ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、"最高最善の魔王"南雲ハジメは、ガハルドの野望を阻止すべく、仲間達と共に帝城の婚約パーティーに参加する。
その裏で、ハウリア達は着々と戦争の下準備を済ませていた。
そしてパーティーにて、ガハルドの宣言と同時に明かりが落とされ、遂にハウリア達の戦いが始まったのであった!」
浩介
「そして今ちょうど、一仕事終えてきたところだ。」
ハジメ
「早いな浩介!やっぱりお前に似合いそうなやつ、全部預けといてよかったよ。」
浩介
「いや、一部どう考えても酷すぎじゃね?って思うものもあったぞ?」
ハジメ
「でもそれ使っているキャラは大体鋼メンタルで乗り切っているぞ。
お前も男なら、それくらいやってのけてみせろ。」
浩介
「無茶苦茶な魔王だなぁ……だが、それでこそ我が主。乗り越え甲斐のあった試練とも言えよう!」
ハジメ
「深淵卿出てんぞ……まぁ、お前は何というかさ、色々とすげぇよ、うん。」
浩介
「それ褒めているんだよな?褒めているんだよね?……まぁいい、じゃあ第7章第10話」
ハジメ・浩介
「「それでは、どうぞ!」」
貴族A「なんだ!?なにが起こった!?」
貴族B「いやぁ!なに、なんなのぉ!?」
一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族達が混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げる。
「狼狽えるな!魔法で光をつくっがぁ!?」
「どうしたっギャァ!?」
「何が起こっていっあぐっ!?」
比較的冷静だった者が、指示を出しながら魔法で光球を作り出し灯りを確保しようとする。
が、直後には悲鳴と共に倒れ込む音が響いた。同時に、混乱する貴族達が次々と悲鳴を上げていく。
その異様な光景に再び場は混乱に陥った。
特に、令嬢方は完全にパニックに陥っており、闇雲に走り出したようで、そこかしこから転倒音や衝突音が聞こえ始める。
ガハルド「落ち着けぇ!貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」
暗闇の中、ガハルドの覇気に満ちた声が響き渡る。
闇夜を払拭しそうなほど大音量の喝は暗闇と悲鳴の連鎖で恐慌に陥りかけた帝国貴族達の精神を強制的に立て直させた。が、その程度では、このゲームは攻略できない。
ヒュ!ヒュ!ヒュ!
ガハルド「っ!?ちっ!こそこそと鬱陶しい!」
そこでさらに指示を出そうとしたガハルド目掛け、連続した風切り音と共に闇の中から無数の矢が飛来する。
それも、通常では考えられないほど短いくせに驚く程の速度と威力を秘めた矢が四方八方。
その上、絶妙にタイミングをずらし、実に嫌らしい位置を狙って正確無比に間断なく撃ち込まれるので、さしものガハルドも防戦一方に追い込まれてしまったようだ。
とても態勢を立て直す為の指示を出す余裕はない。
それでも真っ暗闇の中、風切り音だけで矢の位置を掴み儀礼剣だけで捌いているのは流石というべきだろう。
怒声を上げるガハルドを中心にギン!ギン!ギン!ギン!と金属同士が衝突する音が鳴り響く。
次々と上がる悲鳴と物や人が倒れる音が響く中、ガハルドの喝と、そのガハルドが襲撃を受けていることから冷静さを取り戻した者達が灯りとして火球を作り出すことに成功した。
険しい表情で周囲を見渡しつつ衛兵を大声で呼ぶ彼等。
その視界の端に何か黒い影のようなものがヒュッ!と風を切りながら横切る。
貴族A 「ッ!?何者っげぶっ!?」
咄嗟に、その影に向かって火球を飛ばそうとした帝国貴族の男。
しかし、その寸前、彼の背後の闇から影が飛び出した。真後ろにいるのに、男はまるで反応しない。
そして、その無防備な項に、暗闇と同化したような黒塗りの小太刀が一閃された。
