TSディオ様もの。   作:荼枳尼天

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※改稿 2月26日


渦巻く事情

 

 

 彼方 世界。

 少女は、『彼方を見渡せるほど澄んだ目で世界を見てほしい』という意味を持って生まれた。

 世界の出自にはさまざまな想いや思惑が絡んでいる。

 

 ──個性婚。

 

 そう呼ばれる超常社会特有の悪習によって世界はこの世に生を受けた。

 

 彼女の父、彼方 氷時(ひとき)が当主である彼方家は古くから存在する名家でありそのあり方から血筋を重視してきた。

 

 超常社会においては重視するものが血筋から個性に変わったのだが、それでももちろん血筋も重視される。

 だが強個性のためならいくら血が混じろうとも構わないような家になった。

 

 そんな彼方家の固有の個性は『精神に作用する個性』だった。

 洗脳、諜報、拷問、尋問。

 歴史を叩けば叩くほどどす黒いヘドロみたいな埃が出てくる。

 そのような精神に作用する個性は総じて、強い。

 

 

 

 だが今代の当主、彼方 氷時の個性は次元が違った。

 

『時止め』である。

 氷時が起こしたアクションを引鉄に他人の精神に作用し文字通り人体の全てを静止させるのだ。

 まるで時を止めるかの如く。

 

 これは音、匂い、光情報から作用し文字通り全盲の人間でなければ抵抗のしようがなかった。

 だが、歴史の裏側で活躍してきた先達のような汎用性はなく、そして同時にそのような暗い時代でもなかった。

 

 ヒーロー。

 そう呼ばれるものたちの中に彼方家が参入した瞬間であった。

 

 当然家の中では反対勢力が生まれる。

 昔を思い出せ、ヒーローなど表の人間の仕事だと。

 

 だが氷時は止まらなかった。

 精神にしか作用しない時止め、そんな個性を活用できるのは荒事のみ。

 敵退治を主眼に置いた氷時、ヒーロー名『クロック』は瞬く間に功績を積み上げていった。

 この功績に次第に家で声を上げるものは少なくなって行った。

 

 だが、そんな裏でも考える者がいた。

 当主の『時止め』の個性。もっと強化できるのでは無いのかと。

 

 そこからははやかった。

 氷時の側仕えであった者の根回しにより、強個性の女との見合いが計画され、氷時の性格もあり意気投合。

 

 直ぐに結婚をし、その数年後この結婚の裏の思惑の主目的であった子ども 彼方 世界が生まれた。

 

 ここまでは順調だった。

 黒い陰謀が渦巻いていたとしても、奇跡的な確率によって噛み合い誰も不幸を被らない過程を辿っていた。

 彼方家による本人たちも気づかない個性婚、その成果は『無個性』という無惨な結末で幕を閉じた。

 

 この結果に彼方家は怒り狂い、政治的な手段を持って氷時を拘束、裏から方々に手を回して強制的に離婚させた。

 

 郊外にアパートを用意してそこで監視体制を整える。

 このような事情を世間に知らせる訳には行かないからだ。

 軟禁、監禁をする訳では無い。

 

 表面的に見れば、離婚したシングルマザーの女性がひとりで子供を育てる図になるが、実の所、身を縛る茨であったのだ。

 

 身動ぎするだけで身を傷つけてしまう、そんな状況下でも彼方の母親、彼方 空 は最後の抵抗として彼方の姓を名乗り続けたのである。

 

 だがこの事情は彼方 空に秘められたものであり、世界は知る由もない。

 父親に関しては離婚してしまったが今も愛していると惚気話を聞かされているため、嫌い合っている訳では無いことは知っていた。

 

 何の関係もない話。

 そう。

 世界に、異世界からやってきた時を止める悪の救世主が宿ってしまったこととは何も関係の無いお話。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『B組に続いて普通科C、D、E組……!! サポート科F、G、H組も来たぞー!! そして……』

 

「俺らって完全に引き立て役だよなー」

 

「たるいよねー」

 

 世界の前からそのような声が聞こえてくる。

 冷や汗でとんでもないことになったインナーを着替えて体育着も開放的な着こなしをしている。

 こんな無骨な服が死装束とは、と皮肉げに顔を歪めていると背中に衝撃を感じた。

 親友の髪束恵子だ。

 

「あいつらもA組僻み飽きないねー」

 

「……仕方ないんじゃないかな」

 

 彼らが嫉妬の念を覚えるのは仕方ないと、世界は考えていた。

 こんな社会だ。彼らもヒーローに憧れていたに違いない。現に自分もあこがれている。

 それに、そんなことはなくてもこのような人目に触れる場面でのこの学校のヒーロー科優遇は『引き立て役』と言われても仕方のない様相であると思う。

 

「ま、体育祭だしね。楽しみましょ……って顔青白いわよ?!」

 

「ご、ごめん。なんでもないよ」

 

「ちょっと……! そんなの信じられないわよ! やっぱりおばあちゃんのところに」

 

 

 この後、私は死ななければならない。

 血の気が引いていき、悪寒が体を襲う。

 

 いくら覚悟したところで怖いもんは怖い。

 

 競技中に事故を装って私を殺す。

 学校に迷惑がかかるな。

 

 

 DIOが出てきたら身の回りの人がまず狙われてしまう。

 学校とか実際どうでもよくて。

 大事な人がいなくなるのがどうしようもなく嫌だった。

 だからぜったいに死ななければならない。

 

「大丈夫! 大丈夫だよ! 恵子! あー! 楽しみだな! せっかくだから優勝目指そうかな!」

 

「世界……」

 

「大丈夫だよ。心配しないで」

 

 もう世界は決意の一線を飛び越えている。

 それを無意識に察したのか恵子は押し黙ってしまった。

 

「選手宣誓!!」

 

 壇上の18禁ヒーロー『ミッドナイト』が声を上げた。

 呼ばれたのはヒーロー科の入試を一位で通過したらしい爆豪勝己が壇上に上がっていった。

 

「せんせー。俺が一位になる」

『やると思った!!』

 

 世界の周りの生徒はその様子を見てブーイングを上げるというよりも湿度高めの愚痴を漏らしている。

 だが、壇上の少年は世界には、輝いて見えて。

 

(ヒーローは……私を助けてくれるかな)

 

 そう、考えずにはいられなかった。

 

 

「さーてそれじゃあ早速第一種目に行きましょう! いわゆる予選よ! 多くの者がここで涙を飲むことになるわ! 運命の第一種目! 今年は……」

 

『コレ!』

 

【障害物競走】

 

 

 今年の第一種目は障害物競走らしい。

 

 ミッドナイトによる説明を聞きながら世界は冷える感覚を感じていた。

 四キロの外周を走る障害物競走。

 

(誰かの個性で死ぬわけにはいかない。どこか……死んでもおかしくないギミックを探さなきゃ)

 

 

 世界は足りない脳で思考を巡らせる。

 曇り、光の消えた瞳は何も映さない。

 

 こちらを見つめる、教師の心配げな目に気づくこともなく障害物競争は始まった。

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