ウマ娘達の優雅な日々   作:灯火011

10 / 20
優雅な日々の始まりーコンパクトディスク

 授業が終わり、夕闇が近づく中。練習上がりのトウカイテイオーは足早に栗東寮へとその脚を向けていた。カバンの中には、例の『Nekki Basara』と文字の入った、燃えるギターのパッケージのCDを携えている。

 

「お帰りポニーちゃん。今日も一日、よく頑張ったね」

「ただいま、フジキセキさん!」

 

 笑顔で出迎える栗東寮の寮長フジキセキ。トウカイテイオーも笑顔でそれに答えていた。が、次の瞬間にはフジキセキは、少し怪訝な顔を向けていた。

 

「トウカイテイオー、今日は少し早いようだけど、何かあったのかな?」

 

 大概のウマ娘の動向を把握しているフジキセキからすると、トウカイテイオーが少し早い時間に戻ってきたことが気になるらしい。

 

「あ、そうです。実はフジキセキさんに聞きたいことがありまして」

「聞きたいこと?なんだろう」

 

 トウカイテイオーは自らのカバンを漁ると、その中か、例の燃えるギターのパッケージが描かれたCDを取り出していた。それをフジキセキは興味深そうにのぞき込んでいた。

 

「このCDなんですけど、フジキセキさん、ご存じですか?」

「うーん…?少し見せてもらっていいかな?」

「はい、どうぞ」

 

 フジキセキはトウカイテイオーからCDを受け取ると表の文字をじっくりと読み、裏のパッケージへと視線を移したり、興味深そうに観察を始めていた。

 

「…パッケージは見たことがないな。文字もかすれちゃって読めない、と。唯一読めるのが…ねっき、ばさら…。トウカイテイオー、中を見てもいいかな?」

「はい、どうぞ」

「では遠慮なく。…うーん…」

 

 フジキセキがパッケージを開けてみれば、その中にあったのは、何の変哲もないただのCDであった。そして、蓋の方にはなにやら、成人男性らしき写真が一枚あるだけである。

 

「トウカイテイオー。この写真の男性に見覚えはあるかな?」

「いえ、ないです」

「そっか。ごめんね。私もこのCDのことは知らないかな」

「そうですか…。あ、ごめんなさい。お時間とらせちゃって」

「いいや、気にする事は無いよ。そうだなぁ…ねぇトウカイテイオー。そのCDを一度、聞いてみたらどうだい?」

 

 フジキセキの言葉に、少し、困ったような顔を浮かべるのはトウカイテイオーである。確かにそうだ。見たことのないCDでも、聞けばもしかしたら知っている曲かもしれないのである。だが、トウカイテイオーにはそれが出来ない理由があった。

 

「そうしたいのは山々なんですけど、CDを再生する機械が無いんです」

「ああ…確かに、最近は見ないね」

 

 そう、CDプレイヤーと言うものが珍しいのだ。ライブの曲ですらウマホで聞く世代の彼女らは、CDを聞くという習慣すらないし、CDをそもそも買わない。買ったとしても、それはグッズとして買うぐらいであって、音楽を聴く道具では既に無いのである。

 

「うーん…そうか、CDプレイヤーか」

「はい。あ、もしかして、フジキセキさんなら持っていたりしませんか?」

「私でも流石に持ってはいないかな。でも、持ってそうな子に声を掛けてみるよ」

「え?いいんですか?」

「うん。他ならぬポニーちゃんのお願いだからね。あ、あとこのCD、写真に残してもかまわないかな?」

「はい、どうぞ」

「…うん、よし。このCDのことも、私の方でも調べてみるよ」

「ええ!?そこまでしてもらうのは悪いですよ」

 

 思わぬ申し出にトウカイテイオーは驚きの声を上げていた。まさか、こんな形で協力を得られるなんて、と。それと同時に、流石に悪いなぁと思わず断りの言葉も口から出ていた。

 

「ううん。私が好きで調べるだけだから、ポニーちゃんは気にしないでね。それよりも、CDの事が気になって眠れない、なんてことが無いようにね」

「はい!ありがとうございます!」

「ふふ。いい子だ。それじゃあお休み、ポニーちゃん」

 

 しかしそこは流石のフジキセキ。にっこりと笑顔でそう言葉にすれば、トウカイテイオーは従うほかはない。足早に寮の部屋へと戻るトウカイテイオーを見送ったフジキセキは、すぐさま何人かのウマ娘と、トレーナーにメッセージを送っていた。その内容は、端的に言えば二件。

 

『どなたか、CDプレイヤーを持っていないでしょうか』

『このCDの詳細を知っている方はおられませんか?』

 

 そのメッセージを送ってから数分後、流石のフジキセキの人脈といったところであろう。CDプレイヤーについてはすぐに目途がついた。

 

『お姉さんが持ってるわよん。貸してあげましょうか?』

 

 赤い勝負服が眩しいウマ娘から、すぐに返信があったからだ。

 

『ありがとうございます。ぜひ、お願いしたいです』

『オッケー!じゃあ、明日、トレセン学園に行く時に持って行くわね!フジキセキちゃんは…栗東寮よね?』

『はい。栗東です』

『オッケーオッケー!じゃあ、明日、始業時間の前には届けるようにするわね!』

『助かります』

 

 これでトウカイテイオーの一つの要望には応えられそうだ、とほっと胸をなでおろす。しかし、もう一つの課題はどうやら難しそうだった。

 

『CD…これは知らないなぁ…』

『知らん』

『存じ上げません』

『お姉さんでもちょーっと…判らないわね』

『すまない、フジキセキ』

『自室に戻ったら調べてみるが、私の記憶の中には無いな』

『アタシの灰色の脳細胞でもCDもアーティストもシラネーなぁ…。つーかこの写真の男誰だ?これが、このnekki basara?』

『大変申し訳ありあません!フジさん!存じ上げません…!』

 

 自分の人脈の中でCDの詳細について知っている人間は、どうやら、トレセンの中には居ないらしい。ううん、と判りやすく頭を悩ませるフジキセキ。

 

「…おかしいなぁ。ライブもやるからトレセン学園は音楽に詳しい人ばかりのはず、なんだけれど…。特に雑学に詳しいゴルシが知らないって言うのも、なんか、変だ」

 

 もう一度、フジキセキは写真に収めたCDを眺める。

 

「ねっき、ばさらか。うん、少し、調べてみようかな」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。