灰被りのアンモビウム   作:麦茶漬け

7 / 10
―白いタンポポの花言葉は、『私を探して』―


白いタンポポ

星乃霞side

 

光が収まると、俺たちは、WEEKEND GARAGEに戻っていた。

 

「…うん、ちゃんと戻ってこれたみたいだね」

「一体何だったの?…でも、私達すごい体験しちゃったね!」

「うん、夢を見てるみたいだった。…あ!もうこんな時間。

 早く家に帰らなくちゃ!」

 

外を見ると、もうかなり暗くなっていた。

 

「そうだよね。今日はありがとう。また連絡するね!」

「うん、またね!」

 

別れの挨拶をして、こはねちゃんは店を出ていった。

 

「じゃあ俺も帰ろうかな。これから頑張ってね、杏」

「もちろん!彰人たちだけじゃなくて霞も、あっと驚かせてやるんだから!」

 

自信満々の杏と言葉を交わし、俺も帰路に就いた。

帰ったら、ニーゴのボイチャに入って、雪のことで話し合わないと。

 

 

(´△`)

 

 

風呂からあがって、ナイトコードを開くと、すでにボイチャに3人が入っていた。

分かってたけど、雪はいないみたいだ。

 

「こんばんは。今どんな感じ?」

「お、来たねMistear。今、雪のことを話してたんだ。

 さすがに1週間も連絡ないから、どうにか連絡できる手段を探してるんだ」

 

Amiaから、大体の説明を受ける。

連絡手段か。ここは、一応彼女と知り合いなのを伝えるべきかな。

 

「実は、雪とはリアルで知り合いでさ。この1週間、彼女といつも会う場所に

 行ってみたけど、会えなかったよ。」

「え、雪と知り合いなの!?連絡先は知ってる?」

「残念だけど、連絡先は交換してないよ」

 

伝えるだけ伝えてみたけど、特に進展なし。

とりあえず、過去のチャット履歴に雪に関係するものがないかを探すことにした。

 

「…あれ、ねえみんな。共有フォルダに見たことない曲があるよ。

 管理者が雪で…更新日は、雪が来なくなった日……?」

 

Amiaが何か見つけたようなので、共有フォルダを見ると、

俺のスマホにもある、あのタイトルの曲があり、固まってしまった。

 

「『Untitled』…?なにこの曲?」

「こんな曲、作った覚えがないけど…」

 

それもそうだろう。恐らくこれは、セカイとつながっている曲。

管理者が雪ということは…もしかしてこれは。

 

「…ちょっと再生してみよう。何か手掛かりがあるかもしれない」

「うん。そうだね」

 

みんなに曲の再生を促して、俺も『Untitled』を再生する。

すると、WEEKEND GARAGEの時みたいに画面が光りだし、

そのまま光に飲まれてしまった。

 

 

(゚д゚)

 

 

光が消えた先は、とても冷たいセカイだった。

杏たちと行ったセカイとは全く違う、鉄骨みたいなものが突き刺さってるだけの

何もないセカイ。

 

あたりを見回して、他のメンバーを探す。

そう遠くにはいないはずだ。

予想通り、少し歩くと誰かの声が聞こえた。

さらに近づいて、その声がKたちだと気づく。

 

「みんな、ここにいたんだ」

「その声…Mistearもこっちに…て、あんた彰人の友達の!?」

 

声をかけると、真っ先にえななんが反応した。

 

「…やっぱり、気付いてなかったんですね」

「気付いてって…あんたは私のこと、知ってたの?」

「ええ、最初に挨拶した時から、聞いたことある声だなと」

 

どうやら向こうは俺のことに気づいてなかったみたいだ。

 

「霞と絵名って、知り合いだったんだ。」

「かすみ…?」

「うん。といっても、絵名さんの弟と仲がいいだけだったからね。

 改めて、星乃霞です。…で、そっちがK?」

「あ、うん。宵崎奏。よろしく」

 

宵崎奏…?どっかで聞いたことが…

いや、今はそれどころじゃないな。

 

「…ねえ、霞も、あの曲を再生してここにきたの?」

「そうだね。あの曲を再生すると、ここに繋がるようになってるはずですから」

「え、ちょっとまって?霞はここがどこか知ってるの?」

 

瑞希からの、質問に肯定して、ここについて説明する。

ここが、想いでできた場所で、『Untitled』を再生するとセカイに繋がり、

停止すると元の世界に戻れること。

ある程度必要なことを話すと、不思議に思いながらも、

ひとまずは全員納得したようだ。

 

「大体わかったけど、どうやって戻るの?

