インフィニット・ストラトス〜十の秋、黒の弾丸〜(凍結) 作:とりマヨつくね
それでは本編へ。
「……どうしてこんなことになったんだ」
十秋は、朝の通勤ラッシュでギュウギュウになったモノレールの中で、目の下を深い隈を浮かべながら呻くように呟いた。
彼は全体的に白い配色のブレザー、IS学園の制服を身に纏っていた。
束から潜入任務(?)を告げられてから二ヶ月、身分の偽装やら、マスコミのインタビューに答えるやら、色々な事が起きすぎて十秋の体はズタボロである。
『まもなく、終点。IS学園前ーーーー』
不意にモノレール内にアナウンスが響く。
モノレールが止まり扉が開き、十秋は押されるように降りて改札を抜ける。
「やっと、あの暑苦しい空間から出れた……!」
十秋は慣れない通勤ラッシュに、日本のサラリーマンに素直に尊敬できる。
唯一の救いはこれから寮住まいになるから、こんな思いをしなくても済まなくなる事だ。
あまりの疲れで溜息を吐くが、十秋は頰をペチペチと叩いて気を引き締めた。
「いけないいけない、気を取り直さないと。弟を守るという前提条件はもちろんだけど、できないと思っていた青春を目一杯楽しまなきゃな!」
ようやく元の調子を取り戻した十秋は、桜の花びらが散る一本道を歩く。
「それにしても平和だな〜。あとはそこら辺の曲がり角から、パン食い美少女がぶつかってくれたら完璧なんだがなぁ」
そんな願望丸出しの発言をしながら、例の曲がり角に差し掛かったところでーーーー。
物凄い勢いでパンを咥えた少女が現れ、そのままぶつかった。
「きゃっ!」
「あべー!」
体勢を崩し少女は尻餅をつき、十秋は頭をアスファルトに激突させる。
※ギャグパートの十秋は特殊な訓練を受けているため、頭をぶつけてもなんともないが、もし頭をぶつけたのならちゃんと治療を受けよう。
「いてて、今さっき言った願望が叶っちーーーー!」
少し痛みの残る頭を抑えながら上半身を起こした次の瞬間、彼の視線は一点に集中する。
どこがとは言わないが、本来見えないはずの縞々模様の布がフルオープン状態になっているのである。
正直、パン咥え遅刻少女とぶつかっただけでもびっくりであるが、神様はどうやらほんの少しサービスしてくれたらしい。
十秋は一旦冷静になるべく、すぐさま立ち上がり後ろを振り向く。
そして数度深呼吸をすると、
「神様ありがとおおおおおおう!」
と、思わず心の中の叫びが出てしまった。
「へぇ……そこの君、私のスカートの中見たんだね?」
と少女の声と共に、後ろからガチャンと機械の駆動音と共に少女の声が聞こえた。
その妙に穏やかでありながら微かな怒気をはらんだ声色に、全身が今すぐそこから逃げろ! と警告する。
十秋は壊れかけのロボットように、視線を後ろに向ける。
そこには先ほどぶつかった少女が、機械の剛腕を片腕だけ装備した状態でニコニコの笑顔を向けていた。
「あ、あの、確かに俺も悪かったです。素直に謝ります。ですからその物騒なISの部分展開を解除してくれませんかね?」
十秋は完璧と言える土下座をし、なんとか許してもらおうとする。
少女の表情は、恐ろしい笑顔のままでゆっくり部分展開した右手を広げて平手の形を作る。
「問答無用」
「あ」
死んだ。そんな確信が脳内に広がり、十秋はすぐに土下座の状態を辞めて、この場からの逃亡を図る。
しかし時は既に遅し。振り下ろされた平手が彼の顔面に直撃し、
「アバあああぁ!」
と断末魔をあげながら、彼の身体はバスケットボールのように跳ねながら吹き飛ばされる。
※先ほども言ったが、ギャグパートの十秋は以下略。
◇
「で? それが転校初日の始業式に遅れた理由か?
