星乃霞side
「いらっしゃい!…て、霞!ようやく来たの?」
店に入って早々、杏ジト目で睨まれる。
「ようやくって言ってもねえ、ライブを終えてからまっすぐ来てるんだけど」
立ち話もなんだから、さっさとカウンター席に座る。
WEEKEND GARAGEは、バータイムに入っていて、お客さんもかなり来ている。
「謙さん。キャラメルラテとホットドッグをお願いします」
「あいよ。そういえば聞いたぞ、霞。また徹夜したんだってな?」
杏のやつ、謙さんに言いやがったな。
「徹夜もほどほどにしておけよ」
「わかってます。また杏に怒られたくはないですしね」
前に3日連続徹夜をしたときは、学校の階段を踏み外しそうになったり、
壁や人にぶつかりそうになっていた。
それを見かねた杏にこってりと絞られ、昨日まで徹夜は控えていた。
あれは感情を失って以来、初めての『恐怖』体験だったな。
今回はそうならないよう気を付けよう。
・
「―♪ ―♪」
しばらくして、常連のミュージシャンたちがライブスペースで演奏を始めた。
彼らは、杏ともよく一緒に歌うことがあり、
今回もその例にもれず、杏も参加している。
俺も誘われたけど、路上ライブをした後だったし、
気分じゃなかったから断った。
「うん、調子いいね!みんないつも以上に合ってるじゃん?」
「そりゃ、杏ちゃんがいるからな!…なあ、やっぱり俺たちと組んでイベントでないか?」
「んー、そうだなー…考えといてあげる!」
「ハハハ!まーた振られたな!まあ、杏ちゃんには霞がいるからな!」
「霞と杏ちゃんのコンビは最強だからな!」
なぜかこっちに飛び火してきた。
彼ら含め、他の常連さんもなにかと俺たちを組ませたがる。
確かに杏と歌うのは、気も楽だし全力のパフォーマンスが出せる…んだけど。
最近は、このままでいいのかと不安になってしまう。
今の俺の音楽に自信が持てないんだ。
だからひとりで路上ライブをしてるけど、まだ不安はぬぐえない。
そんな状態であいつの隣には、立ちたくない。
「やめてくださいよ、俺と杏じゃあ、不釣り合いですよ」
「相変わらず謙遜してんなあ。まあいいや、調子も出てきたとこで、次行くか。
MC3人いるし、マイクリレーはどうだ?」
「…オッケー!じゃあアレンジいれてくよ!」
「……あ、あの……」
次の演奏が始まろうとした時、眼鏡をかけた女の子が、
杏に話しかけようとしていた。
(あの子どこかで…)
思い出せないが、どこかで会ったような気がする…
前にライブに来てくれた子だろうか?
「♪―――!」
しかし、杏は気付いてないみたいで、歌い始めてしまった。
「!!」
女の子は、突然の大きな音にびっくりした様子だが、
聞き入っているのか、動こうとしない。
「♪―!―!―!」
「……すごい…カッコイイ……!」
杏の歌に感銘を受けているみたいだ。
やっぱり、杏の歌はいい。
自然と体が動き出してしまいそうになるくらい、心に響いてくる。
他のお客さんも同じようで、店内が、熱気と赤色でいっぱいになる。
赤は苦手な色だけど、この『赤』はとてもきれいで、大好きだ。
こんなにもきれいな景色を魅せてくれる杏のライブが、本当に大好きだ。
(…それに比べて、俺は……)
湧いてきたいやな感情を抑えながら、ライブを見ていた。
・
「あー、気持ちよかった! ありがとね、みんな!」
ライブが終わって、杏は満足げだ。
「はー!俺たちの方がノせられるとはな。
杏ちゃん、また上手くなってんじゃないか?」
「ありがと。でもまだまだ全然だよ。
私、もっともっと歌えるようになりたいんだ」
「それで、『RAD WEEKEND』を超える最高のイベントをやるの!」
「あの夜を超えるだって!?そりゃあまた、大きく出たな!」
『RAD WEEKEND』
それは、謙さんの現役最後のイベント。
界隈では、あの夜を超えることは不可能だといわれるくらい、
最高のイベントだった。
俺も、杏に連れられ見に行ったが、衝撃だった。
観客の盛り上がり、謙さんたち、バンドメンバーの熱気。
そのすべてが美しくて、見せられた。
一朝一夕では成し遂げられない、まさしく集大成。
あの夜は紛れもなく俺にとってのターニングポイントだ。
それを超えるのが杏の目標。
その道のりはとても険しいけど、杏ならきっとできる。
俺はそう信じている。
あいつなら、最高の仲間を見つけて、最高のイベントをやってくれるはずだ。
「あれ、お客さん?」
「…あっ!」
さっきまで、ミュージシャンや謙さんと話してた杏が、
ツマミをお客さんのところに届けようとすると、
ようやくあの女の子に気づいたみたいだ。
「ごめんね、歌うのに夢中で気付かなくって!
