ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

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ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、"最高最善の魔王"南雲ハジメは、ハウリアの襲撃と並行して行った奇策と、初恋に燃える浩介の活躍によって、見事ガハルドからアナザーウォッチを奪取する。
そしてハウリア達も、激闘の末にガハルドを地に伏せ、帝国最強の敗北を見せつけたのであった。
その裏で、最強のハウリアの戦いが、始まろうとしていた。」
ナイズ
「漸く戻って来たか……それで、相手は仕留めたのか?」
ハジメ
「いや、逃げられたよ。まぁ、今はこっちに集中したいからね。」
ナイズ
「む、そうか……。意外だな、お前が敵をとり逃すなんて。」
ハジメ
「煙幕の中で力奪われたら堪らんからな。まぁ、今はこっちの方が重要だし。」
ナイズ
「そうだな、そういえば……この後はどうするつもりだ?
目的のウォッチは回収済みだし、やることはもう……。」
ハジメ
「まだ、他に目的があるからな。取り敢えず、今はハウリアのターンだ。」
ナイズ
「それはまた……帝国も災難だな。では、第7章第11話」
ハジメ・ナイズ
「「それでは、どうぞ!」」


92.襲撃Ⅹ/シア無双!

時間は少し遡る。

???「急げっ。パーティーで何かが起きている!一刻も早く陛下の下へ行け!」

しんとした帝城内に、焦燥の滲む怒声が響いた。

駆けながら声を張り上げたのは、ハジメにボロクソに言われた帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフだ。

その後ろには、部下の兵士が20人ほど連なっている。

 

パーティー会場が暗闇に包まれたのとほぼ同時刻、彼等は帝城内にある宝物庫にて警備任務に就いているところだった。

宝物庫は帝城の地下深くにある。

そのため、彼等は地上で起きている異変から免れることができていたのだが……

警備の途中、突如異変を知らせる魔法具が反応し、慌てて出て来たのである。

 

この魔法具は、ガハルドが身につけている備えの一つだ。

起動した瞬間に、連動する他の魔法具の色が変わるというもので、具体的に何が起きているのかまでは分からない。

とはいえ、皇帝陛下自ら発する警告と緊急召集命令である。

何か異常で急迫した事態が起きているのは間違いない。

そして、その片鱗は、帝城内の異様な雰囲気が示していた。

 

帝国兵1「連隊長殿!どうなっているのですかないのですか他の部隊は!?何故誰もいないのですか!?」

そう、あちこちにいるはずの巡回も、同じく緊急召集を受けて飛び出してくるはずの詰め所の兵士達も、誰も合流しないのだ。

不安を隠しきれない部下の叫びに、グリッドもまた嫌な予感を覚えながら答える。

 

グリッド「とにかく、今は陛下の所へ急げ!勅命だぞ!」

やけに静かな帝城の敷地内。

途中、一時的に部隊から離れて、厠や食堂、資料庫などに行っていた者達が偶然にも合流していく。

彼等は一様に、グリッドの小隊を見つけてはホッとしたような顔を見せた。

 

最終的に30人程となったグリッド達は、帝城内部からの連絡路を通るルートで、パーティー会場のある建物へと飛び込んだ。

その直後、

シア「こんばんはです、帝国兵の皆さん。今夜はいい夜だと思いませんか?」

緊迫した状況に似合わない可憐な声が響いた。

 

グリッド「お前は……。」

グリッドが目を見開く。他の兵士達は息を呑んだ。

本来、使用人が忙しく行き交っているはずのエントランスは異様に静まり返り、そして、荘厳なシャンデリアと中央の階段の下にはただ一人、着飾った美少女がいたからだ。

 

モフモフなウサミミがぴこぴこと動き、一歩踏み出せばふんわり広がるワインレッド色のミニスカートドレス。

脚線美はもはや芸術的とすら言える。

にっこり微笑む美貌もさることながら、そのドレスとは正反対の淡青白色の髪が流れる様は神秘的だ。

愛玩用として人気のある兎人族の中でも頗る付きの上玉。

やって来たのがグリッドだと気が付いた直後から、顔を伏せて震えている姿も嗜虐心をそそる。

 