すると、まるで冗談のように、男の首が宙に舞った。
ポ~ンと首が飛びクルクルと回って生々しい音と共に地面に落ちる。
その頭は、どこかキョトンとしており、自分の首が刈り取られたという事に気がついていないかのようだった。
光に誘われる蛾のように火球を作り出した者のところへ向かっていた帝国貴族や令嬢達は、火球が消滅する寸前に垣間見えた影と、一瞬で人の首が飛ぶ光景を目の当たりにし、無様にも腰を抜かしていく。
気が付けば、周囲を照らしていた幾つかの火球は全て消えて、再び闇一色となっていた。
「ひっ、ば、化け物ぉ~!」
「し、死にたくないぃ~、誰かぁ!」
腰を抜かした者の多くは令嬢や文官達だったが、少なからず軍の将校もいる。
前線から退いて贅沢の極みを尽くしてきた彼等には死神の鎌に等しい暗闇と襲撃者の存在に精神が耐えられなかったのだ。
そんな彼等は、一人の例外もなく、何も出来ないまま、そしてしないまま、音もなく肉薄した黒装束達に手足の腱を切られて、痛みにのたうちながら倒れ伏すことになった。
そんな情けない者達もいるが、ここが実力至上主義を掲げる軍事国家である以上、いつまでも混乱に甘んじているわけがない。
ガハルドのように儀礼剣は持っていないが護身用の懐剣を頼りに何度か襲撃を凌いだ猛者達が、仲間の気配を頼りに集まり陣形を組みだした。
「くそっ、相当の手練れだぞ!気配がまるで掴めない!」
「愚痴ってる場合か!ローグ、テッド!視界確保を優先!他は防御に徹しろ!」
背中合わせになり、中央に術者を据えて詠唱を任せる。見事な連携だ。
ガハルドの比較的近くにいた者達(おそらく近衛であろう)も、直ぐに陣形を組んでガハルドの背後を守りだした。
注意すべき範囲が一気に半分になったガハルドに、もう矢による攻撃は通じない。
余裕が出来たガハルドは何十という数の矢を片手間に叩き落としながら詠唱を始め、同時に懐から切り札であるアーティファクト、ハジメのアナザーウォッチを取り出そうとした。が、
ガハルド(!?ない!?どこにもねぇ!?)
その手は何故か空を切っていた。否、取り出そうとしたはずのものがいつの間にか消えていたのだ。
確かに先程感触があったはずの、アナザーウォッチが消えていたのだ。
しかし、それに動揺しつつも冷静に考えるガハルド。こんな真似が出来る人物は、一人しかいない。
ガハルド(クソッ、やってくれるじゃねぇか。南雲ハジメ……。)
しかし、当の本人はどこにもおらず、仲間達は会場の端っこにおり、襲撃の邪魔にならぬようにと、ご丁寧に仲間達の周囲だけを覆う結界まで敷いている。
そして、先程まで近くにいたリリアーナを雫がいつの間にか抱きしめており、リリアーナを守護していますよ~、といったアピールまでしている。
ガハルド(そういうことかよ…あくまでこいつらは囮、本命はあのアーティファクトって訳か!)
なんて厄介なことしてくれたんだ!と、今すぐ相手に言いたかったガハルドだが、その隙を与えるほどハウリア達の猛攻は甘くはなかった。
しかし、そこは一国の長。動揺しつつも詠唱は途切れなかった。
その甲斐あって、とんでもない発動速度で瞬く間に作り出された10近い火球。
それは、一瞬で会場に広がり、始源の煌きを以て闇を払い始めた。
ガハルド「これ以上好きにさせるな!反撃開始だ!」
そう息巻いたガハルドだったが、直後、目の前に金属塊がコロコロと転がってくる。
側近「なんだ?これは……」
訝しみながらも正体を確かめようと接近するガハルドの側近を務める男。
それは、彼だけでなく離れた場所で灯りを確保した者達も同じだった。
猛烈に嫌な予感がしたガハルドは、咄嗟に制止の声をかける。
ガハルド「よせ!近づくなっ!」
側近「っ!?」
ガハルドの言葉に反射的に従って後ろに飛び退ろうとした側近だったが、その金属塊のもたらす効果からすれば無意味な行動だ。
それは、次の瞬間に証明された。
カッ!
キィイイイイイン!!