どうぞ。ここの席、空いてるよ?」
「あっ…えっと……ご、ごめんなさい!!」
あ、店から飛び出してしまった。
「やーい、逃げられてやんの~」
「うっさい。…あのお客さんどっかであったころあるような…?
霞、知ってる?」
「いんや、知らないはずだよ。俺もなぜか見覚えがあるけど、
ライブに来てくれてたことかじゃない?」
「うーん、そうかな?」
不思議なこともあったもんだ。
…と、もうこんな時間か。そろそろ帰ろうかな。
「じゃあ、俺もそろそろ帰るよ」
「はーい、また明日!今日は早く寝なよ!」
「はいはい」
会計をして、外に出る。
今日もまた、ニーゴの活動だ。
といっても、俺から何かすることはないけど。
(◞‸◟ㆀ)
宵崎奏side
「…………」
パソコンの画面の明かりだけ灯っている部屋で私は曲を作っていた。
「…こうじゃない、もっと音を整えて」
試行錯誤しながら、作業を進めていく。
気付いたら、もう外も暗くなっていた。
「……カップ麺でも食べようかな」
カップ麺を取り出して、お湯を注ぐ。
待っている間、暇なのでナイトコードのチャットを開く。
開いてすぐ、共有されてるファイルに目が行く。
これは、昨日グループに入ったMistearが作曲したもの。
ファイルをクリックして、曲を流す。
「……やっぱり、すごいな」
あれから、何度か聞いてるけど、
曲のメロディーや歌声に、心が締め付けられる。
…まるで、自分のことを歌われているみたいだ。
私は、私の音楽で大切な人を失った。
それは、私の音楽が、人を幸せにするものじゃなかったから。
だから、私は誰かを幸せにする曲を作り続けなければならない。
彼の曲は、そんな私の写し鏡みたいだ。
でも、雪はこれをMistear自身のことを書いてるのではないかと言っていた。
本人も認めていたことから、彼もだれか大切な人を失ったんだろう。
「…Mistearも、私の曲で救わなくちゃ」
それが、私のやるべきことだから。
ふと、棚に置かれているストラップを見る。
このストラップは、小学校の時、年下の男の子に貰った『友達の証』。
「…
彼は、今どこにいるんだろう。
私が中学校に上がってから、会うことがなくなった。
今の私をみたら、なんて言うのかな。
「…あ、できた」
3分経ったカップ麺の蓋を外して、食べ始める。
ちょうど、曲も終わりを迎えたところだ。
(失っても、苦しくても、明日はやって来るから…か)
確かに、その通りだ。
どんなにつらくても、明日は来るんだ。
だから、これからも曲を作り続けよう。誰かを救う曲を。
そしていつか、また彼に合えた時に今よりも前に進んだ私でいるために。
彼との…たちばなかすみとの思い出があるから、私は頑張れるこの
(見守っててね……私の初恋の人)
(ーー゛)
星乃霞side
あれから家に帰り、晩御飯と風呂を済ませてパソコンに向かう。
まだ、活動まで時間があるから、暇つぶしにネットをあさる。
「ん?OWN…?」
ネットで、OWNという人物の話題が上がっているのを見る。
何でも、二週間前ほどから曲の投稿をしていて、今まで投稿してる4曲が、
すべて20万再生を超えているらしい。
興味を持った俺は、OWNを調べて、試しに曲を聞いてみる。
「…っ!これは……」
OWNの曲は、ひどく冷たいものだった。
最初は、ニーゴ…Kの曲のような、胸の内の苦しいものを
代わりに吐き出してくれるような感じがした。