グリッド「チッ。構っている暇はない。行くぞっ!」

だがそこは連隊長。千を超える部隊を率いる権限を与えられた者だ優先すべきことを弁え、兎人族の少女--

シアを無視して会場へ行こうとする。

だが、その足は止まった。止められた。

 

シア「くふっ、ふふふっ、あはははははっ!」

震えていた理由が、恐怖ではなく、笑いを堪えるためだと分かったから。

グリッド「何がおかし--」

シア「なんという、なんという僥倖ですか!まさか、やって来るのが貴方だなんて!」

グリッド「……どういう意味だ?」

シア「嬉しい、という意味ですよ!」

シアに、会えて嬉しいと言われて悪い気のする男はいないだろう。

だが、この時ばかりは、グリッドは微塵もそう思わなかった。むしろ、肌が粟立った。

 

シア「今、私の家族が皇帝さんを襲撃しています。助けに行きたければ、私を倒すしかありません。」

帝国兵1「連隊長殿!いつまで足を止めておられるのですか!こんな兎人族如き、無視して行きましょう!」

じれた兵士の一人が、シアの言葉を戯れ言と切って捨てた。そして、さっさと進もうと駆け出す。

忠誠心の厚い彼は、一刻も早くガハルドのもとへ駆けつけたかったのだろう。

だが、シアの脇を抜けようとした彼は、

 

シア「私を倒すしかない。そう言いました。」

次の瞬間、姿を消した。直後、轟音が響いた。

グリッド達が、油を差し忘れた機械のようなぎこちなさで、音の発生源へと顔を向ける。

彼は、飛び散っていた。あたかも、泥団子を思いっきり壁にぶっけたかのように。

視線を戻せば、そこには拳を真横に突き出したシアがいる。

 

腰が入っているようには見えない。まして相手は非力な兎人族の、しかも少女だ。

なのに、ただ、無造作に突き出しただけの拳で、装備を身につけた大の男を、認識が追いつかないような速度で殴り飛ばした?

ごくりっと、生唾を呑み込む音がした。グリッドは、その一つが自分のものだと気が付けなかった。

気を、呑まれたのだ。あり得べからざる状況に。

 

シアは、微笑んだまま淡々と続ける。

シア「何故、私一人がここにいると思いますか?

会場に入るためには、絶対に通らなければならないこのエントランスで。」

言わずとも、先の部下を見れば分かる。駆けつけるだろう帝国兵を潰すためだ。

どれだけ事前に制圧戦を上手くやろうとも、取り零しは必ず出る。

ガハルドとの決戦中、ましてやハジメのアナザーウォッチ争奪中に乱入されるのは、たとえ小隊規模でも避けたいところ。

 

だから、ハウリア族は、単体最強戦力を一人、この場所に配置したのだ。

そう、族長の娘にしてハジメの仲間である、最強のハウリア――シアを。

キラリとシアの指輪が輝きを放つと、グリッド達がハッと我を取り戻す。

同時に、シアの手中には相棒の巨大戦槌"ドリュッケンSH-2068"が出現する。

 

その持ち手を握り込み、手首の返しだけで回転させる。それだけで轟々と風が吹き荒れ、衝撃が迸る!

その様は正に、暗黒の月夜に舞う首狩り姫――ウサミミの死神と言っても過言ではない。

因みに、後にそう呼ばれたことを聞いたシアは「不本意ですぅ!」と怒っていた。

尤も、ハジメさんは「奥様は死神、かぁ……俺、魔王だし良いと思うけどなぁ?」と言っていたが。

 

シア「貴方と貴方の部隊が相手なら、改めて名乗っておきます。

私はシア。シア·ハウリア。かつて貴方達が取り逃がしてしまった――

化け物です。」

にっこり笑い、誇らしげに名乗りを上げ、凶悪な戦槌を肩に担ぐ。

そして、誘うようにスッと片手を差し出して、たおやかな指先をクイックイッと曲げる。

誤解などしようもない。誰にだって分かる。すなわち、"相手してやるからかかってこい!"と。

言葉を失っていたグリッドの額に青筋がくっきり浮かび上がった。

 

グリッド「化け物、だと?兎人族如きが舐めた口をっ!」

確かに、普通の兎人族とは違う。だが、それでも所詮は兎人族。

魔法一つ使えない憐れな種族の、その中でも最弱だ。

そんな"兎人族如き"に気圧されていたという事実に、プライドを痛く傷つけられたらしいグリッドは咆えた。

 

グリッド「お前達っ、勅命の前だ!あの兎人族は殺して先へ進む!多少力が強かろうと所詮は亜人!