 曲を止めようにしてもパソコンは向こうにあるし…」

「それなんだけど、ここには、他にも人がいるはずだから。その人に聞こう」

 

そうこうしてると、誰かがこちらに近づいてきた。

 

「…え?あなたは、あの時の映像の……」

 

その子は、予想通りミクだった。

あっちのミクとは、容姿が違うけど、セカイと同じで、

ミクたちも姿が変わるんだろう

奏さんは、彼女を見たことがあるみたいだ。

 

「こんばんは、このセカイのミク」

「うん。…あなたたちが来るのを待ってた」

 

瑞希たちは、バーチャル・シンガーのミクがここにいるのに驚いてたが、

それよりも、『自分たちを待ってた』という言葉が気にかかる。

 

「それは、このセカイを作った人のために?」

「うん、お願い、あの子を見つけて。

 このまま本当の想いを見つけられなかったら、あの子は…」

 

突然のお願いに全員が、困惑してしまう。

このセカイを作ったひと、それはきっと―

 

「―ミク?どうしてここに人がいるの?」

「…え、雪?」

 

ふいに、冷たい声が聞こえてきた。

声の主を見ると、それは俺たちが探していた人物、雪だった。

 

「その声、K?」

「…えななんとAmia、それに…霞まで」

「よかった!無事だったんだね、雪!連絡取れないから心配したんだよ~」

 

雪の無事に安どして声をかけた瑞希だったけど、雪の反応は冷たいものだった。

 

「…うるさい。このセカイに来ないで。私をひとりにさせて」

 

いつもの雪とは考えられない反応に瑞希たちは戸惑っているが、

これが本当の雪、まふゆさんだと知ってる俺はあまり驚かなかった。

だけど、前に合った時よりも、さらに、黒い感情が見えて、

内心焦っていた。

 

「それって、ボク達と曲を作る気はないいてこと?」

「…そう。何度も言わせないで。」

「……じゃあ、雪は、『OWN』として曲を作っていきたいの?」

 

(OWNだって?)

 

瑞希と絵名さんも雪がOWNだと知らなかったみたいだ。

 

「…じゃあ、なんであの時言ってくれなかったの?」

「…言う必要がなかったから、言わなかっただけ。

 雪じゃない私は、あなたと話したいことなんてないから」

「…なにそれ、ふざけないでよ!」

「何も知らないで、すごいすごい騒いでた私を、馬鹿だなって思ってたわけ!」

 

雪の言葉に、絵名さんが怒りだしてしまう。

 

「ち、ちょっと落ち着きなって。…ねえ雪。OWNで曲を作りながら、

 ニーゴでも活動するのはムリなの?いくら何でも急すぎるよ…」

「私はもう、ニーゴにいる必要がない。ニーゴにいても、足りなかったから」

「…足りなかったって……?」

 

ほとんど喋ってなかった奏さんが口を開いた。

 

「初めてKの曲を聴いたときは、少しだけ、救われたような気がした」

「だから、Kのそばでなら、見つけられるかもしれないって思った」

「でも、それじゃあ見つけられなかった。だから、もう自分で見つけるしかない」

 

「…っ、救えて…なかった……?」

 

奏さんが放心状態になる。

 

「…ミク、この人たちを追い出して」

「…あなたは、本当にひとりで見つけられるの?」

 

ミクからの問いかけに、まふゆさんは少し間をおいて、

 

「まだ私を見つけられるっていうなら、全部捨ててでも探し出す。

 それでも見つからないなら…私は、消えるしかない」

 

まふゆからの返事に、ミクは悲しそうだった。

 

「だから、あんたさっきから何言ってるのよ!

