ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する 作:天元突破クローズエボルハザード
「お待たせいたしました。さて今回も……ってユエ。さっきから俺の血を吸うのをやめなさい。
毒抜いて飲めるようにしたからって飲み過ぎないの。」
Bユエ
「……んっ、あっちのハジメも、美味。」
ハジメ
「俺は高級食材か何かか!?まぁいい、先ずは前回のあらすじから……」
Bユエ
「クジラに巻き込まれた、以上。では、いただきます。」
ハジメ
「ちょおぉ―!?早い、早すぎる!てか何で押し倒そうとしてんの、この人!?」
Bユエ
「……ハジメのハジメは、私のもの!」
ハジメ
「オイ―!?向こうの俺、貞操観念しっかりしろォォォ!」
Bユエ
「むぅ……中々しぶとい。そんな中での第5章第16話。」
ハジメ・Bユエ
「「それでは、どうぞ!」」
レミア「ぅ、う、ここは……?」
頭をふるふると振って、レミアは目を覚ました。
何が起きたのかさっぱり分からず呆然とするが、それも一瞬のこと。
意識を失う前、確かに抱きしめた筈の娘の温もりが無いことに気が付くや否や、血の気の引く音を自覚する余裕もなく跳ね起きた。
レミア「ミュウ!ミュウどこなの!?返事をして!ママはここよ!」
レミアの絶叫の様な呼び掛けが木霊する。
だが、愛しい娘の声は……返ってこない。周囲を見回すも、ハジメ達の姿すらない。
猛烈な不安が込み上げた。
まるで心の奥底に氷塊を投げ込まれたようで、手足の先から凍えていくような気さえする。
二度と、もう二度と離れないと、そう誓った娘が傍にいない。
それは、レミアにとって決して許容できないこと。
娘がまた辛い目にあっているのではと思うと、胸が張り裂けそうになる。
レミア「……大丈夫。大丈夫よ。ハジメさん達もいるわ。だから大丈夫。」
しっかりしなさいっと、己を叱咤する。焦燥と悲観に囚われかけたレミアの瞳が、光を取り戻す。
一度、深呼吸をすれば幾分か落ち着きも取り戻す。
今度はゆっくりと周囲を見回す。視界に映るのは、ひび割れた石畳の道と半ば崩れた建物のみ。
どうやら、どこぞの町の裏路地辺りにでも放り出されたようだ。
とにかくミュウを捜さなければと、レミアは裏路地から抜け出した。
出てきたのは、どうやらメインストリートらしい。
幅20mはあり、見たこともないような大きな建物が並んでいる。
真っすぐ延びた道の一方は果てしなく、地平線が見えるほど。
逆方面の先には、目測で3km位の位置に巨大な城と天を衝くような円柱形の塔が見えた。
凄まじい跳躍力も、空を飛ぶ術も持たないレミアに、この場所の全体像を把握することは難しかったが、それでも、見えている範囲だけで、相当な技術力を有する巨大都市
そう、過去形だ。この都市、どこもかしこも見るに無惨に荒れ果て、酷く朽ちているのである。
周囲の建物も、どう見ても廃墟ばかり。人の気配も、まるでなし。
それどころか、上を見上げれば稲光が走る暗雲が広がっていて世紀末を彷彿とさせる荒れ具合。
都全体も黒い霧のようなものでうっすらと覆われていて、空気そのものが澱んでいるかのよう。
酷く不気味で、まるで人がいてはいけない領域に、踏み込んでしまったかのようにも感じる。
レミア「ここは、どこなのかしら……?」
海底に引き込まれた筈なのにと、わざと疑問を口に出して、纏わりついてくるような不気味さを誤魔化す。
キッと、誰もいない都を睨むようにしてレミアは走り出した。
レミア「ミュウ!ママよ!どこにいるの!返事をして!」
何度も何度も呼びかけながら、周囲に視線を巡らせる。
荒れ果てた道には瓦礫や亀裂が無数にあって、しっかりとした靴を履く習慣のない海人族にとっては非常に危険な道のりだ。
まして、娘を捜して足下などちっとも気にしていない今のレミアにとっては。案の定、
レミア「――ッ!」