魔法で仕留めろ!」

即応したグリッドの部下が詠唱開始。部下数人が、今度は油断なくシアへ強襲をかける。

そんな彼等に、シアは招き手を握って逆さにすると指を下に突き下ろし、

 

シア「ウッサウサにしてやんよ、ですぅ!」

踏み込んだ。爆ぜる鉱石の床。刹那、吹き飛ぶ前衛。そして、シアの姿は後衛の目前に。

帝国兵2・3「「ッ!?」」

驚愕に目を見開く後衛二人。次の瞬間、横殴りの暴風により彼等の上半身だけが吹き飛んだ。

戦槌の常軌を逸したスイング速度と威力により、上半身だけ千切れ飛んだのだ。

更に、振り抜かれたドリュッケンSH-2068から衝撃が迸り、その余波だけで三人が内臓に致命傷を食らう。

一拍遅れて血のシャワーが降ってくるが、その時には、シアは既に先程強襲をかけて来た前衛二人の前にいた。

 

帝国兵4「しまっーー」

帝国兵5「なんだ、今の――」

ようやく起き上がった二人の頭部は、ドリュッケンSH-2068の一撃でピンボールと化す。

血の雨が降り注ぐ中、それを頭から被ったグリッドがようやく指示を出す。

 

グリッド「散開!散開だ!」

密集していては、まとめて薙ぎ払われる。シアの異常な膂力からそう判断したのだろう。

シアを中心にして周囲へ散らばる兵士達。

シア「うりゃ!」

可愛らしい掛け声とは裏腹に、凄まじい速度で投げられたドリュッケンSH-2068は、そのまま帝国兵一人を壁の染みにした。

 

武器を手放したと喜色を浮かべるグリッド達だったが、それは間違いだった。

シアが大きく腕を振ると、帝国兵の体にめり込んでいたドリュッケンSH-2068が引き寄せられるように飛び出した。

よく見れば、彼女の手元には柄の先端が握られており、その柄からはドリュッケンSH-2068側の柄へ鎖が伸びている。

手元の柄をパージして、特殊なフレイルのように変形する機構だ。

 

帝国兵6「今だっ!」

帝国兵7「死ねっ!」

完全に引き戻す前に!と帝国兵二人が襲いかかる。シアは手元の柄にあるトリガーを引いた。

その瞬間、空中にあるドリュッケンSH-2068から連続した炸裂音。

打撃面から放たれた弾丸が、迫っていた二人を背後から見事に撃ち抜く。

ドシャッと崩れ落ちる二人を飛び越えて、反動で宙を舞ったドリュッケンSH-2068を空中キャッチするシア。

即座に射撃モードで連続発砲。更に五人が血の海に沈む。

 

帝国兵8「このっ、食らえ!化け物め!」

仲間の死を見せつけられながらも完成した魔法"緋槍"10連。

散開した帝国兵達の絶妙な連携による包囲射撃。迫る炎の槍十本を前に、シアは――

 

シア「しゃらくせぇです!」

大回転一発。膂力と遠心力を最大限に生かした回転打撃。

衝撃と暴風が竜巻のように吹き荒れ、急迫した全ての"緋槍"を吹き飛ばす!

 

帝国兵9「馬鹿なっ!?」

帝国兵10「あり得ない!」

亜人に対する絶対的なアドバンテージ。その魔法が、まさに鎧袖一触。

思わず絶叫した兵士達だったが、次の瞬間、物言わぬ屍となった――

顔面に、拳大の鉄球がめり込んだために。

 

シアが"宝物庫"から虚空に取り出した鉄球を、ドリュッケンSH-2068で弾き飛はじばしたのだ。

あっと思った時には、更に二人、接近したシアの殴打を受けて体をひしゃげさせていた。

開戦してまだ一分も経っていない。なのに、戦力は既に半分以下。

 

グリッド「こんなこと、あってたまるかっ!」

己を奮い立たせるように雄叫びを上げて、グリッドが斬りかかる。

流石は連隊長というべきか。身体強化した踏み込み、斬撃は見事の一言。

シアが兵士の一人に攻撃を加えた後を狙うというタイミングも素晴らしい。

もっとも、それでもこのバグウサギには届きはしないのだが。

 

