ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

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うp主
「どうも皆様、お久しぶりです「じゃねぇだろォォォ!!!」クソマァ!?」
ハジメ
「おいクソ主ィ、テメェ何でこんなに投稿遅れとんのじゃァ!」
うp主
「そ、それには訳があって……」
ハジメ
「ほう?訳とはなんだ?」
うp主
「リアルがガチで忙しくなって時間が無くなった。資格勉強とかもあって。」
ハジメ
「メメタァ……まぁ、それならしょうがないけど。」
うp主
「まぁ、正月からモンカニばっかやっていたんだけどね☆」
ハジメ
「KO☆RO☆SU」(メツィライ・カタストロフを構えて)
うp主
「はい死んだー!」ズダダダダダダダン!!!
ハジメ
「……という訳で、だ。今回は俺達と香織達の合流するお話だ。まぁ、最後まで楽しんでいってくれ。」
うp主
「これからも不定期更新になるかもしれませんが、温かい目で見て戴けると幸いです。」ヒョコッ
ハジメ
「ウォッ!?」


43.Plus Ultra!

淡い緑色の光だけが頼りの薄暗い地下迷宮に、激しい剣戟と爆音が響く。

その激しさは苛烈と表現すべき程のもので、時折姿が見えない遠方においても迷宮の壁が振動する程だ。

銀色の剣閃が虚空に美しい曲線を無数に描き、炎弾や炎槍、風刃や水のレーザーが弾幕の如く飛び交う。

強靭な肉体同士がぶつかる生々しい衝撃音や仲間への怒号、裂帛の気合を込めた雄叫びが、本来静寂で満たされている筈の空間を戦場へと変えていた。

 

光輝「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め!

"天翔裂破"!」

聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させながら、自分を中心に光の刃を無数に放つのは、天職"勇者"を持つ天之河光輝だ。

今正に襲いかかろうとしていた体長50cm程の蝙蝠型の魔物は、10匹以上の数を一瞬で細切れにされて碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。

 

「前衛!カウント10!」

「「「了解!」」」

ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、宙を飛び交う蝙蝠型の魔物、そして無数の触手をうねらせる磯巾着型の魔物。

それらが直径30m程の円形の部屋で、無数に蠢いていた。

部屋の周囲には8つの横穴があり、そこから魔物達が溢れ出しているのだ。

 

場所は【オルクス大迷宮】の89層。

前衛を務めるのは"勇者"光輝の他、幼馴染である"拳士"坂上龍太郎、"剣士"八重樫雫、そして"重闘士"永山重吾、"軽戦士"檜山大介、"槍術士"近藤礼一だ。

更に、どこかで遊撃を務めている"暗殺者"遠藤浩介がいる。

 

なんとか後衛に襲い掛かろうとする魔物達を、鍛え上げた武技を以て打倒し弾き返していく彼等に、後衛からタイミングを合わせた魔術による総攻撃の発動カウントが告げられる。

厄介な飛行型の魔物である蝙蝠型の魔物が前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる"結界師"が城壁となってそれを阻む。

 

鈴「刹那の嵐よ、見えざる盾よ、荒れ狂え、吹き抜けろ、渦巻いて、全てを阻め──"爆嵐壁"!」

天職"結界師"を持つ谷口鈴の攻勢防御魔術が発動する。

呪文を詠唱する後衛達の一歩前に出た彼女の突き出した両手の先に微風が生じた。見た目の変化はない。

蝙蝠型の魔物達も鈴の存在など気にせず、警鐘を鳴らす本能のままに大規模な攻撃魔法を仕掛けようとしている後衛組に向かって襲いかかった。

 

しかしその手前で、突如魔物の突進に合わせて空気の壁とでも言うべき物が大きく撓む姿が現れる。

何十体という蝙蝠擬きが次々と衝突していくが、空気の壁は撓むばかりでただの一匹も通しはしない。

そうして突進してきた蝙蝠擬き達が全て空気の壁に衝突した瞬間、撓みが限界に達した様に凄絶な衝撃と共に爆発した。

その発生した衝撃は凄まじく、それだけで肉体を粉砕された個体もいれば、一気に迷宮の壁まで吹き飛ばされてグシャ!という生々しい音と共に拉げて絶命する個体もいる程だ。

 

