ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する   作:天元突破クローズエボルハザード

66 / 105
ハジメ
「お待たせいたしました。早速オープニングゲスト、complete!」
健太郎
「まさかのベルト音!?しかも何故にファイズギアなんだ!?」
ハジメ
「マンネリ回避らしい。あ、今回はヘタレ気味な野村君に来てもらいました。」
健太郎
「へ、ヘタレっていうな!俺は別に、その……。」
ハジメ
「もうどっちかが片方押し倒した方が早そう。それはさておき、前回のあらすじ。」
健太郎
「押しっ!?……んんっ、たしかフリード首相サイドが生きていたってことだったか。」
ハジメ
「あの時、生かしておいてよかったと心の底から思うよ。メルドさんのことも……。」
健太郎
「なんか、色んな意味で凄いな……それじゃあ第5章第8話」
ハジメ・健太郎
「「それでは、どうぞ!」」


55.秘密のガールズトーク

ハジメ達が【海上の町エリセン】を目指して旅立った頃、【ハイリヒ王国】では光輝達が訓練に明け暮れていた。

と言っても、それは実力を向上させる為のものというよりは、【オルクス大迷宮】で突き付けられた現実的問題

──戦争に突入した場合に、果たして自分達は"人を殺す"事が出来るのか、という心の問題を解決する為の迷走じみた我武者羅なものだった。

 

実戦ですらない"訓練"如きでその様な大きな問題が解決する事など出来る筈も無く、当然の事として彼等のほとんどに進捗は見られなかった。

ある意味現実逃避とも言える事を、本人達も自覚している。

故に焦燥は募り、しかし踏み出す事も出来ず、彼等の心には鬱屈としたものが日々溜まっていく状態だ。

 

そんな暗い雰囲気の漂う王宮の片隅──

訓練時間も終わった上、普段から殆ど使用されていない別の訓練場に、短くも鋭い呼気が響いた。

雫「はっ、疾っ!」

 

併せて、宙に無数の剣閃が走る。

綺麗な黒色の円を描くそれは、しかし残像が消えるよりも早く微かな音と共に鞘へと納められる。

刹那、再び抜く手も見せずに抜刀される。

空間そのものを引き裂く様な鋭い斬撃。

それが振るわれる度に、少しだけひゅるんと揺れるのはポニーテールの毛先だ。

 

誰もいない訓練場でただ一人。

贈られた漆黒の刀を振り続けるのは、クラスの良心にして他の追随を許さない苦労人こと、八重樫雫その人だった。

雫は連続して繰り出していた抜刀術を止めると、一度ゆっくりと深呼吸して瞑目した。

 

脳裏に浮かぶのは仮想の敵、それも大量かつそれぞれ違った能力を持つ魔物に加え、相手にならないとはいえ八つ当たり気味に思い浮かべた、ガハルドが数人だ。

本来であれば、指南役であったミライに教えを請いたいものだが、当の本人は香織達の現状報告のため、ハジメ達と一緒にいる。

 

流石に何百㎞も西に離れた場所からでは、仮想空間は展開できない。

また、もう一人の指南役であるヒカリは、連絡係である浩介に付きっきりのため、指南してもらう時間が限られている。

それもあるのだがもう一つは……。

 


 

光輝「ハァッ!ヤァッ!」

メルド「どうした!まだまだ迷いが見えるぞ!?そんなものか!?」

光輝「いえ、もう一度お願いします!」

メルド「よし来い!」

これである。

 

数週間前……。

香織がハジメ達について行った後の夜の会話の翌日。

光輝が積極的に対人戦訓練の参加を申し出たのだ。

 

皆のやる気を引き出すためというのが建前ではあるが、本心は違うのだろう。

恐らくは、自分を一方的に叩きのめし、苦戦していたガハルドをボコボコに殴り倒した、件の彼を思い浮かべているのかもしれない。

彼に追いつき、自身の理想に胸を張って宣言するために、光輝はその剣をふるうのだろう。

 

最初は誰もが、ハジメに負けて以来沈んでいた光輝の変わりように驚いてはいたが、その真剣さが伝わってきてからは、光輝を応援する声も増えていった。

中には、光輝に対人戦を挑み、自信を鍛えようとする者もいた。

勇者としての責任もあってか、光輝は自身よりも強い(精神的・戦闘技能的にも)者に次々に挑んでいった。

 

