THE★SUN -The night is long that never finds the day-   作:天魔宿儺

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A young brother, his sister, and a mercenary

体高2m超の二足歩行型機械、ティターンズ。

そいつらが平和構築軍とドンパチやっている戦場で、男は身軽に塀を飛び越え、戦場に侵入していた。

男は今時珍しい五体満足な上、身体能力も高いようで、ドローンに察知されないように隠れながら崩壊した研究所と思われる場所に入り込む。

平和構築軍は、他の集落とは一線を画す軍事力と資材を持っており、日々人類のために尽力してくれている“お偉い様方”だ。

 

だが、好き好んで機械とやり合うのは彼らくらいのもので、他の住人は進んで戦おうなどとは考えない。

しかし、彼らのお陰で得をすることだってある。

それが今男が行っている、所謂火事場泥棒だ。

 

平和構築軍がティターンズやドローンを焚き付けてくれている間に、こちらは普段入れない機械共に占拠された建物内に侵入、価値のある電池などの電力系統のものを最優先として、衣服や医薬品なども持てる限り盗み出す。

とはいえ一人が持ち出せる数など知れている。

しかし集団で行くとなると機械共に見つかる可能性が高くなる。

こんな事は、命知らずの馬鹿か、よほど腕に自信のある者しかしない手段だった。

そして、男は後者の人間だった。

だが、幸か不幸か、彼は遭遇することになってしまった。

 

「……あ?」

 

「え」

「うん?」

 

前者の人間。

つまるところ、食うに困ってどこにでも入り込む命知らずの馬鹿。

二人の兄妹に。

 


 

「……」

 

「……」

 

両者の間に緊迫した空気が漂う。

互いに火事場泥棒をしている身の上だ、他人の事をとやかくいう資格は、お互いにない。

それに、こういった事をしていると厄介な事に遭遇することも往々にしてある。

厄介な事とはつまり、人間同士の諍い。

物資が極限まで減った今の世の中では、機械共は恐怖ではなく死の象徴。

出会う事=死、なのだ。

 

ならば、死に至らぬ日常の恐怖は、やはり同じ人間同士で起こる争いごとになる。

重火器は機械共に対しても有効打となりえるが、通常火薬を用いた弾丸による小銃や手榴弾では、奴らに手傷を負わせることは出来ようと、倒すまでには至らない。

人間たちがそれらで武装している理由は、同じ人間へ使う為なのだ。

 

そして今、男と幼い兄妹は、いつでも臨戦態勢に入れるように、それらに手を掛けていた。

―――が、先に折れたのは男の方だった。

 

「……あれを見ろ」

 

ホルスターへと伸びていた手を下ろし、近くの壁を指さす。

兄妹の兄の方が、警戒しながらもそこに視線を向けると、珍しく生きている水道管から真水が零れているのが見つかった。

機械共が散布したナノマシン、アルケーが微細に空気中に漂っているため、人間たちは、アルケー濃度の低い居住区各以外では、マスクを外して呼吸することが出来ない。

アルケーは勿論、水の中にもあり、機械であるため煮沸処理で滅菌することが出来ないため、今の世界では健康被害を起こさない真水は貴重品だ。

 

それを採取できる場所を教える事で、こちらに敵意が無い事を暗に示すのが目的だが……。

幼い兄妹は、兄の方が依然としてこちらを警戒しながらも、真水の確保に向かった。

いい判断だ、どうやらただの馬鹿という訳でもないらしい。

 

「お兄ちゃん、喉乾いた……」

「……ここはアルケー濃度が基準値よりも大分高い、街に戻ったら水質検査をやる。それまで待て」

「……分かった」

 

兄妹が水を採取している間、男は周囲に物資が無いか調べていたが、ふと奇妙な事に気付く。

通路の中程に、青白い光を放つ半開きの扉があった。

電力が貴重な今の世界、こんな強い光を放つものを見たことが無かった。

そして、この扉の先には、その光を放つ物体があるはず。

その価値は如何ほどになるのだろうか。

物欲に目がくらんだわけではなかったが、何かに惹かれるようにそこに手を伸ばす。

―――と、扉の奥から青白い手が男の手を掴んだ。

 

