禁断師弟がベル君の先輩なのは間違っているだろうか 作:ナカタカナ
トレイナが空気過ぎて辛い。
「それじゃあ、何見ようか?」
黄昏の館を出た二人が向かった先はオラリオの市場だ。
「そうだなぁ~まだ腹は減ってないだろ? さっきじゃが丸くんを食べてたみたいだし。」
「うん、あっ、あそこ行こうよ。」
そういってティオナが指さした店は雑貨屋だ。
『ほう、なかなか雰囲気のあるいい店ではないか。』
店内は雑貨屋というだけあって、色々な物で溢れかえっているが、商品の一つ一つをうまく並べており、トレイナも褒めるほど雰囲気のある店となっていた。
「俺がオラリオを出る前に、こんな店あったか?」
「いや、なかったよ。ここ半年くらい前に出来たんだって。私も何回かアイズやティオネと来てるけど、いつも新しい商品が並んでて面白いんだよね。」
そういってティオナが手に取った物は、しおりだった。
「このしおり可愛いね。」
まるでステンドグラスのようにカラフルかつ、小鳥や草花といった物が描かれたしおりは、まるで英雄譚のワンシーンを表しているかのようだった。
「いいんじゃないか。あとはお姫様が居れば、完全に英雄譚のワンシーンだな。」
「お姫様ならここにいるよ。」
相変わらずひまわりの様な満開の笑顔を自分に向けてくるアースは、たじたじになってしまう。
「アハハ、冗談だよ。冗談。私はお姫様には向いてないよね。」
するとティオナはそういって、しおりを元の場所へ戻した。
「そんなことないと思うけどな。」
「えっ?」
心のどこかではお姫様に憧れを持っているティオナに対してアースはそういった。
「ティオナがお姫様に向いてないなんてことはないって、俺は思うぞ。」
「な、なに急に?」
そのときのアースが何を想っていたのかは知らないが、ただこれだけは言えよう。アースはティオナの表情が曇ることを望んでいなかった。いつも無邪気に、明るく、元気溢れる彼女のことをアースは好きだったのだ。それが恋愛的なモノなのかは、まだ定かではないが、アースは間違いなくティオナのことを好きだったのだ。好きな女の子の悲しい表情なんて見たくないアースは、とにかくティオナに笑顔になって欲しかったのだろう。
「いやな、俺の知り合いの話なんだが、そいつの友達にお姫様がいたんだよ。そいつは成績優秀で勉強に関しても、戦闘に関しても、俺の友達より上でな。」
アースが語り出したのは自分の友人の話だという。それが本当にアースの友人なのかはアースのみぞ知るが、懐かし気な表情で語りだした。
「俺の友達も、ガキの頃はそのお姫様とも仲が良かったみたいで、いわゆる幼馴染って関係らしかったんだが、成長するに連れて開く、姫と自分の才能って奴にうんざりしてたみたいなんだ。」
ティオナはアースの話にくぎ付けにされた。
「それで、俺の友達とお姫様の関係はいつしか、幼馴染から知り合いって感じになっちまった。お姫様もお姫様で不器用な奴でな、俺の友達に事あるごとにお節介を焼いて、その度に友達に煙たがられるんだよ。」
「今はどうなの?」
「今は・・・多分、いい友人関係なんじゃないか?」
「そうなんだ・・・」
「まぁ、何がいいたいかっていうとな。不器用なお姫様もいるんだから、多少お転婆なお姫様がいたとしてもおかしくないだろっていいたいんだ。」
その言葉はアースが自分なりにティオナを励まそうとしたモノだと、ティオナは気づいていた。それが、どうしようもなく嬉しかったティオナの表情に、再びひまわりが咲き誇る。
「えへへ、ありがとアース。」
「お、おう。気にすんな。」
雑貨屋から出た二人の手には一つずつ小袋が握られていた。
あのあと、二人そろって同じしおりを買ったのだ。なんでも、親友との再会の記念という建前で、デートの思い出として購入したのだ。
「えへへ、アース。」
すると、ティオナはアースの腕に抱き着いた。
「ちょ、離れろって。人が見てるだろ。」
ティオナを強引に引き剥がそうとするが、そこは腐ってもレベル5として活躍するオラリオでも屈指の女傑の一人だ。離れない。
「いいじゃんいいじゃん。」
「はぁ、仕方ない。」
スリスリと自分の腕に抱き着いて離れないティオナを見て、アースは諦めた。
周りの冒険者や市民からは微笑ましそうな表情で見られていた。
