星乃霞side
いつものように放課後、WEEKEND GARAGEにいる俺だが、
あまりいい気分とは言えない状態だった。
―ニーゴの中で、『OWN』の話題が出た日から、雪と連絡がつかなくなった。
最後に、Amiaが雪と話をしていたらしいが、
それから雪がニーゴの活動に参加することはなく、すでに1週間が経過している。
最初は、リアルが忙しいだけかと思っていたが、
それにしても何かしら連絡が来るだろうし、
1週間も音沙汰がないのはさすがにおかしい。
リアルで会おうにも、会う手段がほとんどない俺は、
唯一の方法である路上ライブを毎日してみたが、
成果はなく、まふゆさんに合うことはできなかった。
今日は1週間付き合ってなかった杏に引っ張られてきたが、
やはりまふゆさんの消息が気になって仕方がない。
彼女は今、何をしているんだろうか。
「…すみ、……霞ってば!」
杏から声をかけられて、顔を上げる。
店に来てほとんど喋らない俺を心配しているようだ。
「…ああ、ごめん。考え事してた」
「もう。最近ずっと難しい顔してるけど、何かあった?」
「曲作りに苦戦してるだけだよ。気にしないで」
一瞬杏に相談しようと考えたが、やめておく。
とりあえず家に帰ってからみんなとまた考えよう。
「悩み事とかあったら、すぐに言ってよ」
「わかったよ」
気持ちを切り替えて、目の前のホットドッグにかじりつく。
ふと店の入り口を見ると、女の子が入店してきた。
あの子は確か1週間前に来た子かな。
「いらっしゃーい…て、あれ?」
「あっ…え、えっと……そのっ!」
「もしかして、この間のぞいてきた子じゃない?」
「…え?」
どうやら杏も気付いたみたいだ。
「同い年くらいの女の子が来るなんて、珍しいから覚えてたんだ!
また来てくれたんだね!」
確かに、WEEKEND GARAGEには、謙さんたち目的で来る男連中ばっかだから、
同い年、それも女の子がここに来るのは珍しい。
女の子は、杏に誘導されて、俺の隣の席に座る。
「注文はどうする?」
「あっ…えと、カフェオレお願いします」
カフェオレを注文したみたいで、ほどなくして、
女の子の目の前にカフェオレがやってくる。
カフェオレを出した謙さんは、エプロンを外している。
「…?謙さん、今からお出かけですか?」
「ああ、いい豆が入ったと連絡が来てな。夜のバー営業までには戻るから、
あとは任せたぞ、杏」
「はーい。お客さんはこの子と霞しかいないし、ゆっくりしてきなよ」
店のことを杏に任せて謙さんは店を出てしまった。
店の中には、俺と杏、そして件の女の子の三人だけになった。
突然のことで、女の子は少し緊張してるみたいだ。
「もしかして緊張してる?その制服、宮女のだよね。
私たちと同い年くらいでしょ?そんなに固くならないでよ」
「え、同い年?私、1年生ですけど……」
「じゃあ一緒だよ!私たち、神高の1年だからね!」
「そ、そうなの!?年上だと思ってた…」
杏を年上だと思っていたみたいで、女の子はたいそう驚いている。
「私、白石杏。こいつは、星乃霞。よろしくね」
「星乃霞だよ。よろしくね~」
紹介をされたので、挨拶しておいた。
「あ、小豆沢こはねです!えっと、よろしくお願いします。
し、白石さん、星乃さん」
「同い年だし、杏って呼んでよ」
「右に同じく、霞でいいよ」
「それよりもさ、私ね、こはねが来てくれて嬉しいんだ!」
「ここは、女の子はほとんど来ないからねー。
みんな謙さんに憧れてる男の人ばっかりで」
「謙さんって、さっきいた人…だよね?
この店のマスターさんで、昔は有名なミュージシャンだったっていう…」
どうやら、謙さんのことを知っているみたいだ。
これは、ますます珍しいお客さんだな。
「よく知ってるね!父さんは、このビビッドストリートで
ずっと活動したんだけど、二年前に引退して、この店を始めたの」
「だから、昔の仲間とか、ファンの人が、たくさん来るんだよね」
「じゃあこのあいだ、一緒に歌ってた人たちも…?」
「うん。あの人たちも、父さんのファンのミュージシャンで、
この間みたいに、よく一緒に歌おうってイベントとかにも誘ってくれるんだ」
イベントに誘われる度、大抵は断ってるけどね。
「白石さ…あ、杏ちゃんと霞くんって、イベントに出てるの?」
「うん。出てるよ。この辺は、ライブハウスとかクラブも多いから、
出やすいんだよね」
「だから、すっごく慣れてる感じだったんだね!
