星乃霞side
「…あれ、もう朝?」
ニーゴに入った初日。
いつ呼ばれてもいいように作業しながら待ってたら、朝になってしまった。
作業中は特に気にしてなかったけど、なんだか頭がふらふらする。
「霞、朝だよ…て、起きてたんだ」
「あ˝あ˝-…おはよう、一歌」
「おはよう…え!?どうしたのその顔!寝てないの?」
いつものように起こしに来た一歌が驚いている。
よほどクマがひどいんだろう。
「ちょっと曲作ってたら…ね」
「もう…ちゃんと寝ないとだめだよ?
ほら、顔洗ってきて」
一歌の言うとおりに洗面台に向かった。
…何度か、壁にぶつかって本気で心配された。
(´-ω-)´
「ふあぁ~…ねむ」
眠い目をこすりながら、通学路を歩く。
お、ちょうど目の前ににんじん野郎が…
「おはよー…ぐへぇ」
「…おい、寄っかかってんじゃねえよ」
にんじん野郎に睨まれてしまった。おお怖い怖い。
「いいじゃん、少しくらい…」
「よくねえよ。てか、えらく眠そうじゃねえか。徹夜か?」
「よくわかったね…そうだよ~」
「徹夜したって顔に書いてんぞ」
少し離れて、一度欠伸する。
にんじん野郎…東雲彰人があきれた目でこっちを見てくる。
こいつとは、路上ライブをしてる時に出会って、
ちょくちょくイベントとかでも彰人の相棒共々一緒になることがある。
ちなみに、奴の嫌いな食べ物はにんじんだ。
周りが言うには、にんじんみたいなオレンジ髪らしいのに、
にんじんが嫌いとは、これ如何に。
「曲作ってたら、朝になっちゃって」
「お前にしては珍しいな」
「新しく音楽サークルに入ってね、その関係で」
軽く駄弁りながら二人で歩く。ちょっと眠気が覚めてきた。
「次のイベントっていつなの?」
「一週間後だ。といっても、どうせ来ねえだろ?」
「まあ行けないだろうね、どっかの誰かさんに捕まるだろうし」
彰人は、相棒の青柳冬弥と『BAD DOGS』という名前で、
イベントハウスなどで歌っている。
俺も、たまに参加するが、彼らの人気はとても高く、
高校生にして、彼ら目当ての客もいるくらいだ。
そんな彰人たちは、一週間後のイベントに出る予定だ。
「がんばれ~応援してるぞー」
「そんな気の抜けた応援されてもな」
「友達少ないんだから、応援されるだけでもありがたく思いなよ」
「余計なお世話だ」
軽口を言い合いながら、俺たちは学校へ向かった。
( ´ ▽ ` )ノ
白石杏side
今日の霞はなんだか眠そうだ。
教室に入ってきたかと思ったら、机に突っ伏して寝てしまった。
そのくせ、授業中はずっと起きてて、休み時間はまた寝る。
2限目の今でもいつもみたいに、霞は前を向いて、授業を聞いている。
さっきまで寝てたのがウソみたいだ。
でも―
(…あ、今絶対あくびした)
あいつが口をもごもごしだしたら、欠伸をしている証拠。
前に徹夜明けで学校に来た時も、必死にあくびを隠していた。
その様子が、ちょっとかわいくて、私は好きだった。
前に霞が徹夜明けで登校したのは、中学の時だっけか。
あの時は音楽に夢中で、ずっと曲を作ったりしていた。
階段を踏み外したり壁に何度もぶつかってたときは、
さすがに焦って叱りつけたのはいい思い出だ。
今日霞が徹夜明けで来てるのは、新しく入ったサークルの活動が原因だろう。
瑞希も、深夜での活動って言ってたし、そっちの作業をしてたら、
眠れなくなって…てとこだろう。
(夜に一緒に作業か…羨ましい)
ふと湧いてきた嫉妬に、頭を振って思考をリセットしようとする。
最近特に、霞に対しての独占欲が強くなっている。
ただでさえ、日頃から振り回してるのに、これ以上縛り付けたら、
嫌われるかもしれない。
それだけは嫌だ。たとえ気持ちは伝えられなくても、嫌われるのだけは避けたい。
それにしても、最近の霞を見てると、どこか危うさを感じる。
あいつはここ最近、"自分の音楽を探す"とずっと言っている。
(自分の音楽…かあ)
私にはよくわからない。
私から見て、霞はもうすでに自分の音楽を表現できていると思う。
あいつの歌を聴いていると、一緒にライブをしてるのに私まで、
霞の雰囲気にのまれて、お客さんみたいな気分になってしまう。
それだけ、霞には音楽の才能がある。
だから、私がもっと練習を積んで霞と組めば、最高のイベントができるって
思って誘ってたけど、断られてしまった。
霞が求めているものは、いったいどんなものなんだろうか。
私には見当がつかない。
仮に推測するなら、霞の過去が関係しているのかもしれない。
霞は、中学に上がる前に大切な人を失ったらしい。
本人から聞いただけで、実際にどんなことがあったのか詳細は知らない。
でも確かに、初めて会った時の霞は、まるで機械みたいだった。
今では、感情豊かになったが、あの時はほんとに無感情だった。
だけど、感情が戻ってきた今でも、まだ味覚や、視覚に異常があるみたいだ。
もしかしたら、あいつが本当に探してるのは音楽というよりも―
(あ…)
考えを遮るように授業終わりのチャイムが鳴った。
(とにかく、早く相棒を見つけなきゃ…!)