だけど、何度か聞いていくうちに、その歌声の冷たさに気づいた。
周りの者すべてを拒絶して、一人で閉じこもろうとしているような。
OWNという言葉には、人の助けを借りないという意味がある。
本人がどういった意図でこの名前にしたのかはわからないけど、
いったい、どんな奴なんだろう。
しばらくOWNの曲を聞いてから、作業に移った。
・
あれから、25時になってニーゴの方で、作業を進めた。
何度か質問を受けて、その度に意見を伝えていたら、
すっかりいい時間になった。
「ふぁ~あ、そろそろボク落ちるね~」
Amiaの発言から、お開きの雰囲気になる。
「じゃあ、私も…て、そうだ。
ねえみんな、『OWN』って知ってる?」
えななんから、今日の俺的HOTワード第一位の名前が出てきた。
「あ!知ってるよ!一部で騒がれてるよね~!」
「俺もちょうどさっき知ったよ。新人のクリエイターで、
投稿してる楽曲がみんな20万再生を超えているんだ」
Kや雪は知らないみたいだが、Amiaは知っているみたいで、
話題に食いついてきた。
「全部、20万再生?新しい人でそれはすごいね」
「そんな人がいたんだ…知らなかった」
「無理もないよ。けっこうマニアックな人たちの間で話題だからね」
「URL貼っておくから、聴いてみてよ。ふたりとも、びっくりすると思うよ」
「そんなにすごいんだ」
「なんていうか、Kの曲を初めて聴いた時と同じ感じがして。
自分の言葉にできないことを、代わりに形にしてくれる、みたいな…」
えななんも同じ感想を持ってるみたいだ。
「そうだね。でも、なんだかKの曲とは違って、冷たく感じたな」
「冷たい?」
「そう!Kの曲は、なんだか、暗かったり、苦しいような雰囲気があっても、
どこかあったかい感じがするんだけど」
「OWNの曲は、それがなくって。全部をすべて拒絶してる感じがしたんだよね」
「まあ、それが魅力で、みんな惹かれているんだろうね」
鋭いナイフのように、胸に刺さる感覚。
怖いけど、好きになるのは、俺もよくわかる。
「あんな曲作れるなんて、どんな人なんだろ?」
「さあね。興味はあるけど…知りたくはないかな」
「…私も、もっとすごい絵が描けたらな……」
ボソッとえななんがつぶやいた。
以前、彰人に聞いたけど、何やら絵のことで父親ともめて以来、
それがコンプレックスになってるみたいだ。
「えななん?」
「あ…な、なんでもないよ。気にしないで」
「えななんの絵は、十分すごいと思うけどな」
「…え?」
雪の言葉に、えななんが驚く。
「確かに、今までのニーゴのMV見ても、毎回曲のイメージにぴったりだし、
今回のイラストもすっごくきれいで、俺は好きだけどなあ」
「私も、優しくて、繊細で、でもちょっぴり寂しそうで…。素敵な絵だなって思った。」
「…ほんと?」
「うん。私もえななんの絵、好きだよ」
「…そう。ありがと、雪、Mistear」
その後、Amiaは限界みたいで、すぐに落ちた。
俺も、そろそろきつかったから、落ちさせてもらった。
えななんも落ちたけど、Kと雪は俺が寝る前まで残ってた。
…何かしゃべってたのかな。
―1週間後、俺はこの時通話に最後まで残っていなかったことを後悔した。
今回はすっごい、筆の進みが遅かったです。
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