ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

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お待たせいたしました。
今回はフューレンまでの道中の様子について描いていきます。

フューレンまでの道のりを行く間、護衛任務を受けることにしたハジメ一行。
その道中、彼らは冒険者の常識や世間の噂について知ることに。
果たして、何事もなく依頼を達成できるのか!?

ゆったりめの第三章第二話、それではどうぞ!


32.護衛任務 ハジメ一行は容赦しない

翌日の早朝。

そんな愉快?なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来た俺達を迎えたのは商隊の纏め役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。

どうやら俺達が最後の様で、纏め役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来た俺達を見て一斉にざわついた。

「お、おい、まさか残りの四人ってあの"ワイターズ"なのか!?」

「マジかよ!嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

ユエ達の登場に喜びを顕にする者、手の震えを俺達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。

俺が面白いものを見たような表情をしながら近寄ると、商隊の纏め役らしき人物が声をかけた。

???「君達が最後の護衛かね?」

ハジメ「ああ、これが依頼書だ。」

俺は、懐から取り出した依頼書を見せる。

それを確認して、纏め役の男性は納得した様に頷き自己紹介を始めた。

 

???「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。

君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。

道中の護衛は期待させてもらうよ。」

ハジメ「……もっとユンケル?……商隊の長も大変なんだね……。」

日本の栄養ドリンクを思い出させる名前に、俺の眼が同情を帯びる。

何故そんな眼を向けられるのか分からないモットーさんは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ。」と苦笑い気味に返した。

まぁ、なんだかんだ面白そうな人だなぁ。

 

ハジメ「まぁさておき、期待は裏切らないよ。

俺はハジメ、こっちは俺の仲間達、ユエ、シア、ミレディだよ。」

モットー「それは頼もしいな……ところで、この兎人族……売るつもりはないかね?

それなりの値段を付けさせてもらうがッ!?」

モットーの視線が値踏みする様にシアを見てきた。兎人族で青みがかった白髪の超がつく美少女だ。

商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないという事か。首輪から奴隷と判断し、即行で所有者たる俺に売買交渉を持ちかけるあたり、きっと優秀な商人なのだろう。

 

だが、それはあまりにも危険な判断だった。何故なら―――

ハジメ「すいません、先程金で仲間を売れ、なんて趣旨の言葉が出てきたものなので、つい。」

―――それは、俺の逆鱗を踏み抜く言葉でもあったからだ。

モットー「ッ……!ど、どうやら随分と大切にされているようで……、割に合わない取引でしたな……。」

首筋手前に添えられた俺の威圧付き手刀が効いたのか、モットーはシアのことを諦めたようだ。

ハジメ「今回は初犯だから見逃します。でも、次はありません。

相手が神であろうとも触らせることすらさせないので。」

モットー「……私も耄碌したものだ。まさか、欲に目がくらんで龍の尻を蹴り飛ばすとは……。」

 

そう言うとモットーは、俺にもうじき出発する事と詳細はリーダーに聞くよう告げると、すごすごと下がり、商隊の方へ戻っていった。

正直、自分でも早とちりしすぎてしまったとは思うが、一回目で強く断っておかないと、後からしつこく寄ってきそうなタイプみたいだったから、ついやってしまった。

一般的な認識として樹海の外にいる亜人族とは即ち奴隷であり、珍しい奴隷の売買交渉を申し出るのは商人として当たり前の事なのは分かっている。

モットーが責められる謂れは無いのは確かだが、流石に露骨にそういった態度を出されてしまうと、条件反射でこちらも動いてしまうものなのだ。

 

因みに、"竜の尻を蹴り飛ばす"とはこの世界の諺で、竜とは竜人族を指すらしい。

彼等はその全身を覆う鱗で鉄壁の防御力を誇るが、目や口内を除けば唯一尻穴の付近に鱗が無く弱点となっているとのことだ。

防御力の高さ故に眠りが深く、一度眠ると余程の事が無い限り起きないのだが、弱点の尻を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。

昔何を思ったのか、それを実行して叩き潰された阿呆がいたとか。

そこから因んで、手を出さなければ無害な相手に態々手を出して返り討ちに遭う愚か者という意味で伝わる様になったという。

 

