TS転生美貌SSRを引いたが人生詰んで勇者に助けられ、助け返すだけの話   作:†エーミール†

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第二話

 まるで気分は荷物か死体か、男によって連れ出された私は俵担(たわらかつ)ぎで運ばれていた。

 

 何故と問われれば私が貧弱過ぎたのが答えである。外を数歩動いたら体が悲鳴を上げ地面に倒れ込み、無言で男を見上げれば見事に頬を引くつかせて肩に担がれた。テンプレに乗せたっていいくらい見事な苦笑いだった。ごめん。

 

 重力に従い背中にお面を押し付けてフゴフゴ喋る。

 

「いやー、迷惑をかけてすまないね。ホント申し訳ないと思ってる」

「連れ出したのは俺だし気にすんな。ってか舌噛みそうだから喋らないでくれ、怖い」

「……ウス」

「すまないがサンデー派だったんだ。テニスの王子様はわからない」

 

 一瞬戸惑う。

 ウスって返事するキャラの話か、普通に返事しただけでネタなんて振ってないよ! しかもわかってるじゃないか。

 私の悪戯心が顔を出す。

 

「……押忍(オス)」

「ズシかよ。天空闘技場といえば200階のスタッフがかわいくて好きだったな」

 

 こいつ、できる。

 

「……ヤス」

「平成のネットミーム(犯人はヤス)なっつかし。俺もある意味犯人だな、誘拐の」

 

「……カス?」

「ブン投げるぞ。ここからある程度距離取るまで喋るなって」

 

 ……ウス。

 今度こそむっつり黙り込み、顔を少し上げれば視界の隅では私が軟禁されていた蔵がみるみる小さくなっていく。体幹がしっかりしているのか独特の歩法か、担がれているというのに不思議とあまり揺れなかった。

 

 身に受ける月明かりが心地良い。外の風が心地良い。

 ここは蔵ではないのだと実感する度に、寒くもないのに体が震えてしゃくりあげる。

 

「あっ。荷物宿に置きっぱだ。悪い、ちょっと取ってくるからここで待っててくれ。剣見といて!」

 

 そう言うが早いが、彼は大剣と私をその場に置くと猛スピードで走りだしていった。

 

 

 いや……ええ……。あのさぁ。助かるけどさ。締まんねー。

 

 

 

  ●

 

 

 

 パチパチと薪の爆ぜる小気味よい音が辺りに響く。

 焚火によって作られた濃い影を後目(しりめ)に、男は火にかけていたケトルからマグカップにお湯を注ぐとなんらかの粉を振りかけ、軽くかき混ぜると私に差し出してきた。

 

「ほら。ほうじ茶だ」

「ほうじ茶マジかっ! 嬉しいな。この世界にもあったの?」

「いや、俺が勝手にそう言っているだけ。正式な名前はダーシリン茶だってさ」

「違和感が凄い」

 

 私の言葉を聞いて彼は小さく笑うと、親指で自身を指さす。

 

「そろそろ自己紹介と行こうぜ。俺の名前はギンビ。君は?」

 

 うん、それはそう。落ち着いたのなら自己紹介フェイズは当然だ。

 私だって男だ。いや女だけど。一人で待ってる間に黒歴史に等しい過去をさらけ出すメンタルを取り繕っておいた。とはいえ……言いたくねえー。

 助けてもらったなら誠実な対応を返したい。

 覚悟を決めてぐっと空気の塊を飲み込む。

 

「私の名前はリゼッタ。ここら一帯を支配しようとした魔物だといわれてる、らしい」

「……ああ。内乱を起こした美貌の魔物がいたって聞いた。君が、か」

「そーだよ。対して長い話じゃないから聞いてね」

 

 カサカサに乾いた唇を小さく舐めて仮面越しにギンビを見つめる。

 そうして。本当に対して語ることのない私の半生は、注いでもらったお茶が適温になる頃には喋り終わっていた。

 ……軽蔑とかされてたらキツいな。俯いて、お茶の表面をぼんやり見つめる。

 

「なるほどな」

 

 顔を動かさずに視線だけギンビの方を見やれば、彼も揺れる焚き火をじっと眺めていた。

 

「リゼッタ悪くないだろ、どう考えても。

 あと、君の判断かっこいいと思うよ。俺なら人が死ぬのを止めようとしてその選択肢は取れない」

 

 

 とくんと、大きく心臓が跳ねた。

 ずっと諦めていた所に、その言葉は刺さった。

 

 

