TSディオ様もの。   作:荼枳尼天

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※改稿 2月26日


騎馬戦 後編

 

 

「このまま、逃げ切れればよかったんだけど……そう上手くは行かないか……」

 

「緑谷か……」

 

 2人はそのまま睨み合い、相手の初動を見逃すまいと気配を鋭くさせていた。

 

「彼方……あんたの騎馬戦に入ってからの様子を見てた」

 

 尖った視線は変わらず、轟焦凍が彼方世界に話しかけた。

 

「あんた。個性使ってないだろ。おかしいのは足についてるサポートアイテムだ」

 

 セカイの背中を冷たい汗がなでる。

 

『流石にバレるか。やはり優秀。頂点の人材という訳だな』

 

「……」

 

「それに、常に焦ってるような印象を受ける」

 

「轟くん……」

 

「個性だって身体機能の一つ」

 

 

 そう前置きして轟は言った。

 

 

「あんた。無理してここにいるだろ」

 

 

 一気に安堵が押し寄せる。

 DIOは轟の解釈をエリートからくるソレであると理解した後に感嘆した。

 

『なるほど。そういう捉え方にもなるか』

 

(た、助かった……)

 

「そ、そうなの? 彼方さん。てっきり僕は彼方さんが僕達のために加減してるんだと……」

 

 緑谷が表情を崩しながら小さな声で言う。

 世界を心配する雰囲気が騎馬に伝播し始めた。

 DIOはそれを見ながらヒーローの学舎ゆえの弱点かと考える。 

 巨悪であったDIOにとっては唾棄し踏み躙るべき、突くべき弱点なのだが現時点ではセカイにとってもDIOにとっても良くないものであった。

 

『セカイ。セカイよ。勝つことだけを考えろ。意図の外にあるものだとしてもあの発言が騎馬のパフォーマンスを落とし始めている』

 

(そんなこと言ったって……)

 

 奥を見れば騎馬が複数迫ってきている。

 このままでは一網打尽。

 

 世界たちの騎馬はコンセプトで言えば逃げ馬であり、攻撃の手段が少ない。

 緑谷の個性は極力使いたくない『諸刃の剣的なアレ』であることは既に伝わっていることから、囲まれたらどうしようもない。

 

 

「緑谷クン。麗日サン。発目サン。備えて、このまますぐ行くよ」

 

 汗の滲む表情を虚勢で歪めて小声で言う。

 その声で緑谷はすぐに雰囲気を切り替えた。

 

「わかった……」

 

「……ッ! 轟君!! 来るぞ!!」

 

 向かい合う轟の騎馬の前面に位置取るメガネをかけた男が叫んだ。

 

 察知されたが世界は構わず、サポートアイテム使用のために足を踏み込んだ。

 

 カチリ、その音を聞いた瞬間、相手方も叫んだ。

 

「ットルクオーバー!! レシプロバースト!!!」

 

 ドンッ!! 

 

 地響きがその他の騎馬を揺らした。

 双方の騎馬は未だ見つめ合っていた。

 違うのは距離が先よりも倍ほどあり、行動を起こすにも猶予があった。

 

 違うのはそれだけではなく、騎手の疲労具合。

 セカイは加速に追いつけず何があったかは窺い知れないが、

 

 緑谷は左腕に軽度の火傷を負っていて、轟は左腕を青黒く変色させている。

 

「くそッ当てる気はなかったんだけど……! でも加減はうまくいった? ……土壇場で成功……こっちの反動も少ない……」

 

 緑谷右手に緑色の電流のようなものを迸らせた。

 

「掴んだぞ……!!」

 

 その様子は何か達成感を滲ませるもので、それを見ていたオールマイトは微笑んだ。

 だが、それを見ていた世界、の中の存在DIOは心中穏やかではなかった。

 

『今のはッ!! 波紋……なのかッ?!』

 

 今でもはっきり覚えている独特な呼吸法。

 黄色に輝く電光にも似た自然エネルギー。

 

 似てはいるが違うものなのか、緑谷が波紋の呼吸をしている様子はないのだが……

 

『警戒しておくには十分……か』

 

「げっ……」

 

 DIOの思案の最中、世界は自らの足についているサポートアイテムが変に熱を持っていることに気づいた。

 

 この加速装置の説明から、これが故障の前兆であることは承知していた。

 使えてあと一回程度。

 暴れ馬な分、大食らいなのだろう。

 

「ごめん、無茶な使い方しちゃった。加速はあと一回だけだよ」

 

「……!! わかった。大丈夫だよ」

 

 向こうの轟は左腕を凍らせて治療していた。

 

 一瞬の攻防を前に呆気に取られていた他の騎馬が動き出す。

 だがそれを許すまいと動き出す前に轟が氷結と、黄色い髪の生徒の個性である電流を同時に発動させて行動不能にさせる。

 

「まだだ。終わらせねえッ!!」

 

 かなりの勢いで轟が迫る。

 

「このまま! 逃げ切る!! 残り1分!!」

 

 無意識に力が入る。

 