尚、竜人族は、五百年以上前に滅びたとされている。

理由は定かではないが、彼等が"竜化"という固有魔法を使えた事が魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神により淘汰されたとか、色々な説がある。

まぁ、どうせあのクズ野郎のことだ。碌な理由じゃないのは確かだ。ホント要らないことしかしねぇな。

ま、そんなどうでもいいことはおいといて、だ。

 

流石にやり過ぎたかな?と思っていた俺だが、周囲が再びざわついている事に気がついた。

「すげぇ……女一人の為に、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、無双覇王と言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ。」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ❤️」

「いや、お前男だろ?誰がそんな事……ッあ、すまん、謝るからっやめっアッーーー♂!!」

 

……ここまで好評だと、一周回って逆に恥ずかしい。

ハジメ「あ~、その、なんだ。え~と……。」

ユエ「ん。今のはカッコよかった。」

シア「私も嬉しかったですぅ!」

ミレディ「うんうん。それに堂々と奴への敵対宣言までしていたからね!」

オスカー『ハハハ、流石は魔王で僕の弟子だ。レディへのマナーを良くわきまえている。』

ハジメ「……やめておくれ。このパターンはかえって恥ずかしくなるものなんだ……。」

 

そんな雰囲気の俺をよそに、右にユエ、左にミレディ、後ろからシアが抱き着いてくる。

早朝の正門前、多数の人間がいる中で、背中に幸せそうなウサミミ美少女をはりつけ、両手には金髪美女を二人も侍らせる俺。

商隊の女性陣は生暖かい眼差しで、男性陣は死んだ魚の様な眼差しでその光景を見つめる。

俺に突き刺さる煩わしい視線や言葉は、きっと自業自得である。正直何も言い返せねぇ……。

 


 

ブルックの町から中立商業都市【フューレン】までは馬車で約六日の距離だ。

日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返す事三回。

俺達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分だ。

ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。俺達は隊の後方を預かっているが、実に長閑なものだと思う。

 

この日も、特に何もないまま野営の準備となった。

冒険者達の食事関係は自腹だ。

周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。

別々に食べるのは暗黙のルールになっている様だ。

そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。

ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えていざという時邪魔になるからなのだという。

代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

そんな話を、この二日の食事の時間に俺達は他の冒険者達から聞いていた。

 

俺達が用意した豪勢且つ上品な食事に舌を踊らせながら。

「カッーー、うめぇ!ホント美味いわぁ~、流石旦那!もう俺を家来にしてくれよ!」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる!旦那、俺の方が役に立つぜ!」

「はっ、お前みたいな雑魚が何言ってんだ?身の程を弁えろ。

ところで旦那、シアちゃんも。町についたら一緒に食事でもどう?勿論俺のおごりで。」

「な、なら、俺はユエちゃんだ!旦那、ユエちゃん、俺と食事に!」

「ミレディちゃんのスプーン……ハァハァ。」

 

うまうまと俺やシアが調理したシチュー擬きを次々と胃に収めていく冒険者達。

初日に、彼等が干し肉や乾パンの様な携帯食をもそもそ食べている横で、普通に宝物庫から取り出した食器と材料を使い料理を始めた俺達。

いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、俺達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には全冒険者が涎を滝の様に流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアがお裾分けを提案した結果、今の状態になった。

 

当初、飢えた犬の如き彼等を前に、俺も彼等に倣って携帯食を食べるつもりだった。

しかしシアやミレディを仲間に加えてから、俺は育ち盛りの女子二人を抱えいつまでも自分の趣味で粗雑な食事に付き合わせるのもどうかと思った。

そこで俺は、遅ればせながら歓迎の意味も兼ねて自分で料理を振舞う事にしたのだ。

幸い、俺の料理スキルは自前の腕に加えて、先達のヘルズキッチンの教えも取り込んでいる。

それに、調味料という料理のパーツも揃った今、俺にできない料理はない。

そこへ物欲しそうな冒険者達の姿が目に入り、これから六日も顔を会わせるのだから縁を作るのも悪くないかと卓に招いたのだ。

 

それからというもの。

冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、事ある毎にユエ達を軽く口説く様になり、俺に雇ってくれとアピールする様になったのである。

