TS転生美貌SSRを引いたが人生詰んで勇者に助けられ、助け返すだけの話   作:†エーミール†

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第一話

 

 わはは、人生詰んでてウケる。

 

 格子越しに差し込む青白い月明りをぼんやり見つめながら笑みを零した。

 俺はいわゆる転生者であり、生き返るとかいう摩訶不思議な体験に際し愛息子がすっぽり消え失せTSとかいう属性てんこ盛り……そうかな、いや違うかも。最近じゃ数あるテンプレートの一つになってる気がする、当事者にしちゃあテンプレなんてクソくらえも良い所だが。

 とにかくTS転生したという訳だ。

 

 

 私はびっくりするくらいの美少女だった。

 

 

 幼いころから美貌は伺え、成長に伴って日に日に完成されていく。その姿は自慢じゃないが村を飛び越え王都にまで響きわたり、無数のロリコンども垂涎(すいぜん)、一目見ようと動物園のパンダよろしく長打の列になる程だった。大体今から3年前、年にして12の頃である。

 ロリコンの群れにニコニコ笑みをやりつつ叩きこまれたマナーに沿って過剰にならない程度に男を煽る日々。正直な所同姓に(かしず)くなんて嫌だったが生殺与奪の権を握られた子供、しかも美貌以外にチートらしいチートもない見た目通りの女の子である。反抗することもできず。

 両親は鷹が産まれたと喜び、閲覧料を取り左うちわにウハウハニッコニコの生活。私も美食と高度な学習をうめえうめえと()んで生きていた訳だ。まるで輝夜姫のような話だろう、私もそう思う。心底残念なことに私に月からの迎えはなかったのだが。

 

 笑いごとにならなくなったのはそれからすぐ後の事。

 

 私の婚約を巡って紛争が起きた。親は財宝に目が眩んでデブおやじに私を性的に売ろうとしている。ファッキン行き過ぎた美貌。

 こんなことになる前に誰かに助けを乞うていればよかったものの、私も自尊心をくすぐられてそれなりに良い気になっていた訳だ。バカ過ぎてクソワロける。はあ。

 

 

 人が死んだ。もっと死ぬ。性的に売り物にされる。こりゃあ不味いと私は観客のまえでナイフを顔に突き立てた。それも何度も。いやあかなり痛かった。

 

 

 現金なもので傷物(物理)になった私の価値はとんと無くなり紛争はすぐに止まった。傷物を抱くもの好きも居らず、私の貞操は守られた。

 そして両親から見限られ、離れにある蔵に幽閉されたという訳だ。

 蔵の入り口にはがっつり鍵が掛けられている。食事は日に一回のみ差し入られ、それも量が減ってきている。今では一口サイズの米塊とちっぽけな野菜くずのみ。

 

 それでも私はギリギリ生きている。何故と問うたか、チートは先ほど無いといったな、あれは嘘だ。

 

 血まみれの顔を両親に見せ、激高して幽閉された際に不細工なタヌキのような仮面を投げられた。傷だらけのその面を見せるなという意味だろう、処置もまったくされずに仮面をかぶることを強いられた私の顔には――なんと傷一つなかった。

 

 栄養が足りなくとも餓死することもなく、切り刻んだ顔の傷も勝手に癒えた。驚いたことに私のチートは自動回復、生存特化だったのだ。やったぜチート、ありがとうチート。当然ヤケクソだ。

 

 一つの仮面を3年間も被っていれば蒸して不衛生にもなるが、仮面の下に吹き出物一つできる事もなく、どんどん私は美人に成長していく。

 幽閉からの餓死待ちコンボをキメられている現状である、こんなことならもっと別のチートが欲しかった。

 秘められし力よ発現せよと筋トレに励んだが真っ白い私の腕に筋肉は全く付くことはなく、見た目通り箸以上に重たいものを持ったことはないって奴だ。比喩表現である。

 言い忘れたがこの世界には魔法が存在する、ただし私は学習することを許されなかった。そりゃそうだ、金を運んでくるお人形に戦闘力なんぞ百害あって一利なし。誰だってそうする、私だってそーする。