 感じる。

 体が引き締まっていく感覚、急激に広くなっていく視界。

 先ほどの機械との殴り合いに、急加速の経験。

 

 その経験値が反映されていく感覚。

 

 この初めての感覚に、困惑する直前、広がった視界の隅に

 鬼の形相が映った。

 

 

「こっちだ金髪ゥ!!!」

 

 

「ひっ……み、緑谷クン!!」

 

「かっちゃん?!」

 

「デクがいようが意味わかんねえ個性使う女がいようがカンケーねぇ!! 俺は!! 俺の!! 道ぃ歩いて!! 一位になんだよ!!!」

 

「デクくん!! 足元!!」

 

「えッ?! みんなの足が…!!……轟くん?!」

 

 気づけば騎馬全員の足が凍りついていた。

 予め氷結を走らせていたのだろう。

 気づかなかったのは熱中していた故か、だがこれが絶体絶命の危機であることに違いはなかった。

 

「邪魔だ爆豪……!!」

 

「半分野郎……!!」

 

『オイオイオイオオイ!! 奪われたポイント全部取り返して爆豪が参戦!! 三つ巴の最強争いだぁ!!』

 

 さっきは遠かった轟たちももう目の前にいて爆豪も爆速で騎馬を置いて迫っている。

 

 これから起こる結末は想像に難くない。

 

 

 

 

『負ける。負けてしまうなあ。世界よ』

 

 

 世界の頭の中にDIOの声が響く。

 

 その声は思いのほか愉快そうで、それでいて嗜虐的な声だった。

 

 

『負ければ、私が世界の体を使って、お前の母親、親友、クラスメイトを殺し回ってしまうかもしれんぞ? お前の顔と声と体を使ってなぁ』

 

 

(そんなことは……絶対に許さない……!!)

 

 

『それだけじゃあない。このDIOはそのような小悪党ではないのだ。この超常社会を、支配してやるぞ……?』

 

 

(ふざけるなよ……ふざけないでよ……!!)

 

 

(なんでこんな奴のために私が死んでやらなきゃなんないの……!! ……あんたは……!! 楽しむためだけに、行動している!!)

 

 

 前世ならいざ知らず、今生において言えばDIOは愉悦に任せて行動している。

 

 それは全て彼方世界という少女を中心に起こっていた。

 

 

(そんなに楽しみたいのなら……!! 私の中で見ていればいい!!)

 

 

『!!』

 

 

(あんたがどんな人生を歩んできたのかは知らないし知りたくもない!! でも、あんたは一回死んでるんでしょ?!)

 

 

(あんたの考えてることが朧げだけど、ちょっとだけわかる。スタンドとか波紋とか……!! ここは、あんたの世界じゃないんだよ!!)

 

 

(私は、あんたを、大事な人たちのために、私の体に閉じ込める……!!)

 

 

(私は……大事な人たちのために……見てろ……ヒーローになってやる!! あんたを楽しませるためじゃない!! あんたから大事な人を守るために!!)

 

 

 

 

 

『クハッ!…いい、いいぞ!その意気だ!!昔私に歯向かった男も貴様のように私に啖呵をきっていた!!』

 

 愉快、そんな言葉では収まりきらない歓喜がDIOの身体を巡る。

 自死の覚悟では到底至れない、【英雄になるための覚悟】をする領域へセカイは至った。

 

 元々気にかけていた生徒が予想を軽々と越え超一流大学に入学していったような、そんな感覚であった。

 

 今生のDIOは生への執着が乏しい。

 

 最初こそ燃えてはいた。

 

 自室で見知らぬ人間が我が物顔でくつろいでいる様子にイラつく感覚。

 

 敵と定めていた同居人。

 

 だが今は、輝く英雄候補と、討たれるべき巨悪の関係となった。

 これからDIOは愉悦に身を任せ行動する。

 英雄となるべき人間を己の悪で染めあげ、2()()()この超常社会を支配する。

 

 そんな結末を夢想し、猛り、叫ぶ。

 

 

『フッ、フハッフハハハハハ!!! 

 

 世界よ!! 

 

 そうだ!!! 

 

 仮面を貼り付けた死にたいだけの道化ではなく!! 

 

 お前として! 彼方世界として!! 

 

 ヒーローになってみろ!!! このDIOを!! 楽しませろォオオオオオ!!』

 

 

 DIOは歓喜した。

 

 これほどの成長性を秘めた人間が他にいたかと。

 

 体を完全に奪う気はなくなった。

 

 彼女の導き手として、彼女を巨悪に育て上げる。

 

 このDIOが見なければならないのだ。

 

 彼女が豹変し、家族を、学友を、無辜の民を、社会を壊す様を。

 

 だから、これは先行投資とでも思ってもらえればいい。

 

 

『これは餞別だぁ!! 使いこなせ!!! 

 

 

  世界(ザ・ワールド)ォ!!!! 』

 

 

『4秒! 4秒だ!! 世界よ!! 4秒間!! この世界は動きを止める! 使いこなして! ヒーローになれ!!』

 

 

 

 この日、DIOと世界の物語が始まった

 

 

 

 

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