銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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お待たせしました。

次は全く考えていません!旧版、ノイエを観てから考えます。

今月中にもう一回投稿できたらいいな。頑張ります。


傷だらけの凱旋

宇宙暦796年 旗艦トリスタン オスカー・フォン・ロイエンタール

 

 

 

「大丈夫なのか、ミッターマイヤー?」

「卿は心配しすぎだ。完治まで2か月。その間も軍務は出来るのだ。何も問題はない。」

俺の心配の言葉に、明るく返してくるミッターマイヤーだが、頭部に裂傷を負い包帯を巻かれ、左手を骨折し吊られた状態を見ると申し訳なさが募る。

「それはそうなのだろうが………卿を助けに行くと約束したのに何も出来なかった…………これではフラウミッターマイヤーに顔向けが出来んよ。」

私の言葉に、性のないやつだと言わんばかりに苦笑している。

「正直な話、キルヒアイス提督が撤退戦の時に退却路に罠を仕掛けられていて取り逃したと聞いた時に、なら確実に通って退却するイゼルローン回廊に罠を何も仕掛けていないのは、此方にとって都合が良すぎると考えるべきだったのだ。」

ミッターマイヤーの言には一理も二理もある。頷かざるを得ない。

「しかも狭い回廊内だ。広い宇宙空間ではなくピンポイントで狙いを定めれる。そこに思い至れなかった私の落ち度だよ。」

互いに何も喋らず沈思黙考で暫く静寂の時が流れた。

「それにしても酷い結果になったな。」

「ああ。まさかここまでの結果になると思いもしなかった。」

叛乱軍の艦隊が各地に駐屯していた所に奇襲をかける予定が、敵は間一髪撤退しているところもあった。

しかしそれでも敵の9個艦隊の内、5個艦隊に致命的なダメージを与えた。上手く逃げおおせたのは第13艦隊だけだった。他は大きな損害を与える事が出来たのだ。

あのクーロ元帥も麾下の艦隊の三分の一を失ったほどだ。

惑星を離脱するまでの被害なら我々は1個艦隊どころか半個艦隊程の被害だっただろう。

本格的な追撃戦。叛乱軍にとっては撤退戦で一気に向こうの流れになった。

先ずは回廊出入り口付近でルッツ、メックリンガーが出入り口で奮戦する残存艦隊との戦闘中に横合いからクーロ元帥の強烈な一撃を喰らった。

結局ルッツは6500隻、メックリンガーは5000隻の被害を受けた。これは完全に撃沈させられた、撃沈させた被害だ。

戦闘不能で修理を必要とする艦や航行が出来ない艦など様々な分類分けをして、最終的に受けた喪失被害艦数だ。

回廊内の戦闘も、散々足るものだ 

第一陣を担ったケンプ、ワーレンは5000隻ずつ撃ち減らされた。そして第二陣のミッターマイヤーとビッテンフェルトは悲惨というほかない結果になった。

結局ビッテンフェルトは1000隻を若干越える数しか生き残らず、ミッターマイヤーも5000隻に満たない数しかいなかった。

「敗走した俺達は厳しい叱責を受けるだろうな…………。」

憂鬱そうな表情で言うミッターマイヤー。確かに今回の戦いは必勝の形だった。そして序盤、中盤は此方の一方的な形に終始した。このまま追撃で更に差を広げる絶好の好機だと皆が思ったはずだ。

それが捲りに捲くられ、辛勝という形になったと言っていいだろう。

自分にも他人にも厳しいローエングラム伯には今回の結果は到底満足のいく戦果ではないだろう。それを思えば今回手傷を負わされた皆は不安で一杯だろう。

「キルヒアイス提督がとりなしてくれるといいのだが………。」

「彼も倍の兵力でクーロ元帥を取り逃したという失態がある。そこからルッツ、メックリンガー、ワーレン、卿の損害がある。ビッテンフェルトの大敗も元はクーロ元帥を逃がしてしまい、ヤン・ウェンリーと組ませたという結果から生まれたと言えなくもない。」

「………………。」

私の言葉にミッターマイヤーは頷くことも否定することもしない。事実ではあるが、他人に非を押し付けるようなことをしないか。

「まあ、私からもローエングラム伯に一言言っておこう。同僚から評判の良くない私の言葉にどれ程の意味があるかは分からんがな。」

肩を竦める私を、苦笑するミッターマイヤー。ようやく気持ちの整理がついたかな?