鈴「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」

クラスのムードメーカー的存在である鈴の得意気な声が、激しい戦闘音の狭間に響く。

と同時に、前衛組が一斉に大技を繰り出した。敵を倒す事よりも衝撃を与えて足止めし、自分達が距離を取る事を重視した攻撃だ。

光輝「後退!」

光輝の号令と共に、前衛組が一気に魔物達から距離を取る。

 

次の瞬間、完璧なタイミングで後衛6人の攻撃魔術が発動した。

巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。

足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。

自然の猛威がそのまま牙を向いたかの様な壮絶な空間では、生物が生き残れる道理などありはしない。

ほんの数十秒の攻撃、されどその短い時間で魔物達の9割以上が絶命するか瀕死の重傷を負う事になった。

 

光輝「よし!いいぞ!残りを一気に片付ける!」

光輝の号令で前衛組が再び前に飛び出していき、魔術による総攻撃の衝撃から立ち直りきれていない魔物達を一体一体、確実に各個撃破していった。

全ての魔物が殲滅されるのに、5分もかからなかった。

 

戦闘の終了と共に、光輝達は油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘を称え合った。

光輝「ふぅ、次で90層か……この階層の魔物も難無く倒せる様になったし……

迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな。」

雫「だからって気を抜いちゃダメよ、この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから。」

龍太郎「雫は心配しすぎってぇもんだろ?

俺等ぁ、今まで誰も到達した事の無い階層で余裕持って戦えてんだぜ?

何が来たって蹴散らしてやんよ、それこそ魔人族が来てもな!」

感慨深そうに呟く光輝に雫が注意をすると、脳筋の龍太郎が豪快に笑いながらそんな事を言う。

そして、光輝と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合った。

 

その様子に溜息を吐きながら、雫は眉間の皺を揉み解した。

これまでも、何かと二人の行き過ぎをフォローして来たので苦労人姿が板に付いてしまっている。

まさか皺が出来たりしてないわよね?と最近鏡を見る機会が微妙に増えてしまった雫。

それでも結局、光輝達に限らず周囲のフォローに動いてしまう辺り、真性のお人好しである。

 

浩介「なぁ、トシ。ハジメはまだなのか?このままだと、八重樫さんが過労死しちまうぞ?」

トシ「そろそろ来るから、気長に待ってろ。後、お前は自分の心配をした方がいいぞ。」

心配そうに雫を見る浩介。そんな彼の方がある意味重傷だと、トシは指摘する。

そんな二人の会話をよそに、恵理はとある場所を見ていた。

その目はある人物を捉えており、ゴミを見るような目だったが。

 

香織「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど……どう?」

周囲が先程の戦闘について話し合っている傍らで、香織は己の本分を全うしていた。

即ち"治癒師"として、先程の戦闘で怪我をした仲間を治癒しているのである。

一応迷宮での実戦訓練兼攻略に参加している15名の中には、もう一人"治癒師"を天職に持つ女子がいるので、今は二人で手分けして治療中だ。

 

檜山「……ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎。」

近藤「お、おう、平気だぜ。あんがとな。」

香織に治療された檜山が、ボーっと間近にいる香織の顔を見ながら上の空な感じで返答する。

見蕩れているのが丸分かりだ。近藤の方も、耳を赤くし言葉に詰まりながら礼を言った。

前衛職である事から、檜山達は度々香織のヒーリングの世話になっている筈なのだが……

未だに香織と接する時は平常心ではいられないらしい。

 

近藤の態度はある意味思春期の子供といった様子であり、微笑ましいとも言える。

しかし檜山の香織を見る目は……普通ではなかった。

瞳の深い所に、暗いヘドロの様な澱みが溜まっていた。

それは日々色濃くなっているのだが……

近藤の他、仲の良い筈の中野信治や斎藤良樹を含め、気がついている者はそう多くはなかった。

 

尤も、香織本人は気づいた上で接しているが、内心は凄い嫌がっていた。それはそうだろう。

自分の想い人が落ちる原因を作った奴の治療を何故しなければいけないのか、と普通は思うだろう。

しかしそれでも、表面上はこれまでと変わらずに接していた。

態度を変えると何をしでかすか分からないからだ。これは、雫たちにも相談済みである。

 