 

 ……うーん、まあ。生まれてから13年程度は天上人のような生活を過ごしていた訳だ。私のせいで人生狂った人も沢山居る訳だし多少はまあ。なんて自分をごまかした所でクソみたいな現状に納得することはできない。

 

 今夜もせっせと無駄だと分かり切った筋トレをし、体内に潜む魔力を感じ取ろうと瞑想をしていた。

 腕立て一回目にしてぽってり体は倒れ込み、そのまま目を瞑るが感じ取れるものはグーグー泣く空腹だけだった。

 

 ファッキン人生、ファッキン両親、ファッキン現実。

 

 ちなみに我がクソ両親は私で稼いだ金を元手に立派な旅館を建てお金を転がしているようで。上客が泊まりに来るほど盛況らしく、珍しく私の前でもご機嫌な母親に感謝されたよ。それなら食事の量を増やしてくれ。

 地に伏したままバタバタと両手を動かす。……埃が舞い上がり月光にキラキラと反射した。

 下手に体を動かしたせいで空腹が私を責め立てる、あーあー腹減った。ちきしょう自分の顔でも食べてやろうか、気分はアンパンマンつってな。笑えねー。

 

 ごろりとフテ寝し、今日も今日とて変わらない時間を過ごす。

 と――部屋にたった一つしかない窓が(かげ)った。

 

「おん?」

 

 小さく呟き窓を仰ぎ見れば、そこには一人の男が立っていた。逆光になっていて姿形はよくわからない、なんとなくその男のほうに這って寄れば月明りに照らされた私の姿を認識したのだろう。

 

「うおわっ!!」

 

 悲鳴を上げて後ずさった。

 そりゃそうだ、蔵の中を覗いたら見つけた、四つん這いになって窓に近寄る仮面をかぶった奇妙な存在。どっからどう考えてもホラー映画の一幕だろう。

 

「わっははー、そりゃビビりますよね」

 

 この倉はかなりボロい。隙間風がビュウビュウ吹き込む程だ、声だって当然外に響く。私の笑い声を聞いて多少は警戒心を解いたのか、珍しいことに男は窓際に寄ると声をかけてきた。

 

「……君は?」

 

 声をかけられたので窓を小さく開けて口を開いた。

 

「えっと、見ての通り複雑な事情持ちです。なので……なんて答えれば良いのでしょう?」

「いや俺に聞かれても」

「そりゃあそうですね。うーん、名無しのA子ちゃんとでも呼んで下さいな」

「エーコさん、ね。……えげつねぇな」

 

 目の前にいる男が小さく呟いた。見るからに闇がプンプン香る状況である、感じ入るものがあったのだろう。そんな事より。

 

「ゴレイヌかよ」

 

 ゴレイヌとはハンターハンターに登場する知的ゴリラなナイスガイであり、彼がえげつない展開に遭遇した時に漏れた言葉である。

 思わず突っ込みが漏れた、不可抗力だ。

 

「お?」

 

 とは男。

 

「ん?」

 

 とは私。

 

「……おお?」

「……ああ!」

「それってハネクリボー?」

 

 とまあ、お互い転生者ということが判明し。そこからはもうノンストップ地球トークが始まった。

 

「ハンタってどこまで進んだの、私が読んでいたのってアリ編一番の盛り上がりの頃なんだけどさ」

「そこからがっつり進んだぞ。ただ完結はしていない。えーっとだな」

「ふんふん休載多かったんだね……先生大変そうだ」

「腰やらかしたそうで心底同情した。わかるか、腰は、本っ当に……やばい」

「めっちゃ強調してて草」

「枯れろ」

「勿論私は対抗するで、大草原で」

「はいはいテラワロステラワロス」

「平成のネット懐かしすぎワロリンヌ」

「わかるゥ……」

「てかさ、せめて好きな漫画完結してから死にたかったよね」

「笑えないからやめろ」

 