今回の戦いでミッターマイヤーは6人の准将の内、4人を戦死、負傷療養させる事になった責任を大きく考えているのだろう。

もう間もなくイゼルローン回廊を出る。そこまで行けば艦隊司令官に召集がかかるだろう。今回の戦いについて何かあるだろうが………。ここまで敵を撃ち減らしたのに、気分が一切高揚しないのは戦史上ないだろうな。

「とにかく卿は、少し休め。召集がかかるまでまだ時間はあるだろうからな。」

私の気遣いを察したのか、肩を竦めて笑った。

「分かった。少し休ませてもらう。」

「ああ、またな。」

そう言って通信を切った。私達へ召集命令が下ったのはイゼルローン回廊を出て半日経った時だった。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 旗艦トリスタン オスカー・フォン・ロイエンタール

 

 

「予想外の結末だったな。」

「ああ………予想外だった。」

先程行われたローエングラム伯との戦後の艦隊司令官の顔合わせは、皆幾ばくかの緊張を漂わせての参加となったが、平穏無事に終わった。

「叱責の一つや二つ飛んでくると思ったがな………俺やビッテンフェルトに。」

そう、確かに一万隻を越える被害を出したビッテンフェルト、一万隻に近い数の被害を出したミッターマイヤーはその損害を責められてもおかしくはなかった。それが言葉では何もなかった。色々言いたいのを我慢して口を震わせていたが………。

「キルヒアイス提督が取り成してくれたと言う話があるが?」

「ああ、それは事実だろうな。私も第三陣でミッターマイヤーの救援に行けず、申し訳なかったと通信を入れたのだが、私室に通信を回された。その時、“キルヒアイスと同じ様な事を言う”と溢されたからな。恐らくは、クーロ元帥を最初の時に仕留められなかった私が一番問題だとでも言ったのだろう。」

「そうか………そうだな。彼の性格なら十分有り得そうだ。」

此方は五万隻、あちらは十万隻を越える数の損失だろう。数だけ見ても此方の圧倒的勝利と言ってもいい。近年のクーロ元帥が参加している戦いから見てもだ。

「まあクーロ元帥を討った報奨を貰えなかったのは残念だが、そう簡単に討てるようなら彼処までの数の褒美にはならんからな。それに違わぬ腕前を見れたということで良しとしよう。」

「そうだな、危険極まりない奴だと皆が一段と認識しただろう。次はそう簡単にやられはしない。」

気持ちの整理がついたのか、ミッターマイヤーの前向きな言葉にホッとした。

「とりあえず卿はオーディンへ帰還後、艦隊の編成を取り急ぎ行い、訓練をしないとな。次の戦争が何時始まるか分からない以上、出来る限り急がないと。」

「ああ、分かっている。」

気力も充足しているな。言葉に力強さがあった。私もオーディンへ帰還後、フラウミッターマイヤーへ謝罪しなければならないな。折を見て、ミッターマイヤー邸を共に訪れよう。

そんな事をつらつらと考えながら、オーディンへの帰り道を往く。まさかオーディン帰還前にあの様な出来事が起こるとは、この時は夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 軍務省 軍務尚書エーレンベルク元帥

 

ローエングラム伯が戦後処理を行い、戦果の詳細が記載された戦闘詳報が軍務省、統帥本部、宇宙艦隊司令部に届いた。

「ふむ、ここまで敵に損害を与えたのだ。大勝利と言ってもよかろう?」

私が周りを見渡すと、部屋にいる統帥本部総長シュタインホフ元帥、宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥も片方は渋々と片方は重厚に頷いた。

「部下の昇進は至当であろう?問題はローエングラム伯をどうするか、だな?」

言に昇進させるか否かを問うた。その場合は各員が繰り上がるので私は隠退、シュタインホフ元帥が軍務尚書、ミュッケンベルガー元帥が統帥本部総長となり、ローエングラム伯が司令長官となる。

シュタインホフ元帥は渋い評判をしたままだ。軍務尚書になるのだ。喜びを出してもよさそうなものだが?

