インフィニット・ストラトス〜十の秋、黒の弾丸〜(凍結) 作:とりマヨつくね
これからももっと面白く作っていきたいと思います
ようやく揺れが収まった所で、十秋は冷静に思考を巡らせる。
まず、確実に言えるのは地震の類ではないこと。
続いて周囲を見渡す。
どうやら自陣が襲撃された、という訳ではないようだ。
となれば……揺れの震源は難波ガイストのアジトというわけだ。
十秋は黒影を身に纏いながら、同じように周囲を警戒している虚に話しかける。
「虚さん。とりあえず楯無と合流しよう」
「了解ーー」
「その必要はないわよ」
虚の言葉を遮るように、一人の少女の声が聞こえた。
声のした方へと体を向けると、既にISを展開した楯無が立っていた。
「楯無、向こうの状況はわかるか」
「さっき無線で隊長さんから聞いたわ。まさかーー」
そこで楯無は言葉を区切ると、再び凄まじい衝撃と爆音が轟いた。
同時に目の前にそびえ立っていた、難波ガイストのアジトである重工業が爆発を起こした。
燃え盛る炎の奥から出現したのは、ソレは現れた。
それは獣、鋼鉄の外殻に覆われ、八つの足とまるで象の鼻のように伸ばした砲塔が特徴的な巨大な獣だった。
「まったくやられたわ。いつだって最悪のケースを考えて行動しろ、とはいうけど……こんな馬鹿げたことを考えろなんて聞いていないわよ」
獣の全体像が見えたところで、楯無は一度止めた言葉を紡ぐ。
だが、そんなことをウジウジと文句言っている場合ではない。
楯無は虚に一つの命令を言い渡す。
「対要塞戦略兵器<タイラント>……もう完成していたとはね。と言っても脚部は精々歩くのが限界で主砲も精々一発限界でしょ。虚ちゃん。生き残った隊員達を集めて撤退。あのデカイのは私と十秋がやるわ」
「ですが、お嬢様ーー」
「大丈夫よ。私は負ける戦いはしない。あなたが一番知っていることでしょ」
楯無の自信に満ち溢れさせながら言うと、虚は苦し紛れの笑みを浮かべる。
「そうでした。どうかご無事で」
その言葉を残すと、虚は自分のするべきことへ行動を移した。
楯無は少しの間見送った後、視線を<タイラント>に見据える十秋へ呼びかける。
「さあ、十秋。待ちに待ったお仕事よ。その実力を存分に活かしなさい」
「……」
返事がない。
「十秋? と〜あ〜き〜。十秋!」
三回名前を呼ぶと、十秋は体をびくりと震わせた。
まるで今、我に返ったように。
「おしゃべりは終わりか? それなら早くしよう。このままだと俺のやる気がゼロになりそうだ」
ゆっくりと向き直ると、とても虚ろな目で楯無に告げた。
「……何かあったの」
「ああ、これを聞いてくれ」
十秋は一つの通信用のケーブルを差し出し、楯無はそれを受け取る。
「ねえ、これってオープンチャンネルだよね? 味方の断末魔でも聞かせるつもり?」
楯無の皮肉に聞こえる発言に、十秋は首を振る。
「いや、もっと酷いものさ。聞けばわかる」
「そう……じゃあ、早速」
十秋の歯切れの悪い言い方に、楯無は訝しみながら渡されたケーブルを機体に接続する。
そして彼女の耳に入ってきたものは、何ともおぞましいものだった。
『お〜〜〜〜〜〜〜〜の〜〜〜〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 更識〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 一度とならず二度までも、ワイの邪魔をしおって! こちとら大損害や! キィーー! こうなったら、ワイの可愛い可愛い<タイラント>ちゅわんで全てを潰してやるわ〜〜〜〜!』
自分に対しての恨みつらみを、大阪弁で口にする男が聞こえてきた。
声の主は難波重信だ。
脳内アドレナリンが爆発しているのか、その口調は怒りと興奮に満ちていた。
楯無は無言のまま、ケーブルを引き抜いて十秋に返す。
「はい、聞いてもらえばわかる通り。あんた……というか更識家を恨んでいるみたいだけど、何か因縁でもあったのか?」
「えっと……私のお父さんが、昔に難波ガイストの前身の組織を壊滅させた時があったのよ。で、その時にーー」
「肝心の重信を逃したと、それで奴はカンカンになっているわけだな」
「はい……その通りです」
楯無はしゅんとする。
猫耳と尻尾があったら、確実に下を向いていることだろう。
あ、でも楯無に猫耳は似合いそうーーって今は関係のないことだ、忘れよう。
「よし、それなら早く行こう。重信の野郎はああは言っているが、まだあの<タイラント>って奴は完成していない。だからすぐに動かないと思わないが、あれが動き出したら横浜が壊滅するのは目に見えている。ささっと親父さんのリベンジマッチを成し遂げて帰るとしようぜ」