その一人に白羽の矢が立ったのが、雫なのだ。

他の二人である恵理や浩介にも頼もうとしたらしいが、恵理は最近どこかへ行きがちで、浩介は単純に見つけにくいという理由で外されていたのだ。

どちらも聞いて呆れてしまう理由ではあったが、頷けるところもある。

 

本来、恵理は後衛職であって本格的戦闘はまだミライとヒカリに習っている最中である。

手加減できずにうっかりやってしまうこともあるかもしれない。

そして浩介に至っては、一度視界から外れれば数秒後には気配が消え、どこからともなく反撃を喰らい続けるのだ。

 

尚、この状態でさえ浩介は"気配遮断"の類の技能を一切使っていない。その上でこれなのだ。

勝負にならないのは明白だ。

ただし、本人は「俺、泣いていいよね?」と言っていたが、誰にも聞こえていないので、一人で静かに泣いたらしい…。

 

以上の理由から、雫にその相手役が押しつけ……(もとい)任命されたのだ。

なんとも微妙な理由ではあるものの、メルドや龍太郎、鈴に永山パーティ、他の強者等も入れ替わりで手伝ってくれるので、そこまで嫌というわけでもない。

それに、雫も幼馴染で弟弟子のような存在に手を焼きつつも、その成長は嬉しく感じた。

 

もし、光輝があのままハジメに対する負の感情を増大させ続けていたら、ハジメは最悪の場合光輝を見捨てるだろう。

既に檜山という前例がある以上、幼馴染をその被害にあわせたくはない。

そういった点では、光輝が変わろうとするさまは、見ていて心が軽くなるような感覚がした。

 

ただ、その模擬戦が少し面倒なのだ。

ルールとしては、いたって単純。

特殊な木剣で互いに打ち合い、相手の剣を弾き飛ばすか、反撃できない体制の相手の首に剣を近づけるか、となっている。

 

武器が剣以外の者が相手の場合、二人の周りを線で囲み、その線から出てしまった方が負け、というルールだ。

別にこれで致命傷を負ったりした者はいないが、問題は光輝がそれを行う回数である。

 

光輝自身、自分よりも強い相手からいろいろなものを学ぶチャンスであるからか、一回負けてもすぐ再戦を申し込み、回数と経験を重ねてその技能を吸収できるよう、一人につき必ず数回は挑むのだ。

相手にもスケジュールや体力の限界もあるので、そこまで無茶を敷いているわけではないが、最近の現状は光輝が「止め」と言い出すか、相手が「まいった」というかの、二択に陥っているのだ。

 

別に光輝の向上心を咎めるつもりはないものの、もう少し相手の状態を見極める方がいいのでは、と雫は思うのだ。

実は一回、帝国のガハルドにもその相手をお願いしようとしたのだが……

 

ガハルド「流石にそりゃあ勘弁してくれよ。

ただでさえ、お前の惚れ……んんっ、仲間である南雲ハジメに目ェつけられてんだ。

軟弱な勇者を鍛えるってのは悪くねぇが……それ相応の報酬が必要だろ?それも俺が喜ぶような。

そうなりゃあ、いい女を差し出すしかねぇだろうが……

お前等の場合、保護者(あの男)が黙っていねぇからな……。」

 

それならもっと別の物を望めばよいのでは、と思う雫だったが、ガハルドの性格上それしかないだろう。

それにあの時、ガハルドの迂闊な発言が原因とはいえ、先に手が出たのはハジメなのだ。

その上で厚かましくもお願いする以上、ガハルドにそういった報酬を払わなければいけない。

そうなればハジメが帝国を火の海にするのは確実だろう。流石にそれは避けたい。

そんな訳で、ガハルドへのお願いは断念。自分達で何とか相手することにしたのだ。

 

まぁ、熱血気質のメルドや龍太郎がクールダウンに付き合っているので、今のところ問題はない。

それに魔法方面にも講師がいるので、必ずしも一緒に行くわけではないので、自由時間はある。

しかし、そんな時にしかあまり休めないので、その時間を上手く使わなければならない。

なので、現在は自身の中で仮想の敵と戦う鍛錬を行っているというわけだ。

 


 