防御力皆無のサンダルは、尖った瓦礫の角にぶつかった瞬間、早々に限界を迎えて紐を引き千切られてしまった。
レミアのほっそりとした素足に、一筋の血が流れる。
最早、つま先に引っかかっているだけの足枷となってしまったサンダルを、レミアは躊躇いなく脱ぎ捨てた。
そのまま構うことなく、裸足で娘を探し続ける。
あっという間に傷だらけになっていくが、足は一瞬も止まらない。
ただただ、必死に、世界で一番大切な存在を探し続けて声を張り上げた。
だが、娘を求める母の呼び声は……
レミア「え?……どちら様、でしょうか?」
別の、何か良からぬ者を呼び寄せてしまったらしい。いつの間にか、レミアの前方にいた。
否、人らしき"何か"だ。
一見すると黒いローブを頭からすっぽりと被った人に見えるが、顔の部分が不自然に暗く、口元すら全く見えない。
そのローブに見えるものも普通ではない。まるで流体だ。
敢えて言うなら黒々としたタールが纏わり付いている……という感じだが、なんとも表現し難い。
何より、レミアの本能がけたたましい程に警鐘を鳴らしていた。
あれはいけない。あれとは決して相容れない。今すぐ!全力で逃げろ!と。
けれど、この誰もいないゴーストタウンで初めて遭遇した存在であるが故に、"その可能性"が足を止めさせてしまう。
そう、"娘のことを知っているのではないか"という可能性が。
娘を思う母の強さが、本能をねじ伏せてしまった結果は……
レミア「あ、あの……小さな女の子を――」
見なかったでしょうか?と尋ねきる前に、おぞましい黒ローブにさざ波が走った。
かと思えば次の瞬間、うねりながら立ち上り、凝縮され、形を成した。禍々しい巨大な鎌の形に。
ずるりっと、黒ローブが迫る。その姿は、まるで伝承にある死神のよう。
レミアは顔面蒼白となって後退り、瓦礫に躓いて尻餅をついた。
人の生存本能を塗り潰すような殺意に覆われて、悲鳴すら上げられない。視線も逸らせない。
けれど、心の中でだけは、
――ミュウを捜さないとっ。母親でしょう!しっかりして!立ち上がって!
何度も何度も自分を叱咤する。生まれてこの方経験したことのない圧倒的な殺意を向けられて、体は凍り付いたみたいに言うことを聞かなくても諦めはしない。
諦められるわけがないのだ。だから、震えながらも、レミアは振りかぶられた
―――おい
突如、目の前にあった死すら霞むような濃厚な殺気が死神にぶつけられ、その動きを止めたかと思えば、そのまま地面のシミへと変えてしまった。
「え?」と、金縛りが解けたみたいに間抜けな声を出すレミア。
その視界には、その流体を晒すかのように、黒いタールを地面にぶちまけた死神の姿が。
と同時に、同じ黒なのに温かさを感じる背中も見えた。最も、当の本人は――
――なに他人の女に、許可なく触れようとしてやがる。
めっちゃキレていた。それはもう、大火山でミュウが巻き込まれそうになった時並みに。
その濃厚すぎる殺気により、周りに潜んでいた死神擬き総勢30体が、一気にその体を融解させ始めた。
まるで、地獄の炎で裁かれる罪人の様に。それでも何匹かは何とか反撃しようと試みるが……
―――ァ「喧しい。」
悲鳴すらも上げさせる間も与えられない。それすらも贅沢だと思う位、ハジメさんはガチおこだった。
尚、レミアには簡易結界が張られているおかげか、その脅威は及ばなかった。
そしてハジメの蹂躙開始から少し、その異形達は完全に消滅、及び全滅した。
ハジメ「……全く、本当に不愉快な奴等だ。」
そう不機嫌そうに呟き、一旦変身を解くハジメ。そうしてレミアに振り返る。
ハジメ「大丈夫?レミアがケガしないようにしたんだけど……ちょっとやりすぎちゃったかな?」
ハジメは心配そうにレミアの顔を覗き込む。
そこには先程までの非情さはなく、いつもの優しい青年の顔があった。
レミア「え、あ、はい!おかげさまで。ちょっとびっくりしちゃいましたけど……。
助けていただきありがとうございます。」
