ウマ娘達の優雅な日々   作:灯火011

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ピーマンイズワンダフル


序章:おはよう世界

 

 ウマ娘の朝は早い。季節は冬。いまだ太陽が上がらない闇の中、トレセンの寮のとある部屋で一人のウマ娘がベッドから起き上がる。

 

「ああ、4時過ぎかぁ」

 

 ぐっと背伸びをしてあくびをすれば、頭に血が巡り、肺から大量の酸素が体中に巡っていた。くびを軽く右へ左へ曲げて、目を覚ますようにもう一度手を合わせてから背伸びをする。小さくぽきぽきと背骨がほぐれる音がした。

 

「おはよー。はやいねー。朝練ー?」

 

 部屋の隣のベッドからは、茶髪のウマ娘が顔だけを向けて言葉を発していた。ただ、その目はまだ半開きですぐにでも寝てしまいそうだ。

 

「うん。あれ、今日はそっちはいかないの?」

「んー。昨日の筋トレがハードだったの。筋肉痛だからパスー」

「あはは。じゃ、ゆっくり寝ててね」

「うんー。いってらっしゃーい…」

 

 そう言って茶髪のウマ娘は布団をかぶり直していた。すぐに寝息が聞こえるあたり、相当疲れてはいるのだろう。そんな茶髪のウマ娘を尻目に、起き上がったウマ娘は洗面台の前へと立った。軽く顔を水で洗い、歯を磨く。そのさなかでも欠伸が出てしまっている。やはり、まだ、朝は早い。

 口を濯いだウマ娘は、そのままクリームを手に取り両手に良くなじませてから顔に押し当てる。

 

「うーん…がっさがさ」

 

 愚痴りながら、クリームを2度、3度と顔になじませていく。すると、顔の表面には少しもっちりとした弾力と潤いが見て取れるようになっていた。それに満足したのか、ウマ娘はにっこりを笑みを浮かべる。そして、適当なヘアゴムを手に取って、長い髪を後ろ手にまとめる。俗にいうポニーテールという奴である。

 

「よし、オッケー。…でもなんでこの髪型、ポニーテールっていうんだろ?」

 

 肩を竦めて、洗面台を離れて改めてベッドの脇に置いてある衣装棚の前へと立った。寝間着を脱ぎ、ジャージを取りだす。下着類もスポーツ用の物へと着換え、姿見で己の姿を確認した。

 

「うん。よし。裾も変に入ってないね。じゃ、行こうか」

 

 静かに部屋のドアを閉めて、廊下を往く。するとやはり、この時間に練習を始めるウマ娘がいるのか、ちらほらと人の姿があった。

 

「おはよー」

「おはようございます」

 

 ウマ娘どうし、挨拶を交わしながら出口へと向かう。時折有名なウマ娘もちらほらと見受けられた。例えば。

 

「おう。はえーなー」

「おはよ、ゴルシ。朝練?」

「いんや。ジョーダンにちょっかいをだしにね」

「…ほどほどにしなよー?」

「わーってるよー」

 

 ゴールドシップである。神出鬼没の彼女とそんな会話を繰り広げながら、ウマ娘は寮の出口へとたどり着いた。

 

「おはよう、かわいいポニーちゃん」

「おはようございます。フジキセキさん」

「これから朝練かな?」

「はい。少し走ってこようかと」

 

 寮長のフジキセキが寮の入り口で待っていた。やはり、寮長という立場もあるのだろう。名簿を抱えているあたり、出ていくウマ娘を確認しているようだ。

 

「じゃあ、そんな頑張っているかわいいポニーちゃんに、これを」

 

 フジキセキはそう言いながら、何かをウマ娘に差し出していた。そこに在ったのは、ホッカイロ。丁度ジャージのポケットに入るサイズだ。

 

「今日は特に寒いからね。風邪をひかないように気を付けるんだよ」

「ありがとうございます!」

 

 トレセンの門を抜け、極寒の風を切りながら地面を蹴る。アスファルトと蹄鉄がぶつかり合い、カツカツと音を鳴らしている。この町の風物詩と言っても良いだろう。まるでそれは、新聞屋のバイクの音のような安心感すら漂っている。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 規則正しい息と、規則正しいリズムで刻まれる蹄鉄の音。カツカツ、カツカツとウマ娘レーンを進む。口から洩れる吐息は鋭く、しかし、空気か冷たいのか、まるで蒸気機関のように白い息が立ち昇る。そんなウマ娘の後ろから、一人のウマ娘がやってきていた。

 

「おはよー」

「おはよー」

 

 どうやら知り合いのようである。2人は顔を合わせると、軽く会釈をしていた。

 

「今日はどこまでいくの?」

「青梅まで行って帰ってくる予定だよ。そっちは?」

「高尾。ウチのチーム、今日は朝練ないから山を一周して戻って来る予定なんだ」

「わあ、やる気満々だねぇ。気を付けてね」

「うん、そっちもね、じゃ!」

「じゃ!」

 

 軽く手を上げてそのウマ娘は交差点を左へと曲がっていた。青看板には「左 高尾、直進 青梅」と書かれている。くあ、と軽く欠伸をしたウマ娘は、青看板を確認しながら、その交差点を真っすぐ突き抜けて行った。

 

「お、やってるねぇ」

 

 対面の道路を見てみれば、小さい葦毛のウマ娘と、大柄な葦毛のウマ娘が追い比べをしながら朝のトレーニングを行っているようであった。知り合いであったのだろうか。思わずウマ娘は手を振り、軽く会釈をする。相手も気づいたのか、一瞬追い比べをやめて、軽く手を振り返していた。すると、向かってきたウマ娘が、なにやら大きく口を開けていた。

 

「おー!速いなぁ!今日青梅のほういくんかー?」

「そうですよー!」

「地面凍っとるから気いつけやー!」

「ありがとうございますー!」

 

 感謝の意味を込めて、手を上げる。すると、相手の葦毛のウマ娘が、きにすんなーと言わんばかりに笑顔を浮かべていた。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。ふぅー」

 

 ウマ娘は一人、朝の街を走る。早朝というには早過ぎるこのトレーニングコースで日々、ウマ娘は互いに研鑽を積んでいる。

 

「おー、精が出るなー!ウマ娘さんがんばれよー!」

「ありがとうございまーすー!」

 

 その光景を、街の人々も良いモノとして受け入れてくれているようであった。ここは中央トレーニングセンターがある東京。応援する人々と、練習をしレースを走るウマ娘が共存する素晴らしい街である。

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