 とまあ意気投合した訳だ。気が付けば転生あるあるトークやTS闇トークなんかで盛り上がり(前世男という事をばらした)、夜も更ける事体感丑三つ時になっていた。

 私は久々に長時間喋ったせいで時折咳き込みながら、気が付けば遠慮やら何やら消え失せて友達感覚で会話をしていた。

 

 格子に向けて手のひらをユラユラ揺らして問う。

 

「んで、なんでこんな時間にこんな場所にいんの?」

「あー……。笑うなよ、ちょっとした冒険心だ」

 

 笑うなはフリだと前世で学習済みである。遠慮なく大口開けてワハハと笑ってやった。

 彼は人差し指で頬を掻くと、言葉を重ねる。

 

「いやちゃんとした理由もあるんだって! 産まれてからずっと訓練してたから一日に少しでも剣を振らないと落ち着かなくてさ、でも宿近くで剣を振り回す事を嫌に感じる人がいるかもしれないだろ?

 人気のない方向に進んで、んで鍛錬も終わった後に肝試し感覚で辺りをフラフラと、さ……」

「長文で弁明しててウケるな」

「ぐふっ」

「ザオリクー」

 

 わざとらしく崩れ落ちた男に向っておざなりに声を投げる。はよ生き返れ。

 

「毎日鍛錬できて偉い! って褒められたいだけの人生だった」

「偉いですわね、偉い偉い」

「ちきしょう棒読みで言われたって嬉しくもなんともねーよ!」

「ちきしょう私だって女の子に励まされて良い思いして暮らしたいです!」

「……よしわかった、お互い虚しくなるだけだ。この話はやめよう」

 

 これ以上は不毛な奴だ、だらーっと両手を挙げて同意する。

 と、男は大口開けて欠伸を一つ漏らした。馬鹿みたいな会話で熱のこもっていたその場の空気が、ひんやりと夜気に包まれる。

 

「流石に眠くなってきたな。……それで、お前どういう状況なんだよ」

 

 仮面の下で歯茎をむき出しにして嫌な顔を浮かべる(虫酸ダッシュ)。言いたくないんだけど? という意思を込めて首を(かし)げた。伝われ私の表情、いやお面で遮られていて伝わる訳がないんだけどさ。

 

「言えよ。俺はお前の質問に答えたぞ」

「……ちょーっとやらかして餓死待ち監禁中っすね」

「なーるほどなぁ」

 

 男は何度か大げさに頷くと、両手を組んでは何度か言葉を飲み込むように空気の塊を吐き出した。

 そして、口を開いた。

 

「うっし、一緒に旅しようぜ」

「……は?」

「だから、一緒に旅しようぜ」

 

 その言葉を聞いた私は見ての通り厄介な事情持ちなのだと、それに軽く言ってるけど食費やらなにやらかかるし、自衛能力もないし人を増やすという事はとても大変なこと。等々デメリットを懇々(こんこん)と説いたのだが。

 

「うるせえ!!! いこう!!!」

「……生˝き˝た˝い˝っ!!! と言えばいいのかな」

 

 心底求めていた言葉をかけられてクソデカ感情に駆られる私の姿を気にも止めず、男は足音軽くその場から消える。ややあってペキンと蔵の鍵が壊れる軽い音が響いた。

 

 扉が開かれる。

 

 その先には今まで逆光でうまく見れなかった男の姿があった。くたびれたような印象を受ける痩身、安心できる顔立ち、焦げ茶色でボサボサの髪。なんとなく今まで喋ってきた声にピッタリだなという印象を受けた。

 良く分からない緊張に駆られて体が大きく震える。

 

 こうして、かるーく私は救われたのだった。




書き溜めゼロ。
来週中には次の話を出したい(願望)。
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