雫「ッ、ハアッ!!」

気合一発、殺意を乗せた斬撃が放たれる。イメージの中の敵が真っ二つになったのを、雫は感じた。

その直後、更に背後へ一閃。直ぐに体勢を立て直し、身を屈めて居合を放つ。

雫「セアァッ!!奔れ――"風爪"ッ!」

 

この黒刀を贈ってくれた男がこっそり仕込んだ機能――爪熊の技能"風爪"を放つ。

魔力の直接操作がまだ出来ない雫でもそれが使えるよう、王国の筆頭錬成師達が全員倒れるまで改良したので、使い手のイメージを忠実に綺麗な弧を描く。

そうして向かってくる仮想の敵を切り続ける事数十分、雫は刀を鞘に納めた。

 

雫「ふぅ……やっぱり自主練だとどうにも鈍るわね。

二人との鍛錬では確かな実感があったけど……これじゃあやらないよりマシなだけね。」

大きく溜息を吐くと、雫はそんな独り言を呟いて苦笑いを浮かべた。

そうして、水筒や用意してもらったサンドイッチが置いてある木陰へと歩きだす。

訓練場の外れに並んだ木の根元に腰を下ろし、先ずは水を一杯。

しっかり冷やしてある水が、火照った体をさっぱりとさせてくれる。

 

雫「はぁ……。」

知らず溜息が漏れる。視線は陽の落ちかけている西の空を見上げている。すっかり夕暮れ時だ。

雫「ハジメ君が言っていたわね……。

日の落ちる夕暮れ時は、人ならざる者達が現れる、不思議も怪異も、地に紛れる落陽を門にやって来る。

その時間が確か……"逢魔ヶ時"だったかしら?」

 

その時、不意に鳴き声が響いた。

???「にゃ~。」

雫「え?」

驚いて視線を落とせば、そこにはいつの間にか栗毛色の猫がいた。

姿形は地球と同じ。トータスにも存在する普通の猫だ。

 

雫「あなた、何処から入って来たの?」

ここは王宮。高い壁と堀、そして背後の山が鉄壁を約束する場所。猫の子一匹入れる筈が無い。

雫がそっと手を伸ばしてみれば、猫は警戒する様子も見せずされるがままに撫でられる。

栗毛は艶やかで、よく手入れされているのが分かった。

 

雫「どこかの貴族の飼い猫かしらね。ご主人のところから逃げて来たの?」

猫「うにゃぁ~。」

首筋をなでなで。猫はゴロゴロと喉を鳴らして雫に擦り寄った。雫の"撫で"がお気に召したらしい。

自分に甘えてくる栗色の猫に雫は、

雫「……か、可愛い。」

 

だらしなく頬を緩めた。

先程までの殺伐とした空気も沈んだ気持ちも霧散し、"ごろにゃ~ん"する猫に夢中になる。

疲れているのだろう。

クールビューティで通っており、貴族の令嬢からは"お姉様"等と呼ばれる雫は──禁忌に手を出した。

 

雫「可愛いにゃ~♪

でも、飼い主さんから逃げてくるなんていけない子にゃ、そんな子は、雫さんがお仕置きしちゃうにゃぁよぉ~♪」

そう、禁忌"猫語で会話しちゃう"だ。

 

格好いい雫しか知らない令嬢達が今の雫を見たら、きっと己の正気を疑うか……

鼻から幸福感を垂れ流して血の海に沈む事だろう。

"動物会話"のスキルがある訳でもないのに、にゃんにゃん言いながら人懐っこい猫を愛でに愛でまくる雫。

大切な事なのでもう一度。──雫は、疲れているのだ。

 

暫く撫でられるままだった猫は徐に歩き出すと、サンドイッチが入ったバスケットに鼻をつけてふんふんと嗅ぎ出した。

雫「どうしたのにゃ?サンドイッチが欲しいにゃ?」

猫は視線で訴える。「超欲しいにゃ」と。

 

可愛らしいおねだりに、雫はデレる。デレデレにデレる。勿論拒否などしない。

ただ用意したサンドイッチは、そのままでは大きすぎて猫が食べるには適さない。

雫「ちょっと待つにゃ~、今雫さんが切り分けてあげるにゃ~♪」

 

手で千切れよ、とツッコミを入れる者はこの場にいない。

サンドイッチを片手に、腰を落として抜刀体勢になったことにも、想像とはいえ人を斬った刀で食品を切ろうとする事にもツッコむ者もいない。

三度目だが敢えて言おう、しずにゃんは疲れているのだ。

 