ハジメ「夫だからね。まぁ、無事で何よりだよ。それにしても、ミュウの勇気はレミア譲りみたいだね。」
安堵したハジメは、レミアの足に再生魔法をかけ、元通りの状態にした。
レミア「いえ、さっきだってハジメさんが来てくれなかったらどうなっていたことか……。」
ハジメ「いいや、レミアが勇気を振り絞って、諦めなかったからだよ。
だからそんなに、自分を卑下しないでよ。俺だって奥さんには笑顔でいてほしいし……。」
そう言って頬を膨れさせるハジメに、思わず吹き出してしまうレミア。
ハジメ「再会できたところで悪いんだけど……ミュウはまだ見つかっていない。レミアが最初みたい。」
レミア「え?あ……そうですか。」
ミュウを捜していたと気づいていたようで、返答を聞いたレミアは表情に影を落とす。
ハジメ「この都市は相当にデカいみたい。さっき、空の上からも確認したけど、端が見えなかったよ。」
ハジメ曰く、高度からの計算した見通し距離からすると、最低でも30kmほどあるらしい。
ハジメ「多分、あの城がこの廃都の中心だと思う。
城を起点に東西南北に広い直線道路がずっと先まで延びているし。取り敢えず、あの廃城に向かおう。」
廃都を中心にした巨大な十字路。
そのメインストリートのどれかに出れば、ある程度距離があっても中心地が見える。
ならば必然、逸れた他の面々もそこを目指す筈だ、という判断だ。
尚、ハジメとレミアがいるこのあたり一帯は、"廃城の北側"になるらしく、必然、この大通りは"北のメインストリート"ということになるようだ。
というのも、レミアと合流するまでの間にハジメが発見した標識らしきものに、酷く掠れてはいたがそう書いてあったのだ。
"言語理解"がこんなところでも役立つなんてな、と思ったハジメであった。
ハジメ「後、でっかい壁が伸びていたからね。色々破壊して進もうと思う。」
レミア「は、破壊しながら、ですか?」
ハジメ「一応、さっきのも俺の位置を知らせるためでもあったけど……まぁ、念には念を、ね?」
そう、南北を分断するように、廃城を中心に東西へ巨大な壁が伸びていたのだ。
まるで万里の長城を、高さ200m程にスケールアップしたかのような巨壁が。
巨壁の目的は不明だが、遠目に見た限り南側には北側ほどの大きな建物が無いことは確認している。
用途の違いか、南が平民街又はスラムなのか……
兎にも角にも、その巨壁によって声が阻まれる可能性は十分ある。
最も、前回の大迷宮で危うく逸れそうになったこともあってか、ハジメさんもその辺の対策はしている。
ハジメ「そう言えばレミア、出発前にあげた"宝物庫"、持っているよね?」
レミア「は、はい。これがどうしたのですか?」
ハジメ「その中には、逸れた時用にアーティファクトを幾つか忍ばせているんだよ。
例えば、ほら。前に見せた……」
レミア「あぁ!あの時の。」
そう、実はミュウへのプレゼントとして、プラモンスターやカンドロイド等の各種小型端末をお披露目したのだ。
それをハジメさんは各々に渡した宝物庫に配備しており、これで幾らか索敵範囲や目印を絞れるという訳だ。
レミア「ですが、さっきのような"何かに"襲われませんか?」
ハジメ「大丈夫!全力全壊で血祭りにあげるから!」
レミア「……それもそうですね。」
あんまりにも軽い殺戮宣言に、レミアは考えるのをやめた。だって、夫が自分や娘のために必至だもの!
ハジメ「……そう言えば、レミア裸足だったね。サンダル、壊れちゃった?」
レミア「走るのに邪魔になったので……。」
ハジメ「今度から、しっかりとした靴も必要だね。取り敢えずっと。」
そういうとハジメは、"宝物庫"から椅子を取り出し、レミアをそっと座らせると、片膝立ちになり、レミアの足を優しく労るように手に取り、取り出したショートブーツをそっと優しく履かせる。
レミア「ミュウは……大丈夫ですよね?」
ハジメ「大丈夫に決まっている。だってレミアの子で、俺の娘だから!