 ――……いきなり呼び捨てはコミュ力高いっすねへへへ。

 いや違うこの思考は間違ってる。落ち着け。

 多分今の私は驚くほどに動揺している。ぱたぱた音をたてて太ももを叩いて、かゆくもないのに仮面をさする。ただし冷静を取り戻すにはなんの意味もなかった。

 と。

 

 心臓につられるように、ぐぎゅるるるっと私の腹が大きな音を立てた。

 

 もともと空腹だったところに体全身が緊張して、空気の塊を飲み込んだこともあっての生理的反応だろう。

 は、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。呻き声が漏れて仮面越しに顔を両手で覆った。

 

「ぐぬぬ」

「ははっ」

「……危ない所だったね。今の私は機嫌が良い。悪かったら手が出ていた」

「笑って悪かった。なあ、夜食というには遅いけど食べ物なんか準備しようか?」

「……ありがとうございますぐぬぬ」

「新手の語尾キャラにしてはだいぶトンチキだな。っし」

 

 ギンビは立ち上がると焚き火から離れ、木に立てかけていた鞄の中から質量を無視した大きさの食材を取り出した。うーんファンタジー。

 

「あー、ちょっとまって、欲しいです」

 

 喉乾いたし。お茶冷えるし。飯頂くし。

 

 ――仮面取らなきゃ。

 

 そう覚悟しただけで体の末端がサーッと冷えるのを感じ、勢いで仮面にかけた指に変な力が入って動かなくなった。

 考えていたつもりの弱音が噴出する。

 目の前の男が顔を見て態度を変えたらどうしよう、性的に見られたら、また同じ事が起こったら、逃げ場は無い。

 怖い、怖い、怖い。グルグルと思考が巡って迷子になりそうだった。

 

「……無理はしなくて良いよ。仮に、だけどさ。顔を見られたくないのなら、俺が気をつければなんとかなるだろ」

 

 なんだこいつ良い奴過ぎかよ。ふっと笑いにならない息が漏れて体から力が抜けた。

 

「いーや脱ぐね。見とけよ超美人だから」

 

 ありがとう。胸中で混じりっけなしの感謝を浮かべつつ、憎まれ口で答える。

 悪ぶった言葉に勢いを貰って、えいくそこのやろと弱気の自分をねじ伏せて。

 ――あれだけ硬かった手がするっと動き、乾いた音を立てて地面に仮面が転がった。

 

 

 

  ●

 

 

 

 最初は和風ホラー。

 次は同志。

 最終的にメンタルボロボロなのに気が付かないフリをしてる痛々しい奴。

 

 俺からリゼッタへの印象はそれだった。

 

 選択肢がない状況で男への見せ物にされて、そいつらが勝手にした事に責任を感じる生真面目さを持ってて、毒親持ちの環境とか地獄だろ。本人が自罰的だから尚更だ。

 開き直ってメスガキムーブできるくらいのメンタルがあれば救われただろうに。

 

 そんな風に考えながら、どこか他人事のように語るリゼッタの話を聞く。

 

 この世界にはポーションが超高級品ながらそこそこ流通している。

 時間が経てば回復しても傷跡が残る可能性が高い。

 顔を刺した直後に手当てされなかった事に引っかかりを感じるも、状況を聞けば疑問を挟む余地は無かった。

 

 貴族のメンツ案件だ。

 

 沢山の貴族に囲まれた中で刃物を抜いた、この時点で処されていてもおかしくない。加えてここに居る貴族の誰かと結婚するくらいなら命と美貌を捨てた方がマシと大声で叫んだようなもんだ。

 求婚の断り方としちゃ最悪も最悪。

 紛争を止める為の行動で、彼女に振る意思は無かったとしても周りはそうは思わない。

 可愛さ余ってなんとやら。リゼッタが誰のものにもならず、醜い顔のまま飢えと痛みを抱えて死ぬ事で溜飲を下げようとしたんだろうな。魔物扱いも頷ける。

 

 重えって……。

 

 俺には同行人が増えても軽いと言える余裕がある。

 転生者仲間だし、話してみればウマが合ったし。安易な気持ちで助けてみれば、ヘビーすぎる背景にタコ殴りされて打ちのめされそうだ。

 

 そんな不躾な考えも、彼女の素顔を見た瞬間。

 意識全てが真っ白になるほどの衝撃で――思考が弾けた。

 

 

 真っ先に目を引いたのは、瞳。

 

 

 切れ長で形の良いそれは夜空や深海を溶(と)いたように濃い藍色で、揺れ動く焚火に合わせて紫紺の色合いに変化する。

 宝石みたいだと思った。痛いくらいに心臓が鼓動した。

 

 は、こりゃ人も狂う。

 