雫「奔れ――"風爪"ッ!」

きっと製作者のハジメが見たら、「そのための機能じゃねぇからな!?」と、想像だにしない使われ方に思わずツッコむであろう使われ方をした黒刀が、空中に投げられたサンドイッチをなでる。

原形を留めたままポトリと雫の掌に帰還したサンドイッチは、雫が器用にも片手で抜刀した瞬間、パラリと形を崩して1cm角切り分けられた。

 

猫さんにいいところを見せちゃった、と思っているらしい雫はキメ顔で言った。

雫「また、つまらぬ物を斬ってしまったにゃ。」

そしてキメ顔のまま振り返り──

 

リリィ「……。」

雫「……。」

目が合った。猫とではない、生暖かい眼差しをした……リリアーナ王女と。

キメ顔のまま固まる雫。無言の王女様。静寂が場を支配する。

いつの間にかサンドイッチが一つ無くなっていて、猫の姿も無い。

ひゅるりと風が吹き、そして沈黙が破られた。

 

リリィ「……つまらぬ物を、斬ってしまったですにゃ?」

王女様が尋ねる。しずにゃんの返答は、

雫「う……うにゃああああああああああああっ!?」

勿論、猫語の絶叫だった。

 

 

この時、雫は気づいていなかった。先程の猫がいつの間にか、その目を紅く変化させていた事に。

二人は気づかない。その猫が鼠に姿を変え、僅かな隙間から何処かへ行ったことを。

 

 

雫「見ないでぇ、こんな私を見ないでぇ!いっそ殺してぇ!」

リリィ「ま、まぁまぁ。いいじゃないですか……フフ、とっても可愛かったですよ雫。」

訓練場の片隅で、羞恥で崩れ落ちている雫。

リリアーナはそんな彼女の傍らに腰を落とし、クスクスと笑いながら慰めている。

 

雫の復活には暫く時間がかかった。

どうにか精神を立て直した雫は、少し恨めしそうな眼差しでリリアーナに尋ねる。

雫「それで?リリィはどうしてここに?

こんな人気の少ない訓練場に態々来るなんて、私に用があったのでしょう?」

その言葉に、リリアーナは少し表情を引き締めて口を開いた。

 

リリィ「用があったのは確かですが、……光輝さん達の傍に姿が見えなかったもので。」

どうやら、仲間と一緒にいなかった事で心配をかけたらしい。雫はリリアーナの心遣いに笑みを浮かべる。

雫「心配してくれたのね、ありがとうリリィ。でも、私は大丈夫よ?」

リリィ「ですが……どうしてこんな所で、それも一人で……。」

無性に一人になりたい時がある──そんな言葉を、雫は悟られぬ様グッと呑み込んだ。

だが、幼い頃から権力者同士の権謀術数を相手取ってきたリリアーナ相手には誤魔化し切れなかったらしい。

 

リリィ「雫、貴女は無理をし過ぎです。

国の為に頼っている私が言うのは、烏滸がましいかもしれませんが……。」

雫「烏滸がましいなんて思ってないわよ。

私達の為にリリィがどれだけ心を砕いてくれているか、私達はよく知っているんだから。

それに、私も無理なんてしてないわ。

ただ……私自身こうして自主的に鍛錬でもしていないと腕が鈍りそうで怖くて、ね?」

リリアーナには、その言葉が全てだとは到底思えなかった。

だが「大丈夫」と笑顔で言い切る雫に、これ以上は逆に困らせるだけかと思い話題を転換する事にした。

 

リリィ「やはり、光輝さん達は相当参っていますか?」

雫「そうね、オルクスでの経験はそう簡単に割り切れないでしょう。

特に光輝に関しては、香織の事もあるけど……今のところは大丈夫そうよ?」

想い人と旅立っていった親友を想い、雫は西の空を眺める。

リリィ「寂しいですか?」

雫の横顔に寂寥を感じた訳ではない。

ただなんとなく、その眼差しに感じるものがあってリリアーナはそう尋ねた。

 

雫「別に、寂しくはないわよ?ここにいなくても香織とは繋がってる、そう信じているし。

……それに、こうして探しに来てくれる心配性なお姫様もいるしね?」

ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべながらそんな事を言った雫に、リリアーナは思わず雫の"妹"を自称する者達と同じ様に頬を染めてしまった。