二人にお礼を言われた香織は「どういたしまして。」と微笑むと、スっと立ち上がり踵を返した。

周囲を見渡せば、少し離れた場所でもう一人の"治癒師"、いつも髪留めで立派なおでこを出している辻綾子が、丁度永山の治療を終えているところだった。

その巨体を以て仲間の盾となる事が常である永山の治療は中々骨が折れる様で、おでこに掻いた汗を「ふぅ。」と息を吐いて拭っている。

後衛の"土術師"野村健太郎や、"付与術師"吉野真央にも怪我は無い様だ。永山パーティも全員無事の様だ。

そんな仲の良い永山パーティに微笑みつつ、香織は他に治療が必要な人がいない事を確認すると、目立たない様に小さく溜息を吐いた。

そして、迷宮の天井を、何かを切望するような目で見つめていた。

 

香織「……。(ハジメ君、まだかなぁ?)」

その様子に気がついた雫には、親友の心情が手に取る様に分かった。

香織の心の内は今、ハジメ一色なのだ。

トシから連絡を受け、彼の無事も確認できた上に、今日は彼が態々顔を出しに来てくれるのだ。

内心では今すぐにでも、会いに行きたい気持ちで一杯なのだろう。

自身のアーティファクトである白杖を、ギュッと抱きしめる香織の姿を見て、雫は声をかけようとした。

と、雫が行動を起こす前に、ちみっこいムードメイカーが、香織の心情など知った事かい!と言わんばかりに駆け寄ると、ピョンとジャンプし香織の背後からムギュッと抱きついた。

 

鈴「カッオリ~ン!!そんな野郎共じゃなくて鈴を癒して~!ぬっとりねっとりと癒して~!」

香織「ひゃわ、鈴ちゃん!どこ触ってるの!っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

鈴「してるよぉ!鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ!だから甘やかして!

具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

香織「お、おっぱ……ダメだってば!あっ、こら!やんっ!雫ちゃん、助けてぇ!」

鈴「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

雫「……はぁ、いい加減にしなさい鈴。男子共が立てなくなってるでしょうが……。」

恵理「鈴、少しは自重しよ?雫ちゃんが介抱することになって、光輝君も勘違い起こしちゃうから。」

 

ただのおっさんと化した鈴が、人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸を弄り、雫から脳天チョップを食らって撃沈した。

序に、鈴と香織の百合百合しい光景を見て一部男子達も撃チンした。

頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している鈴を、いつもの様に恵里が苦笑いしながら介抱する。

香織「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ……。」

雫「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」

涙目で自分に縋り付く香織を、雫は優しくナデナデした。最近よく見る光景だ。

 

雫「大丈夫、彼ならすぐ来てくれるわよ。信じて待ちましょう、香織。」

香織「うん。ありがとう、雫ちゃん。」

雫が香織の肩に置いた手に少々力を込めながら、真っ直ぐな眼差しを香織に向ける。

香織もそんな自分に活を入れるため、両手で頬をパンッと叩くと、強い眼差しで雫を見つめ返した。

雫の気遣いがどれだけ自分を支えてくれているか改めて実感し、瞳に込めた力をフッと抜くと目元を和らげて微笑み、感謝の意を伝える香織。

雫もまた目元を和らげると、静かに頷いた。

……傍から見ると百合の花が咲き誇っているのだが本人たちは気がつかない。

光輝達が何だか気まずそうに視線を右往左往させているのも、雫と香織は気がつかない。

だって、二人の世界だから。

 

香織「今なら……守れるかな?」

雫「そうね……きっと守れるわ。あの頃とは違うもの、レベルだって既にメルド団長達を超えているし。

……でも、フフ、彼はもっと強くなっているかもしれないわね?

あの時だって結局、私達が助けてもらったのだし。」

香織「ふふ、もう。雫ちゃんったら……。」

ハジメの傍にいられるよう、今度こそ守れるだろうかと今の自分を見下ろしながら何となく口にした香織に、雫は冗談めかしてそんな事をいう。

実はそれが事実であり、後に色んな意味で度肝を抜かれるのだが……その事を知るのはもう少し先の話だ。

 

尚、メルド団長率いる王国騎士達が実力的にリタイアし、30階層へ繋がる70階層の転移陣の警護を務める様になってから、自分達の力だけで完全踏破目前まで来た光輝達だが、その実力はこのトータスにおいて(人間にしては)最高位と称すべき段階にまで至っている。

 


天之河光輝 17歳 男 レベル:72

 

