TSディオ様もの。   作:荼枳尼天

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※改稿 2月26日


彼方 世界:ビギニング

 

 

 

『スタ────ト!』

 

 その声とともに濁流の如く、一年生が動き出した。

 

「え? 何?」

 

 そして不幸なことに考え事をしていて無意識に最前線に出ていた世界は半ば運ばれるような形で狭すぎるスタートゲートの外に出る。

 

 というか勢いが凄まじすぎて客の上に乗り出したロックミュージシャンのようにドナドナと運ばれていく。

 スタートゲートを出て数瞬後、世界を運ぶ群衆が急停止し、世界は投げ出されてしまう。

 

 ゴロゴロと転がるように受け身をとり、皮膚に感じるのは刺すような冷感だ。

 地面に氷が張っている。

 後ろを見ると、一年生たちが足を氷に取られていた。

 

「あんた運いいな」

 

 そう言って世界の横を通り過ぎていくのは髪の毛の色が左右で違う少年だった。

 自信のある佇まいからしておそらくA組だろう。

 

「あっ」

 

 思い出したかのように世界は立ち上がって走り出す。

 後ろを見れば追随するようにA組が生徒の海から抜け出している。

 幸運を味方につけた世界はA組との戦いの土俵に立った。

 

 だが、DIOの仕掛けたお遊戯会は障害物競走に収まるものではなかった。

 

 

『ククク……セカイよ。もう私たちのゲームは始まっているぞ?』

 

(?!?!)

 

 

 

 前提として、DIOは世界の体に宿った存在である。

 それは当然、思考すらも共有しているのと同義であり、世界の考えていたことは全て聞かれてしまっていた。

 

(DI……O)

 

『このDIOに貴様の考えていることがわからないとでも思ったのかァ? 最初から最後まで筒抜けだ間抜けェ! ……ふん。だが近しい人間のために死ぬ覚悟を持つとは、みくびっていたかもしれんなァ……』

 

(……)

 

『さて……さっき言った通り。私の仕込みは十分ではなかったが、ちゃんと機能してくれている。そら。もうそこにいるぞ? セカイよ。呆けている場合か?』

 

(?!)

 

 DIOの可笑しげな助言に、世界は弾かれるように顔を上げた。

 

「KILL……KIIIIIIIILLLLLL」

 

 そこにいたのはやけに大きい影を持った、何か。

 人型であり、鎧のように緑色の装甲が全身に付いている。

 装甲の隙間から覗くのは血管のようなケーブル。

 血のように赤いモノアイはまるで世界しか視界に入っていないかのように世界の方をみている。

 

 確かに走っている途中、『ロボ・インフェルノ』という名称は聞こえた。

 その証拠に周りにはロボットが溢れている。

 

『名をエンパイアという』

 

(エンパイア……)

 

『サポート科、と言うんだったか。頼んだら作ってくれたよ。いい出来だろう?』

 

 周りのロボットはお世辞にも強そうとは言えない出来で、付け込める隙をわざと見せつけるような作りだが世界の目の前にいるロボットは違った。

 それは、意識世界で見た世界(ザ・ワールド)の存在感に似ていた。

 

(私がこれで死んでもいいの?)

 

『勘違いするんじゃあない。なあ。なあセカイよ。確かにこの体が壊れたら私も死ぬだろう。完膚無きまでに。だがそれを考慮に入れないほどに凡愚に見えるのか?この私が?あまり笑わせてくれるなよ?』

 

(………………)

 

『これは試練だ。セカイよ。教師が受験生らにテストを用意するように。私もセカイに試練を用意したのだよ』

 

 世界の視界の隅では大きなロボットが道を覆い尽くす勢いで屯している。

 その目の前には先ほど世界の幸運を称えた少年。

 

 個性の氷の波とロボットが衝突した瞬間、DIOにエンパイアと呼ばれたロボットが世界を競争のルートの外に連れ出した。

 

『ああん? 中継映像乱れてんぞ? どうなってんだこれ』

 

 その瞬間、不思議なことに中継映像が途切れていたため誘拐に気づいた者はいなかった。

 

 

 ◇

 

 ◇

 

 ◇

 

 

 

「んっ! ぐうぅッ!!」

 

 一瞬の間に行われた誘拐は、エンパイアの脚部についたタイヤによって行われた。

 その方法は乱暴なんてものではなく、エンパイアの行った超高速のラリアットにより肺の中身の空気を全て吐き出すこととなった。

 

「ちょっと……はぁ……はぁ……これが、レディの扱い?」

 

『ハハハ! レディと言ったか?!』

 

「うるさい!」

 

『まあいい、無礼も許そう。だがセカイよ……私が気づいていないとでも思っているのか』

 

「なんのことよ」

 

『……貴様がこの世の中において『無個性』と揶揄される存在というのは知っている。だがな、セカイよ。お前。そこらの衆愚より動けるのだろう?』

 

「動けるってそりゃ体は動くけど……」

 

(……この社会故の劣等感から気づいていないというのか)

 

 

 エンパイアがモノアイを一瞬きらめかせ、拳を繰り出す。

 だがその速度は、世界(ザ・ワールド)の速度を経験した世界にとっては遅いものだった。

 