突然、金属塊が爆ぜたかと思うと、強烈な光が迸り、莫大な音の波が周囲を無差別に蹂躙したのである。
「ぐぁあ!?」
「ぐぅうう!」
「何がァ!?」
光が爆ぜた瞬間、咄嗟に目を瞑って腕で顔を庇ったガハルド達だったが、余りの不意打ちに完全には防ぎきれず、一時的に視力を失う程にきっちりと目を灼かれ、酷い耳鳴りによって聴覚も失う事になった。
そして、その絶好のチャンスを襲撃者たるハウリアが見逃すはずもない。
絶妙なタイミングで急迫した黒装束のハウリア達が極限の気配殺しで標的の懐に踏み込む。
そして、漆黒の小太刀を一閃、二閃。
五感の二つをいきなり奪われ、抵抗する余裕など微塵もない将校達の手足の腱は、あっさりと切り裂かれてしまった。
激烈な痛みに悲鳴を上げて倒れ伏す側近達。
直後、口にナイフを突き込まれて舌を裂かれる。詠唱封じの目的だ。
離れた場所でも同じように、反撃しようとしていた者達が次々と手足の腱を切られて舌を裂かれていく。
大きな魔術を行使しようとしていた者は容赦なく首を飛ばされている。
そんな中、ギンギンギン!と金属同士の激突音が響いた。
何と驚いたことに、ガハルドだけは、目も耳も潰された状態で、極限まで気配を殺したハウリア族二人の斬撃を凌いでいたのである。
これには襲撃しているハウリア族の二人も黒装束から覗く瞳を大きく見開いて驚きをあらわにした。
その一瞬の動揺を感じ取ったのか、隙を突いて気合一発、ガハルドは震脚の如き踏み込みによって衝撃を発生させる。
「「っ!」」
しかし、体勢を崩されつつも、二人のハウリアはその場からサッと退避する。
直後、先程まで二人がいた場所に、ガハルドが目も耳も使えない状態で、ゾッとする程正確な横殴りの斬撃を放つ。
鞭のようにしなっていると錯覚する程の特異な剣撃。
受け止めていれば、吹っ飛ばされてしまうことは確定だっただろう。
ガハルド「散らせぇ!"風壁"!」
そのタイミングを狙ったのか、凄まじい数の矢がガハルドを集中砲火するが、たった二言で発動した風の障壁によって、その全てはあっさりと軌道を逸らされてしまった。
ガハルド「撃ち抜けぇ!"炎弾"!」
そして再び二言で魔法を発動。
"火球"より威力のある"炎弾"を一度に10も作り出し、"風壁"によって感じ取った矢の射線に向かって一気に掃射する。
発動速度も威力も尋常ではないガハルド、それでもハウリアは動じない。
だって、自分達の王様に比べたら、明らかに遅いもん!
ガハルド「舞い踊る風よ!我が意思を疾く運べ、"風音"!」
ガハルドは次の魔法を行使する。風系統の補助魔法"風音"。
周囲の空気に干渉して音を増幅したり、小さな音を遠くに運んだり出来る魔法だ。
大音量に狂わされた聴覚を、この魔法で補助して僅かにでも取り戻そうというのだろう。
確かに、応用すれば"気配感知"の魔法バージョンと言えるかもしれない。
と言っても、結局は聴覚を通じて感知するので精度は下がるし、感じ取るのに集中力も必要で近接戦闘時に使うには不向きな魔法ではある。
基本は斥候や諜報員が使う連絡・諜報用の魔法なのだ。
しかし、ハウリア達はそれを待っていたと言わんばかりに、本気を出した。
遠距離部隊は武器を弓矢からスナイパーライフルに、近接部隊はただのナイフから高周波ブレードとトンファーガンに切り替えた。
完全に殺しにかかるスタイルだ。
ガハルド「ゼァアアアッ!!」
それに気づかないガハルドの裂帛の気合と共に、斬撃が鞭のようにしなりながら変幻自在に振るわれる。
それを難なく躱しつつ、気配に緩急をつけてガハルドの感覚を誤魔化し、連携で凌いでいくハウリア達。
勿論、"風音"のせいで気配操作が余り役に立っていないことも把握済みだ。
「上等。」
「なます斬りにしてやる。」
誰もがその口元に凄惨な笑みを浮かべた。
覆面の隙間から覗く瞳はギラギラと獰猛に輝き、一人一人から濃密な殺気が噴き出す。
その様は正に、某人口生命体並みの凶暴さだ。その内、「アマゾンッ!」とか言い出しかねない。
視覚を奪われながら、おそらく発動しても"気配感知"には程遠い効果しかないだろう連絡・諜報用の魔法に身を委ねて躊躇うことなく踏み込めるガハルドの胆力と凄絶な殺気の奔流。
これが皇帝。これが軍事国家の頭。力こそ全てと豪語する戦闘者たちの王。
だが、それでも自分達の魔王には到底及ばない。魔王には眼眩ましも耳鳴りも聞かないのだから!