IS学園職員室にて、織斑千冬は強い口調で言った。
「は、はあ〜い。その通りでございます」
十秋は額に汗を滲ませながら答えた。
一時間以上気絶していた十秋は、案の定遅刻で始業式にも参加できず、事情聴衆を受けているという訳である。
理由はそれだけではない。
(ちー姉ちゃん……束さんの話とか、テレビとかで度々見ていたから知っていたけど、こんな怖い人だと思わなんだ。まあ、これもパン食い少女とぶつかり、縞パンが見れた代償ということで)
この目の前の女性こそ、十秋の弟である一夏の姉であり、十秋自身の姉でもある。
そして一夏と違い、
もし事情を知られたら、色々迷惑である。
秘密というのは、その事実を知る人間が多ければ多いほどばれやすくなるのは、はるか太古の昔から決まっているのだ。
そういった面倒ごとから避けるために、十秋の名字は織斑ではなく黒神なのだ。
「ふむ、まあいいだろう。今回は遅刻扱いにしないでやる。明日から気をつけろよ」
「あ、ありがとう……ございます。ちー……織斑先生」
気が抜けついついタメ口を使いそうになるのを踏ん張りながら礼を言う。
するとガラガラと職員室の扉を開く音が聞こえた。
「織斑先生、そろそろホームルームがあるので説教は……」
「九条先生……そうだな。黒神、こちらがお前のクラスの担任になる九条絹恵先生だ」
「紹介に預かった九条絹恵よ。これからよろしくね。会えて光栄だわ」
「いえいえ、こちらこそこんな美人の先生が担任とは光栄です」
「ふふ、そんなに褒めても何も出ないわよ。さあ、時間がないから早く教室に行くわよ。それじゃ、織斑先生また後で」
絹恵が千冬に言うと職員室を歩き出し、十秋はそれを追いかけるように歩く。
階段を登り、二年生のクラスが並ぶ二階の廊下を歩いているところで、何者かに見られていることにあることに気づく。
(感じる、感じるな〜おんにゃのこの視線を。来ちゃったか、俺の青春!)
十秋は周囲から感じる視線を平静を装いつつ、廊下を歩き続ける。
「ここで待ってて。私が呼んだタイミングで教室に入って、自己紹介お願いね」
「はいはーい! わかりました!」
十秋が元気に返事をすると、絹恵は自分の教室に入っていった。
「さて……」
一人取り残された十秋は、おもむろに胸ポケットからメモ帳を取り出した。
そのメモ帳には昨日、徹夜して考えた自己紹介が書かれていた。
これまでの人生でいわゆる『友達』がいなかったので、これを機にそういったものを作るのも悪くないだろう。
あわよくばその仲良くなった子と…………。
『……入ってきてー』
そんな淡い妄想を悶々としていると、ドア越しから絹恵の十秋を呼ぶ声が聞こえた。
十秋は軽く息を吐くと、覚悟が決めてスライド式のドアに手をかけ、勢い良くドアを開ける。
そしてギクシャクと動きで教台に立ち、手に取ったチョークでやけにカクカクとした自分の名前を黒板に書いた。
「どうも、黒神十秋だ。分からないことが多いから、色々と教えてくれなー!」
ーーーーーーーーーーー。
教室が静かになるが、数秒後パチパチと拍手の音が聞こえた。
一つまた一つと増えていき、最後は教室中が拍手喝采となった。
第一印象は悪くなかったようで、十秋は内心ほっとする。
「皆、色々聞きたいことはあるだろうけど、また後でね。黒神君の席だけど……更識さんの隣ね」
「わっかりましたー!」
十秋は元気よく返事をすると、その指定された席へと向かう。
「あら? あなた、うちのクラスだったので」
「ん?」
十秋は聞き覚えのある声に、足を止めた。
声のした方に視線を向けると、目を大きく見開いた。
「お前は……朝の遅刻パン食い縞パン少女!」
「最低な覚え方しないでよ!? 私には更識楯無って名前があるんだけど!!」
「おうおう。それで楯無さん、今朝はどうもありがとうございました。眼福の一言に尽きます」
「そろそろ下着から離れてよ!」
「いいや、やめない。こればっかりは俺のプライドだ。だから改めて礼をーー」
そう言って十秋は楯無に歩み寄ろうとした時、机の足に引っ掛け、彼の体はルパンダイブする。
そのまま床に激突するかと思ったが、彼の右手が楯無のおπを掴んでいた。
「「「「「キャーーーーーーー!!」」」」」
状況を理解したクラスの女子生徒達が、そんな悲鳴を上げた。
「……」
流石にこの状況には、十秋も思考を停止せざる得なかった。
彼の制御を離れた体は、その右手に握っているものを一回、揉んだ。
その行動に楯無は、顔をゆでダコのように真っ赤にし、今朝同様ビンタで十秋の右頬を引っ叩いた。
「もう頭きた! あなた、私と決闘しなさい!」
「……え?」