「速い…!けど避けられないほどじゃない!」

 

 おかしな現象だった。

 DIOの考え通り、セカイは人間と言うには異常な身体能力をしていた。

 だが、それだけではエンパイアの拳は避けられない。

 

 ただそもそもの気質、送ってきた生活から得てきた経験のみでは轟速の拳は到底避けられない。

 

(……おかしい……まさかこのDIOの記憶とセカイの記憶が共有され始めているのか。いやそれだけじゃない。感覚や経験までも…)

 

「止まって見える……っていうのは嘘だけど! 避けるには十分!」

 

(ククク……ここまで愉快なことがあるとはな。セカイよ……お前は既に私を楽しませている。ある種の才能のようだぞ?)

 

「ふんッ!」

 

 エンパイアに負けず、世界も拳を突き出す。

 相手が機械だからか拳に鈍痛が響く。

 だが相手もそれは同じで装甲に少なくないダメージを与えていた。

 

 雄英製のロボットは試験に使うという特性上、脆く作られている。

 だがそれは簡単に人を殺められる個性という力を持つ子どもたちから言わせたらの話であり、間違えても無個性の人間が脆いとは言えないものであった。はずである。

 

 はっきり言って異常。

 DIOは考える。

 確かにセカイは普通科に属する普通の人間。

 

 だがこいつは人並外れた身体能力という特性がある。

 もちろんDIOの世界のスタンド使いには及ばない。

 だが準ずるものではあった。

 そもそもDIOはスタンド使い以前に吸血鬼であり、人類の敵として、殺戮者として、殺しのプロフェッショナルとして、裏の世界で君臨していたのだ。

 ならそこにDIOという最凶のスタンド使いの記憶が、経験が、技能がカケラだけでも流れたとしたら? 

 

『ほう。私の記憶から殴り方を学習したか』

 

「……頭の中でぶつぶつと……! うっさい気が散る!」

 

「KILL!!」

 

 気が散り、油断したのかセカイはエンパイアの拳を体で受ける。

 

「ングウッ!! うあ゛あ゛ああああ!!」

 

 それがスイッチだったのだろうか、セカイの獣性が顔を見せた。

 

「kill!!!」

 

 長い腕を活かしたなぎ払い。

 当たり所が悪ければ死に至るソレをセカイは仰け反って回避する。

 

 世界は人間、DIOは吸血鬼。

 学習される技能はあっても活用できる技能は少ない。

 繰り返すがDIOは最凶だ。

 付け込める隙があるならばそこに剣を突き刺す狡猾さがある。

 

「……コイツの装甲はあまり硬くない…腕の攻撃が主体で避けるのは難しくない…優勝するためにはダメージを最小限に…」

 

(足りない頭なりに考えているようだなァ……)

 

「KIIIIILL!!!」

 

 エンパイアが両の拳を結び叩きつけるように振るう。

 最小限のダメージで目の前の機械をスクラップにするために、セカイは頭を、悪の救世主の狡猾さを表出させる。

 

「アハッ!」

 

 空ぶった両の拳を冷めた目で見遣り、セカイは前傾姿勢になり明らかな死に体を晒すエンパイアのモノアイに膝蹴りをお見舞した。

 

 ガラスにヒビを入れ、明滅するそれを見送るほどセカイは甘くない。

 

「もう一発!!」

 

 衝撃で仰け反ったモノアイにさらに肘打ちを叩き込む。

 

「ゲーム性を重視する巨悪サマが完全無欠の敵を用意するわけが無い!あると思ったよ!!弱点!!」

 

 モノアイに対する攻撃でエンパイアは目に見えるほどに動きを鈍らせている。

 

(気づいたか)

 

 DIOが相手取るのはただの小娘。

 かつて相手してきた英雄共とは比べるべくもない小市民だ。

 そんな相手に本気を出すのはある意味での侮辱、屈辱でありそんなものをDIOは認めない。

 

 だから突くべき弱点を用意する。

 強すぎず、弱すぎない。

 そもそもこの体育祭は無個性の子どもが勝ち抜けるほど甘くない。

 ならばセカイに合わせた難易度を用意しなければならない。

 

 予想外はいくらかあった。

 経験と感覚の流入など予想のしようがないにしろ確かにセカイはDIOを驚かせた。

 

 人生を1度終え、いくらか達観したDIOはこの少女に可能性を感じ始めていた。

 

「フンッ!!」

 

 エンパイアの側頭部に肘打ちを打ち込むが、モノアイに攻撃した時よりも反応が鈍い。

 反撃を避けつつ、勝利への道を考える。

 いや、考えずともセカイには分かる。

 

「弱点に攻撃を叩き込み続ければいつか沈むっしょ…!!」

 

『ククク…至る結論がソレとは…頭蓋に筋肉が詰まっているとしか思えんな』

 

「うっさい!!」

 

 そこからはある意味作業だった。

 当然だ。攻略本を見たあとのゲームほど作業と見紛うものは無い。

 避けて弱点を叩き、避けて弱点を叩き、避けて弱点を叩く。

 DIOの経験と感覚を欠片を得たセカイにとってエンパイアというロボットは既に越えられる壁と化していた。

 