そう心に言い聞かせ、気配操作が意味をなさないのなら、連携で仕留めてやんよぉ!と言わんばかりに、ハウリア達はまるで一つの生き物のように動き出した。
ガハルド「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか!なぁ、ハウリアぁ!」
四方八方からヒット&アウェイを基本とした絶技と言っても過言ではないレベルの連携攻撃が殺到する。
その斬撃を独特の剣術で弾きながら、ガハルドは楽しげに叫んだ。
どうやら、とっくにハウリア族とばれていたようだ。
ハウリア達は、ガハルドの雄叫びを聞いても無言だ。ただ、ひたすら殺意を滾らせていく。
ガハルド「あぁ?ビビって声も出せねぇのか!?」
言葉からして、やはり、魔法のおかげで聴力だけは少し回復しているらしい。
そのガハルドの叫びに、一際強烈な殺気を振りまくハウリア――
カムが得物の二刀を振るいながら、その溢れ出る殺意とは裏腹に無機質な声をポツリと返した。
カム「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ。」
ガハルド「っ!はっ、上等ぉ!」
暗闇に火花が舞い散り、更に激しさを増す剣戟は嵐の如く。
通常であれば、単体能力でガハルドが圧倒していただろう。
しかし、カム達はハジメ考案のヘルライジングトレーニングの第一被害者でもある。
その甲斐あって、身体強化付きならカム一人でもガハルドを相手取ることは可能だ。
しかし、ここにいるのはカムだけではない。卑怯上等のハウリア達なのだ。
当然、一騎打ちに持ち込ませるはずもなく……
ドパンッ!ドパンッ!
ガハルド「ぐぁッ!?テメェ…!」
剣と高周波ブレードがぶつかり合ったその絶妙な瞬間、放たれた弾丸は鎧を貫き、ガハルドの脹脛を深々と貫いた。
そこへ追い打ちと言わんばかりに、ガハルドにとって良くない事態が発生する。
ガハルド「っ!なんだっ?体が……」
ガハルドが突如ふらつき始め、急速にその動きを鈍らせたのである。
「待ってましたぁ!」と言わんばかりに、四方八方からハウリア達が飛びかかる。
辛うじて剣で受け止めるものの即座に腕の腱を切られ、ガハルドは遂に剣を取り落とした。
ガハルドは、瞬時に魔法を発動しようとするも、刹那のタイミングで交差するようにすれ違った二人のハウリア族が、戦闘中に確かめていた位置に小太刀を振るい、隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを破壊または弾き飛ばす。
同時に、残りの腕と足の腱も切断した。
ガハルド「ッ――!」
迸る激痛に、しかし、悲鳴は上げないガハルドだったが、その体は意志に反してゆっくりと傾き、ドシャと音を響かせてうつ伏せに倒れてしまった。
静まり返るパーティー会場。誰も言葉を発しない。
それは、物理的に口を閉じさせられているからというのもあるが、きっと、たとえ口が利けたとしても、言葉を発する者はいなかっただろう。
ヘルシャー帝国皇帝の敗北。暗闇に視界を閉ざされていようが、理解できてしまう。
その事実は、人から言葉を、あるいは思考自体を奪うには十分過ぎる衝撃だった。
時間は少し遡る。
帝城の塔の屋根にて、パーティー会場を見下ろせる位置に、その人物はいた。
???「とうとう始まったね……ハウリア達の襲撃が。」
その人物はローブを被ってはいたが、声色で女性だと分かる。
そして彼女は、現在襲撃が行われている会場をただ見ていた。
ローブの女「皇帝くんに少し助力してあげたけど……そろそろウォッチを起動する頃かな?
折角だし、手助けでも「させると思うかい?」ッ!?」
ローブの女は、ガハルドを襲撃しているハウリア達の妨害をしようと、手に魔力を溜め始めようとした。
が、突如、背後から聞こえた声に思わずその場を飛びのき、その声の主を見て驚愕した。
ローブの女「オーマジオウ!?」
ハジメ「その名前で統一されているのか……初めましてかな?タイムジャッカーのお嬢さん。」
ローブの女、タイムジャッカーの後ろに立っていたのは、腕を組み、仁王立ちで不敵に笑うハジメであった。
ローブの女「そんな…アナザーウォッチを警戒していたんじゃないの!?」
ハジメ「ところがどっこい、こっちには秘密兵器がいるのでな。そうだろう……浩介?」
そう言って後ろに眼をやったハジメの背後から現れたのは、全身黒尽くめでお辞儀・合掌をする謎の男だった。
浩介「ドーモ、ハジメマシテ。タイムジャッカー=サン。コウスケ・E・アビスゲートデス。」
ローブの女「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
そう、その恰好は正にニンジャ。その正体は何を隠そう、我等が深淵卿、遠藤浩介であった。
ローブの女「ッ!…新手ってこと?そんな奴、エトスからの報告にもなかったのに…。」
浩介「……うん、そうだよね。俺のことは忘れられているって、薄々気づいていたから。
別に何ともないよ、うん。」
ハジメ「そう言うな、浩介。逆に考えるんだ、相手が対策をとることが出来ない、と。」
そう言ってハジメは浩介を慰めた。その雰囲気に何故かローブの女は、思わず目元を拭いたくなってきた。
さて、何故ハジメと浩介が屋根の上にいるのかというと、時は樹海での作戦会議まで遡る。
ハジメ達は作戦会議にて、婚約パーティーの襲撃に関する打ち合わせをしていた。
そこで漸く襲撃の方針、作戦が決まったところで、雫がある不安を投げかけた。
雫「所でハジメ君、アナザーウォッチに関してはどうするの?