グリッド「なっ!?」

ガッと、斬撃が阻まれた。

ドリュッケンSH-2068を振り下ろした反動で跳ね上がった片足の、ヒ1ル部分と靴底の間で挟むようにして受け止められたのだ。

シアは剣を挟んだまま、体を一回転。グリッドは剣ごと巻き込まれるようにして体勢を崩した。

刹那、ズドンッと腹に衝撃。シアの拳がボディブローを決めていた。

 

グリッド「かはっ!?」

体をくの字に折り曲げ、よたよたと後退りするグリッド。

その腹に、今度はハジメ直伝のヤクザキックが炸裂。

グリッドは血反吐を吐きながら壁際まで吹き飛ぶ。手加減でもされたのか、即死はしなかった。

 

グリッドは、意識を辛うじて繋ぎ止めながら、激痛の中、部下が一人また一人と吹き飛んでいく光景を目の当たりにする。

……誰も動かなくなるまで、30秒もかからなかった。カッカッカッとヒールが床を打つ足音が響く。

目の前に、返り血一つ浴びていない化け物ウサギがいた。

 

グリッド「ま、まて……まってくれ……!」

血を吐きながらの命乞い。目の前の存在が理解できない。恐怖で体が震える。

自分は、あのとき、一体何を逃してしまったのか。

無防備にも樹海の外をうろついていた兎人族の群れを、これ幸いと追い回した。

絶望を与えるように、男や老人は目の前で殺してやった。

それで、最弱種族のウサギ共は心折れて屈服するはずだった。

 

【ライセン大峡谷】に逃げ込んでも生き残れる可能性などなく、逃げて疲れて、そうして最後には部下が捕らえてくるはずだった。

珍しい髪色の、とびっきりの上玉。蹂躙してやれば、どんな声で泣くか。

仲間に見せびらかしてやろうと思っていたのに……自分は、こんな化け物に手を出そうとしていたのか?

胸元を摑まれた。軽鎧とはいえ金属製のそれが、まるで粘土のようにぐしゃりとひしゃげる。

即席で摑みやすい形状が作られた。

 

グリッド「た、たのむっ。たすけてくれ!そ、そうだっ!あのとき、捕らえた連中の居場所を教えてやるっ!

俺を殺したら、取り戻せなく「もう、語るべき言葉は持ちません。」!?」

グリッドの命乞いをばっさり切るシア。片手で持ち上げ宙づりにする。

思うところが、ないわけではないのだ。恨み辛みはたくさんある。

 

だから、楽に死なせてやるものかと無意識の内に手加減してしまって、彼を最後に残すことになってしまった。

だが、復讐に身を焦がし我を失うようなことは、ハウリアとして、何よりハジメの仲間として、シア自身が許せない。

 

だから、この一撃。この一撃で、全てを打ち払う!

シア·ハウリアが、樹海に生まれた化け物が、また一歩、前に進むために!

グリッドを上に投げると同時に、大きくドリュッケンSH-2068を振りかぶる。

そして、ニッと、まるで愛しい彼のように不敵に笑ったシアは、

 

シア「月までぶっ飛びな!ですぅ!」

グリッド「やめっーー」

刹那、轟音が響くと同時に、ピンボールのように吹き飛んだグリッドは、そのままエントランスの天窓を突き破って外へと消えた。

 

破片振り散る天窓から見えるのは、今夜の月――繊月。

シアの言葉通り、グリッドは薄笑いする月に向かって消えていったのだった。

それを確認したシアは、轟ッと風を唸らせドリュッケンSH-2068を一振り。

 

シア「……みんな……少しは報いることができましたか?」

今はもういない、失った家族。シアのために、故郷すら捨てた大切な人達。

彼等を想い、シアは少しの間、瞑目した。

しばらくして、シアのウサミミがドタドタと駆けてくる複数の足音を捉えた。

どうやら、まだ少し取り零しの兵士がいるようだ。

 

スッと目を開いたシアは、神妙な表情を再び不敵なものへと変える。帝国兵が扉を開いてやって来た。

エントランスの惨状に息を呑んでいる。そんな彼等へ、シアは誇りを胸に宣戦布告した。

シア「覚悟はいいですか?目の前にいるウサギは····想像を絶するほど強いですよ?」

それからしばらく、念話で連絡が来るまで、樹海に生まれた化け物ウサギの無双劇は続いたのだった。

 