ハジメ「どれだけ食べてもいいけど……あんまり調子に乗るようなら、刻むよ?」

ぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達に、俺は白紙に滲む墨汁の様にポツリと呟く。

熱々の料理で体の芯まで温まった筈なのに、一瞬で芯まで冷えた冒険者達は蒼褪めた表情でガクブルし始める。

俺は口の中の肉を飲み込むと皿に向けていた視線をゆっくり上げ、やたら響く声で言った。

ハジメ「黙って食事を続ける?それとも、俺の腹の中で最後の晩餐でも迎える?」

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー!!!!!」」」」」

 

見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。

自分の連れを褒められるのは嬉しいが、流石にしつこいのなら話は別だ。

彼等も流石に俺を敵に回すことは避けたいようだ。

命知らずでありながら、何よりも生に貪欲であり死に敏感なのか、俺の脅しの意味を正確に理解したようだ。

 

シア「もう、ハジメさん。折角の食事の時間なんですから、少し騒ぐ位いいじゃないですか。

そ、それに……誰がなんと言おうと、わ、私はハジメさんのものですよ?」

ハジメ「当たり前……いや、違うな。俺の"物"ではない、俺の"人"だ。」

シア「はぅ!?」

正直、自分でもクサいセリフだと思うが、これくらいは言っておくのが男の筋ってもんだろう。

そんなことを思っていた矢先だ。

 

シア「……あ~ん。」

シアが頬を染めながら上手に焼けた串焼き肉を、俺の口元に差し出す。これは、アレか。

恋人同士でやるあ~ん、か。一体どこでこんなことを覚えて来たのか。イケない子だ。

ってユエもミレディもかい。オスカー、そんな目で見るんじゃあない。

いつかカッコイイゴーレム作ってあげるから。

冒険者達の視線を感じながら、俺は溜息を吐くとシアに向き直り口を開けた。シアの表情が喜色に染まる。

シア「あ~ん。」

ハジメ「ん…。」モグモグ

差し出された肉をパクッと加えると無言で咀嚼する俺。シアはほわぁ~んとした表情で俺を見つめている。と、今度は反対側からも串焼き肉が差し出された。

 

ユエ「……あ~ん。」

ハジメ「ん……。」

再びパクッと咀嚼。するとミレディも串焼き肉を差し出してきた。

ミレディ「はい、あ~ん♪」

ハジメ「ん……ムグゥ……。」

また、反対側からシアが「あ~ん♪」パクッ。ユエが「あ~ん♪」パクッ。ミレディが「あ~ん♪」パクッ。

……周囲の目が痛い。「頼むから爆発して下さい!!」とでも言っているかのようだった。

ちょっと申し訳なく思っていたが、直ぐに忘れて目の前の肉にかぶりついた。うん、美味い!

 


 

それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

最初にそれに気がついたのはシアだ。

街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

シア「敵襲です!数は100以上、森の中から来ます!」

その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。

現在通っている街道は、森に隣接してはいるがそこまで危険な場所ではない。

何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全はそれなりに確保されている。

なので魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい20体前後、多くても40体くらいが限度の筈なのだ。

???「くそっ、百以上だと?最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?

ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

護衛隊のリーダーであるガリティマという人が、そう悪態をつきながら苦い表情をする。

商隊の護衛は、全部で15人。ユエ達を入れても18人だ。この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。単純に物量で押し切られるからだ。

まぁ、俺等が本気で行けば速攻で終わらせることのできるレベルだが。

因みに、温厚の代名詞である兎人族であるシアを自然と戦力に勘定しているのは、【ブルックの町】で「シアちゃんの奴隷になり隊」の一部過激派による行動にキレたシアが、その拳一つで湧き出る変態達を吹き飛ばしたという出来事が、畏怖と共に冒険者達に知れ渡っているからだ。

本来なら俺がしばき倒してやろうとしていたが、シアが自ら修業の成果という形で名乗り出たので、試しにやらせてみた結果がこれなのだ。

さて、それは置いといて。今はまず、撃退をしなければ。

 