 『救われた』とか『消えるしかない』とか、バカじゃないの!?」

「うん、一度ちゃんと話そうよ。雪もちょっと変だしさ」

 

瑞希が説得しようとするが、

 

「変?私が変ならあなた達だって変でしょ」

 

「だって本当は、Kも、えななんも、Amiaも―

 『誰よりも消えたがってるくせに』」

 

絵名さんと奏が、核心を突かれたような顔をする。

瑞希は無言でじっとまふゆさんを見つめていた。

 

『誰よりも消えたがってる』…か。

 

「…ホントに、どうしちゃったの雪?

 それにボクが消えたいってどういうこと?

 ボクは毎日楽し~いし、そんなこと思ってなんて…」

 

「…そういうの、もういいよ。」

 

「Amia、あなたはいつも楽しそうにしてるけど…

 私が言ってることの意味、全部わかってるんでしょ?」

 

「…へえ」

 

平静を装っていた、瑞希の化けの皮がはがれ、

普段の瑞希では考えられない、低い声を出した。

 

「…とにかく、もう疲れた。

 ミク、このセカイに、この人たちはいらない」

「……うん」

 

ミクはうなずくと、絵名さんに近づいた。

 

「ち、ちょっとミク!?」

 

ミクが手をかざすと、絵名さんは光に包まれて消えてしまった。

瑞希と奏も、ミクに元の世界に返されてしまった。

 

「……あなたも」

「まあまあ、ちょっと待ってよ。ねえ、まふゆさん」

 

ミクを制止して、まふゆさんに呼びかける。

 

「……なに?」

「ほんとに、ひとりで自分を探すんですか?

 そして、見つからなかったら、消える…と?」

「…私には、それしか残されていないから」

 

また少し間をおいて、答えるまふゆさん。

 

「本当にそうですかね?案外、まだまだ道はあると思いますけど」

「…うるさい。霞に、私のなにが―」

「わかりますよ」

 

まふゆさんの言葉を遮って、目の前に行く。

 

「俺とあなたは似ている。過程は違えど、お互い自分を失ってしまった。

 どれだけ探しても見つからない探し物に疲れて消えたくなる気持ちも

 痛いくらいわかります」

「…じゃあ」

「でも、俺は、少しですが失ったものを取り戻せました。

 それが何のおかげか、わかりますか?」

「……」

 

まふゆさんは、うつむいて、答えようとしない。

 

「いろんな人たちのおかげです。その人たちのおかげで、

 俺はまえに進めました。結局、人間はひとりで生きられないんですよ」

「だから、まふゆさん。もう少し、みんなを信用してみませんか?

 きっとすぐには見つからなくてもきっと―」

「うるさい!」

 

こんどは、まふゆさんに言葉を遮られてしまう。

 

「霞は、運が良かっただけ。偶然、自分を救ってくれる人に出会っただけ。」

「…もう、誰かに救われるかもって期待するのは嫌なの……」

「……もう出てって。」

 

まふゆさんから、きっぱりと拒絶を受けてしまう。

 

「…そうですか。そこまで言うなら仕方ありません。

 今日は俺も帰ることにします」

「でも、俺はあきらめませんよ。また来ますから」

 

ミクが俺に近づいてくる。

 

「…最後に聞かせて。」

「…なんで、そこまでして私にかまうの?」

 

ミクが手をかざそうとすると、まふゆさんから、質問を投げかける。

 

「それは、貴方に救われたからですよ」

「…え?」

 

まふゆさんが小さくつぶやいた。

続きを言おうとしたけど、視界が光でいっぱいになってしまった。

 

「…私を、見つけて」

 

元の世界に戻る前に、そんな声が聞こえた。




朝起きたら、評価バーに色がついてました!
これからも、楽しんで読んでもらえるように頑張ります!
感想や誤字脱字があれば、よろしくお願いします。

1話ごとに何文字くらいが見やすい?

  • 1000未満
  • 1000~2000
  • 2001~3000
  • 3001~4000
  • 4001以上
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。