天職:勇者

 

筋力:880

 

体力:880

 

耐性:880

 

敏捷:880

 

魔力:880

 

魔耐:880

 

技能:

全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解


坂上龍太郎 17歳 男 レベル:72

 

天職:拳士

 

筋力:820

 

体力:820

 

耐性:680

 

敏捷:550

 

魔力:280

 

魔耐:280

 

技能:

格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊]・縮地・物理耐性[+金剛]・全属性耐性・言語理解


八重樫雫 17歳 女 レベル:--

 

天職:剣士

 

筋力:4500

 

体力:5000

 

耐性:4200

 

敏捷:8000

 

魔力:5400

 

魔耐:4700

 

技能:

剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+斬神][+全集中・常中]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解


白崎香織 17歳 女 レベル:--

 

天職:治癒師

 

筋力:4500

 

体力:4700

 

耐性:4600

 

敏捷:4000

 

魔力:9200

 

魔耐:8300

 

技能:

回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・双剣技[+二天一流]・言語理解


南雲恵理 17歳 女 レベル:--

 

天職:降霊師

 

筋力:4350

 

体力:4500

 

耐性:4400

 

敏捷:4150

 

魔力:8500

 

魔耐:7400

 

技能:全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+身体強化]・降霊術[+死霊術]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・高速魔力回復・言語理解


遠藤浩介 17歳 男 レベル:--

 

天職:暗殺者

 

筋力:5200

 

体力:4850

 

耐性:4300

 

敏捷:7300

 

魔力:5200

 

魔耐:4800

 

技能:

暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿(lv1~3)]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ][+顕幻][+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・遁術[+風遁][+火遁][+水遁][+木遁][+土遁][+雷遁]・魔力操作・言語理解


 

中でも、香織達4人の成長はすさまじく、ハジメに迫らんとする程の実力を身に着けている。

それもこれも、ミライとヒカリによるスパルタ訓練が実を結んだ結果である。

全ては再び帰ってくる友の、兄の、そして想い人の隣にいられるようになる為だ。

 

光輝「そろそろ、出発したいんだけど……いいか?」

光輝が、未だに見つめ合う香織と雫におずおずと声をかける。

以前、香織の部屋で香織と雫が抱き合っている姿を目撃して以来、時々挙動不審になる光輝の態度に、香織はキョトンとしているが、雫はその内心を正確に読み取っているのでジト目を送る。

その目は如実に「いつまで妙な勘違いしてんの、このお馬鹿。」と物語っていた。

雫の視線に気づかないふりをしながら、光輝はメンバーに号令をかける。

既に89層のフロアは9割方探索を終えており、後は現在通っているルートが最後の探索場所だった。

 

出発してから10分程で、問題無く一行は階段を発見した。

トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。そうして体感で10m程降りた頃、遂に光輝達は90階層に到着した。

一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた光輝達。

しかし見たところ、今まで探索してきた80層台と何ら変わらない造りの様だった。

早速マッピングしながら探索を開始する。

迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。

警戒しながら、変わらない構造の通路や部屋を探索してく光輝達。

探索は特に問題無く、順調に進んだ。

……進んだのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

 

光輝「……どうなってる?」

かなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。

他のメンバーも同じ様に困惑の表情を晒しつつ、光輝の疑問に同調して足を止める。

光輝「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。

今迄なら、散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。

ワンフロアを半分ほど探索するのに平均2日はかかるのが常であったのだ。

 

にも拘らず、光輝達がこの90層に降りて探索を開始してからまだ3時間程しか経っていないのに、この進み具合。

それは単純な理由だ。未だ一度も、魔物と遭遇していないからである。

最初は、魔物達が光輝達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔術を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。

明らかな異常事態である。

 

龍太郎「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

龍太郎と同じ様に、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかる筈も無い。

困惑は深まるばかりだ。

雫「……光輝。一度戻らない?何だか嫌な予感がするわ。

メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし。」

雫が警戒心を強めながら、光輝にそう提案した。

 

雫の提案に、光輝は逡巡する様子を見せた。何となく嫌な予感を覚えているのは光輝も同じだ。

慎重を期するなら、確かに一度戻るのがベターだろう。

しかし何らかの大きな障害があったとしても、何れにしろ打ち破って進まなければならず、漠然とした不安感だけで撤退するのには僅かな抵抗感があった。

また、89層でも余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかとも思う。

そうして光輝が迷っていると、不意に周囲を注意深く探っていた浩介が、緊張を滲ませた声を上げた。

 