「そうね。私も馬鹿馬鹿しくなってきたわ」
ようやく話というか決意が固まったらしく、十秋は背部のサブアームから二丁のビームライフルを、楯無は蒼流旋を展開して握る。
「ねえ、知ってる?」
「どうした、豆しば」
「豆しばって……まあ、いいわ。更識家にはこんな言葉があるわ。『先手必殺』ってね」
「随分と物騒な言葉もあるもんだな。だけど、俺は嫌いじゃないぜ」
「そう、私も気に入っているから共感できる相手がいて嬉しいわ」
少しの静寂の後、二人は不気味な笑顔を浮かべる。
そして次の瞬間、彼らはまるで瞬間移動したかのようにその場から唐突に姿を消した。
漆黒と碧天の二つが夜色の空を駆け抜け、要塞のように聳え立つ鋼の巨獣に突撃する。
「まずはこれでも喰らえ!」
右手のライフルのトリガーを引き、銃口から最大出力の光線が放たれる。
直線に進んでゆく光線が、<タイラント>の装甲に直撃すると同時に爆発が上がる。
すかさず、サブアームに握られたライフル全てを前面に可動させる。
続いて、肩と足に装備されているミサイルポッドを展開する。
彼の視界に、ロックオンサークルが出現させて先ほど直撃した箇所に座標を固定する。
「照準固定、ロックオン完了、エネルギー残量問題なし。フルブラスト!」
全火器による一斉放火を行う。
一極集中の大火力による短期決戦、これが十秋のテンプレートだ。
戦いの鉄則はどれだけ相手に妨害や反撃をさせず、自分の攻撃を的確にかつ多く当てることだ。
ではその確実な方法とはなにか、実に簡単なことだ。
超至近距離まで接近して自分の強力な札を切りまくる、これに限る。
オーバーヒートギリギリになった所で、十秋は射撃を辞め、両手に握っていたビームライフルを下ろした。
「あ〜あ、あなたこれ私の分まで取らないでよ」
楯無は戦いに参加できなかったことに不満があったのか、頬をぷくーッと膨らませる。
その様子は、遊びに参加させてもらえなかった子供のようだった。
「文句を言うな。それにさっき、ささっと終わらせーーーーーー」
不意に悪寒が全身に駆け巡る。
十秋は急いで後ろを振り向くと、目と鼻の先に青白い何かがあった。
次の瞬間、途轍もない衝撃と共に十秋は地面に叩きつけられ、一瞬で彼の意識を刈り取られた。
◇
「十秋、大丈夫!」
楯無の声が聞こえ、十秋は意識を取り戻した。
「楯無、俺はどのくらい眠っていた! 状況は!」
慌てて体を起こすと、胸のあたりから軽い痛みが走る。
今気づいたが、口の中に鉄錆の味がした。
肋骨にヒビが入ったのだろう。
ISの絶対防御は、エネルギー弾、実弾、エネルギーブレイド、実体剣、ありとあらゆる直接的な攻撃を防いでくれるが衝撃までは殺してくれない。
「無理して動いちゃダメ。それと寝ていたのはたった数分よ。肝心の状況だけど、水で作った分身達に足止めしているわ。だけど、どこまで持つかわからないわ」
「なら、急がないと。ISの、生命補助機能を使えば身体は動く。エネルギー残量も、充分残ってる。戦闘には支障はないはずだ」
冷静に自分の状態を説明をすると、楯無は眉間にシワがよる。
『それは無事って言わないわよ! 息も絶え絶えなんだから、すぐにでも離脱しなさい』
楯無は叫んで、十秋のことを止めようとする。
対する十秋は、仮面で隠れた頭を楯無に酷く冷たい口調で言った。
「お前、自分が犠牲になれば良いとでも考えているだろ」
「ーーッ」
楯無が息を詰まらせた。
「図星か……悪いがアレはお前の首を差し出しても、横浜をメチャクチャにするに決まっている。だってアイツの目に見えてるのは、お前じゃなくてお前の実家だ。更識家に恥をかかせるためなら、街一つ分の犠牲は厭わないだろうな」
「じゃあ、どうすれば良いの! なにか作戦でもあるというの!?」
「考えがあるけど、如何せん成功する確率が低い。ただし俺一人だけならな」
十秋は、痛む体に鞭を打って無理矢理立ち上がると、楯無に告げた。
「楯無、お前のアクアナノマシンと
十秋の提案に、楯無はそっと目を瞑って考える。
数分の熟考の後、楯無は口を開いた。
「……策があるなら早く教えなさい。そのハッピーエンドの為の作戦を」
「オーケー、じゃあ作戦を言うから耳を貸せ」
そして十秋は、今閃いた作戦を楯無の耳元で言った。
「ふむふむ、わかったわ。それにしても本当にシビアね。でもやる価値はあると判断したわ」
「んじゃ、作戦も伝えたことだし、アレを鉄屑に変えて中にいる奴をとっちめるとしますか」
「ええ、その意見に賛成」
その時、確かに反撃の狼煙が上がった。
今日は疲れので短めに。
今回登場した<タイラント>ですが、原作にはなかったISを認めようとしない集団を登場させたかったので出しました。
お気に召したら幸いです。
それではまた次回、会いましょう。