵巧者がこうも翻弄されるとは…………。」

ミッターマイヤーが敵将を褒め、味方が良いようにやられている様を見て苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「次は卿だろう?大丈夫か?」

言葉だけは心配な振りをした。ミッターマイヤーだ。こう言っては悪いが第一陣の2人とは違う。コイツなら一方的にやられる無様は曝さないと信頼しているから念の為に口にしただけだ。

「エヴァが待っているからな。死ぬ訳にはいかんよ。」

「確かにそうだな。奥方に約束もしたから、もし卿がピンチになれば必ず助けに行く。」

私の言葉にミッターマイヤーが笑っている。そういえばそんな約束をしていたなと思い出したのだろう。

「そうか、なら思いっきりやれるな。いざという時は頼むぞ。」

最初は笑いながらだが、後半はスイッチが入ったのか真剣な顔で言ってきた。

「ああ、任せておけ。武運を祈る。」

そう言ってから敬礼をする。画面に映るミッターマイヤーか返礼をし、どちらともなく通信を切った。

直ぐに第一陣と第二陣が入れ替わる為に動き出した。敵は敗走と言っても差し支えない第一陣への攻撃より後退を選んだようだ。スルスルと此方と距離が開いていくのが分かった。入れ替わりに1時間は掛かるだろう。そこから追撃をするとなると次に敵と会敵するのは3時間後くらいか………ミッターマイヤー、無茶はするなよ。柄にもなく不安が胸中を占めた。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦ベイオウルフ ヴォルフガング・ミッターマイヤー

 

 

眼前のモニターにレマー准将、ドライゼン准将、ライドルフ准将、グロッセン准将、ウォロー准将、ディームラー准将が映っている。艦隊を編成する時、高速機動をするに当たって艦隊を分ける手間を無くすために少数を率いさせた新進気鋭の若手士官を登用した。それぞれ1500隻ずつ率いさせている。

「卿らも見て知っている通り第一陣のケンプ、ワーレンは敵に大した損害を与えれず敗退した。そして我々第二陣が追撃の任を代わり叛乱軍を追っている。遠からず敵に接触、戦闘になるだろう。卿らも理解しているだろうが敵は危険過ぎる程に危険な男だ。努々油断して無様を晒すことのないようにしろ。いいな。」

私の訓戒に皆が緊張の面持ちで返事と返礼をする。

隣の戦域はビッテンフェルトとイゼルローンを陥落せしめたヤン・ウェンリーか。此方の方が分が悪いか?ビッテンフェルトがよけいなことをしなければいいのだが。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦アトラス ユーリ・クーロ

 

 

「う〜〜〜む。上手くないな。」

つい愚痴が溢れた。隣のラップも面白くなさそうな顔で戦術モニターと私の戦術が収められたタブレットを交互ににらめっこしている。

「ラップ、どう思う?」

そんな彼に質問を振ってみた。どんな答えを返すかで彼の処遇の評価項目の一覧の一項が埋まる。眼前のミッターマイヤー艦隊との戦闘が始まって3時間は経った。結果は膠着状態に終始した。敵も味方も互いの打つ手に的確に対処した事により、戦況は良く言えば一進一退、悪く言えば消耗戦になった。とはいえ、此方は後退戦をしながらなので、全力戦闘とは程遠いが。

それを臨時とはいえ参謀長として、的確に評価し、適切に報告をするかどうか見ている。ことさら良く言う必要も悪く言う必要もない。有りの儘を報告すればいい。だがそれが出来ない人間も間々いるのよ。

「消耗戦になっています。敵味方に大きな損害はありませんが

敵に第三陣があることを考えれば、此方にとってあまり面白くない事態かと。」

合格だな。虚飾することなく報告してくれた。

「この後、我々はどうすべきだと考える?」

更に質問をすると、ラップは口元に手をやって考え込んだ。

「更に防御に徹し、後退速度を上げ、イゼルローン要塞の防空圏迄急いで逃げるのが1手。此方から攻勢を仕掛け、敵を撃破するのも1手。半日程行けば例のポイントに行きますので、そこで例の仕掛けを使うのが1手。以上3手が私の考えつく作戦案です。」