「そのことなのだが………一つ話しておきたいことがある。」

突如ミュッケンベルガー元帥が話し始めた。言いづらそうにしていることから、あまり良い話ではないのが見て分かった。

「どうも心臓が良くないようだ。医師からこれ以上の軍務は無理だと言われた。残念だが私はここまでのようだ。」

ミュッケンベルガー元帥の言葉に、この場が凍りついた。視線だけシュタインホフ元帥、ミュッケンベルガー元帥両名に向ける。シュタインホフ元帥とは目が合うが、ミュッケンベルガー元帥が微かに俯いているので目が合わない。交互に向けながらも一言も声が出ず、身体が凍って物音一つ立たず、暫く沈黙が流れた。

「この事は戦争が始まる前に陛下にもお伝えした。ローエングラム伯の結果次第で引退を許された。今回の結果で正式に許可が降りるであろう。私が引退し、ローエングラム伯を司令長官に。それが私の考えだ。」

「それはっ………。」「ううむ………。」

私とシュタインホフが言葉を噤む。何か言おうとするもミュッケンベルガー元帥の、いやミュッケンベルガーと言った方がいいだろうな。最早、闘う男では無くなっていた。引退の意思を私たちに伝えた瞬間から軍人ではなくなったのだろう。それが分かった。以前の威風堂々たる姿が、それによって感じる圧が消え失せている。

彼とは軍歴を殆ど同じくしてきた。しかし、私の方が要領良く、上からの触りも良かったので軍務尚書になった。しかし、ミュッケンベルガーは若き頃から戦場の男で頼もしかった。長じてからは、大柄な身体で筋骨隆々とし、覇気や威厳があり、皆が近寄ると自然と背筋が伸び、姿勢を正した。私も彼の前では自然と身体が緊張し、威儀を正したものだ。

それが何だこれは!?何か言おうにも言葉が出てこない。何度も口に出そうとするも出来ず、しばしの沈黙が流れた。

「私の後任はローエングラム伯。それで良いかな?」

「………分かった。」

「………反対はせん。」

私とシュタインホフの返事を聞き、満足そうに笑う様は本当に軍人ではなくなったのを私にまざまざと理解させた。

「ではオーディンに帰還後、改めて陛下の裁断を経て任命式を執り行う。それで良いかな?」

私の言葉に、両名が言葉なく頷いた。

「ローエングラム伯の帰還は何時になる?」

「今半ばを過ぎたところだろう、1週間はかかるだろう。」

「なら戦勝祝賀会の準備を行わなければな。まあそれは典礼省の管轄だが。」

「そうだな。」

そんな事を話しているが、その5日後に衝撃的な事態が起こり、祝賀会どころではなくなるとは私達皆思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 ブリュンヒルト ラインハルト・フォン・ローエングラム

 

 

帝都オーディンまで後2日の時に、眼前に姉上がおられる惑星が見える所まで帰ってきた時に衝撃的な報せが元帥府より届けられた。

「何!?死んだ!?皇帝がか!?」

「はい。どうも今朝、部屋付きの者が寝室で冷たくなっているのを発見したそうです。心臓が衰弱し止まったことによる心停止が死因と。」

あの皇帝が死んだだと!!姉上を奪われたあの時の思いを全く晴らせていないのに!!

「もう少しだけ長く生きていれば、犯した罪悪に相応しい死に方をさせてやったのに。」

クソッ!!あともう少しだったのに。

「閣下。皇帝は後継者を定めぬまま死にました。」

隣のオーベルシュタインが話しかけてきた。後継者を定めぬまま死んだ?確かにそうだか?