 

リリィ「流石、皆のお姉様。」

そう言った途端、雫がリリアーナの頬をむにぃと摘んだ。お姉様呼びに対するお仕置きらしい。

きっと自称"妹"達からすればご褒美だろう。

リリアーナの耳に「妬ましいィ!羨ましいィ!」という令嬢達の怨嗟の声が響いた。

 

雫「それで?肝心の用の方は何だったの?」

自分の話題はもう十分だと、雫がリリアーナに当初の用件を尋ねる。

頬摘みの刑を受けたリリアーナは、先程とは別の意味で頬を染めながら答えた。

リリィ「魔人族の変化と、ハジメさんの事です。」

雫「やっぱりその話ね。それで、陛下や教会側は何て?」

 

【オルクス大迷宮】より帰還してから今まで、王宮は相当荒れていた。無理もない話だ。

雫達の報告によれば、魔人族は強力無比な魔物の軍勢を保有しつつあり、まともにやりあえば勇者パーティが一度は敗北したかもしれないというのだ。

人間族滅亡の危機である。

 

同時に、人間族の希望となる筈だった勇者をして追い詰められた相手を理不尽とも言うべき圧倒的な力を以て駆逐したハジメの事も、王国と教会を騒がせた原因だった。

早馬により、【ウルの町】での事件については簡単な報告はなされている。

だが、事が事だけに誰もが半信半疑だったのだ。

【オルクス大迷宮】での事件は、その疑いを晴らすに足るものだった。

 

かつて"無能"と呼ばれていた男の圧倒的な力の秘密も、"聖剣"を容易く凌駕する未知のアーティファクト群も、魔人族の脅威から人間族を救い得る可能性が多分にある。

興味を抱かずにはいられないもの。

にも拘わらず、当の本人は帰還するどころか独自に行動しており、剰え自分の意にそぐわないなら教会を滅ぼすと脅したという。

 

当然、上層部からすれば面白くないどころか腸の煮えくり返る話であり、その処遇についてどうするべきかはここ数日の話題の種だった。

正に『会議は踊る、されど進まず』という状態だったのだ。

そんな状況にも遂に終わりが来て何らかの結論が出たのと期待した雫だったが、リリアーナは珍しくも溜息を吐きながら頭を振った。

 

リリィ「結論という程のものは何も出ていません。魔人族に関しては、一刻も早く勇者──

光輝さん達に対抗出来る力をつけさせろとか、魔物の大群を操れる生徒がいたなら他にもいるかもしれないから天職を調べ直そうと、そういう話ばかりです。

……問題は実力よりも心の方にあるというのに、教会の方々はそれが分からないのです。

『神の使徒に選ばれておいて、何故敵を討つ事に悩むのか?』、

『何故与えられた使命に喜びを感じないのか?』と。」

 

リリアーナとて聖教教会の敬虔な信者だ。

その彼女が教会の人間に対しその様な物言いをする事に、雫が不思議そうな表情をする。

雫の疑問を察して、リリアーナは苦笑いを浮かべた。

リリィ「現実的問題に対して、思想や感情を切り離すのは得意ですから。」

 

王女の神髄此処に見たり。まだ十四歳という年齢を考えると、雫としては微妙な表情をせざるを得ない。

リリィ「まぁそうは言っても、教会の方々も以前はここまで極端ではなかったと思うのですが……

やはり、余裕が無くなってきているのかもしれませんね。

兎に角、教会側から無理のあるアプローチがなされるかもしれません。

光輝さん達が不安定な今、何が切っ掛けで危ない方向へ転がるか分かりませんから、一応事前に話しておこうと思った訳です。」

雫「そういう事ね……うん、分かったわ。ありがとうリリィ。」

 

心構えが有るのと無いのでは全く違う。

事前に知っていれば、何か吹き込まれてもある程度は受け流して自分の頭でしっかり考えられるだろう。

雫「それで……ハジメ君については?」

雫の質問に、リリアーナは一瞬だけ言葉に詰まった。雫の中に嫌な予感が過る。

そして、その予感は当たっていたらしい。

 