しっかりと自信を持って答えたラップに嬉しくなりつつも、年の功で心で不安が渦巻いているのが分かった。

「ラップ参謀長の3手は常道の3手だ。そして3つ目の作戦案を使う。がその前に私ならそこにもう1手を加える。ヤンに通信を。」

「はっ!」

直ぐに繋がった。ヤンもビッテンフェルト提督率いる黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)を寄せ付けていない。強引に攻め寄せようとする黒色槍騎兵艦隊の鼻先に痛烈な一撃を浴びせてあしらっている。ヤンの戦術をムライ参謀長とパトリチェフ副参謀長が落とし込み、副司令官のフィッシャーが忠実に実行している。このまま行けばヤンに形勢が大きく傾くのも時間の問題だろうが多大な時間を要するだろう。

『どうかしましたか、教官?』

モニターに映ったヤンが尋ねてきた。敬礼をして早々に。

「ミッターマイヤー提督が手強くてな。先に大きな黒猪を仕留めようかと思ってな。ヤン、後退速度を速めろ。それで分かるな?」

試すように言うと、苦笑しながら頷いた。

「あの巨体を仕留めるのに、鼻先を突付く程度じゃどうにもならんだろう?横っ腹に強烈な一撃をくれてやれ。」

『了解しました。13艦隊はこれより後退速度を上げ、離脱します。』

どうやらこちらの意図を汲み取ったようだ。こういった所は流石だな。一方のラップは怪訝な顔をして困惑している。

「分からないか、参謀長?」

「え!?ええ………。」

ラップが申し訳なさそうに言う。

「ヤンが後退速度を上げれば敵も前進速度を上げるだろう。それでもヤンに振り切られた時、黒色槍騎兵艦隊はどの位置にいる?」

そこまで言うと、ハッとした顔をした。気づいたか。

「そう、この艦隊の横にいるだろう。この数多くの褒賞を懸けられた首を持つこのユーリ・クーロが乗る第一艦隊の横にな。」

ラップがこれまでと違い険しい顔をしている。

「つまりこの艦隊の真横を攻めさせようと?」

「そうする為には艦隊を横に回頭する。そう、ヤンに横っ腹を見せる形になる。其処を急速前進したヤンが突く。」

ラップがぶるりと身体を震わせた。この狭い回廊内で横に回頭するには、速度を大きく落とし、ゆっくりと回頭する事になる。つまりヤンが前進し、黒色槍騎兵艦隊の横っ腹を突く時間が生まれる。モニターのヤンがニヤニヤしている。私に教えられるラップの姿が士官学校時代を想起させるのだろう。

「ではヤン・ウェンリー提督。私の艦隊の命運、預けるぞ。」

「はい、お任せ下さい。」

互いに頷き合い、通信を切った。信用も信頼もできる奴が隣にいると色々と楽だな。戦略的にも、戦術的にも、精神的にも。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 ケーニヒス・ティーゲル フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト

 

 

 

幾度も攻勢をかけるも、あしらわれる。しかし今回の攻勢は粘る姿勢を短時間見せ、急速に後退した。あまりの艦隊運用の見事さに、我が艦隊と距離がみるみる開いた。これでは追うのは無理だな。ヤン・ウェンリーとか言ったな。今回の戦争でも他の叛乱軍は誰かしらと戦ったのに、アイツだけは担当の星域を襲ったケンプを躱し、殆ど無傷で撤退したという。逃げ足が速い奴だ。

ふとモニターに映った回廊内の戦闘に目をやると、我が艦隊と距離が出来たヤン艦隊と隣でミッターマイヤー提督の艦隊と互角の戦闘を繰り広げるユーリ・クーロ元帥の艦隊が映っていた。そして我が艦隊がヤン艦隊を追って前に出たせいか、クーロ元帥の艦隊の真横に位置していた。これはこの戦争最大のチャンスではと、身体が熱く、震え、紅潮するのが分かった。

「全艦に命令だ!左に回頭し、クーロ元帥の横っ腹に突撃する!」

参謀長のグレーブナーが慌てた様子で意見を具申してきた。

「提督!ローエングラム伯からはこの回廊内は狭い為、無理せず眼前の敵を撃破する事に専念せよと命が出ております。」

回廊内に入る前に言われた命令を盾にし、諌めようというのだろう。しかしだ!

