私、彼方 世界は起きたら病院にいた。
何を言っているのかわからない?私もわかんないよ畜生!!
鼻を突く薬品の匂いが煩わしくて目を開けたら雄英高校の制服を着て近所の町医者に来ていたのだ。
わけがわからないよ。
「あ、あなたの名前は…」
それで目の前のお母さんは異常に思うほど顔色が悪く、こんなお母さんを見た事がなかった。
お母さんの動揺が伝わったのか私の体にも緊張が走る。
「お、お母さん?わ、私、世界だよ?」
「セ、セカイ?“この体”とか言ってたじゃない!あなたは誰なの!!セカイを!私の世界を返して!」
「ま、まって!お母さん!私だよ!世界だよ!」
「ま、待ってくれ空さん!世界ちゃん!私のことを覚えているかい?」
「角座おじさんでしょ?ちょっと今の状況が飲み込めないんだけど!」
「今の…状況だと…?」
本当に訳が分からない、起きたら近所の町医者だし、お母さんから別人と疑われるし。
もうなんなのよおお!!
◇
◇
◇
「ご、ごめんね世界」
「大丈夫だよ。お母さん。私がおかしかったのも…私はわかんないけど事実らしいし」
「今考えればさっきまでの世界ちゃんは様子がおかしかった。妙に堂々としているというか。カリスマがあるような」
「そう、ですね。いつもオドオドしてたし。今朝も突然泣いたり。おかしかった。気づいても良かったのに…」
どうやら今朝の私は妙に堂々としてカリスマがあって突然泣き出したらしい。
何回訳が分からないと言えばいいのか。
「…世界ちゃん」
「なんですか?」
「世界ちゃんの中にはナニカがいる。それは今の会話からわかってくれるね?」
「…はい」
「そのナニカは恐らく、君の個性だ」
「……はっ?!」
個性?いま角座おじさんはそう言ったのか?
「わ、私に個性ですか?でも個性が発現する時期はもうとっくに」
「うん。過ぎている。でも現に君は個性発現の兆候として黄金色の髪の毛と瞳を持った。それに気づかなかったかい?肌も日本人とは思えないほどに白い」
へ?
「か、鏡!鏡ありませんか?!」
「ふふ。そこにあるよ」
「ありがとうございます!」
私が鏡を見るとそこには普段の芋臭い私とは比べ物にならないほどの美人がいた。
顔の作り自体は余り変わらないものの、黄金色の髪の毛はサラサラだし、切れ長の瞳も芋臭い私の雰囲気を一新するのに一役買っている。
というか…あれ?私ってこんなに素材良かったの…?まるで自分じゃないみたい。
「だからいつも言ってるじゃない。素材はいいんだからって」
「ほへ〜」
すごい…髪の毛はキラキラしてるし、肌はお皿みたいに白い。いや〜参っちゃうな〜。学校に行ったらみんなに驚かれちゃうな〜。
学校に…学校に…学校…学校?
「学校?!やばい!」
「え?学校には連絡したわよ?」
「ちっちちちがう!や、やばい!友達と約束あったのに!」
「あ〜。それは…不幸ね」
「は、はやくいこう!角座おじさん!今日はありがとう!」
「あっちょっとまっ…まだ話すことが」
「すみません先生。また来ます」
「あー…まあだいじょうぶか」
お母さん送って!え?私も仕事?なんでや!!