リリィ「ハジメさんに、異端者認定の話が出ました。」

雫「……冗談、ではないのね。」

リリアーナの言葉に、雫は思わず天を仰いだ。何なら両手で顔を覆ってしまった。

 

──異端者認定。

全ての人間に、法の下の討伐が許されるという教会の有する強力な権力の一端。

神敵であるが故に、認定を受けた者に対しては何をしても許される。

また、認定を受けた者に対する幇助目的の一切の行為が禁じられる。

それは即ち、この世界で生きる事を許さないという決定だ。

以前されたその説明を思い出し、雫は思わず背筋が凍り付いた。

 

それはつまり、あの南雲ハジメに、勇者である光輝をただの遊び感覚で倒したあの男に、正当防衛という名の反撃の口実を与えるという事だ。

もし本当に異端者認定されたなら、討伐隊も派遣されるだろう。

そうなればその急先鋒に抜擢されるのは十中八九自分達だ。

つまり、あの圧倒的な力が一切容赦無く自分達に向けられるという事だ。

それを思い、雫は無意識の内に全身の血の気が引くのを感じた。

 

最も、ハジメさんにとっては、そうなった場合に他人を三つのグループに分けて対応を考えてあるらしい。

「手のかかる奴らだが一応命だけは助けてやる」がクラスメイト達、リリアーナやメルド含む良識人達。

「今は無視しておくが、敵対する素振りなら即滅ぼす」がその他王国や他国関係者、そして魔人族。

最後に「敵対以前に血祭り確定」が檜山、エヒト、教会、アルヴ、タイムジャッカーである。

 

リリィ「あくまでそういう話が出たというだけです、まず認定が下される事はありませんよ。

『教会に従わないから』なんて理由で発令される程、軽い認定ではないのです。

ただ、人の口は決して閉ざせないもの。

会議の中での勢い余った発言であったとしても、一度そういう話が出たという噂は流れるかもしれません。そして異端者認定の候補に挙がったというだけで、ハジメさんに対する認識はあまりいいものにはならないでしょう」

雫「……つまり、"流されるな"と言いたいのねリリィは。」

 

頭の中を駆け巡る最悪の未来を片隅に追いやり、雫は冷静に返す。

リリィ「はい。人間族存続の危機ですから、発言が過激になるのはやむを得ない面もあります。

そのせいで、そういう話が出たというだけです。

雫達がこの話を耳にしても、どうかそれぐらいの認識でお願いしますね。

ハジメさんに対してどういう方針を取るべきかは、愛子さん達が帰ってきて報告を聞いてからになります。」

 

真剣な眼差しでそう忠告するリリアーナの真意を、雫は正確に読み取った。

リリアーナは、ハジメが戻ってきた時の居場所を守ろうとしているのだ。

ハジメのことは勿論、リリィ自身の為という事もあるだろうが、一番は彼に付いていった香織の為だろう。

親友の下に戻っても、そこに想い人の居場所が無いというのは、きっと辛い事だ。

まぁ、あのハジメなら寧ろ力づくで居場所を作る事も出来るだろうが。

 

それはさておき。

雫「本当に、ありがとうリリィ。」

雫は親愛の情をたっぷりと込めて礼をした。

リリィ「……神の御意志とは言え、こちらの事情に巻き込んでいるのです。

出来る事ぐらいはしませんと、それこそ神に顔向け出来ません。

それに……雫も香織も、私の大切なお友達ですから。」

そう言ってリリアーナは、少し照れた様に顔を背けた。

雫は思わずリリアーナを抱き締めて、「お友達じゃなくて親友でしょ!」と訂正する。

リリアーナの頬は真っ赤に染まった。

 

その後、話し合う事を話し合った二人は、ガールズトークへと突入した。

王女という立場のリリアーナと、クラス一の苦労人という立場の雫は、互いに気苦労が絶えない。

それ故に、友達同士の何でもないお喋りの時間というのが何よりも心癒す一時だったのだ。

 

但し。二人が楽しむ代償として、幾人かの尊厳が犠牲になっていたりする。

例えば、香織に恋心を抱いていたランデル殿下がショックで寝込んだ挙句、ここ最近は毎晩リリアーナに泣きついてくるという話。

そのランデル殿下が復活したと思ったら、いきなり光輝の下へ行き「香織を取られるとは何たる体たらく!男として恥ずかしくないのか!?」などと叫び、光輝が胸を押さえて四つん這いになった話。