「ッ!?」

 

とっさにハンドガンを引き抜き、その手の主に対して向けると―――そこに居たのは蒼い瞳に黒髪の少女だった。

こんな所にまだ馬鹿が居たのかと、男は顔をしかめるが、もっと常識外れの事に、更に眉間の皺が深くなる。

彼女は、マスクをしていなかった。

アルケー濃度の高いこの場所で、マスクもせずに立っているのだ。

 

「お前は……」

「誰か、そこにいるの?」

 

歳は14~5歳程度だろうか、健康的とは言えない細い四肢に、平たい胸、引き締まった体をしているが、これはスレンダーよりはガリガリに近い体型だ。

感情を感じさせない呆然とした表情で、彼女は「何かが引っかかっていてここから出られない」と言う。

確かに彼女の言う通り扉の前には鉄筋コンクリートの残骸などが積み重なっており、ちょっとやそっとでは開くことはできないだろう。

 

「お前、閉じ込められてるのか、いつからだ?」

「分らない、さっき起きたばかりだから」

 

寝ていたというのか?こんな場所で?

頭の中に多くの疑問が浮かぶが、それを口にする前に、背後の轟音で気付けをされる事になった。

平和構築軍が爆破兵器を使ったのか、もしくは単にドローンに見つかってしまっただけなのか、天井の穴から機械軍のティターンズが一体降りてきた。

真水を採取していた兄妹もまだ近くにいる。

 

「ティターンズ!?さっきの奴らか!」

 

兄の方の行動は早かった、非戦闘員である妹を下がらせ、体の小ささを利用して懐に入り、ピンポイントでティターンズの手元へと発砲。

手に持っていた主力兵装を落とさせ、そのままアサルトライフルを乱射しつつ距離を取る。

……なるほど、動きからしてかなり場慣れしているな、命知らずと断じたが、訂正しておこう。

だが、それでも抵抗もむなしく、ティターンズは通常の銃火器では傷一つ負わないため、追い詰められて壁に叩きつけられる。

 

「クソッ!」

 

常に胸糞悪い事とは隣り合わせのこんな世界だが、目の前で子供が殺されそうって時に何もしないほど、俺は腐っちゃいねぇ。

ホルスターからハンドガンを引き抜き、ティターンズの頭部に発砲する。

その衝撃に奴は子供を掴んでいた手を離し、こっちに向かって歩を進めてくる。

どうする、どうすれば……ここは屋内で、かつ閉所だから“アレ”も呼べない、ならどうすれば……。

 

「―――このドアを開けて」

 

背後から声がした。

振り返らずとも分かる、あの少女だ。

 

「断る!お前が増えたって守る対象が増えるってだけだ!」

「違う、多分、戦うのは私……だから、お願い」

 

ティターンズはもはや駆け出し、こちらに向かってくる。

悩んでいる暇なんてない。

 

「だァ――――クソッ!扉から離れてろよ!」

 

腰に付けていた手榴弾の一つからピンを抜き、瓦礫の前に転がし自分はティターンズを軸ずらしで避けながら銃を撃って起爆する。

小規模な爆発によって扉付近の瓦礫は吹き飛び、爆風でティターンズはのけぞり、壁に叩きつけられた。

―――ドアと言うにはあまりにも武骨な、両開きのシャッターのような扉を細い腕がこじ開ける。

アシンメトリーなツインテールに、ビキニと短パンという軽装の少女は、どこか決意を秘めたような眼差しでティターンズを見据えていた。

 

少女は軽業師の方な身のこなしでティターンズの攻撃を避け、手持ちの銃が使えないと判断するや否や蹴りや殴りなどの徒手空拳で奴の手足を捥ぎ、最後は不意打ちで飛んできた尻尾による刺突を、その本体に叩きつけて機能停止に追いやった。