タイムジャッカーもいないとは限らないし、ガハルド陛下もあなたを警戒している筈よ。」
その言葉に、タイムジャッカーの強さを目の当たりにした面々も、顔を顰める。
しかし、それを問われたハジメはというと、得意げな顔で答えた。
ハジメ「ふっふっふっ…雫や、忘れてやいやしないかい?俺達には……最強の隠密機動がいることを!」
雫「隠密機動……それは一体?」
ハジメ「いや、一緒に来たでしょ……ねぇ、浩介?」
そう言ってハジメが振り返って呼びかけるも、返事は返ってこない。
ハジメ「……あれ?浩介はどこ行った?」
思わず周りを見渡すハジメ。すると、意外な人物が声をかけた。
ラナ「あの……陛下。それって、あちらにいる黒い人、でしょうか?」
その人物――ラナの指さした方向を一斉に向くと、先程呼ばれた遠藤浩介本人がいた。
浩介「もしかして……分かるんですか!?俺の居場所が!?」
ハジメ「マジかよ……俺でさえ確率は五分五分なのに……正確に当てた、だと……!?」
自分の存在を認知し、場所まで当てられたことに浩介は驚き、自分以上に浩介の察知が上手いラナに、思わず戦慄するハジメ。
浩介の存在の薄さを知っていた光輝達は勿論、それに漸く慣れたと思っていたユエ達や、自分たち以上に気配遮断が得意な奴がいたのかとハウリア達でさえ驚いていた。
ハジメ「さ、流石だな、ラナ。
こいつこそが秘密兵器、俺の友であり、唯一死角を取れるであろう男、遠藤浩介だ!」
浩介「またの名を深淵卿、浩介・E・アビスゲートと呼んでもらおう!」
そう言って決めポーズをとる浩介――深淵卿。最早心の中では羞恥心がMaxであろう。
「唯一死角を取れるって……あの時の!?」
「陛下が敵対を恐れたというあの!?」
「気配遮断の格が陛下よりも群を抜くというあの!?」
「それにしては何という決めポーズだ!」
「あぁ、なんて香ばしさだ!陛下が信頼を置くだけはある!」
それに相反して、ハウリア達の反応は良好、いや寧ろ大歓迎だと言わんばかりのムードだった。
浩介「……なぁ、ハジメ。ハウリアの人達ってこういうのが好きなのか?」
ハジメ「知らん。抑々勝手に進化しただけであって、俺はその辺全く仕込んでいないし。」
まさかの反応に死んだ目で尋ねる浩介に、自分が知らない間に別の意味での進化を遂げたハウリアを見て、遠い目で返すハジメ。
すると、そんな浩介に、ラナはにっこりと、何処か妖絶でいて可愛らしさが籠った微笑みを向ける。
その笑顔に、思わず浩介の頬が赤くなった。
元々、愛玩奴隷としては一番人気があっただけに兎人族は総じて整った容姿をしている。
そしてラナも、物凄く美人だった。当然、浩介の心臓は今にも飛び出しそうだ。
ラナ「君、気配操作がとっても上手ね。私じゃ敵わないかも。」
そう言って浩介に称賛を送るラナ。本来であれば照れるところなのだろう、が……
浩介「……ごめんなさい、これ、生まれつきなんです……。
別に"隠形"も、アーティファクトも使ってないっす。
昔から、親とか先生にも忘れられるくらいなんで……。」
浩介の放った自虐ネタに、思わず辺り一帯が静まり返る。同時に、多くの温かい視線が彼に向けられた。
そして褒めようとした筈のラナは、気まずそうに浩介を見ていた。
ハジメ「まぁ、そういうわけだ……でも、実力は保証するぞ!既に神代魔法を3つも持っているしな!」
浩介「ほぼハジメのサポートがあったからだよ……
何故かライセンだけ一人でトラップ地帯に放り込まれたけどな!」
ハジメ「悪かったって。それくらいした方が、深淵卿の制御に役立つかな?って思ってさぁ……。」
慌てて浩介のフォローにハジメが回る。そして、神代魔法保持者と聞き、ハウリア達に衝撃が走る。
ハジメのサポートありきとはいえ、目の前の男は神代魔法を獲得しているのだ。
しかも、ライセン大迷宮のトラップ地帯をたった一人で潜り抜け、その神代魔法を獲得したとあっては、実力は確かなものだ。
勿論、ラナもその実力に驚いていた。
が、流石にここでだんまりしていては、ハウリアの名折れ!とでも思ったのか、突然ポーズをとって名乗りを上げた。
ラナ「わ、私の名前は疾影のラナインフェリナ・ハウリア!
