インフィニット・ストラトス〜十の秋、黒の弾丸〜(凍結)   作:とりマヨつくね

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それでは本編へ。


汚ねえ花火

 十秋がアリーナーに出ると、無数の観客達の声援が待っていた。

 祝日でもなければ、学校行事でもない日にこんなにも人が集まっていることに、十秋は感心と呆れを混ぜた感情を抱く。

 

「おいおい、みんな暇かよ……ってそんなことより生徒会長殿はどこかいな」

 

 周囲を見渡して対戦相手の楯無を探す。

 

「そんなに必死にならなくても、私はここにいるわよ」

 

 頭上から声が聞こえ、十秋は上を見上げる。

 そこには自らの専用機、ミステリアス・レイディを纏った楯無が浮遊していた。

 

「おお、これはこれは生徒会長殿。元気そうで何よりです。寂しかったですかー?」

 

 どこか煽るような十秋の発言に、楯無は額の辺りに青筋を浮かび上がらせる。

 

「……っ、それはあなたが授業が終わった瞬間に、さっさと逃げちゃうからでしょうが」

 

「あははは! それに関しては……キマズクテニゲテマシタ、ゴメンナサイ」

 

 十秋の素直に謝罪に楯無は目を丸くさせるが、すぐにはあ、小さくため息を吐いた。

 

「あなたねぇ……人としてのプライドみたいなのはないの?」

 

「そんなものはどっかの野原に捨ててきた! だけど今回の勝負は負けるつもりがないので夜露死苦ーーーーーー!」

 

 十秋は、機体に備え付けられているスピーカーの音量を最大して言う。

 楯無は思わず、「なんか一部、字が違くない!?」とツッコミを入れるが、それは観客席の方から一際大きな歓声によって掻き消される。

 

「さーて、会場も盛り上げたことだし、早速始めようか」

 

「ええ、そうね」

 

 楯無がそう答えながら、量子変換していた蒼流旋を出現させる。

 十秋も、背部のサブアームに固定していた二丁のライフルを両手で持つ。

 さっきとは打って変わって静かになるアリーナ。

 お互いがお互いを見据える中、一秒また一秒と減ってゆくホログラフのカウント。

 そしてカウントがゼロを示した時ーー黒と蒼白が同時に動いた。

 まず楯無が接近し、蒼流旋による突きの一撃を放つ。

 それに対し、十秋は後方に下がりながら、右半身を捻らせ回避する。

 その隙に、左手に握っていたライフルのトリガーを引く。

 銃口から放たれたビームが、楯無めがけて一直線に突き進む。

 

「甘い!」

 

 楯無が言うと、例の水のヴェールが彼女を包みビーム攻撃を防いだ。 

 十秋は心の中で舌打ちをすると、今度は楯無が容易に接近できないように両手のライフルを連射する。

 その全てが華麗に躱されるか、水のヴェールによって防がれ、蒼流旋に備え付けられた四門のガトリングガンを放ってくる。

 十秋も負けじと弾幕を張り続けるが、みるみるとSE(シールドエネルギー)が減ってゆく。

 状況はやや不利と言えるだろう。

 

(チッ、普通にやってたらこのまま押し切られる。だけど()()を使うわけにはーー)

 

 そう思考している最中、楯無の薙ぎ払いの攻撃が彼の腹部に直撃する。

 

「グッ!」

 

 全身に伝わってくる衝撃に小さく呻き声を上げると、アリーナの壁にぶつかる。

 十秋の視界の端に視線を移すと、SEのパラメーターがぐんと減りイエローゾーンに入る。

 

「あれだけ舐めた態度を取っておきながら、案外大したことがなかったわね。専用機も持っていると聞いていたからもしかしたらと思ったけど……期待はずれね」

 

「そ、そうですかい。こっちも少し()()()()()みたいだ」

 

「ふん、負け惜しみを」

 

「オーケー、じゃあ少し待って」

 

 そう言って十秋が深く息を吸うと、

 

「ああああああああああああああああああーーーーーーー!!」

 

 と吠えた。

 いきなりの奇行にその場にいた全員が、困惑した表情を浮かべる。

 

「よし、スッキリした。覚悟しろよ、生徒会長殿。ここからは俺も本気でやらせてもらうぜ!」

 

 十秋はライフルをかまい直すと、突然その場から消えた。

 流石の楯無もこれには驚き、周囲を見渡す。

 

「一体どこにーーきゃっ!」

 