ハジメ「俺らが片付けようか?」

ガリティマ「えっ?」

正直、この程度じゃおつかいレベルだ。

しかし、ガリティマは俺の提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。

ハジメ「だからさ、敵が多すぎるんでしょ?それなら俺達が相手するって言ったんだけど?」

ガリティマ「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……

えっと、出来るのか?この辺りに出現する魔物はそれ程強い訳では無いが、数が……。」

ハジメ「舐められてもらっちゃあ困るな。数なんてどうでもいい、すぐ終わらせるよ。ユエがね?」

俺はそう言って、すぐ横に佇むユエの肩にポンッと手を置いた。

ユエも特に気負った様子も見せずに、そんな仕事ベリーイージーですと言わんばかりに「ん…。」と返事をした。

 

ガリティマさんは少し悩んでいたようだが、どうやら作戦は決まったようだ。

ガリティマ「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。

仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。

我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。皆、わかったな!」

「「「「了解!」」」」

ガリティマさんの判断に他の冒険者達が気迫を込めた声で応えた。

どうやら、ユエ一人で殲滅出来るという話はあまり信じられていないらしい。

俺は内心「そんな心配はいらないけどね。」と思いながら、百体以上の魔物を一撃で殲滅出来る様な魔術士がそうそういないというこの世界の常識からすれば、彼等の判断も仕方ないかと肩を竦めた。

 

冒険者達が、商隊の前に陣取り隊列を組む。緊張感を漂わせながらも、覚悟を決めた良い顔つきだ。

食事中などのふざけた雰囲気は微塵もない。

道中ベテラン冒険者としての様々な話を聞いたのだが、こういう姿を見ると成程、ベテランというに相応しいと頷かされる。

商隊の人々はかなりの規模の魔物の群れと聞いて怯えた様子で、馬車の影から顔を覗かせている。

俺達は、商隊の馬車の屋根の上だ。

 

ハジメ「ユエ、一応詠唱しておいて。後々面倒になるから。」

ユエ「……詠唱……詠唱……?」

ミレディ「……ユエ姉、もしかして聞いたことない?」

ユエ「……大丈夫、問題ない。」

ハジメ「……そう。」

シア「接敵、十秒前ですよ~。」

周囲に追及されるのも面倒なのでユエに詠唱をしておく様に告げる俺だったが、ユエの方は元々詠唱が不要だったせいか頭に“?”を浮かべている。

無ければ無いで、小声で唱えていたとでもすればいいので大した問題ではないのだが、返された言葉に俺が溜息を吐いた。

そうこうしている内に、シアから報告が入る。

ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通る様な声で詠唱を始めた。

 

ユエ「彼の者、常闇に紅き光を齎さん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、

最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、"雷龍"!」

ユエの詠唱が終わり、魔術のトリガーが引かれた。

その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。どちらかと言えば、大雷蛇に近い。

「な、何だあれ……。」

それは誰が呟いた言葉だったのか。

目の前に魔物の群れがいるにも拘らず、誰もが暗示でも掛けられた様に天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。

護衛隊にいた魔術に精通している筈の後衛組すら、見た事も聞いた事も無い魔術に口をパクパクさせて呆けていた。

 

そして、それは何も味方だけの事ではなかった。

森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれた蛙の如く射竦められて硬直していた。

そして、天より齎される裁きの如く、ユエの細く綺麗な指に合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。

 

ゴォガァアアア!!!

「うわっ!?」

「どわぁあ!?」

「きゃぁあああ!!」

雷龍が凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

更にはユエの指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲を蜷局を巻いて包囲する。

逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達はやはり自ら死を選ぶ様に飛び込んでいき、苦痛を感じる暇も無く荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。

雷龍は全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 

隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。漸くその身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……

そこにはもう何も無かった。

敢えて言うなら蜷局状に焼け爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

ユエ「……ん、やりすぎた。」

ハジメ「お~、なんか見たことない魔法だな。合成魔法かな?」

シア「ユエさんのオリジナルらしいですよ?

ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです。」

ミレディ「ふっふーん、どう?ミレディさんの授業の成果は?」

ハジメ「元より文句なしの実力だよ。ところで、さっきの詠唱は?」

ユエ「ん……出会いと、未来を詠ってみた。」

ハジメ「……壮大な計画が立てられていそうだなぁ。」

 

無表情ながらドヤァ!という雰囲気で俺を見るユエ。

我ながらいい出来栄えだったという自負があるのだろう。

俺は、苦笑いしながら優しい手付きでユエの髪をそっと撫でた。

わざわざ詠唱させて、面倒事を避けようとしたことが全くの無意味だったが、自慢気なユエを見ていると注意する気も失せた。

 

ユエのオリジナル魔術"雷龍"。

これは"雷槌"という空に暗雲を創り極大の雷を降らせるという上級魔術と重力魔術の複合魔術である。本来落ちるだけの雷を重力魔術により纏めて、任意でコントロールする。

この雷龍は、口の部分が重力場になっていて、顎門を開く事で対象を引き寄せる事が出来る。

魔物達が自ら飛び込んでいた様に見えたのはそのせいだ。

魔力量は上級程度にも関わらず威力は最上級レベルであり、ユエの表情を見ても自慢の逸品のようだ。

態々俺から聞いたことのある龍を形作っている点が何ともユエの魔法に対するセンスを感じさせる。

 

と、焼け爛れた大地を呆然と見ていた冒険者達が我に返り始めた。

そして、猛烈な勢いで振り向き俺達を凝視すると一斉に騒ぎ始める。

「おいおいおいおいおい、何なのあれ?何なんですか、あれっ!」

「へ、変な生き物が……空に、空に……あっ、夢か。」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ。」

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが。」

「魔法だって生きてるんだ!変な生き物になってもおかしくない!だから俺もおかしくない!」

「いや、魔法に生死は関係ないからな?明らかに異常事態だからな?」

「なにぃ!? てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか!? アァン!?」

「落ち着けお前等!いいか、ユエちゃんは女神。これで全ての説明がつく!」

「「「「成程!」」」」

 

ダメだコイツら……完全に壊れていやがる……。まぁ、気持ちは分からなくもない。

それ程ユエの魔術が衝撃的過ぎたのだ。

何せ、既存の魔術に何らかの生き物を形取ったものなど存在しないのだ。

まして、それを自在に操るなど国お抱えの魔法使いでも不可能だろう。

雷を落とす"雷槌"を行使出来るだけでも超一流と言われるのだから。

壊れて「ユエ様万歳!」とか言い出した冒険者達の中で唯一真面なリーダー・ガリティマさんは、そんな仲間達を見て盛大に溜息を吐くと俺達の下へやって来た。

 

ガリティマさん「はぁ……まずは礼を言う。ユエちゃんのお陰で被害ゼロで切り抜ける事が出来た。」

ハジメ「なぁに、気にしなくていさ。今は仕事仲間なんだし。」

ユエ「……ん、仕事しただけ。」

ガリティマさん「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

ガリティマさんが困惑を隠せずに尋ねる。どうやら、気になっていたようだ。

ユエ「……オリジナル。」

ガリティマさん「オ、オリジナル?自分で創った魔法って事か?上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」

ユエ「……創ってない。複合魔法。」

ガリティマさん「複合魔法?だが、一体何と何を組み合わせればあんな……。」

ユエ「……それは秘密。」

ガリティマさん「ッ……それは…まぁ、そうだろうな。

切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……。」

 

深い溜息と共に、追及を諦めたガリティマさん。ベテラン冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしい。

肩を竦めると、壊れた仲間を正気に戻しにかかった。

このままでは"ユエ教"なんて新興宗教が生まれかねないので、ガリティマさんには是非とも頑張ってもらいたい等と他人事の様に考える俺。

流石にユエには、俺と同じ目に合っては欲しくないからなぁ……。

商隊の人々の畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながら、一行は歩みを再開した。

 


 

ユエが全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降は特に何事もなく、俺達は遂に【中立商業都市フューレン】に到着した。

フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。

俺達もその内の一つの列に並んでいた。順番が来るまで暫くかかりそうである。

馬車の屋根でユエとミレディを膝枕して、シアを侍らせながら座り込んでいた俺の下にモットーがやって来た。

何やら話がある様だ。

若干呆れ気味に俺を見上げるモットーに軽く頷いて、屋根から飛び降りた。

モットー「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みの俺に対する嫉妬と羨望の目、そしてユエ達に対する感嘆と厭らしさを含んだ目だ。

それに加えて今は、シアに対する値踏みする様な視線も増えている。

流石大都市の玄関口、様々な人間が集まる場所ではユエもシアも単純な好色の目だけでなく、利益も絡んだ注目を受けている様だ。

 

ハジメ「有象無象の反応なんてどうでもいい。言いたいことがあるならさっさと言ったらどうなの?」

そう俺が言い切ると、モットーは苦笑いだ。

モットー「いやなに、売買交渉ですよ。貴方達のもつアーティファクト、やはり譲ってはもらえませんか?