普通ならば嫉妬する人間の一人や二人はいるだろうが、そういった視線を放つ者はいなかった。代わりにいるのは、憐れむような人たちだ。何故なら、ティオナは先ほど説明したように、オラリオの有名人だ。しかも二つ名は
『余もいるんだが・・・』
そんな弟子の姿を見てトレイナは「またか・・・」と落ち込む。これが大魔王とは誰も思わないだろう。
どこかの天空族の神官「神を愚弄するなああああああああ!!」
「ッ~~~」
「どうしたのアース?」
「いや、何でもない。ちょっと寒気がしてな。そ、そういえば、ティオナは門限とかあるか?」
「特にないよ。」
「そうか、俺は今夜、先生の講義を受けることになってるから、一回、ホームに勉強道具取りに行ってから、送ることになりそうだけどいいか?」
旅先で出会った数々の女性との経験で、アースはなんと紳士に成長していた。女性の送迎は当たり前だ。
「うわ、真面目・・・私は別にいいけど。」
「そっか、ならそれまで思いっきり遊ぶか!!」
「うん!!」
それからアースとティオナは一時間ほど市場を探索した。
アースのことを知っている市場の人間は、ティオナとのデートを見て、たっぷりサービスしてくれた。
ティオナもアースが街の人から慕われていることは知っていたが、まさかここまでとは思っていなかったため、驚いている。
すれ違う人の大半がアースに挨拶をして、アースもまた挨拶を返している。
母親に連れられた子供もまた、アースと遊んだことがある子ばかりで、「また遊んでね。」とという。
「すごいね。アース。」
「なにがだ?」
「こんなにたくさんの人に慕われてるんだもん。まるで英雄みたい。」
「ハハハ、だったらいいけどな。そうだ、本屋に行こうぜ。」
ティオナが素直に自分のことを褒める為、気恥しくなったアースは話を逸らして、ティオナと初めて出会った本屋へと向かった。
「懐かしいね。」
「そうだな。」
手に取った物語は「
英雄に憧れる青年が、牛人によって迷宮へと連れ攫われた、とある国の王女を救いに向かう話だ。
時には人に騙され。時には王に利用され。多くの者たちの塩飽に振り回される、滑稽な男の物語。
友人から知恵を借り。精霊から武器を授かって。
なし崩し的に王女を救い出してしまう、滑稽な英雄の物語だ。
「俺の弟分は英雄に憧れてるらしいんだ。英雄になるためにオラリオに来たって・・・」
「それって、アルゴノゥト君のこと?」
「あぁ。俺は思うんだ。あいつなら英雄になれるって・・・近くで英雄を見ていた俺だから分かるけど、あいつの持つ雰囲気は、それにそっくりだ。」
優しく話すアースの脳裏に浮かぶ英雄は、父の姿だった。七勇者ヒイロ。辺境の村出身の勇者で、魔法剣を使う。彼はいわゆる天才で、一度見た魔法はなんとなくだが、再現してしまうのだ。
故に、アースは幼少の頃から父に憧れて剣を振るっていた。
毎日、毎日、自分の初恋であるメイドの少女サディスが見守る中、アースは必死に剣を振るっていた。
それでもアースは魔法剣で友たちに勝つことはできなかった。
もちろん、そこら辺の兵士に比べれば、アースは余裕で勝つことの出来る。しかし、彼の友人で、父と同じ七勇者たちを親に持つ子たちとは才能という面で、圧倒的に劣っていた。
いつしか、友人たちのリーダーとして前を突っ走ていたアースは、友人の後ろでついて行くような形になっていたのだ。
今となっては、アースの力は世界最強クラスへと上り詰めたが、それでも自分の憧れの原点である父へは追いつけていないと思っている。
だからこそ、アースにとっての英雄は父であるヒイロ・ラガンであり。尊敬する人物は大魔王トレイナなのである。
「アースは英雄になりたくないの?」
ティオナがどこか遠い目をしているアースに問いかけた。
「英雄か・・・分からない。だけど、強くなりたいんだ。親父に『どうだ! 俺はこんなに強くなったぞ! 親父よりも強くなったぞッ!!』っていえるくらいにな。」
「そうなんだ。アースのお父さんはすごいんだね。」
「あぁ、すごいけど、駄目な人だよ。」
苦笑しながらそういうアースにティオナは、不思議に思う。
「まぁ、この話は、ここまでにしようぜ。もう暗くなってきたし。帰るか。」
「そうだね。今日はありがとうね。アース。とっても楽しかった。」
「ハハハ、そういってもらえるだけで十分だ。」
今日は出来ればもう一話投稿したいと思っていますが・・・できるかなw
ティオナが可愛すぎて辛いです。