疾風のように駆け、影のように忍び寄り、致命の一撃をプレゼントする、ハウリア族一の忍び手!」
浩介「ら、ラナさん?」
ラナ「でも、君を見ていたら、この二つ名を名乗るのが恥ずかしくなっちゃたわ。
だから、悔しいけど"疾影"の二つ名は君に譲るわ。君は今日から"疾影"……
ううん、私を超えているのだから……"疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート"と名乗るといいわ!」
何故か上から目線の二つ名譲渡。これには浩介もどう反応したらいいか分からなかった。が、その時。
ハジメ「何言ってんだよ、ラナ。此奴の二つ名は、"虚無葬送"だろ。
いつの間にか相手を無に帰す暗殺者、って意味の。」
まさかのハジメが二つ名論争に参戦。これには、流石のラナも退かざるを得ないかと思われた。
浩介「じゃあ"疾牙影爪"で!」
ハジメ「ナァズェダァァァ!?」
が、浩介にとっては綺麗なウサミミお姉さんからの名づけの方がよかったようだ。魔王、撃沈。
「ウゾダドンドコドーン!」と叫びながら落ち込むハジメを、ユエ達が温かい視線で出迎えた。
そして二つ名づけとはいえ、敬愛する魔王陛下を負かしたラナにハウリア達は驚愕する。
しかし、それと同時に、浩介がラナのつけた二つ名を選んだ理由を察した。
「こいつ、落とされていやがる!」と。だって、浩介のラナを見る目が熱を帯びているのだから!
その理由に漸く気づいたラナも、ちょっと頬を染めつつ、周囲のハウリア女性達からニヤニヤ笑いと冷やかしを受けていた。
勿論、我等が魔王もそれに気が付かない筈もなく。
ハジメ「ほうほう、それなら俺が負けても仕方がないねぇ~。お熱いことで。」
ラナ「!?」
浩介「ばっ、ハジメ!?おまっ、一体何言って!?」
ハジメ「とぼけんじゃないよ。俺がどれだけ女性陣に惚れられてきたと思ってんだ?
恋の始まりのサイン位、どうってことなく見抜けるわ!」
ハジメの鋭い指摘に、浩介は顔を赤く染めて俯き、ラナは頬をちょっと赤く染めてそっぽを向き、両者ともにその気持ちを誤魔化す。
が、分かりきった態度なので、周りからのニヤニヤ笑いが止まらない。
ハジメ「ねぇ、ラナ。どんな答えを出すかは君次第だけど、もう気持ちは――」
浩介「それ以上は止してもらおうか、南雲ハジメ。」
ハジメ「!」
作戦開始も近いので、苦笑いを浮かべながら助け船を出そうとしたハジメを、浩介の覇気のこもった声音が制止させた。
その声音は、ハジメに言葉を呑み込ませるに十二分の迫力があった。
思わず、誰もが視線を吸い寄せられる。
浩介「これは、俺の戦いだ。ここでお前にサポートされっぱなしじゃ、男として名が廃る。
俺自身の力で、勝ち取らなきゃいけないものなんだ。だから、お前は口を出すな。」
その迫力のある言葉には、確かな覚悟があった。
それを感じたハジメも、「承知した。」と頷き、その口を閉じた。
浩介「ラナインフェリナさん!」
ラナ「ひゃいっ!」
その覚悟の強さに思わず、声が上ずるラナ。しかし、浩介はそんな彼女に愛し気に眼を細めて言った。
浩介「どんなに残酷な答えでも、どんなに厳しい条件でも、構いません。
それが貴女の本心なら――俺はなんだろうと受け入れます!」
その雄叫びは、遠藤浩介の意地だった。
惚れた女性が敬愛を捧げる男を前に、貴女の気持ちを自分に向けさせて見せるという、一人の男としての意地だった。
その本気の気持ちに、ラナの顔がボバッと爆発したみたいに真っ赤に染まる。
ユエ達の『おぉ~。』という、なんか凄いものを見ている!という感嘆の声も上がった。
そして両者の上司であるハジメも、「いいねぇ~、これこそ青春だよ。」とご満悦な模様。
しかし、嬉しさと恥ずかしさで混乱したのか、赤面した表情でラナはとんでもないことを言い出した。
ラナ「……うぅ、そ、そんなに私がいいの?じゃなくて、ごほんっ!