自分の言葉がブーメランになって返り、同じ様に四つん這いになったランデル殿下の話。

いずれも本人達が聞いたら、数日は寝込むだろう黒歴史な話。

 

そしてハジメや香織の話。

日本においてハジメが起こした出来事や彼の対人関係、香織がゲームショップで起こしてしまった悲しい事件(笑)等々。

二人が聞いたら香織は慌てて弁解するだろう。ハジメは笑って詳細を話してくれるはずだ。

そんな二人を想像した雫は思わず笑いが込み上げる。

 

生のガールズトーク。

それは、古来よりこの世の知るべきではない事柄の一つ。

男子禁制の秘密の花園アンダーローズなのだから。

 

リリィ「それでは雫、私は戻りますね。本当に無理をしては駄目ですよ?」

雫「えぇ、分かってるわ。今日は私も部屋に戻る。色々ありがとう、リリィ。」

日もとっぷりと暮れ、夜の帳が降り始めた頃。

漸く犠牲を強いるお喋りに区切りをつけた二人は、互いに少しはストレスが発散された様な朗らかな笑みを浮かべ合った。

 

廊下の分かれ道まで来て、自室へ戻るリリアーナの背を見送る雫。

暫く、異世界で出来た優しい親友の王女様を見つめる。

そしてどこか暖かい気持ちを抱きながら、雫自身も別の廊下へと一歩を踏み出して——

 

雫「ッッッ!!?」

一瞬、背筋に氷塊を流し込まれた……様な気がした。

黒刀に手をかけ、抜刀体勢で振り返る。

油断無く視線を巡らせるが、そこには王宮の明かりと薄暗い廊下しかない。

雫「気のせい、かしら……?」

息を殺して気配を探るが、結局周囲には何も無い様だった。

 

警戒態勢を解いた雫は、「リリィの話で私も少しナーバスになっているのかも……」と自己診断して溜息を吐いた。

踵を返して雫は歩みを再開する。仲間の下へと戻るその足は、いつもより少し足早だった。

まるで、何かに追い立てられる様に。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!それじゃあゲストさ「お姉様!?お姉様は何処に!?」……ハァ。」
女騎士(ソウルシスター)
「南雲陛下、雫お姉様をどこへ隠しやがったのでありますか!?」
ハジメ
「雫は今、地球で休日を満喫中だ。さっさと業務を果たせ、穀潰し(奇行種)。」
女騎士(ソウルシスター)
「図りやがったでありますか!?後誰が奇行種でいやがりますか!」
ハジメ
「うるせぇ。そして面倒くせぇ。」
女騎士(ソウルシスター)
「こうしちゃいられない!お姉様ァー!今そちらに――!」
ハジメ
「お前じゃ出来ねぇよ。さっさと次回予告やるぞ。」
女騎士(ソウルシスター)
「否!お姉様への愛さえあれば世界の一つや二つゥ……!」メキャリッ!

次回予告
ハジメ
「次回から漸くエリセンとメルジーネ海底遺跡編だ。いやぁ、長かった……。」
女騎士(ソウルシスター)
「」チーン
ハジメ
「うん?どしたの、クゼリー?え?コレをどうするのかって?」
女騎士(ソウルシスター)
「」チーン
ハジメ
「まぁ、取り敢えずこのままにしとこうかなって。静かでやりやすいし。」
女騎士(ソウルシスター)
「」チーン
ハジメ
「さてと、次回もお楽しみに!……やっぱり、砂漠辺りに捨てておくか。」ボソッ
女騎士(ソウルシスター)
「……ォ……オネェサマァ……。」ガクッ

もしこの中の他作品の女性キャラで、ハジメさんに絡ませるとしたら?

  • 星野アイ
  • 篠ノ之束
  • ラキュース(オーバーロード)
  • ヤマト(ONEPIECE)
  • 歌住サクラコ
  • シェーレ
  • 白織
  • イーディス(SAO)
  • エキドナ(リゼロ)
  • 八重巫女
  • 東堂刀華
  • 大好真々子
  • 森ノゾミ
  • スヤリス姫
  • ロード・ディアーチェ
  • 鬼龍院皐月
  • 湾内絹保
  • 安心院なじみ
  • ネプテューヌ
  • ウィズ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。