それに、あの子には誰よりも強い母親から貰った、強い心がある。」
レミアの問いに即答するハジメ。その答えを聞いたからか、少し不安が和らぐレミア。と、その時。
〈ピィー!ピィー!〉
廃城方面から飛んできたタカカンドロイドが、ハジメ達を見つけると鳴き声を上げたのだ。
その羽には、ハジメとユエの顔に相合傘が書いてあった。十中八九ユエのものだろう。
ハジメ「おっ!あの目印はユエのか!もしかしたらミュウも一緒かもしれない!行こう、レミア!」
レミア「は、はい!」
レミアを即座に抱きかかえ、ハジメはその場所へと向かったのであった。
一方その頃、当のミュウはというと……
ミュウ「んみゅ……。」
とある裏路地の片隅で、大きな瓦礫の影に隠れるようにして小さくなっていた。
周囲には誰もおらず、一人ぼっち。
ゴーストタウンはひたすら不気味で、そこかしこから嫌な気配が漂ってくる。
幼子が突然こんな状況に放り込まれれば、怯えて動けなくなるのも当然で――
ミュウ「早くママを助けに行かないと。」
――はなかったようだ。ミュウは、そっと瓦礫から顔を覗かせた。周囲をきょろきょろ。
先程まで感じていた"嫌な気配"は薄れ、何かが潜んでいる気配もない。
深呼吸を一つ。ぐっと足に力を込めて立ち上がる。怯えていないわけではない。
その証拠に、ミュウの体は少し震えている。瞳にも、隠しようのない不安が広がっていた。
けれど、それでも、ミュウは一歩を踏み出した。ハジメが信じた通りの、強い心で前へと進む。
思い浮かべるのは、敬愛するパパの後ろ姿。その横で一緒に戦う仲間の人達。
そして、強く、優しく、格好いい、お姉ちゃん達に、大好きでずっと会いたかったママの顔だ。
短くも濃厚な旅で学んだものを総動員して、一歩一歩着実に。
そうして、裏路地の先に広い通り――恐らくメインストリートを発見した。
と言っても、巨大な瓦礫が幾つもあって、まるで岩石地帯みたいな状態だったが。
ミュウ「あれは……お城、なの?」
そのメインストリートの先に、かなりの距離で判然としないが、城らしき大きな建物と巨大な塔、そして真横に伸びる巨大な壁が見えた。
【中立商業都市フューレン】を知るミュウであるから、何となく、周囲の瓦礫の量から、本来の何倍も大きかったに違いないと想像できる。
ミュウ「……ママは、きっとミュウを捜してるの。」
誰ともなしに呟く。混乱しそうになる頭を必死に整理する。
ミュウ「探しても見つからなかったら……あのお城に行く?」
この廃都で一番の目印だ。城へ向かう可能性は確かにある。
ミュウ「パパたちは、絶対に行くの。」
確信にも似た推測。難しい言葉は分からずとも、ハジメ達の行動が、合理的であることを、ミュウは知っている。
ミュウ「近くまで行けば……
そしたら、パパ達と一緒にママも捜せる。もしかしたら、もうママを見つけてくれてるかも?
嫌な感じはなんとなく分かるの。ゆっくり、少しずつなら……。」
うん!なんかいける気がするの!と、小さな両手をギュッと握りしめて「ふんすっ!」と鼻息荒く方針決定。
しんっとした薄暗い通りを前にすると、自然、足は竦むが、やっぱりパパ達を思い出して無理やりでもテンションを上げて、
ミュウ「大丈夫なの!パパ達も言ってたの!諦めたらそこで冒険終了だって!出来る出来る!
ミュウなら出来るの!」
言葉の意味はあんまり分かっていないけど!なんだか心に響くから口にする!パパの言葉で自分を鼓舞する!
ミュウ!最高最善の魔王の娘!いっきま~~~すっ!と出発する!
