宇宙歴783年 テルヌーゼン
艦隊戦の戦術についての講義をしている。
「必勝の作戦は無い。此れは君達も知っているだろう。では、どうやって勝つのか?それは分かるかな?」
聞いている候補生を見回しながら尋ねたが誰も答えない。それに苦笑してから話した。
「紡錘陣形、縦深陣形、横列陣形、斜線陣形等と数多くの戦術がある。此れはどれも一長一短がある。それを理解して使い分ける事が基礎中の基礎になる。」
「敵が陣形に合わせたを陣形を組むのか、此方から主導権を取って陣形を組むのかで有効な陣形は違う。それをしっかりと勉強してくれ。」
それから各陣形の用いる状況等を説明して講義を終えた。これから少しずつ自分の色を出して候補生が少しでも優秀な士官になり、長く生き永らえるようにしないといけないな。それが今の自分の仕事だ。
午前の講義を終えてキャゼルヌと昼食に行く。話題は昨日のウィレム・ホーランドとの模擬戦だ。
「昨日の模擬戦は見事でしたね。完勝といっていい内容だと思いましたが?」
キャゼルヌ大尉に頷き答えた。
「しっかりと勝てて良かったよ。負けてたら私の講義も顔を覆う事態になっただろうね。」
キャゼルヌは笑っている。確かに他人から見たら笑うような話だろう。
「どうでした?ホーランドは?」
「彼は中々に優秀だよ。決断力、判断力、攻撃力、行動力等は非常に優れているだろう。だがそれも一士官として見ればと言っておこう。」
私の回答に怪訝な顔をしている。
「彼の目標は正規艦隊司令官から宇宙艦隊司令長官、統合作戦本部長だと聞いています。でしたら指揮官としての能力は勿論必要ですが自分の名声ではなく自軍の勝利もしくは敗北をしないように撤退を選択出来るかが必要になってきます。」
「それを考えると不利な状況で撤退を選択出来るか有能な敵と会敵したときに守勢を取って被害を軽減する選択が取れるか不安がありますね。」
キャゼルヌ大尉が目を細めて此方を見ている。
「こういっては何ですが結構細かいところまで見ているんですね?」
「当然です。最終学年の候補生のデータは全て閲覧しています。人が死ぬのは一瞬ですが育てるのは長い時間がかかります。その観点からも自分の仕事は適当にしてはいけないと考えています。」
自分の仕事への決意を感じてくれたのが見て分かった。
ちょうど食べ終わったので話はここまでにした。
放課後に資料室に資料を探しに来ている。色々な資料がある。戦史、経済、歴史等、様々な資料が書籍媒体、データ媒体で保存されている。アーレ・ハイネセン達が行ったフェザーン経由で帝国の資料も軍事のA級保全資料等の機密以外の物も意外とある。保全期間が過ぎたもので現在に役に立つかは分からない資料だが集めている。
お目当ての資料を取って貸し出しの申請をして退室しようと出口に向かう。途中のデータ媒体資料を見るブースに一人の候補生がいる。机に両足を乗っけている。行儀が悪すぎるので声をかけた。
「行儀が悪すぎる。候補生、学年と名前を言いたまえ。」
」
えっと声を出して顔を上に向けてきた。そのままバランスを崩して椅子ごと倒れてきた。それを一歩引いて避ける。
イッタ~と声をあげている。頭を擦りながら敬礼をしてから答えてきた。
「戦史研究科初年生のヤン=ウェンリーです、クーロ教官。」
「そんな体勢で敬礼、挨拶をされたのは初めてだ。」
つい笑ってしまった。これが私と不敗の魔術師の最初の出会いだった。