浩介「これ……血だ。」

地面に這わせていた指先を見せながら、そう言った浩介。

光輝達はその言葉に、地面や壁を注意深く観察し始めた。すると、

重吾「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいが……あちこち付いているな。」

健太郎「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……。」

険しい表情で警戒感を露わにする永山と、引き攣り顔で周囲に視線を巡らせる野村。

他のメンバーも、今更ながらに気付いた周囲に飛び散る夥しい量の血痕に、顔色を青くする。

 

浩介「天之河、八重樫さんの提案に従った方がいい。……これは魔物の血だ、それも真新しい。」

指に付いた血を擦ったり嗅いだりして分析していた浩介が、普段に無い強い口調で訴えた。

光輝は少し唸りながら小さな反論をする。

光輝「そりゃあこれだけ魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……。

いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

光輝の反論に、首を横に振ったのは永山だった。

永山は、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、龍太郎と違って非常に思慮深い性格をしている。

また、浩介とは付き合いも長く親友であるが故に、その言葉には大きな信頼を寄せていた。

故に、浩介の発する極度の緊張と言葉から即座に事態を読み解き、同じ様に臨戦態勢になりながら、光輝に自分の考えを告げた。

 

重吾「天之河、よく聞いてくれ。魔物は何も、この部屋だけに出る訳ではないだろう。

今まで通って来た通路や部屋にも出現した筈だ。

にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

雫「……何者かが魔物を襲い、その痕跡を隠蔽したって事ね?」

 

後を継いだ雫の言葉に永山が頷く。

光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じ様に険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

光輝「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えた方が自然って事か。

……そしてこの部屋だけに痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、或いは……」

???「ここが終着点という事さ。」

 

光輝の言葉を引き継ぎ、突如聞いた事の無い女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。

光輝達はギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

コツコツと足音を響かせながら広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは、燃える様な赤い髪をした妙齢の女。

その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

光輝達が驚愕した様に目を見開く。女のその特徴は、光輝達のよく知るものだったからだ。

実際には見た事は無いが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。

聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう……

 

「……魔人族。」

誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。

光輝達の目の前に現れた赤い髪の女魔人族は冷ややかな笑みを口元に浮かべながら、驚きに目を見開く光輝達を観察する様に見返した。

瞳の色は髪と同じ燃える様な赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツの様なものを纏っている。

体にピッタリと吸い付く様なデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだ。

どこか艶かしい雰囲気と相まって、そんな場合ではないと分かっていながら近藤や中野、斎藤等は頬が赤く染まるのを止められなかった。

 

魔人族「勇者はアンタでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧を着ているアンタで。」

光輝「ア、アホ……う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされる謂れは無いぞ!

それより、何故魔人族がこんな所にいる!」

あんまりと言えばあんまりな物言いに軽くイラっと来た光輝が、その勢いで驚愕から立ち直って魔人族の女に目的を問い質した。

しかし魔人族の女は、煩そうに光輝の質問を無視すると呆れた様に頭を振った。

魔人族「なんとまぁ直情的な……これが勧誘対象の勇者様?本当に有用なのかねぇ……。

まぁ、命令がある以上是非も無いんだけど。」

そして、どこか物凄く嫌そうな雰囲気を漂わせつつ、意外な言葉を放った。

 

魔人族「アンタ。そう、無闇にキラキラしたアンタ。アタシ等の側に来ないかい?」

光輝「な、何?来ないかって……どう言う意味だ!」

魔人族「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。

あたしら魔人族側に来ないかって。色々優遇するよ?」

光輝達としては完全に予想外の言葉だった為に、その意味を理解するのに少し時間がかかった。

そしてその意味を呑み込むと、クラスメイト達は自然と光輝に注目し、光輝は呆けた表情をキッと引き締め直すと魔人族の女を睨みつけた。

 

光輝「断る!人間族を……仲間達を……王国の人達を裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!

やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!態々俺を勧誘しに来た様だが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ、投降しろ!」

光輝の啖呵が響き渡る。そこには些かの揺るぎも無かった。

しかし、断固拒否の回答を叩きつけられた当の女魔人族は僅かに目を細めて観察する様な眼差しを向けただけで、特に気にした様子も無かった。

それどころか、更に譲歩した条件を提示する。

 

魔人族「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

光輝「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切無い!」

やはり微塵の躊躇いも無く光輝が答える。

そして、そんな勧誘を受ける事自体が不愉快だとでも言う様に、聖剣に光を纏わせた。

これ以上の問答は無用、投降しないなら力づくでも!という意志を示す。

 

トシ(コイツ……マジで言ってんのか?頭おかしいんじゃねぇの?)

浩介(マズいな……ハジメが来るまで何とか持ちこたえさせねぇと……。)

恵理(……これだから妖怪正義感は……。)

香織(光輝君……。)

雫(ハァ、仕方がないわね……。)

そんな光輝の行動に焦りを見せたのは女魔人族ではなく、寧ろ永山と香織達だった。

雫と永山は内心で舌打ちしつつ、女魔人族より周囲に最大限の警戒を行う。

香織はエンチャントの遅延詠唱を、恵理は攻撃魔法のチャージをそれぞれ行い、トシはブラックシューターを手にし、浩介はグラサンをこっそりかけた。

 

彼らは皆、場合によっては一度嘘をついて女魔人族に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていた。

しかし、その考えを伝える前に光輝が答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ。

普通に考えて、いくら魔術に優れた魔人族とはいえ、こんな場所に一人で来るなんて考えられない。

この階層の魔物を無傷で殲滅し、剰えその痕跡すら残さないなどもっと有り得ない。

そんな事が出来るくらい魔人族が強いなら、ハナから人間族は為す術無く魔人族に蹂躙されていた筈だ。

加えて、この階層に到達出来る程の人間族15人を前にしても、魔人族の女は全く焦った様子が見られない。

戦闘の痕跡を隠蔽した事も考えれば、最初に危惧した通りここで待ち伏せしていたのだと推測すべきで、だとしたら地の利は彼女の側にあると考えるのが妥当だ。

 

──自分達は今、大迷宮にいるのではない。敵のテリトリーにいるのだ!

そんな雫達の危機感は、直ぐに正しかったと証明された。

魔人族「……そう。なら、アンタに用はない。言っておくけど、アンタの勧誘は絶対って訳じゃないよ。

命令は"可能であれば"だ、状況によっては排除の命令も出てる。

殺されないなんて甘い事は考えない事だね。ルトス、ハベル、エンキ、餌の時間だよ!」

香織「ッ!遅延発動!<耐性超強化><筋力超強化>!」

 

女魔人族が三つの名を呼ぶのと、香織がエンチャントをかけるのと、バリンッ!という破砕音と共に雫と浩介が敵を迎撃するのは同時だった。

雫「ッ!虚空陣奥義"雪風"!」

浩介「忍法"身代わり粉塵"!」

 

二人を襲ったものの正体は不明。

女魔人族の号令と共に、突如光輝達の左右の空間が揺らいだかと思うと、"縮地"もかくやという速度で"何か"が接近し、光輝と女魔人族のやり取りに意識を囚われていた後衛組に襲いかかったのだ。

最初から最大限の警戒網を敷いていた香織達と永山だけが、その奇襲に辛うじて気がつき、その中でも察知能力が高い雫と浩介の二人が迎撃に成功していた。

雫は揺らぐ空間に対して高速の居合を放ち、浩介は分身を盾にして爆破することで威力の相殺を行った。

そのおかげか、襲撃者は後方へと下がっていったようだ。

 

硝子が割れる様な破砕音は、鈴が本能的な危機感に従って咄嗟に展開した障壁が砕け散った音だ。

場所はパーティの後方。

そこに"何か"あると感じた訳では無く、何となく香織達の位置からして自分は後方に障壁を展開するべきだと、これまた本能的、あるいは経験的に悟ったのだ。

その行動は、結果的に極めて正しかった。

鈴の障壁がなければ、三つ目の空間の揺らめきは容赦なく辻や吉野達を切り裂いていただろう。

 

だが味方を見事に守った代償に、障壁破砕の衝撃をモロに浴びて鈴もまた後方へ吹き飛ばされた。

運良く後ろに恵里がいて受け止める事に成功した為に事無きを得たが、衝撃に痺れる鈴の体は直ぐには言う事を聞いてくれない。

三つの揺らめきが、間髪を容れず追撃にかかる。

それを防ぐために、トシや恵理といった無事な面々が反撃を試みようとした――その時。

 