 

ガハルド「ッ!毒か……!」

パーティー会場に、ガハルドの苦悶の声が響く。

誰もが、帝国における不敗の象徴――皇帝ガハルドの敗北に呆然とする中、ハウリア族の一人が、倒れ伏すガハルドにスっと近寄る。

そして、視力と一応聴力を回復させる薬をガハルドに施した。これからの交渉に必要だからだ。

 

カム「ふん、魔物用の麻痺毒を散布してここまで保つとはな。」

ガハルド「くそがっ、最初からそれが狙いだったか……。」

衣服に仕込まれた魔法陣やアーティファクトも全て取り除かれ死に体となったガハルド。

視力と聴力が回復してきたところでカムから体の不調の原因を聞かされて悪態をつく。

 

そんなガハルドに、突如、頭上から光が降り注いだ。

ハウリア達の装備の一つでフラッシュライトのようなものだ。

それがまるでスポットライトのようにガハルドを照らしているのである。

 

リリアーナ『どどど、どういうことですか!?は、ハジメさん!これは一体!?』

ハジメ『言った筈さ、リリィ。これが俺達のやり方だよ。そして――あいつ等の目的さ。』

手足の腱を切り裂かれ、魔法陣の破壊の為にあちこち衣服を切り裂かれて、地に伏せるガハルドが光に照らされて現れたのを見て動揺するリリィを、浩介と共に戻ってきた俺は落ち着かせていた。

 

襲撃の際、皇太子バイアス(発情ゴリラ)の傍らにいたリリィを、襲撃と同時にユエがゲートで回収してくれたのだ。

因みにユエ達は、ハウリアの作戦の邪魔にならないよう、皆会場の隅に避難していた。

途中で俺と浩介は、野暮用がてら外出したが。

 

カム「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

ガハルド「ふん、要求があるんだろ?言ってみろ、聞いてやる。」

カム「……減点だ。ガハルド。立場を弁えてもらおうか。」

姿は見えず、パーティー会場全体に木霊するように響き渡るカムの声。

 

這い蹲るガハルドに声をかけたカムだったが、ガハルドは横柄な態度で返す。

その態度にどのような形で返してくるかも、ガハルドは知らずに。

そして、僅かな間の後、無機質な声音で忠告を発した。

 

突如、ガハルドから少し離れた場所にスポットライトが当たる。

そこには、ガハルドと同じく手足の腱を切られ、詠唱封じのために口元も裂かれた男の姿があった。

その男にスポットライトの外から腕だけが伸びてきて髪を掴んで膝立ちにさせたかと思うと、次の瞬間には、男の首が嘘のようにあっさりと斬り飛ばされた。

 

ガハルド「てめぇ!」

カム「減点。」

思わず怒声を上げるガハルド。生き残り達が悲鳴を上げ、息を呑む。

しかし、そんなガハルドの態度に返ってきたのは機械じみた淡々とした声。

そして、再び別の場所にスポットライトが降り注ぎ、同じように男の首が刈り取られた。

 

ガハルド「ベスタぁ!このっ、調子にのっ――」

カム「減点。」

側近だったのか、たったいま首を刈り取られた男の名前を叫び、悪態を吐くガハルドだったが、それに対する返しは、やはり淡々とした声音と刈り取られる男の首だった。

 

ガハルド「……。」

ギリギリと歯ぎしりしながらも押し黙り、それだけで人を殺せそうな眼光で前方の闇を睨むガハルド。

そんなガハルドに、やはりカムは淡々と話しかける。

 

カム「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。

今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている。」

その言葉と同時に、いつの間にかスポットライトの外から伸びてきた手が素早くガハルドの首にネックレスをかけた。

細めの鎖と先端に紅い宝石がついたものだ。製作者は誰かって?当然俺だが?何か問題でも?