私、あの時すごくドキドキして…それで、も、もう一度聴けたらいいなって…」
なるほど、杏の歌声に惚れてまたここに来たわけだ。
確かに、あの時のこはねちゃんは、杏の歌に聴き入っていたな。
「あの時って、この前来た時?それで今日来てくれたんだ」
「それなら、今ここで歌おうか!」
「え?」
突然の提案にこはねちゃんは呆気に取られている。
その後の杏は、行動が早く、ライブスペースに向かって、マイクの調整をする。
「ほら、霞も準備して。ふたりで歌うよ」
「え~。杏の歌が聴きたいって言ってんだから、俺はいいじゃん」
「え、えっと…よかったら、霞くんの歌も聴いてみたいな…なんて」
まさかの、こはねちゃんからの要望。
さすがに本人から言われたんじゃあ、やるしかない。
…そういえば、杏と歌うのも1週間ぶりくらいか。
そうこうしてるうちに曲が始まり、ふたりで歌っていく。
「♪――!!」
「♪―!―!―!」
「……!!」
・
「すっごく…すっごくかっこよかったよ!ありがとう!杏ちゃん、霞くん!」
曲が終わると、こはねちゃんが興奮した様子で、こちらに駆け寄ってきた。
杏のアレンジが気に入っているみたいで、鼻歌で、その部分を歌っていた。
それを聞いた杏は、驚いた様子で。
「もしかしてこはね、歌えるの?ていうか、ちょっと歌ってみてよ!
今聞いた感じだと、歌詞も覚えてそうだし!はいマイク!」
杏の勢いに押されて、最初は遠慮していたこはねちゃんも、
マイクを持って歌いだした。
「…―♪」
(…!へえ、これはすごいね)
まだまだリズムだったりに甘さがあるけど、
柔らかいのに、響いて、伸びる声。
そして何より、聴いているとこっちまで歌いたくなる。
ただの素人かと思っていたけど、彼女ならもしかしたら…
杏も同じように感じたのか、こはねちゃんと一緒に歌いだした。
「ねえ、こはね!私と組もう!私と組んで、最高のイベントを一緒にやろうよ!」
曲が終わり、疲れていながらも、満足げなこはねちゃんに、
杏がそんな言葉を投げかけるまで、時間はかからなかった。
(゜д゜)
あの後、杏からの誘いにこはねちゃんが応えて、新しいコンビが誕生した。
これから頑張るぞー!とふたりが気合を入れているところに
見慣れた客がやってきた。
彰人と冬弥、『BAD DOGS』のふたりだ。
確か今日は、イベントのはずだったから、その帰りってところだろう。
新顔のこはねちゃんがいるので、お互い自己紹介をして、
何やら彰人が杏たちと話し込んでる様子なので、俺は冬弥に話しかける。
「イベントお疲れ~冬弥」
「ああ、ありがとう。お前もイベントに参加すればよかったのにな」
「それはまた来月だね。次は一緒のイベントだし、よろしくね」
「ああ、お互いベストを尽くそう」
来月に、REDというライブハウスのイベントに俺や、
冬弥たちは出ることになっている。
だから、それまでに雪の方を解決しないと…
当面の問題について考えていた時、
「…じゃあさ、ふたりとも、イベントに出てみない?」
彰人から杏とこはねちゃんへの提案が聞こえてきた。
相変わらずの、猫かぶりモードに、背筋が震えてしまう。
初対面だったり、あまり深くかかわってない人相手になると、
彰人は今みたいに、好青年を演じだす。
実際のあいつを知っている俺からすると、違和感がすごくて、正直苦手だ。
「来月俺たちが出るイベントに、一組欠員が出ちゃってね。
せっかくふたりが組んだんだから、同じ目標を持つ者同士で、
一緒にイベントに出ようよ」
「場所はREDってライブハウスだよ。そのイベントには、霞も出るけど、どう?」
「霞も出るの!?REDか……。あそこなら小さめだし初めて出るのにいいかも」
杏は乗り気なみたいで、こはねちゃんも、杏ちゃんと一緒なら…と
やる気を見せている。
「話はこっちで通しておくよ。それじゃあ」
彰人と冬弥は、そのまま店から出てしまった。