そ、それほどまでにこの呪われた身を欲するとは……!
で、でも、私は陛下のものだし……じゃなくて、ごほんっ!あ、生憎だけど、我が身は既に"あの方"のもの!だから、ね?諦めて……じゃなくて、ごほんっ!か、影は影に、光は光に生きるのが定めというものよ!
で、でも、まぁ、陛下に傷の一つでもつけられるくらいなら……考えなくもない、かも?
じゃなくてっ、ごほんっ!
ふっ、そ、それでもこの身を欲するのならっ、最高最善の魔王に挑み、見事っ、勝ち取ってみなしゃいッ!」
もじもじ、そわそわしながらそんなことを早口で言ってしまったラナさん。
熱のせいか、眼がぐるぐる回っており、自分でも何を言っているのかが分かっていない状態だった。
その言葉を聞いていた周囲の者達の空気が、一斉に凍りつく。
さっきまで熱々ムードだったものが、恐怖の一言で冷め切ってしまっていた。
ハジメ「いや、なに言っちゃってんのォォォ!?」
何故か自分を試練の対象に組み込んだことに驚いたハジメの絶叫が、樹海に木霊した。
まさかの輝夜姫並みの難関に、自分の親友を飛び込ませるラナに思わず戦慄し、流石に止めさせようとした。
浩介「あい分かった!」
ハジメ「分からないで!?お前まで何言っちゃってんの!?ねぇ!?本気で俺がやったらマジでお前死ぬぞ!?
止めろよ!?俺、親友が玉砕する姿見たくねぇぞ!?帝国襲撃前なのに何覚悟完了しちゃってんのさ!?」
が、その言葉を聞いて既に覚悟を決めたのか、浩介は即座に力強く返答した。
既に彼の眼には【グリューエン大火山】以上の爆熱が籠っており、その本気度からハジメの焦り様が窺える。
実際、ハジメ以外に時間停止対策を持っている者はいないので、現状この中ではぶっちぎりにハジメは強い。
浩介「男の誓いに、訂正はないっ!!」
ハジメ「言っていることはカッコいいけど、タイミングってものがあるだろッ!?」
それでも浩介は止まらない。恋は盲目というが、この調子だと死の運命すら乗り越えそうなのが怖い。
が、その次の瞬間、ハジメの頬に微かな痛みが走った。それは……
浩介「吾輩は本気だぞ?我が魔王。」
浩介がいつの間にか持っていた小石で付けた傷であった。
どうやら、ハジメが焦って混乱している間に、小石で頬をかすめたようだ。
その本気と技量に、思わずハウリア達は勿論のこと、ユエ達もまさかの事態に驚愕する。
そして、僅かとは言え襲撃を喰らったハジメは……
ハジメ「……そこまで言うのならば、受けざるをえまい。」
そう言って沸き立つ面々を鎮めるかのように、覇気を出した。
ハジメ「良いだろう。本気でお前に相手をしてやる。生きて勝つ等と、甘い希望を持てると思うなよ?」
その圧は正に魔王そのもの、思わず光輝達も後退りしてしまうほどだった。
浩介「願っても無いこと!そうでなくては、彼女の思いにこたえられん!」
しかしそれでも尚、浩介の胸に宿る闘志は燃え盛っており、魔王の圧すら跳ねのける。
その結果、ハウリア達は浩介の実力に大興奮し、ラナに至ってはウサミミの先まで真っ赤に染まっていた。
それを見ていたユエ達は、「やれやれ。」といった表情で浩介を見ていたのであった。
その後、作戦優先ということで、ハジメと浩介の対決はまた後日ということになった。
そして今回の作戦の内訳を説明すると、こうだ。
1.ハジメ達が先に帝城へ先行、トラップの解除を密かにやる。
2.リリアーナにお守りをつけさせた上で、パーティーに参加。浩介のみ、別行動。
3.夜、ハウリア達は帝都並びに帝城に潜入、警備が手薄になる箇所があるので、そこから攻め入る。
4.警備兵達を始末しエリアの占拠が完了次第、照明を落とし、襲撃開始。
5.ハウリア達は帝国兵、特にガハルドを攪乱し、時間を稼ぐ。
その間に浩介がガハルドの懐からアナザーウォッチを盗み出し、その場から離脱する。