 

カム「それは"誓約の首輪"。

ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。

一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。

誓いを違えても、当然、死ぬ。」

 

同時に、皇帝一族の人間は既に全員確保しており、同じアーティファクトが掛けられていると伝えるカム。

それを聞いたガハルドは、苦虫を万匹くらい噛み潰したような表情になった。

カムがガハルドの首にかけた"誓約の首輪"。

これは以前、旧教会の焙り出しに使った"真実の鏡(Mirage Of Truth)"を応用したもので、魂魄魔法を生成魔法によって付与した宝石と鉱石で作ったものだ。

こいつには、付与された魂魄魔法で、口にした誓約を魄レベルで遵守させる効果を持つ。

 

まぁ、具体的には、発動状態で口にした誓約が直接魂魄に刻まれ、誓約を反故にしたり"誓約の首輪"を外したりすれば魂魄自体が強制霧散、つまり消滅することになる。

また、"連なる魂を持つ者"――すなわちガハルドの一族に対しても効果があり、同じく"誓約の首輪"を着けなければ死ぬ事になる。

要するに、皇帝一族全員に、末代まで誓約を守らせるというアーティファクトというわけだ。

尚、姻族に対しては別途アーティファクトが必要だが。

 

ガハルド「誓約……だと?」

カム「誓約の内容は4つだ。

1つ、現奴隷の解放、2つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、3つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、4つ、その法定化と法の遵守。

理解したか?いや、理解しろ。そして、"ヘルシャーを代表してここに誓う"と言え。それで発動する。」

全く、樹海に攻め込んでいなければ、このような強引な手段を使わなくとも済んだものを……

無理に欲張るからこうなるのだよ。

 

ガハルド「呑まなければ?」

カム「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。

我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。

帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう。」

はっはっはっ、中々面白い地獄絵図だな。まぁ、ガハルドはその程度で納得はしないだろうがな。

 

ガハルド「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。

確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。わかっているはずだ。

帝国が本気になれば、それが可能だと。奴隷を使えば樹海の霧を抜けることは難しくない。

戦闘は難しいが、それも数で押すか、樹海そのものを端から潰して行けば問題ない。

今まで、フェアベルゲンを落とさなかったのは……。」

 

ハジメ(畑を潰しては収穫が出来なくなるから……か。)

カム「畑を潰しては収穫が出来なくなるから……か?」

成程、この上なく豪言不遜よなぁ……。人の領地を畑扱いとは……ならば貴様等は畑泥棒か。

道理でやり口が汚いわけだ。

 

ガハルド「わかってるじゃねぇか。今なら、まだ間に合う。

たとえ、奴の力を借りたのだとしても、この短時間で帝城を落とした手際、そしてさっきの戦闘……

やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

もう面倒だな、コイツ。さっきから好き勝手に勧誘だのナンパだの……

こんなのがよくトップで持ったな、この国。

 

カム「論外。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えば信じるに値しない。

それこそ"誓約"してもらわねばな。」

ガハルド「だったら、戦争だな。俺は絶対、誓約など口にしない。」

どうだ?と言わんばかりに口元を歪めるガハルドに、カムは、どこまでも機械的に接する。

 

カム「そうか。……減点だ、ガハルド。」

再度、その言葉が発せられ、降り注いだスポットライトに照らし出されたのは……

バイアス「離せェ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い獣風情がァ!皆殺しだァ!お前ら全員殺してやる!

一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ!女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ――」

あっ、皇太子バイアス(発情ゴリラ)の首が飛んだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

前半は書籍版であったシア無双です。シアの戦い方のスタイルとしては、以下の3つがあります。
拳撃型――文字通りのワンパン
戦槌型――ドリュッケンによるミンチ
気功型――かめ○め波みたいな感じ。
三つめは正直、氷雪洞窟でしか出せなさそうなので、基本的に2スタイルと思ってもらって構いません。

後半は最後が尻切れトンボになっていますが、残り2話で第7章は終わりです。
その残り2話で、ハウリアと帝国の交渉、その後のことについて進めていきますのでお楽しみに!

次回予告

遂に地に伏せられたガハルド。ハウリア達は同胞の為、とんでもない手段で要求を通そうと試みる。
果たして、その作戦とは!?それに対するガハルドの返答は!?そして、ハジメのもう一つの狙いとは一体!?
血の惨劇となった帝都で、陰謀の全てが明らかとなる!その結末は、勝利か、敗北か!?
これが、ハウリア達の集大成だ!

次回「かちどきうさぎ」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「キバって行くぜ!」
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