「眼前の敵に対処しろというが、逃げ去ったではないか!こうなっては、此方は戦況を鑑み、独自の行動を取るべきだ!」

「しかし………。」

「横っ腹を晒した大物がいるのだ。ここで奴の首を狙わんでどうするというのだ!」

私の意見に参謀長は口を閉ざし沈黙した。

「全艦に命令だ!回頭し、大物賞金首の首を獲る!勝利の女神が此方に微笑んでいる。大魚が無防備に横っ腹を晒しているぞ!皆功を上げる好機だ!機を逃すなよ!」

そう発するだけで、艦隊の士気が大きく跳ね上がるのを感じた。後は誰がこの宇宙1の大物の首を獲るかだ。

直ぐに艦隊が速度を落とし、ゆっくりと回頭を始めた。モニターに徐々に映ってくるクーロ元帥の艦隊を見ると笑みが溢れてくる。もうすぐあの男にこの私が致命的な一撃を与えることが出来るのだ。

「提督!後方のキルヒアイス提督より通信が入っております。」

「後にしろ。もうすぐだ、もうすぐ敵の大将首に手をかけるところなのだ!」

私の言葉にまた参謀長が入ってきた。

「閣下、キルヒアイスの通信を取るべきです。攻撃にはまだ幾ばくかの時間がありますし。」

ええい、クソ!!!

「分かった!通信を開け!!」

ヤケクソ気味に叫びながら命じると直ぐに繋がった。

「どうしたのだ、キルヒ『急ぎ後退を!!何故目の前の敵を放置したのです!』」

キルヒアイス提督が尋ねようとした俺の言葉を遮って、強い口調で言ってきた。前?なんの事だ?モニターに目をやると、驚愕の事態に目を見開いた。

「ばっ、バカな!?」

後退をしたはずのヤン艦隊が今にも射程圏内に入り、此方を攻撃する寸前だった。

「くっ!全艦後退だ!急げ!」

慌てて命令を出すも速度を落とし、真横を向いている状況下で素早く動けるはずも無く、後退は遅々として進まなかった。

そしてその瞬間、敵からの砲火が飛んできた。横っ腹を突くつもりが、逆に此方が突かれた。最初の一射で大きく被害が出ているのが分かった。モニターに次々と味方を表すフリップが消えていっている。栄光の階段を上がるつもりが奈落の底に転落した気分だ。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦ヒューベリオン ヤン・ウェンリー

 

 

火達磨の黒色槍騎兵艦隊を見て、艦橋は爆発したかのような歓声に包まれている。恐らく13艦隊全てがそうだろう。

様子を見るに一万隻近くを撃破しただろう。帝国軍人100万が死んだことになるのに、何故そんなに喜ぶのかと思う自分がいる。人を殺す軍人なのにそれを厭いながら、自身の才幹を発揮し敵を撃滅する、その現状に嫌気が差す。

敵も尻を見せながら慌てて後退していく。そして後方に待機していたキルヒアイス提督の艦隊が黒色槍騎兵艦隊を援護すべく前進してきている。それに対して此方は万全の体勢で受けるべきだ。あの教官が指揮官としての能力に偏りなく、全てにおいて傑出していると評した男だ。そして教官を追い詰めた男だ。

「全艦に攻撃を止めるように命令。敵後方の艦隊と相対するまでに諸々の準備を万全で待ち受ける。敵は教官に損害を与えたキルヒアイス提督だ。警戒しすぎてし過ぎということもない。」