そして作戦の5.アナザーウォッチの奪取では、ハジメはチャンスは一度だと思ったのか、特製のゴーグルを開発し、エナジーアイテム『消失化』『紙一重』『豪運』とナーゴファンタジーのライドウォッチを、一緒に浩介に渡した。
このゴーグルには、ウォッチの放つ微弱な電磁波を察知する機能があり、それをつけた浩介は、ガハルドの
懐から正確にウォッチだけを特定できたのだ。
そして、技能とエナジーアイテムによって、極限まで気配を無くし、極薄の細さになってガハルドの懐へと侵入、そのままサッとウォッチを盗み出すことに成功した、という訳である。
豪運の効果に加えて、ファンタジーの透過能力もあり、被弾も無ければ途中で気づかれることも無かった。
正に気分は"成功確率0%なミッション"だった、とは浩介談。
ハジメ「という訳で、だ。お前さんの計画は全て、この通りだ。」
そう言って説明を終えたハジメは、浩介からアナザーウォッチを受け取ると、即座に握り潰した。
当然、アナザーウォッチは跡形もなく砕け散る。
ローブの女「ッ!…どうやら、今回はここまでのようだね……。」
ローブの女は苦い顔をして、手元から何かを取り出した。
ハジメ「逃がすと思うか?」
勿論、魔王様は逃がさない。即座に光線で手元の物を、女の腕諸共打ち抜いた。
ローブの女「チッ!これ、結構高かったのに……はぁ、割に合わない仕事だったなぁ~。」
すると、その打ち抜かれたものは謎の煙を発し、女の周囲一帯を覆いだした。
事前に未来予知でその危険性を察知したのか、加速技能で浩介と共にハジメはその場から退避した。
そして、一定の距離をとると、風魔法で煙を払ったが、既にそこに女の姿はなかった。
浩介「……逃げられたか。」
ハジメ「敢えて逃がしたのだよ。既にこちらは目的を達成した。
それに……向こうもそろそろ決着がつきそうだからな。早く戻ろう。」
この判断には理由がある。
もし、あの場所にとどまっていれば、またアナザーウォッチを生成されかねないからだ。
かといって、時間停止を使う訳にもいかなかったので、相手の逃亡を許すしか選択肢がなかったのだ。
それに、もうそろそろ下での戦闘も終わりそうだったので、ハジメは急いで浩介と共に戻ることにしたのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
遂に始まりました!ハウリアVS帝国が!
展開としては大体は原作と同じですが、アナザーウォッチ関連のことにつきましては、WEB原作には無くて書籍版にはあるといった感じの、云わば書き下ろしの段落になっております。
それだけあって、原作以上にハウリアが強化されていて、ガハルド涙目。
でもハジメさん脅迫したんだし、やられても是非もないよネ!
そして今回もMVPにして影の主人公、深淵卿こと遠藤浩介君が遂に参戦!
更にここでラナとの馴初め話も追加!魔王との一騎打ち、果たして浩介君の運命や如何に!?
後、忍殺ネタを入れたのは、彼が深淵卿だからです。だから私は謝らない。
それと、何故オンドゥルなのかというと、このお話を書き上げた時期がちょうど橘さんの叫び声のシーンが、ようつべで配信された日だからです。
因みに、女性タイムジャッカーの体系はウエスト以外、実に豊満であった。
さて、次回はハウリア達による交渉と、書籍版限定のシアの戦いから始まりますので、お楽しみに!
次回予告
暗闇の中、激闘の末に遂にガハルドを地に伏せたハウリア達。
その裏で、シアもまた家族の為に戦闘を開始したのであった。
全ては自分を家族として見守ってくれた皆の為、ウサミミ少女は戦槌を振るう!
そしてハウリアが帝国に叩きつける、その要求とは!
次回「襲撃Ⅹ/シア無双!」
目撃せよ、歴史の始まり!
ハジメ「シアのショータイムだぜ!」