「閣下、皇帝は後継者を定めぬまま死にました。皇帝の3人の孫を巡って、帝位継承の抗争が生じるのは明らかです。」

オーベルシュタインに鋭い視線を向ける。

「皇帝の直系の男児は唯一人。ですが今だ5歳で有力な門閥貴族の後ろ盾がありません。残るは皇帝の娘を娶ったブラウンシュバイク、リッテンハイム両家の娘。娘が女帝となれば父親が摂政となります。どのように定まろうと一時の事。血を見ずには済みますまい。」

確かにそうだ。誰を皇帝、女帝にしても漏れた者が反発するだろう。それを思えばオーベルシュタインの言は至極当然。

「卿の言は正しい。3者の内、誰につくかで私の運命も決まるというわけだな。で、私に手を差し伸べてくるのは3人の孫の後背に控えたどの男だと思う?」

「恐らくリヒテンラーデ公でありましょう。」

「なるほど。国務尚書が私に握手を求めるか。では精々高く売りつけてやろう。」

こうなっては奴には何も出来ない。何のためにここまで私は来たのか…………。天を仰ぐしかなかった。

 

 

 

 

 

宇宙暦796年 新無憂宮 クラウス・フォン・リヒテンラーデ

 

 

 

フリードリヒ4世がこうも急に亡くなられるとは…………いや、年齢で言えば可笑しくはないのだが………。

「ブラウンシュバイクにせよ、リッテンハイムにせよ、私利私欲に駆られた外戚共に、国政を乗っ取らせる訳にはいかん。」

頭の痛い問題が大きすぎる。私は宮廷政治家。皇帝の委任があって始めて輝くのだ。

「一刻も早く宮廷の秩序を取り戻さなければ。」

「継承問題でしたら、それほど難しい事には思えません。」

眼前に立つワイツ補佐官がキッパリとハッキリと言を口にした。ブラウンシュバイク、リッテンハイムの力が強く政府では抑えきれていない現状が私の頭を痛める原因なのに、それを難しい問題ではないだと?

「何?」

「これまで通りになさったらいいのです。国務尚書として帝国宰相代理としてなさってきた通りに。」

「慣習に倣えと云う事か?無論、そうしたいところだ。だがここで帝室唯一の皇孫であるエルウィン・ヨーゼフ様の即位を決めたとしても、陛下をブラウンシュバイク、リッテンハイムの双方から御守りする術がないのだ。」

腹立たしい事実だか、変えようのない事実でもある。奴らの取り巻きを含めた戦力にどうしても私の力は遠く及ばない。

「左様。番犬が必要となります。御し易く、しかも強い番犬が。既にお決めになっているのでは?」

補佐官の此方の心底を窺うような視線に、幾ばくかの不愉快さを感じるが、私の補佐官を勤めるならこれくらいの政治力は必要か。

「御し易いとは言い難い。だが、強さにおいては異論の出る余地もないな。現状においては。」 

あのユーリ・クーロ率いる叛乱軍を彼処まで撃破したのだ。問題は奴の野心が何処まであるのかだが………。いずれ時が来れば番犬も処分しなければならんな。危険なものは片付けるに限る。

 

 

 

 

 

数日後、エルウィン・ヨーゼフの即位が公表された。

この公表がなされると門閥貴族達は、先ず驚愕し、次いで失望し、更に怒り狂った。

 

 

エルウィン・ヨーゼフ2世の即位は新皇帝の年齢を鑑み、ごく短時間に執り行われた。

摂政となったリヒテンラーデの推挙によって、ラインハルトは位階を進め、伯爵から侯爵となり、帝国宇宙艦隊司令長官の座に就いた。これを受けて、ラインハルトはキルヒアイスをクーロ元帥の艦隊を撃破した功から、一挙に上級大将に昇進させ、宇宙艦隊副司令長官に任命した。

 

 

 

これによって門閥貴族と政府との間に決定的な溝が出来た。いずれ帝国を二分する戦いが始まるだろう。数多の思いをのせて宇宙が回転する。




次の予定はアオのハコ、SEED、銀英伝の順を考えてます。

筆のノリで前後することもあるかもです。

のんびりお待ち下さい。
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