灰被りのアンモビウム   作:麦茶漬け

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カスミソウ-下-

「どこかのカフェ…?

 でも私たち、さっきまでスクランブル交差点にいて…?」

「夢…?」

「な、何ここ…?

 どうしよう、知らないとこに来ちゃった…」

 

気付いたら、俺たちは見知らぬカフェにいた。

どうやら、他にも人がいるみたいだ。

 

「え、誰?」

「あ、すみません、私、そのっ…」

「あっ、もしかしてこのお店の子?

 悪いんだけど、ここがどこだか教えてくれない?」

「いやいや、どう見たって俺らと同じ巻き込まれた人でしょ」

 

高校の制服を着ているし、彼女も知らないうちにここに来たみたいだ。

 

「え?そうなの?

 私たち気付いたらここにいたんだけど…」

「あ…実は、私も…。

 気付いたらここに…」

「やっぱり君もなんだ」

 

いったい誰がこんなことをしたんだ…?

いや、そもそも気付いたら場所を移動してるなんてそんなことあるわけが…

なんて、考えていたとこに、

 

「いらっしゃい、こはね、杏、霞」

 

ふと、声をかけられた。

振り向くとそこには、ツインテールの女の子が立っていた。

 

 

「えっ?ミ……ミクちゃん!?

 それに、どうして私の名前…」

 

彼女の知り合い…てわけでもなさそうだ。

でも、どっかで見たことあるような…

 

「やっほー!

 オレ達、3人のこと、待ってたんだよ!」

「ふふ、いきなりのことで驚いてると思うけど…

 3人に会えて嬉しいわ」

「ええ!!レンくんと、メイコさん…!?」

「いや、おかしいでしょ!ミクたちと話せるわけないし…。

 これって夢?」

 

あ、思い出した。

彼女たちは、バーチャル・シンガーだ。

世界中のクリエイターが生み出した曲をその声に乗せて運ぶ存在。

確かに、そんな彼女たちと話せるのは、おかしい。

やっぱり夢なのか…?

 

「ううん、ここはセカイだよ」

 

返事は、よくわからないものだった。

セカイ…世界?哲学か何か?

夢ではない…?

 

「セカイ…?」

「そう。君たちの想いでできた場所……。

 それが、セカイなんだ」

 

想いでできた場所、ねぇ…

にわかには信じられない話だ。

 

「想いでできた場所?」

「そうよ。そしてセカイで本当の想いを見つけた時、

 その想いから歌が生まれるの」

「だからオレ達は、キミ達に本当の想いを

 見つけてもらうために、ここにいるんだ。」

「本当の想い?歌が生まれる……?」

「うーん、ごめん何言ってるのか全っ然わかんない」

 

さすがに杏も困惑の様子。

頭に?が浮かぶ姿はさながらテストのときのあいつみたいだ。

 

「あはは、まーそうだよねー。

 でも、今はわからなくて大丈夫だよ。

 そのうちきっとわかるからさ!」

「セカイのことも、本当の想いも、ね」

 

意味深なこと言うなあ…

ラスボス前に主人公の秘密を話す重要な人物みたいだ。

 

「本当の、想い…」

「そんなの、私にあるのかな……

 やりたいことも、見つからないのに……」

「こはねは、やりたいことないの?」

「あ…その…。わ、私、夢とかないし…

 だから…」

 

彼女…こはねちゃんは夢がない、とうつむいている

まあ、明確に夢や目的がある人間はそうたくさんはいないよね。

でも―

 

「ふーん、そう?

 じゃあ、杏は?」

「私?