――こちらだ。
ミュウ「ひょふわぁ!?」
勇気を振り絞って裏路地から出ようとした瞬間、出鼻を挫くように響いた声に、ミュウは奇怪な絶叫を上げた。
慌てて両手で口を押さえ、転がるようにして瓦礫の影へ。心臓がばっくんばっくんと大暴れしている。
涙目になっちゃう。幼女だもの。
――こちらだ。海の幼子よ。
びっくんっと震えるミュウ。今度は根性で悲鳴を飲み込む。まるで、頭の中に直接響くような声音だ。
きょろきょろと周囲を見やるが、声の主がいる様子はない。
ミュウ「ど、どちら様ですか?」
ママの教育が生きる。
ミュウの丁寧な呼び掛けに、しかし、謎の声の主はただ「こちらだ。」と繰り返すのみ。
実に怪しい。だが、少し落ち着いて聞いてみると、何となくミュウはその声の雰囲気に既視感を覚えた。
ミュウ「……もしかして、あの"影"さんなの?」
恐らく自分達をここに連れてきたであろう、あの濃霧の向こうにいた巨大な"影"。
凄まじい存在感に反して、何故か、ミュウは危機感も覚えなかった。
寧ろ、まるで包み込まれるような安心感さえ覚えた。そう、まるで、海の中で泳いでいるときのように。
――急ぐのだ。海の幼子よ。危険が迫っている。
動かないミュウに業を煮やしたのか、言葉が少し具体的になった。それで、ミュウの決心も付いたらしい。
ミュウ「こっち、なの?」
何となく、導かれている方向が分かる。
――汝が同胞のもとへ。強き海の子の元へ。
ママのこと?と口に出すが返答はない。ミュウはグッと口元を引き締め歩き出した。
荒れた場所をひょこひょこと。踏む場所をしっかり確認しつつ、なるべく音を立てないように。
あちらだこちらだと誘導される不思議な感覚に従いながら、時折、危機の知らせに素早く従って息を潜め、よからぬ存在をやり過ごす。
心は落ち着いている。程よい緊張が、寧ろ頭と体の動きを冴えさせている気さえする。
薄暗く汚らしい場所を進むのは既に経験済みだからというのもあるだろう。
あの地下牢に囚われていた時に比べれば、道案内あり、救助の当てもあり、下水に飛び込む必要もないこの状況などずっとマシだ。
ミュウ「早くママを見つけてあげないと!」
何より、使命もある。自分と同じ戦う術を持たぬ母。
無茶をして、また怪我でもしていたらと思うと、居ても立っても居られない。
――すまない。
不意に、そんな謝罪の言葉が響いた。ミュウは思い出す。あの"影"が、切実に助けを求めていたことを。
ミュウ「影さん影さん。お名前は何ですか?何をしてほしいの?」
そう言えば名前も知らないと、ミュウは声を潜めながらも尋ねてみた。
しかし、返ってくるのは「すまない。」という申し訳なさそうな感情の波と、より強くなった助けを求める声ばかり。
どうやら"影"は、それほど明確な意思疎通ができるわけではないらしい。
感じた存在の強大さに比して違和感のある話だが、これまたなんとなく、ミュウには分かった。
ミュウ「影さん、弱ってるの……。」
或いは、ミュウ達を引き込んだ力が最後の力だったのか。
――求める。創造するもの。刻の証を遺す者よ。
ミュウに語りかけているというよりは、まるでうわ言。或いは独白。
どこかへ導かれながらも、しっかり耳を傾けていたミュウは、難しい言葉故に理解しきれずとも半ば確信していた。
きっとそれは、パパやオスカーお兄さんのことだと。だが、次ぐ"影"の言葉には困惑を隠せなかった。
――異なる刻に異なる世界、同じ場所に重なりし二組を。主と同位の者達を。我がもとへ。
ミュウ「ふ、二組、なの?二人じゃなくて?」
ただでさえ感覚的に推測していただけの言葉であるから、ミュウは訳が分からないと頭上に大量の"?"を浮かべずにはいられない。
ミュウ「う~、とにかく!今は進むの!」
疑問を振り払い、集中する。幾ら"影"が導いてくれるルートが、嫌な気配を上手く避けるルートばかりであっても余計な考え事は命取りだ。
と、その時、突然の轟音が。
ミュウ「みゃぁ!?」
地響きまで伝わってきて、ミュウは思わず飛び上がった。
轟音は一度ならず、二度、三度と響き激しさを増していく。戦闘音だ。方角はミュウの後方。
おそらく、二つ三つ向こう側の通り。徐々に近づいてきている。
廃城まではまだ遠い。ミュウの足では確実に追いつかれるだろう。
ミュウ「ッ!パパ達じゃないの!」
そういうとミュウは戦闘音に背を向けダッと走り出した。
ハジメ達が来ているなら、捜索用のアーティファクト類があるはずだからだ。
――急ぐのだっ、海の幼子よ!汝の同胞はすぐそこだ!