 ガシャンと音を立て、エンパイアが膝を着いた。

 

 

 砕けたモノアイから煙を吹き出し、痙攣しているそれはもはやスクラップと呼んでいいものである、とセカイは判断し背を向ける。

 

『愚か者め』

 

「KIILL!!」

 

 瞬間、立ち上がったエンパイアの拳が世界の頭を擦る。

 

 ぐらりと、地面が揺れる錯覚を覚えた世界の意識は次の瞬間には暗い世界に沈んでいく。

 

 圧倒していたにもかかわらず、呆気ないとも言える幕切れ。

 

(しまっ…た………かあ…さ)

 

 だが、その幕切れを良しとしない者がいた。

 

 次の瞬間、閉じかけていた目はカッと見開かれ、眼差しも怜悧なものに変わる。

 

 変貌したセカイ。いやDIOは引鉄を引く。

 

世界(ザ・ワールド)

 

 一瞬で胸部をぶち抜かれたエンパイアは膝から崩れ落ちる。

 

「私が用意したギミックを私の拳で壊してしまうとはな……」

 

 

 気絶しかけていた少女は中身を文字通り入れ替え、そこに立っていた。

 

 

「この私が、可能性を感じる女……」

 

 

 DIOが世界の体に宿ってからのセカイの成長速度はとても早い。

 

(このDIOの経験と感覚、ソレを知恵とし活用する肉体。そして負けられないと足掻くその精神…か)

 

 DIOの危険性を理解した後の行動はいわゆるヒーローのそれであり、幾らかの浅慮はあるもののその根本にある精神は、悪の救世主のDIOに期待させるほどのものだった。

 

 

 DIOは英雄を知っている。

 

 巨悪を知っている。

 

 だからこそ興味が湧いた。

 

 この英雄の気色を持つ少女を自分の、巨悪の色で染め上げればどうなるのか。

 

 その結末に興味が湧いたのだ。

 

 

「面白い女だ……」

 

 

 この体育祭でセカイが優勝できなくても体を奪いはしない。

 

 そもそもが一度死んだ精神。

 

 奪うのは結末を知ってから、いくらか遊んだ後でもいいだろう。

 

 ゲームはゲーム。途中離脱は許さない。

 

 ……だが障害物競走ぐらいは眠っていてもいいだろう。

 

 世界の意識を強制的に休眠させ、スタンドを具現させる。

 

 

 

「さて、英雄の卵たちよ。このDIOの時止めから逃げられるかな?」

 

 

 

 ◇

 

 

 ◇

 

 

 ◇

 

 

 最終関門、その実態は見渡す一面に地雷が設置してある『怒りのアフガン』と呼ばれる乗り越えるだけで一苦労な障害であった。

 

 緑谷出久は最終関門を前に必死に頭を回していた。

 

 先頭の、ある意味因縁のある二人は遠い。

 

 だが、そんなものは関係ない。

 

「借りるぞかっちゃん!! 大爆速ターボ!」

 

『A組緑谷、爆風で猛追────っつーか抜いたぁ?!』

 

 音と爆風だけは立派な地雷を大量に起爆して起こした大爆風は、緑谷をとてつもない勢いで吹き飛ばした。

 その勢いは怒りのアフガン地帯を余裕で飛び越すもので一気に先頭に躍り出た。

 

「くそっ! 後ろの奴ら気にしてる場合じゃねえな!!!」

 

「デクァ! 俺の前に出るんじゃねえ!!!!」

 

(せっかく前に出たんだ!! このチャンスを逃すな! つかんではなすんじゃない!!)

 

『おおっと緑────は? おい待て。なんで先頭が……』

 

 

 その瞬間、その場、スクリーンの先にいる人々の脳内に空白が生じた。

 

 つい先ほどまで、A組3人の攻防に、手に汗握る競争を、『先頭』で繰り広げていたはずだ。

 

 

『なんで先頭が、かわってんだぁ?!』

 

 

 ではなぜ、いや、3人を差し置いて先頭を走りながら、3人を見て、背筋が凍るような薄ら笑いを浮かべている、あの女生徒は一体全体、『なんなんだ?』

 

 観客ですらその脳内の空白を埋めることができない。

 

 なら、先頭を走っていた3人は? 

 

「あいつは……今さっきの……!」

 

「どっから出てきやがったあの金髪!!」

 

「くっ!」

 

 一瞬呆けた3人を面白がったのか、金髪金眼の女生徒は口を開いた。

 

 

 

「足りない。足りないぞ諸君。この世界を打倒するにはまるで足りない。本選では期待しているよ。私を楽しませておくれ」

 

 

 ブチッ

 

 その一言で、緑谷は2人の脳内から何かがちぎれる音を錯覚した。

 

「上等だッ!!」

 

「テメェ待てやこら金髪ッッ!!!!」

 

 轟、爆豪、緑谷は世界を追う。

 だが、3人と世界の距離は遠く、世界は、DIOはそのまま一位で予選を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 




???「ふっ、おもしれー女」
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