霞が組んでくれない以上、誰か別の人を探さなきゃならない。
大変だけど、だからこそ燃えてくる!
必ず最高の相棒を見つけて、あの夜を超える。
そして、霞に後悔させてやる…私と組まなかったことを!
私は握りこぶしを作って宣戦布告のつもりで霞の方を向くと、
「ありがとうございました…すやぁ……」
授業終了の挨拶をするや否やすぐに寝てしまった。
「………………」
…この握りこぶしをこいつに振り下ろしてやろうか。
(`^´)
星乃霞side
授業を受けて、休み時間に寝て…を繰り返してたら、あっという間に放課後だ。
俺自身は大分回復したけど、一日中かまってやらなかったせいか、杏が不機嫌だ。
「…今日はどうするの?うちに来る?」
「今日はひとりで路上ライブしてから、店に行こうかな」
「それって、たまにやってるやつ?」
「そうだよ。最近やってなかったからね」
さらに追い打ちをかけるように、今日の予定を伝える。
不機嫌絶不調だった杏のテンションが目に見えて下がっていく。
「えー、私も見に行きたかったなあ…」
「杏は店の手伝いがあるだろう?
それに、俺の歌なんてたくさん聞いてるじゃん」
「それとこれとは別。…はあ、ちゃんと終わったらこっちに来てよ」
「わかってるよ」
名残惜しそうな杏をおいて、先に下校する。
ひとりで路上ライブをするときは、一度家に帰って
マイクやギターを持ってから向かう。
・
「これでよし、準備できたし始めよ~っと」
ギターを担ぎ、マイクに電源を入れる。
いつも杏とライブをするのとは別の場所なので、
道行く人は、みんな誰も俺を知らない。
そんな環境での演奏。
ここであの景色を見られたら、俺の音楽に自信を持てるはずだ。
「すぅ―…はぁー……よし」
深呼吸をして、演奏を始める。
歌うのは、ニーゴに聞いてもらった曲。
主人公の心象を投影して歌う。
演奏が始まると、ぽつぽつと、立ち止まる人が増えてきた。
「………」
立ち止まっている人の中に見知った人物を見つけた。
ある意味、今一番俺の歌を聞いてほしい人だったので、歌に力が籠る。
「~~♪―――♪…」
・
あのあと何曲か歌って、路上ライブは終了した。
拍手をもらったりもしたが、いまいちな反応だ。
やっぱり、今の俺の実力じゃあ、こんなものなんだろうな。
「……お疲れ様」
片づけをしていたら、声をかけてくる人がいた。
昨夜も聞いた声だ。
「聞いてくれてありがとうございます、まふゆさん」
表情を一切変えないで、ポニーテールの女の子がこちらをじっと見つめていた。
彼女は、朝比奈まふゆさん。
宮益坂女子学園の2年生で、俺の過去を知っている数少ない人物。
今日みたいにひとりで路上ライブをしている時に知り合って、そこから話をするようになった。
「―あなたが、Mistearなんでしょ?」
片づけも済ませ、まふゆさんと並んで歩いていると。
彼女から、質問を受けた。
やっぱり気付いていたらしい。
「ええ、そうですよ
そういう貴女は、雪さんですよね」
まふゆさんが、こくりとうなずく。
「驚きましたよ。誘われてはいったサークルにまふゆさんがいて、
しかもそのサークルが、ニーゴだったなんて」
「私も、まさか霞が入ってくるとは思わなかった」
「自分探しは、順調ですか?」
「…まだ、わからない」
昔の彼女は、テストで100点を取っては、それを親に褒められて喜ぶような、
ごく普通な女の子だったらしい。
だけど、彼女は周りの望む『いい子』であり続けた結果、
自分自身を失ってしまったそうだ。
そんな彼女は、失った自分を探し出すために、曲を作り続けている。
過程は違えど、俺と似たような状況だ。
「俺も、まだよくわかりません」
「そうなんだ」
しばらく無言が続き、周りの物音がやけに大きく聞こえた。
「昨日、霞が送ってきたあの曲…」
ふと、彼女がつぶやいた。
「あれを聞いた時、なんだか、胸の奥が変な感じがした」
「それは、いやな感じでした?」
「…わからない、でもいやじゃないと思う」
「……そうですか」
どうやら、彼女にもちょっとだけ、あの歌が届いたみたいだ。
「じゃあ、ここで…」
「ええ、また」
「…また、25時に」
しばらくして、彼女と別れる。
まふゆさんと同じサークルに入ったのは、驚きだったけど、むしろチャンスだ。
彼女は、俺に似ている。
俺は杏のおかげで失ったものをいくつか取り戻せたけど、
彼女にはまだ、誰もいない。
そんな彼女をずっと救いたいと思っていた。
でも、まふゆさんとはほとんど接点がないことから、行動に移すのは難しかった。
そんな時に、まふゆさんのいるニーゴへ参加できたのは、これ以上ない好機だ。
昨日送った曲で、少しだけど彼女の心を動かすことができた。
このままニーゴの活動を通して、たくさん曲を作れば、
きっとまふゆさんを救えるはずだ。
(彼女のよすがに、俺がなるんだ…!)
決意を新たに、WEEKEND GARAGEへ向かった。
ぐぅ~…
「…あ、そういや昼何も食べてないや」
WEEKEND GARAGEに着いたら、まずは腹ごしらえをしよう。
―腹が減っては戦はできぬ、てね。
久しぶりのバイトで疲労している軟弱な豆腐です。
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