"影"の声で切迫感が増すのと同時に、"嫌な気配"が急速に集まりだした。
嫌な気配が、恐ろしい気配が、凄まじい勢いで迫ってくるのが分かる。
後方の戦闘のせいか、それとも単純に発見されただけか。
いずれにしろ、やり過ごしていたよからぬ存在が、ミュウを捕捉しているのは明らか。
ミュウは恐怖のあまり泣きそうになりながら、けれど、決して涙は流さず、歯を食いしばって必死に足を動かし続けた。
もう、荒れた地面を気にしている余裕もない。
レミアがそうであったように、ミュウの小さくか弱い足も、みるみるうちに傷を負っていく。
そうすれば、気持ちに反して足はもつれ……
ミュウ「あぅっ。」
ミュウは転倒してしまった。膝を強かに打って涙目になる。
必死に顔を上げれば、いつの間にか広場のような場所に飛び出していることに気が付く。
そして、自分の背後に"何か"がいることも。
起き上がって、女の子座りのまま振り返るミュウ。
その目に飛び込んできたのは、毛皮を持たぬ血肉が露出した巨狼だった。
ミュウ「ぅ、ぁ……。」
悲鳴も出ない。恐怖で凍り付く。
本能は動け逃げろと叫ぶのに、お尻は根が生えたみたいに地面に吸い付いたまま僅かにも持ち上がらない。
それほどまでに醜悪で冒涜的な生物だった。
その血肉の巨狼の後ろから、ぞろぞろ小型の眷属も姿を見せる。
周囲の廃墟からも、広場の向こう側からも。
ぽたりぽたりと血肉を滴らせる巨狼が、見せつけるように
そうして、小さな獲物に喰らいつかんと肉薄して――
その瞬間、光がミュウの視界を覆った。と同時に、血肉の巨狼が吹き飛ぶ。
ミュウ「ク、クジラさん?」
呆然と呟くミュウの言葉通り、間一髪でミュウを救ったのはクジラだった。
ただし、体長は2mくらいしかなく、何より宙を泳ぐ上に光の粒子でできた、という特異なクジラだが。
その光のクジラが、血肉の巨狼に体当たりをしたらしい。
吹き飛んだ血肉の巨狼は廃墟に激突して瓦礫に埋もれるも、直ぐに周囲を血風の暴風で吹き飛ばし、苛立ったように咆哮を迸らせた。
途端、小型の血肉狼共がミュウに殺到。光のクジラが滑り込んでくる。
すり抜けるようにしてミュウに重なる。まるで、身の内に抱き込むように。
そうすれば、突き立てられた無数の牙は。光の粒子に食い止められてミュウに届かず。
更には、一瞬の閃光と同時に弾き飛ばされる。
どうにか事なきを得たミュウだったが、安堵する余裕などなかった。
ミュウ「ぅ、うぅ……。」
殺意で溢れる戦場の風が、容赦なくミュウの精神力を削っていた。
震えが止まらず、ともすれば恐怖のあまり気を失ってしまいそうだ。
このまま、光のクジラに身を任せて恐怖から逃げてしまおうか。
そんな思いを一瞬抱いてしまうミュウだったが、そこでふと気が付いた。
ミュウ「……クジラさん、小さくなってる?」
気のせいなどではなかった。
ミュウ自身が小さいために未だすっぽり覆われてはいるが、確かに、光のクジラは小さくなっていた。
ミュウ「ミュウを、守ってくれてるから?」
返事はない。このクジラが何なのか、さっぱりは分からない。
けれど、自分を守った代償に弱ってしまったのは分かる。
自分を包み込む温かさが、あの"影"の声音から感じるものと同じだから……。
ミュウは、グッと歯を食いしばって、流れ落ちそうな涙を乱暴に拭った。
そして、体を凍てつかせる恐怖を勇気という名の剣で切り裂き、立ち上がった。
ミュウ「クジラさん。もう大丈夫なの!」
青ざめた表情。震える小さな体。どう見ても大丈夫ではない。
けれど、その言葉は信じるに値するほど力強い。
ミュウ「ミュウ、頑張って走るから。一緒に逃げるの!」
光のクジラが、僅かに輝きを増したような気がした。
まるでミュウの気概に力を分け与えられたように。
ミュウは、一番近くにある裏路地にチラリと視線を向けた。
狭い場所に逃げ込み、ハジメ達が助けに来てくれるまで時間を稼ぐつもりで。
絶対に、諦めない。それこそ、ハジメ達から教わった最たるもの。
そんなミュウの決意を嘲笑うかのように、血肉狼共が包囲網を形成する。