 突如、どこからかともなく爆音と共に衝撃が襲う。

 楯無はすぐに体勢を立て直すと、すぐに攻撃を受けた方向へと見やる。

 そこにいたのは先ほどまで下で、無様に片膝をついていたはずの十秋だった。

 

「少しは驚いてくれたかな?」

 

「ええ。全然モーションが見えなかったけどIB(イグニッションブースト)を使ったのね。私がまさか背後を取れると思わなかったわ。ーーーーだからお姉さんも少し頑張っちゃうわよ」

 

 楯無を覆っていた水が蒼流旋の方に螺旋状に纏わりつき、高周波の振動を行う。

 武器を構え直すと、彼女が接近する。

 十秋もまたそれに応えるように、カスタムウィングのスラスターを全開にし、楯無との距離を縮めていく。

 蒼流旋の間合いに入ると、もう何度見たかもわからない突きが放たれる。

 

(これでーー)

 

 その時、楯無には水によって強化された一撃にて試合が決着する光景を幻視した。

 だがその時、仮面の下に隠れていルはずの十秋が笑ったような気がした。

 まるで子供が自分の仕掛けたドッキリに、誰かが掛かったことを嬉しくなっているような。

 楯無がそれに妙な違和感を覚えたところで、十秋がギリギリのところで左手のライフルを離した。

 ライフルはそのまま落下していき、蒼流旋と衝突してバラバラに砕ける。

 

「なっ、ライフルを擬似的な盾に!?」

 

 楯無はあまりにも唐突なこと、驚愕を隠せなかった。

 それで突きの攻撃に勢いを失ったことによって晒した隙を、十秋は決して見逃さなかった。

 十秋は肩部にミサイルポッドを展開し、一斉発射する。

 楯無は水のヴェールを纏って防御体勢をとるが、超至近距離で放ったミサイルは爆発し硝煙が辺りを包み込んだ。

 だが、十秋には見えていた。ーー硝煙の中に隠れている一人の少女の影を。

 十秋は臆さず、右手に握られたライフルのレーザーを照射する。

 エネルギーの奔流が楯無の影に向かっていき直撃する。

 

「?」

 

 ……直撃した。

 なのに何故、楯無の影は()()()()()()()()()()()()()

 煙が晴れると、()()を見た。それは楯無の姿を象った水であった。

 すると不意に背後から人の気配を感じた。

 元々何もなかった空間から、何かが剥がれ落ちるかのように楯無が出現した。

 

「こっちが本命か!」

 

「ええ、そうよ。中々、いい余興だったわ」

 

「そんな簡単に終わらせてやるかよ!」

 

 十秋が叫ぶと背後のサブアームが可動して、合計五つの銃口を楯無に向ける。

 サブアームに取り付けられた擬似指が、思考制御で引き金を引く。

 その全てが直撃するが、まだトドメまではさせていないようだ。

 体を百八十度回転させて右手のライフルを向け、

 

「これで、お・わ・り・だああああ!」

 

 と叫んだ。

 

「クッ……ここまでね」

 

 楯無は、まるで苦虫を潰したかのような顔を浮かべたかと思ったら、

 

「なーんちゃって☆」

 

 悪そうな笑みを浮かべる。

 いきなり何を言い出すのかと、十秋は眉をひそめていると右手の方に嫌な感覚が駆け巡った。

 そこに視線を向けると、何故かライフルが赤熱かし爆発しそうになっていた。

 そこで楯無の意図が分かった、分かってしまった。

 十秋はライフルを離そうとするが、それよりも先に楯無が抱きついて阻止する。

 

「ふふ、本当に楽しい余興だったわ。ま、負けてあげるつもりもないけど。だから……一緒に爆ぜよ?」

 

 楯無がニコニコ笑顔で指でパチン、と鳴らす。

 それと同時に臨界状態となったライフルが、まばゆい光を放つ。

 

「おいおい、嘘だろ……!」

 

 十秋が頰を引き攣らせると、二人の視界は純白に包まれる。

 そしてーー。

 

「ああああああ!」

 

 十秋の断末魔が木霊し、それと同時に試合終了を知らせるサイレンが轟いた。

 




あとがきです。
タイトルで皆さんもなんとなく分かっていたと思いますが、打ち上がりましたね……汚ねえ花火。
さて、ただでさえ酷い目にあっている彼ですが、ここから更に追い討ちのようにやってくる試練。
彼は生き残ることはできるのだろうか……。
楽しみにしていてください。
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