 私はもちろん!伝説を超えたいと思ってる!」

 

ここに、そんな人間がいるんだよな。

 

「で、伝説…?」

「そう。中学の時に見た『RAD WEEKEND』って

 イベントを超えるって決めてるんだ」

「もうすっごい熱いイベントで、界隈じゃ『あの伝説のイベントは

 絶対に越えられない』って言われてるんだけど…」

「でも、絶対に越えて見せる!!」

 

握りこぶしを作って宣言する杏。

さすが、揺るがない意志ってやつだね。

 

「すごい…。かっこいいね!!」

「そう?照れるなあ。

 でも、私なんてまだまだだよ。

 練習もまだまだ足りないし、相棒も見つかってないし」

「それでも、やってみなくちゃ、始まんないからさ。

 今は毎日路上で歌って、イベントに出て、腕磨いてるんだ」

「やってみなくちゃ、始まらない…」

「…そっか。私も、悩んでないで始めてみたら、

 何か変われるの、かな…」

 

杏のひたむきな姿をみて、考えるこはねちゃん。

 

「かもね?でも、気が向いたら、

 そういう風にやってみるのも悪くないんじゃない?」

 

杏の言葉に、2人は笑みを浮かべる。

 

「霞は、どう?

 やりたいこととかある?」

 

静かに聞いていたミクが今度は俺に問いかけてきた。

 

「…やりたいことかあ……」

「俺は、ライブで見える『色』が好きなんだ」

「色…?」

 

こはねちゃんが首をかしげる。

何度かこの話をしている杏は特に何も言わない。

じっと俺の話を聞いている。

 

「そう、『色』。

 ライブをするとね、お客さんの盛り上がる『色』が見えるんだ。

 初めてその景色を見た時、俺は感動したんだ」

 

音楽に合わせて、歓声を上げる客の楽しそうな『色』。

客を盛り上げようとするために、

全力でパフォーマンスをする杏の真剣な『色』。

 

その景色を初めてみた俺は、魅せられた。

今まで失っていた『感情』に灯がともった。

 

「今も、路上ライブをしてるんだけど、

 今やってる音楽は、杏から貰ったもの。

 自分の音楽じゃないんだ」

…そんなこと、ないと思うけどな……

 

よく聞こえなかったけど、杏がボソッと何かつぶやいた。

 

「いつか"自分"を見つけて、

 俺自身の歌で誰かの心を動かしたい。

 あの日、杏がしてくれたように、

 俺も、誰かの心臓になりたいんだ」

「これが、俺の今やりたいことかな」

「…霞」

「すごいね、そんなことまで考えられるなんて」

「…どうだろう、結局何も見つかってないからね」

 

こはねちゃんは心から感心してるみたいだけど、

杏はなんだか表情が暗い。

なにか気に障ること言ったかな……

 

「…みんなでなら、ちゃんと想いを見つられそうだね」

 

ミクがそういうと、またスマホが光りだした。

 

「えっ?光が…?」

「ま、また!?」

「これは、戻れるのかな…?」

 

「想いが一緒なら、きっとまた世界で会えるよ。

 だから―」

 

そんなミクの声を最後に、

俺たちはまた、光に包まれた。

 

 

(|| ゚Д゚)

 

 

「…ん、んぅ……あれ?」

 

気が付いたら、俺は、自分の部屋で、机に突っ伏して寝ていたみたいだ。

 

「いっけね…いつの間に寝ていたんだ?」

 

今日は杏と路上ライブをして、それで…

 

「…だめだ。なんも思い出せない。

 そのまま家に帰ったのか?何か夢を見てたような…」

 

ふと、スマホを見ると瑞希から連絡が来ていた。

そういや、瑞希のいるサークルに入るんだっけ?