だが、それでも、ミュウは怯まず、ハジメから貰った"宝物庫"から専用武器"どんなぁ・ぷらす"と"しゅらーくぅ・まーくつぅー"を取り出し、両手に持って構える。
一応、殺傷性があるのでと、ハジメがかけておいたロックを外し、緊急実戦用モードに切り替える。
他にもまだ武器はある。お姉ちゃん達から教わった技術を生かしたアーティファクトもある。
ミュウはすぅっと大きく息を吸って、
ミュウ「やれるもんならやってみやがれっ、なの!」
心だけは負けるものかと雄叫びを上げた。さながらそれは、ママから受け継いだ勇気の象徴のように。
直後、幼子の思いを食い千切らんと巨狼率いる血肉狼共が一斉に躍りかかり……
???「あら。小さいのに、中々痺れる啖呵を切るわね?」
凄まじい激流が、全てを吞み込み浚って行った。
ミュウ「ふ、ふぇ?」
そうしている間にも、まるで生き物の如くうねった水流が血肉狼共を呑み込み、体内に侵入しては内側から食い破り、水圧で圧殺し、水のレーザーで細切れにしていく。
そんな激流の中にあって、しかし、ミュウは水の一滴すらかかっていなかった。
激流は常に、ミュウを守るようにして周囲を渦巻いている。まるで結界のように。
実際、あれほど恐ろしかった血肉狼共が一切、ミュウに近づくことすら出来ないでいた。
水流のベール越しに、あの強大なボスが血風の様なものを噴き上げているのも見えるが、それすらも莫大な質量の水が呑み込み、洗い流してしまう。
ミュウ「ク、クジラさんのお友達、なの?」
光のクジラに尋ねてみるが、答えは返らず。
けれど、もう大丈夫というかのように、ミュウから少し離れてしゅるりしゅるりと小さくなった。
そして、ミュウの頭の上にぽふっと乗って動かなくなる。
困惑するミュウに、先程の女性の声が再び届いた。
???「あら、変わったお友達を連れているわね?同族のお嬢さん?」
どこかおっとりしていて、未知の怪物と戦っている最中とは思えないほど緊迫感のない声音が上から降ってきた。
視線を上げたミュウの目に飛び込んできたのは……
ミュウ「メイルお姉さん!」
そう、水流のアーチに、優雅に腰を掛けて微笑みを浮かべていたのは、最近仲間に加わった、メイル・メルジーネお姉さんだった。
極度のシスコンで有名であり、ドS・大雑把・
メイル「あ、あら?どこかであったかしら?あ、ちょっと待ってね?」
というや否や、メイルお姉さんは腰から引き抜いたカットラスで飛び込んできた血肉狼を真っ二つにした。
更に、絶妙なタイミングで巨狼が反対側から飛びかかってくるが、勝手に砕け散ったカットラスはそのままに、"水流の鞭"を振るって迎撃。
その"水流の鞭"が当たった場所が、ごっそり削り取られている。
どうやら、水流の中に砕けた無数の刃が紛れているらしく、さながらチェーンソーのようになっているらしい。
抉られ、吹き飛ばされた巨狼は体勢を整えようとするが、
メイ「躾のなってない駄犬にはお仕置きが必要ね?――さぁ、豚の様な悲鳴を上げなさいな。」
そこへ"水刃鞭"の連撃が容赦なく殺到。悪夢のように血肉が飛び散り、巨狼から豚の様な悲鳴が溢れ出す。
説明通りのドSであった。
メイル「ごめんなさいね、話の腰を折って。それで、どうしてお姉さんのことを知っているのかしら?」
ミュウ「?前に会っていなかったの?」
メイル「えぇっと、ごめんなさい。会ったのは今日が初めて……だと思うわ。」
ミュウ「みゅ?」
メイルが自分のことを覚えていないことを疑問に思うミュウ。それはそうだろう。
ハジメ達が悪母討伐後に帰還して、冒険譚を聞いているときに、ママと一緒に顔合わせはしたのだ。
しかもその場で「お姉さんの妹にする!」と宣言していた程の印象なのだ。忘れるはずもない。
言った本人も同じ筈だが、目の前にいるメイルお姉さんは自分に初めて会った様子だ。
巨狼が肉塊になったので、次は血肉狼共の番、と言わんばかりに、メイルに片手間で倒される肉塊候補は無視し、取り敢えずミュウは確認のための行動をとった。
ミュウ「あの……助けてくれてありがとうなの。ミュウはミュウです!」
メイル「あら、ちゃんとお礼が言えて偉いわね。自己紹介もありがとう。」