???「きゅうぅぅ!(何してくれとんのじゃワレェ!)」

「「「「「「「「「「………え?」」」」」」」」」」

突如として響いた謎の音声と共に、白い毛玉が飛び出してきた。

それは、ウサギの姿をした魔物であった。尤も、魔物にしては何所かが変だったが……。

 

まず、魔物が念話を使えること自体が驚きであり、人の言葉で話すことなど不可能であるはずなのだ。

しかし、目の前にいるウサギはそれだけでなく、首元や手に見たこともないアーティファクトを持っているのだ。

それは流石に驚くのも無理はないだろう。

しかしそれ以上に驚いたことは、そのウサギが三つ目の揺らぎに対して攻撃をし、その頭部を弾けさせたことなのだ。

しかも手にはそれによって撲殺したと思われる凶器(鉄の棒らしきもの)が握られており、血の跡がついていた。

 

そのウサギ擬き――イナバは鼻を鳴らすと、他の揺らぎに対しても殴り掛かり、あっという間に撲殺してしまった。

「「「「「「「「「「………えぇぇぇぇぇ!?!?!?」」」」」」」」」」

余りの一瞬の出来事に、その場にいた全員が思わず叫んでしまった。

 

イナバ「きゅふぅ……きゅ、きゅきゅぅ!(ふぅ……遅れてすいやせん、妹君。このイナバ、王様の命でお助けに参りやしたぁ!) 」

「「「「「「「「「「い、妹君!?」」」」」」」」」」

光輝達は勿論、魔人族も驚いていた。

こんな強力かつ言葉を話す魔物を従えた者がいるだけでなく、その妹がここにきているということに。

その事実に全員が、否、一部を除いて全員が驚いていた。

 

惠理(妹……王様……察した。)

トシ(そういえば、言っていたなぁ……家臣て、コイツかい。)

浩介(ハジメ、なぜ兎にしたんだ……?)

雫(見た目はちょっと可愛い?かも……。)

香織(ハジメ君の……)

何というか、色々カオスであった。すると、その時……

 

???「―――呼ばれて飛び出てぇー!」ビキビキィ!

突如、謎の大声が響いたかと思うと、

???「わぁたぁしぃがァ―――!!!」バキィィィン!!!

何かが叫びながら天井をぶち抜いて来た。そしてそのまま、

来たァァァァァ!!!!!

落ちてきた。

ズガァァァン!!!

 

「「「「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」」」」

イナバ「きゅ、きゅぅ……!(そ、その声は……!)」

その何かが轟音とともに着地した瞬間、その衝撃で周りにいたであろう魔物たちをあっという間に肉塊に変えてしまった。

香織「ハジメくん……!」

何かを感じ取った香織がそう言う。

土煙が晴れた場所には……

 

ハジメ「俺ェ!参上!!!」ビシィッ!

ミュウ「参上なの!」ビシッ!

幼女を背負った魔王がいた。しかも、二人そろってノリノリで名乗りを上げて。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
さて、今回のゲストは!」
恵理
「じゃんけん「ちょっとォ!?」冗談だよ。どうも、魔王の妹の恵理です!」
ハジメ
「今作におけるトシのヒロイン、南雲恵理だァ!」
恵理
「そう言えば兄さん、うp主死体にして操っていい?ストーリー早く進めたいし。」
ハジメ
「気持ちは分かるが、止めとけ。碌なことにならない。」
恵理
「そうだね。じゃあトシ君に頼んで……。」
ハジメ
「そういう問題じゃないんだって。それよりほら、次回予告するよ。」
恵理
「はぁ~い。」

次回予告
ハジメ
「ようやく再開した俺達。ここまで半年近くかかっている件。」
恵理
「正直、兄さん一人でも片付きそうなんだけど……」
ハジメ
「いや、それだと物語のコンセプト的に、ねぇ……?」
恵理
「急にメタい話になったね。まぁ、未来の義姉さんに挨拶しないとね。」
ハジメ
「それじゃあ次回も、Are you ready?」
恵理
「お~ば~ふろぉ~。」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!

もし今作品のハジメさんが、少しの間だけ別世界に飛ばされてしまったとしたら、どの世界に行くと思いますか?

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