商会に来ていただければ公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ?

貴方のアーティファクト、特に"宝物庫"は、商人にとっては喉から手が出る程手に入れたいものですからな。」

"喉から手が出る程"ねぇ……。そう言いながらもモットーの笑っていない眼をみれば"殺してでも"という表現の方がぴったりと当て嵌まりそうだ。

商人にとって常に頭の痛い懸案事項である"商品の安全確実で低コストの大量輸送"という問題が一気に解決するのだ。

無理もないだろう。

野営中に宝物庫から色々取り出している光景を見た時のモットーの表情と言ったら、砂漠を何十日も彷徨い続け死ぬ寸前でオアシスを見つけた遭難者の様な表情だった。

 

ハジメ「う~ん、宝物庫に関しては、今はまだ無理かな?他のも量産体制がないから無理だし。」

モットー「……そうですか。それは残念で「でもまぁ、そうだね。」?」

ハジメ「あんたの今後の行動次第じゃあ、いくつかあげてもいいかな?

宝物庫も、アンカジで必要な物が揃ったら、作れそうだし。

その時なら商談は乗ってやってもいいかも。一応考えておくだけだけど。」

モットー「!……何卒、良しなに。」

そういうと気を良くしたのか、モットーは意外な忠告をしてきた。

 

モットー「そう言えば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。

詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとはあまり知られぬがいいでしょう。

竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。

まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが。」

ハジメ「ほぅ?」

中々豪胆な人物だ。いや、神経が図太いと言った方がいいのだろうか。

モットー「人にも魔物にも成れる半端者、なのに恐ろしく強い。

そして、どの神も信仰していなかった不信心者。

これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう。」

ハジメ「成程……しかし随分な言い様だね、不信心者と思われるよ?」

 

モットー「私が信仰しているのは神であって、権威を笠に着る"人"ではありません。

人は"客"ですな。」

ハジメ「ハハハ、そりゃあ言えているね。アンタ、根っからの商人だな?

道理で、コイツを見て暴走するのも頷けるよ。」

モットー「以前はとんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は我が商会を是非ご贔屓に。

貴方は普通の冒険者とは違う。

特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ。」

ハジメ「……商魂ここに極まれり、だねぇ。

ま、調味料とか女性用生活用品を多めに、後できれば海の幸、それもできるだけ新鮮なものをお願い。

俺は過酷な環境下で生きる術を身に着けているけど、彼女たちにはそこまで辛い思いをしてほしくないからさ……ね?」

モットー「ハハハ、最初に欲するのが食糧の類なあたり、他とは何もかもが違うようだ。」

そう笑いながら、「では、失礼しました。」と踵を返し前列へ戻っていくモットー。

 

ハジメ「……さてと。」

そこで俺は、周囲に目を向ける。

ユエ達には未だ、寧ろより強い視線が集まっている。

モットーの背を追えば、早速何処ぞの商人風の男がユエ達を指差しながら何かを話しかけている。

物見遊山的な気持ちで立ち寄ったフューレンだが、どうやら思っていた以上に波乱が待っていそうだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

流れとしてはほぼ原作通りですが、モットーへの釘差しが早めになっています。
さて次回は、フューレン到着後からギルド長の依頼を受ける所まで行きます。
是非お楽しみに!

追記:リースティアさん、毎度の誤字報告ありがとうございます!

次回予告

ハジメ「遂に目的のフューレンに辿りついたハジメ一行。
そこでも案の定トラブルに巻き込まれ、意外な展開に!?
「トラブル続出!?中立商業都市フューレン」
次回も、楽しさてんこ盛りだよ!」

もし今作品のハジメさんが、少しの間だけ別世界に飛ばされてしまったとしたら、どの世界に行くと思いますか?

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