にっこりうふふ。序に全方位へ激流。汚物を便器に流すが如く、残党共が流されていく。
それを確認して、メイルお姉さんは水流のアーチからミュウを守る水の結界の中へ飛び込んだ。
すると、水の結界が弾け、無数の水滴が浮かぶ中心で悠然と佇むメイルお姉さんは、弾けるような素敵な笑みで、話しかけた。
メイル「改めて初めまして、同族のお嬢さん。私はメイル。メルジーネ海賊団の、船長様よ。」
光のクジラが、ミュウを救うために導いた"強き海の子"とは、そう、遥か昔に生きた神代魔法の使い手にして、西の海を牛耳る最強海賊団の女帝だったのだ。
しかし何故、以前互いに会った筈のメイルお姉さんは、自分のことを覚えていないのか。
おそらく、その答えを知っているであろう光のクジラは、ミュウの頭の上に鎮座したまま反応なし。
どこかぐったりしているようにも見える。
しかし、聡明なミュウはふと思い出した。
光のクジラが言っていた"異なる刻に異なる世界、同じ場所に重なりし二組"。
これは恐らく、パパとオスカーお兄さん以外の誰か、それも二人と同じ凄腕の錬成師でなければならない。
そうなれば、答えは一つだ。以前、パパが話していたお話の中にこんなものがあった。
『人の生には無数の"もしも"がある。
それも行動の一つ一つの結果が枝分かれして、無数の宇宙のように広がっていて、今の自分達もその一つなのである。
たとえあり得ない選択肢を取っていても、同じ自分であることからは逃れられない。』と。
そこからミュウは至った。
自分は今、その"並行世界"という場所に飛ばされてしまったのでは、という考えに。
同時に、光のクジラの目的も、何となくではあるが分かった。
恐らくそれは、二つの次元、それぞれにいるパパとオスカーお兄さんにしか、この事態を解決できない、ということだ。
ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストはどこでしょうか?」
Bティオ
「ハァハァ……あっちのご主人様も中々の……」
ハジメ
「……答えは俺の下にいます。でも立て付け悪くなったんでやめます。」
Bティオ
「んんっ、い、椅子にしたのはご主人様なのに……飽きたとは……このご主人様めっ。たまらんっ!ハァハァ!」
ハジメ
「……どうしてこうなるまで放置したんだ、あっちの俺。」(死んだ目)
Bティオ
「あちらのご主人様よ、これが妾の本心じゃよ。」
ハジメ
「……まぁいい。もう諦めたよ。それじゃあ次回予告といこうか。」
Bティオ
「うむ、オープニングでユエに襲われかけたからか、疲れておるからのぅ。早う進めるかの。」
次回予告
ハジメ
「次回は漸く二つの世界が交わる。そして、時代と次元を超えた戦いが今、幕を開ける!」
Bティオ
「うむ、漸くこっちの妾達も登場するのぅ。」
ハジメ
「正直そっちの事情について聞いたときはマジでたまげたわ。
てか向こうの俺、ユエに依存し過ぎ。後、ドラゴン相手でもケツパイルはやり過ぎだって。」
Bティオ
「大丈夫じゃよ、向こうのご主人様よ。
最初は脳天を突き抜けるような痛みじゃったが、慣れればそれがまた得も言われぬ快楽に――」
ハジメ
「言わんでいい!後、少しは躊躇ってもんを覚えた方がいいって!その結果がこれだよ!?」
Bティオ
「んふっ、唐突の罵倒ッ!ありがとうございま……す?」
ハジメ
「全く…婚前の女性には優しくしろって、おばあちゃんに言われなかったのかな?
取り敢えず、さっき椅子になっていたから、はい。」(再生魔法と着替えの用意)
Bティオ
「くぅうう、このさりげない優しさが何ともっ!それでは、また次回なのじゃ。」
もしこの中の他作品の女性キャラで、ハジメさんに絡ませるとしたら?
-
星野アイ
-
篠ノ之束
-
ラキュース(オーバーロード)
-
ヤマト(ONEPIECE)
-
歌住サクラコ
-
シェーレ
-
白織
-
イーディス(SAO)
-
エキドナ(リゼロ)
-
八重巫女
-
東堂刀華
-
大好真々子
-
森ノゾミ
-
スヤリス姫
-
ロード・ディアーチェ
-
鬼龍院皐月
-
湾内絹保
-
安心院なじみ
-
ネプテューヌ
-
ウィズ