あの彰人の様子からして、おそらく、同じ目標を持つ杏がこはねちゃんという
素人と組むことにしたのが、許せないのだろう。
だから、イベントで自分たちのパフォーマンスを見せつけて、
ふたりを潰そう、なんて考えてるんだろう。
はたして、どうなるかな…
(*゚▽゚)ノ
彰人たちが帰った後、杏とこはねちゃんはイベントで歌う曲を決めていたが、
曲を探してスマホを触っていたこはねちゃんの手が止まった。
「…あれ?プレイリストにタイトルのない曲が入ってる…」
確かに、曲名が『Untitled』となっているものがあり、
再生をしても特に音は流れない。
そのかわりか、一瞬スマホが光った。
「…こはね。それ、なんか光ってない?」
「あ、ほんとだ…タイトルが光って…わ、まぶしい…!?」
そのまま、俺たちは、光に包まれた。
…なんかこれ、前にもあったような……
(*゚◇゚)
光が収まると、俺たちは知らない通りに出ていた。
「さっきまで店にいたのに、なんで私たち、外にいるの?」
「あ、あれ?スマホが動かない…私達どうしちゃったんだろう…」
「なんだか見たこともある気がするけど…。とにかく、歩いてみよう」
スマホも使えない状況だけど、止まってても何も起こらないので、
あたりを探索してみることにする。
少し歩くと、カフェバーのような店を見つける。
「あの店で、道を聞いてみようか」
満場一致で、店に向かった。
「すいませーん!誰かいませんか?」
「いらっしゃい…ああ、キミ達か。やっと来てくれたんだね」
「…え、ミクちゃん!?」
俺等を出迎えたのは、まさかのバーチャル・シンガー、
『初音ミク』だった。
「3人とも、中に入りなよ」
「これ、どうなってるの!?」
「ミク、今そこの通りに誰か来なかった?…て、あら!」
「やっとこのセカイに来てもらえたのね。よかったわ」
こんどは、メイコがやってきた。
「ねえこはね、霞。これって映像だよね?ミクもメイコも
バーチャル・シンガーだし…」
「うーん、映像にしてはリアル過ぎない?」
「びっくりさせちゃったわね。ひとまず座って話さない?」
信じられない光景だけど、ミクもメイコも、
ここのことを知ってるみたいだし、ついて行ってみる。
「店の中も、なんだか見たことがあるなあ」
「それは、ここが『キミ達のセカイ』だからだよ」
ミクが言うには、俺たちの、夢をかなえたいという『想い』で
このセカイが作られているそうだ。
そして、このセカイと俺たちの世界はあの『Untitled』でつながっていて、
曲を再生すればセカイに。曲を止めれば元の世界に戻れるらしい。
確認したら、俺のスマホにも入っていた。
「あの…私、杏ちゃんみたいにしっかりした夢は、まだ…
本当に、ここは『私達』の想いのセカイなんですか?」
「うん、ここは間違いなく、キミ達のセカイだよ。
キミ達が本当の想いを見つけられた時、歌が生まれるんだ」
「そしてその想いは、こはねも、霞も持ってる。あとは…」
ミクが続きを言いかけたとき、
「ミク、メイコ、聞いてくれよ!
またリンのやつが…て、人が来てる!」
ヘッドフォンを付けた少年が店の中に入ってきた。
「えっと、こはねと杏に霞だよね?やっと来てくれたんだ!
オレはレン!よろしくね!でも…あれ?3人だけ?」
「そうだけど…どうかしたの?」
「このセカイは、5人の想いでできてたはずだけど…」
「私たちの他にも、誰かがいるってことですか?」
あとふたり…いったい誰だろう。
「…て、店!店開けっ放しで来てるから、早く戻らないと…」
そういえばそうだったね。杏は、慌ててスマホを取り出す。
「あ、ありがとうございました!」
「また来るね」
俺たちは、『Untitled』を停止すると、また光に包まれた。
感想、誤字脱字があれば、お願いします。
1話ごとに何文字くらいが見やすい?
-
1000未満
-
1000~2000
-
2001~3000
-
3001~4000
-
4001以上