…なになに、ナイトコードってので連絡を取ってるから、

アカウントを作って送ったリンクに飛べ…かあ。

 

「めんどくさいなあ、後でしよ」

 

スマホをベッドにほっぽり出して、パソコンを起動する。

 

「今日も曲を作らないとね」

 

 

(((((((((((っ・ω・)っ

 

 

「…あ、もうこんな時間か」

 

作業を初めて数時間、深夜0時を回った。

そろそろ、グループ入っとこ。

ナイトコードをインストールしてアカウントを作成する。

アカウント名は…『Mistear』で。

作成が終了してから、瑞希からの招待リンクでグループに参加する。

 

「グループ名は…は?」

 

参加したグループの名前は『25時、ナイトコードで。』

通称『ニーゴ』と呼ばれるユニットは、

インターネットでかなりの人気を誇っている。

俺もニーゴの曲は好きで、よく聞いているし、作曲の参考にもしている。

まさか、瑞希から誘われたサークルが、ニーゴだったなんて…

 

「って、いっけねあいさつしとかないと」

 

さすがに瑞希の名前は出せないな。

瑞希のアカウント名は…『Amia』か。

招待リンクと一緒に名前も送られてて助かった。

 

『初めまして、

 Amiaからの招待で参加した、Mistearです。

 よろしくお願いします。』

 

挨拶文を送ると、すぐに返信が来た。

 

Amia:『お、来たね~よろしく!』

雪:『よろしくお願いします』

えななん:『よろしく』

K:『よろしくお願いします。

  25時から、ボイチャに参加お願いします』

 

Kさんからの返信に了解の旨を伝える。

ほどなくして、25時になった。

皆ボイスチャットに入ってるみたいなので、俺も参加する。

 

「…えっと、聞こえますか?」

「聞こえてるよ~Mistear!」

「ん。聞こえてるみたいだね。

 じゃあ改めて、Mistearです。

 よろしくお願いします。」

「うんうん、よろしく~

 知ってると思うけど僕がAmiaだよ♪

 動画編集を担当してるよ~」

 

瑞希ことAmiaの自己紹介。

ここでも、あんなしゃべり方なんだね。

 

「えっと、イラスト担当のえななんです。

 よろしく」

 

…ん?なんか聞いたことある声だな。

もしかして彰人のお姉さんじゃね?

向こうは気付いてなさそうだし、だまっとこ。

 

「…私は、雪です。この中だと、作詞とmixを担当してるよ。

 よろしくねMistear」

 

…おかしいな、また聞いたことある声だ。

てか気付いてるよね?

まあ、何も言ってきそうにないから、こっちもだまっとこ。

 

「えっと…作曲を担当してるKです。

 よろしくお願いします」

 

うん、この人は知らないな。

ニーゴの曲以外では、聞いたことないはず。

 

「そういえばAmia」

「ん~どうしたの?」

「なんでサークルの名前教えてくれなかったのさ?」

 

ちょっと怒気を込めて質問する。

 

「あ、あれ~言ってなかったっけ?

 ごめんね~」

 

画面越しでも、てへぺろをしている様子がうかがえて、ちょっとイライラする。

 

「…まあいいや、自分の好きなサークルの手伝いができて光栄だよ」

「私たちのこと知ってるの?というかどっかで聞いたことある声な気が…」

 

えななんが質問してくる。やっべ。

 

「き、気のせいじゃないかな。

 …ニーゴはよく知ってる。

 曲はもちろん、MVのイラストが曲にマッチしててすごい好きだね」

 

「…っ!!そ、そう……」

 

えななんが黙ってしまう

 

「え、なんか変なこと言っちゃった?」

「だいじょーぶだよ。照れてるだけだから」

「て、照れてないわよ!」

 

…怒らせたわけじゃないみたいでよかった。

 

「で、何を手伝えばいいんだい?

 イラスト以外なら、力になれると思うけど…」

 

イラスト、ダメ、ゼッタイ。

前に絵を描いて杏に見せたら、爆笑された。

俺には、絵を描く才能はないらしい…

 

「えっと、私たちが作業してるときに詰まっちゃった

 作業とかを手伝ってほしいかな…?」

「なるほど、大体わかったよ」

 

つまり、特定の作業じゃなくて全般的に手伝えばいいわけだ。

 

「あ、そうだ。ねえねえMistear」

「ん?なんだいAmia」

 

急にAmiaに呼ばれた。

 

「Mistearが今までに作った曲とかここに貼れない?