あまりにも鮮やかな決着、もはや分かり切った事だが、彼女は恐らく、人間ではない。

 

「……ねぇ」

 

静かに立ち上がった少女は、俺や兄妹を見ると、先ほどまでとは打って変わってクールで無機質な表情のまま、可愛らしく小首をかしげた。

 

「私は……誰?」

 


 

不思議な少女との邂逅の後、彼女が記憶を失っている事が判明し、一行は取り敢えず腰を落ち着けて話をすることにした。

 

「あれは?」

 

少女が己の倒したティターンズを指し示す。

ティターンズの事すらわからないらしい、一体今までどうやって生きてきたのか、引きこもっていたとしたら、どうしてあそこまで強いのか。

 

「アレはアルテミスの人間狩り用ドローンのティターンズだ、人間を捕獲し、アイアンオーシャン(鉄海)に投げ込み機械の燃料に変えちまう。……それも覚えてないのか?」

「アルテミス……思い出せるような……ちょっと、混乱してる」

 

頭を抑えて蹲る彼女に、兄妹が駆け寄り、気遣いながら問いかける。

 

「というか、アンタ、マスク付けなくて大丈夫なのか?」

「マスク?」

「……やっぱり人間じゃないのか。……銃、見せて」

「?」

「弾切れだろ?弾の規格が合えば補充するよ」

 

兄が受け取った銃を見聞する。

外見は多角構造の一般的なハンドガンのようだが、セーフティはあれど弾倉を取り出す事ができない構造になっており、うっすらと青白い光が走っている。

 

「このタイプの銃は初めて見るな……どれ」

 

少年は残骸となったティターンズに対して発砲する。

……発砲、出来た。

ハンドガンと思われたその銃は、その軽量さにあるまじき反動で少年を仰け反らせら鉛玉とは明らかに違う光弾を打ち込み、既に残骸だったティターンズを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「た、弾切れじゃなかったのかこの銃!?」

「使い方を忘れてしまって……でも、ありがとう。今ので思い出せた」

 

呆然自失、それが顔に書いてあるように無表情な少女は、体が覚えているとでもいうかのように、先ほどまで使えなかったハンドガンをホルスターへとしまい込む。

そうして話していると、妹の方が少女に語り掛けた。

 

「自分の事も、分からないの?」

 

それは馬鹿にするような言い方では決してなく、純粋に心配しているようだった。

 

「わからないから困ってる……」

「じゃあ、せめて私たちには名乗らせて!私はミアで、こっちはお兄ちゃんの」

「ノリトだ、よろしくな」

「お兄ちゃん……? 貴方は?」

 

兄と言う立場にすら疑問を持つ程度には混乱しているようだ。

一般常識なども覚えているかどうかも疑わしい。

少女はミアとノリトの名乗りを聞くと、今度は俺に視線を向けてきた。

俺は自分の名を言いそうになったが、その寸前、母の言葉を思い出した。

 

『今日は特別な日、貴方の誕生日よ、■■。このカードから好きなのを選んで、私に見せて?』

『……それを取ったのね、正位置の意味は成功、誕生、勝利……祝福』

『いいわ、今日から他人にはこう名乗るのよ―――』

 

「俺か?俺の名はサンだ、呼び捨てでいいぞ」

「サン……」

「そんなことよりお前だ、あんなところに閉じこもって……ここは家かなにかなのか?」

「……違う、私の家は、ライトハウスNo.8……、そこに、行かなきゃいけない気がする」

 

突如としてあたりに轟音が響く。

先ほどのティターンズが、壊されながらも信号を発したのか、周囲のドローンが慌ただしく人間を探し始めているのがわかる。

ここは袋小路、留まっていたら全滅は必至だろう。

 

「ここで長話は危険だな、外に案内する。お前は……戦えるな?」

「うん、さっきので銃の使い方も分かった」

「ならいい、ガキ共、脱出するまでの間共同戦線といこうじゃないか、さっさと行くぞ!」


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