ムライ参謀長、パトリチェフ副参謀長が命令を伝達する為に動き出した。

「中尉、紅茶を頼めるかな?」

「分かりました。」

グリーンヒル中尉に紅茶を頼むと、何故か嬉々として淹れに行ってくれる。それを横目で見送るとラオ中佐が近寄ってきた。

「次はキルヒアイス提督の艦隊ですね。」

常道ならそうだが、今回の殿を受け持っているのは私と教官の2人だ。

「君はそう思うのかい?」

「はい。副司令長官はミッターマイヤー提督を攻めあぐねていますから。」

ラオ中佐の言葉にフフフと笑い声が漏れてしまった。それを怪訝そうな顔で見ている。

「確かに攻めあぐねている。しかしそれは損害を殆どなく勝つ為の手が打てないだけで、勝つだけなら教官の力量なら難しくないよ。」

私の言葉に驚きの顔をしている。

「後退をしながら損害を少なくミッターマイヤー提督に勝つのは至難の業だ。だが教官は先程先に大きな黒猪を仕留めると仰られた。と云う事は………。」

「ミッターマイヤー提督を仕留める算段があると………。」

「間違いなくね。それも損害を少なく勝つ手段が。」

ラオ中佐が言葉を失った。驚愕で。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦アトラス ユーリ・クーロ

 

 

隣の戦域で火達磨になったビッテンフェルト提督が撤退を完了させ、キルヒアイス提督が前に出てきた。

それを確認し、グーーーっと手を伸ばした。

「さ〜〜て、そろそろ始めるぞ!」

全員が力強く返事を返してきた。やる気十分で結構な事だ。

「作戦開始!!」

「作戦開始!!」

ラップが復唱すると、オペレーターが動き出した。

直ぐに外周に退けられていた多くの隕石が爆発した。細かく砕け、高速で襲う物や割れずに移動し襲う物など様々な形でミッターマイヤー艦隊に襲いかかった。艦隊の後方を襲うタイミングで起爆させた為に、後退を躊躇している。

「全艦停止。眼前のミッターマイヤー艦隊を攻撃せよ。」

命じると直ぐに停止し、敵に向かって攻撃を始めた。それに対して敵は混乱の極致で碌な抵抗が出来ずに撃ち減らされている。後方の艦隊、恐らくロイエンタール提督の艦隊だろうが手を出せずに右往左往している。前進し、ミッターマイヤー艦隊を助けるということは高速で飛来する隕石群の中を突っ切るということだ。そんな命令出したくても出せまい。仕込んでいた罠が尽きた時にはミッターマイヤー艦隊は3000隻を越える数しか残っていなかった。それを急ぎロイエンタール艦隊が収容したみたいだ。全滅させるつもりだったが隕石群に此方の攻撃も防がれたようで、想定した被害を与えることが出来なかった。

キルヒアイス提督とロイエンタール提督の艦隊が前面に出て来た。その後方にローエングラム伯の艦隊が見えた。白亜の美しい戦艦だ。見間違える訳が無い。

まだ一戦したいのかと様子を見ると、キルヒアイス提督とロイエンタール提督の艦隊も動きを止めた。それを見るに、ここで打ち止めなのだろう。

「ローエングラム伯に電文を送ってくれ。」

ラップが困惑顔で尋ねてきた。

「電文でありますか?」

「“また会おう、ローエングラム伯ラインハルト”とな。」

「承知……しました。」

更に困惑顔になりながらも手配をしに側を離れた。苦笑しながらその姿を見送った。次に彼と相まみえる時はどんな状況か。恐らく血で血を洗う戦場になるのだけは確定しているだろう。それがどちらの血か、あるいは両方かは分からんが………。

とにかくこれで終わりだ。休もう。




次はアオのハコいきます。

取り敢えず高校入学までの2話か3話書く予定です。

銀英伝を読んでる方は申し訳ないですが暫くお待ち下さい。
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