 みんなで聞いてみたいな」

「確かに、Mistearがどんな曲作ってるのか聞いてみたいかも。

 Amiaからは、『作曲から動画編集まで何でもできる!』としか聞いてないし」

 

…ん?

 

「そんな雑な紹介しかされてなかったの?

 よくそれでここに入れるのOKしたね」

「あの時はAmiaが、すごい入れたがってたからね」

 

ええ…いいのかそれで。

まあいいや、今から曲を聴いてもらって判断してもらお。

 

「じゃあ貼るね…ほい」

 

今まで作った中で、一番の力作をナイトコードに貼る。

 

「お、じゃあちょっと聞くね~」

 

しーん

 

みんな曲を聴いてるみたいだ。

身近な知り合いにしか聞かせたことないから、ちょっとドキドキする。

 

「…!……!……」

「……!…」

「………!…」

「……!………」

 

なんだか、ところどころで驚いてるみたいだけど…

 

 

そろそろ曲が終わるころかな。

 

「…みんな、聞き終わった?」

「ええ…」

「うん……」

「……終わったよ」

 

なんだか、静かだな。

そんなにだめだったのかな?

…く、空気が重い

 

「…ねえ、Mistear」

「な、何かな、K?」

「この曲、どんな気持ちで歌ったの?」

「どんな気持ち…うーん。

 この曲は、過去に囚われた主人公が、

 囚われたままでも、前に進もうとするっていうのをイメージして作ったんだ」

「だから、主人公が感じるだろう不安や哀愁を載せて歌ってるんだけど…

 どこかダメなとこでもあった?」

 

今貼った曲は、ストーリー性を持たせて作曲した。

大切な人を失った主人公が、生きる意味が分からないけど、

死ぬ理由も、勇気もない。

ただ、どれだけ苦しんでも、明日が来る。

だから、この苦しみを歌にして今日も生きるんだ。

そんなストーリー。

半分以上は、実体験から書いてるものだ。

『話が重すぎる!』とか、そんな感じだろうか…

 

「ダメなとこなんてないよ、

 むしろすごい心に響いた」

「…え……」

 

心に響いた。俺の歌で感動したってこと?

俺の歌がKの心を…

 

「うん、すごいねMistear!

 曲を聞いたら、歌詞の光景が目に浮かんで、すごい感動しちゃった!」

「ええ、わたしも…歌詞とMistearの歌い方が心にジーンときちゃったわ」

 

Amiaとえななんも…

 

「ま、まさかそんなに言われるとは思ってなかったな…ははは」

「…ねえ、Mistear」

 

今まで黙っていた雪が口を開いた。

 

「この曲、貴方自身がモチーフ?」

 

―驚いた。

まさか感づかれるとは。

 

「あー、まあだいたいはね。

 よく気付いたね」

「うん、なんとなくね…」

 

彼女は、俺の身の上話を知ってるから、

気付いて当然か。

 

「にしても、Mistearってすごいね!

 誘って正解だったよ~」

「…そういってもらえて、嬉しいよ」

「えっと、

 じゃあ、そろそろ作業しようか」

「わかった。何かあったら呼んでね」

「うん」

 

各々が作業に移った。

俺は、呼ばれない限り、ニーゴでやることはないから、

自分の作業を進める。

 

(…にしても)

 

今日はなんだか、夢のような日だ。

路上ライブ後のよく覚えてない記憶や、ニーゴへの参加。

そして、そのニーゴメンバーに曲を認めてもらった。

 

(でも、まだ足りないよね)

 

自分の音楽で、誰かを救う。

そのためには、まずは俺自身を取り戻さないと。

灰色の視界にうっすら、色がともった。

 




軽くアンケートを取ったんですけど、長い方がいいみたいなので、しばらくは4,5000字くらいを目安に書いていこうと思います。
アンケートは続けるので、短い方がいい方は回答してくれると嬉しいです
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