 仮面を外した拍子に広がっていた前髪がふわりと瞳を覆い隠す。

 色素の薄い髪はまるで月明かり。髪から覗(のぞ)くやつれた輪郭は美貌を翳(かげ)らせるどころか、触れる事をためらうような、今にも消えてしまいそうな魅力があった。

 

 ……うすほそ。とんでもないうすほそ美少女だ。

 

 病的なまでに白い肌の上を踊るように、橙色の柔らかな光が跳ねる。

 喉の奥が引きつって息を吸うことすら上手くいかない、生物としての格が違う。彼女が自認していた超美人という言葉すら役不足だ、これは。

 

 何か。

 何か言わなければ。

 前髪の隙間から俺を見上げ、どこか諦観(ていかん)すら感じさせるリゼッタの姿に、言葉を選んでから口を開く。

 

「……――」

 

 この一言が俺たちの関係性を決定付けた。

 

 後から考えると、素直に容姿を誉めれば。男として女を求めれば。別の関係性もあったのだと思う。

 正直勿体ないと思う。認めるさ、それくらいリゼッタは魅力的だ。

 でも、俺は、ボロボロの親友(・・)を追い詰めるような選択を選ばなかった自分を誇らしく思う。

 

 

 

  ●

 

 

 

「……――凄いな。ソシャゲのキャラみたいだ。ムーンロードの擬人化かよ」

 

 その言葉を聞いて、すっと息を吸うのが楽になった。

 彼は私を比較しうるものがあるのだと、ありふれた容姿なのだと、貶(けな)してくれたのだ。

 今まで聞いたどの言葉よりも魔法みたいに心のこわばりが溶け消え、ゆるゆるっと頬が緩む。

 

「そういうギンビは魔法の空気清浄機だね」

「……誉め言葉か? それ。意味わかんねって」

「超褒めてる」

 

 不服そうに口をへの字にするギンビの姿にへらっと笑みを浮かべてサムズアップ。あと、ムーンロードの擬人化よりはわかりやすいと思う。

 

「……あ」

 

 すっと、空に朝焼けが射した。

 暑くも寒くもない穏やかな風と共に、濃い緑色の香りが吹き抜ける。空気は澄んでいて、青々と豊かな自然が広がっている。

 今私たちがいる場所は街道の休憩スペースだ。この先には私の知らない街があるらしい。

 

「夜食っつーよりも早めの朝食だな。お茶、冷めたろ。入れ直そうか?」

「せっかく淹れてくれたんだもの、これ飲ませてもらうね。ありがとう」

 

 すっかりぬるくなったダーシリン茶を口に含んだ。ぬるいのに暖かい。懐かしい香り。おいしい。とても。

 

「この味はッ! おいしいほうじ茶『味』だぜ……」

 

 震え声で言った私のネタにギンビはにやりと笑い、わざわざ空のケトルを股間前に持ってきて口を開いた。

 

「……リゼッタくん。お茶でも飲んで……話でもしようや」

 

 最低すぎる。

 こいつ、無敵か(悪い意味で)。

 

「アリーヴェ帰るチ。さよナランチャ」

「「……」」

「「ギャハハーッッッ!」」

 

 大声出して笑いながらハイタッチ。

 近寄った私にギンビはスンと小さく鼻を鳴らすと口を開いた。

 

「よし、今後の第一目標が決まった」

「おー。頼りになる。まずは?」

「一旦どこかで風呂、だな」

 

 まあ、うん。監禁されてる時は濡れタオルすら貰えなかったし。最後に体を洗ったのは二年前だ。

 笑いすぎてちょっぴり溢れてた涙もスンと引っ込む。

 私の何かがゴリゴリと削られたので無言でパンチを繰り出した。叩いた私の手が痛かった。ギンビへのダメージはゼロ。

 泣いた。

 

「あ、悪い。そういえば俺の経歴を喋ってなかったな。俺、勇者。魔王ブッ飛ばして世界を救った」

「えっ」

 

 

 何それ知らない知らない魔王とかいたの。異世界転生して勇者とかテンプレ創作かよ、って私も人のこと言えなかったよねワハハ。

 

 ……え、マジ?

 

 




リゼッタ→自罰的なあほあほちゃん。否定されると喜ぶ、でもMではない。とても臭い。朝食後腹を壊してむせび泣く。
ギンビ→ガチモンの勇者でめっちゃ良い奴。ノンデリはあえて意識してやってる。名前の由来は目の前にあった動物型のビスケットから。世界一美味い食べ物だと思う。

ダーシリン茶→ダーシリン地方で取れる名産品。
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