◇
◇
◇
◇
「いよー世界さぁん?重役出勤じゃなぁい。約束。どぉしたのかにゃぁ?」
「それはほんっとーっにごめん!!今度埋め合わせするから!」
「ははぁ。今度のショッピングでアイス奢りな!」
「御意のままに…!」
「まあそんなことよりも、その髪と肌どしたん?」
「朝起きたらこーなってた。近所のお医者さん曰く個性が発現したらしい……いやぁついに私も個性持ち!無個性だからって見くびらないでね!!」
「えぇ?!無個性なところが良かったのに…でどんな個性なの?」
「それがわからないんだよね」
私が学校に向かい、着いた頃には授業は3時限目に突入していた。
それまで全力疾走をしていた私は酸素が足りていなかったこともあり、見た目の変化を忘れてそのまま教室へと入っていった。
一応授業が終わった直後にクラスメイトが集まってきたため説明したのだが目の前の親友は最後に来たため草臥れながらも楽しく説明ができた。
髪束 恵子。髪の毛を操るっていう個性の女の子。
無個性の私と仲良くしてくれた文字通りの親友。
だからクラスメイトにも言わなかったことを親友に言うことにした。
「なんか…今朝個性発現の兆候かなんか知らないけど。私じゃない何かになってたみたい」
「なにか?なにかってなに?」
「それが私にもわからなくって。別人みたいだったらしい」
「っへぇー…まあ美人になる個性って考えときゃいいのかな?このっこのー!」
「ちょ!やめ!胸揉むな!そこは大きくなってないよ!」
「道理で硬いと「ぶっ飛ばすぞ」
◇◇◇
私が入った高校。雄英高校はヒーロー科に力を入れている。
平和の象徴。ナチュラルボーンヒーロー。その名もオールマイト。
そんな現代の英雄を輩出したヒーロー科。
力を入れないはずもなく、今年もすごい人達が入った。らしい。
曰く巨大ロボットをオールマイトみたいに吹き飛ばした超人とか、手のひらが爆発して氷も出て炎も出る頭がつんつんしてるヤバいやつとか。
…私もヒーローに憧れていなかったのかと聞かれれば『憧れてたけどほとんど諦めてる』が答え。
こんな社会だ。憧れていたに決まっている。
でも運が私に向かなかった。
個性は、どうにもならない。
生まれついた才能。変えることの出来ないかけがえのないもの。
でも私にはそれすらなかった。
メジャーリーガーに憧れる球児が練習するみたいに壁を殴ってみたり、瞑想してみたりしたけれど。
意味なんてなかった。
周りの人達はいい人達でいい子達だったからいじめられたり遠巻きにされることなんてなかった。
でもさ、憧れちゃったんだよなぁ。
その証拠に未練がましくも、雄英高校の普通科に通っている。
なにか掴みどころのない正体のない期待が私の中で渦巻いてたけれど、普通科という名前からして、やることも普通で。
そんな雄英高校普通科に失望した自分に嫌気がさしてた。
でもついに…!
「よーしみんな。着席したな?えーお知らせなのですが、来週の月曜日から体育祭が始まります」
『うぇー』『めんどくせー』『どうせうちら何もしないじゃん』
教室の各所から恨み言というか心の発露というか、いずれにしても本心本音が教室に溢れた。
諸々の注意事項を手元のプリント通りに私たちにアナウンスしたあと、先生の視線はこちらに向き今朝の騒動関連の報告をしてきた。
「世界は個性届けとかの手続きをヒーロー科の方で済ましてこい」
「あーはい」
「親御さんから連絡あってな。危険性も鑑みてヒーロー科の先生が見てくれることになった」
「危険性って」
「危険性はお前もわかってるんじゃないか?」
「それは…まあ」
私の中にいるナニカ?だっけ?がヤバいって言うのかな
「未知の個性ほど怖いものは無いからな〜」
「そっちですか」
「そっちです。じゃ、これ今日の放課後と土日分の体育館使用の許可証。一応俺からもね」
何やら小難しい条文と先生の印鑑と署名が書かれたプリントを渡された。
体育館…まあ個性の確認が必要なんだしそうだよね。
どんな個性なんだろう
◇◇◇
「キミが普通科の彼方 世界さん?」
「あ、はい。“セメントス先生”今日はよろしくお願いします」
「うん。よろしく。と言っても『発現したと思うけど何が個性なのか分からない』というケースが珍しすぎて私も何をしたらいいか分からないんだ。だから黎明期に流行った潜在的個性の想起法をいくつか引っ張ってきた」
「それって…『これをやれば霊能力に目覚める!』とかそういうニュアンスのやつじゃ…」
「よくわかったね」
「絶対個性わからないやつじゃないですか!」
「わからないだろうね」
「じゃあどうして…」
「こういうのは積み重ねが大事。なにかのきっかけで君の個性が分かるかもしれない。私も体育祭の準備で忙しくなるから付きっきりというわけにはいかないけど、個性を不明のままにしておくわけにはいかないからね。土日の間に分かるようにがんばろう」
「ど、土日の間ですか。わかりました…」
「じゃあ早速で悪いんだけどこの本に書いてあることを試してみて」
そう言って渡してきたのはどこからどう見てもB級にしか見えない道楽本であった。
これでなにしろって言うんだ…。
数冊の本から目を離し、セメントス先生の方を見ればどこからか机を出してなにかの作業をしている。
溜息をつき、適当な本を掴めば『瞑想法』と書かれたいくらか簡単そうな本があり読んでみると特殊な座り方をして目を閉じて自分を省みるというとても簡単な方法が記載されていた。
というわけで坐禅を組み目を閉じる。
すると私の意識はどんどん沈んでいき……
スタンド回りの設定は…まあちゃんと考えてあります